- 総評下村健一
YouTubeで語る息子の画面を、読者は《普段YouTubeを見ている》自分のスマホ画面で見る。息子が闇バイトのグループとLINEで交わした本物のやりとりも、読者は《普段LINEに使っている》自分のスマホ画面で見る。これ以上のリアリティーはない。 そして、記者が選んだ言葉の訴求力にも揺さぶられる。「辞めると言ったら脅されると聞くので怖くて…」と、当の“脅す側”に言う主人公の驚くべき素直さ。私も普段学生たちと接していて、あまりにも丸腰なお人好しぶりに危うさを感じることがよくあるが、そんな若者たちの一面が鮮明に描き出されていて、息を飲む。 また、「何の感情もわいてきません」と言う同乗者の言葉も、闇バイトという組織のスタイルを如実に物語っている。この言葉の主は、取材申し込みに対して自ら手紙を送り返してくるほどに、人とのコミュニケーションを取る姿勢のある若者なのだろう。そんな若者からでさえこの言葉が出るのだという現実に、何よりも慄然とした。
- 総評清水康之
記事は、事故の被害者だと思っていた息子が、どうやら話がそう単純ではないと気付いた父親の心情に迫っていく。徐々に明らかになっていく事実から、父親は息子が実は闇バイトの加害者だったということを知り、同時に、逃げ出したくても逃げ出すことができなかった息子の苦悩も知ることになる。 息子の「想像を超える変化」を、親として息子の死後に受け止めざるを得ないというのは、どれほど残酷なことか。記事に「親でも知らない息子の姿」との表現があるが、実際は「親だからこそ知り得ない一面がある」ことがむしろ当然で、子のすべてを親が知っているべきだという考え方を他者が持つべきではない。 父親が「本来であれば、息子と一緒に被害者に頭を下げて、本当に申し訳なかったと謝罪したい」と述べた言葉に、いつまでも息子の親であろうとする父親の覚悟と切なさを感じると同時に、この記事の取材に父親が応じた理由に触れた気がした。
LINE NEWS編集部より