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総評

虐待死事件が起きるたび、児童相談所の対応や制度に注目が集まるが、あまり知られていない、保護された子どもたちを長期間の取材で余すことなく伝えた記事。施設に来る子どもたちの、心の傷、親と暮らせない葛藤、進学の壁などのつらい経験が綴られている。また約30年、子どもたちと向き合ってきた職員の想いが伝わってくる内容となっている。
(LINE NEWS編集部)

後日のインタビューで《ある時点》を思い出して描かれる言葉と、その時点に記者がいて《今》として描かれる言葉とでは、(読者にとってはどちらも過去の描写のはずなのに)受け取る“鮮度”がまるで違います。尼学に通い子ども達と生活を共にした記者達の筆致には、それが折々に表れています。例えば、「そらちゃーん」で始まる朝ご飯のシーン。まさに、時々刻々書き込まれるLINEを読んでいるような同時進行感です。
ノミネート10作の中でこの記事だけが持つハンディは、主役たちの顔が出せないこと。ですが、長期密着ゆえに撮れた生活感あふれる写真群は、そのハンディを跳ね返します。靴、食卓、ぬいぐるみ、化粧品ポーチ、手書きの標語、…本人を晒さずに本人を描く写真たち。中でも、カメラに向かって大きく手の平を見せている1枚は、象徴的です。普通これは「取材拒否」のこわばった顔で取るポーズだけれど、きっとこの子はいたずらっぽい表情でもしているんだろうなぁ。取材班が築いた《信頼の土台》ですね。
(特別アドバイザー・下村健一氏)

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