- 総評治部れんげ
イスラエルの研究者が執筆した書籍の邦訳出版に伴い、SNSなどで起きた論争を追い、著者本人にも取材した記事です。 書籍の邦題は「母親になって後悔してる」、イスラエルの女性23人へのインタビューをもとに構成したそうです。この記事は、日本の専門家や複数の母親に取材し、母親としての責任の重さを紹介しています。後悔を語ること自体がタブーである、という記述も印象的でした。 ジェンダー視点でこの記事を読む時ひとつ気になるのは、父親への言及がないことです。「母親になって後悔してる」という思いを構成する要素は様々でしょう。その中には育児負担が過度に女性に偏っている現実があるはずです。 試しに、子どもを持つ男性に「父親になって後悔していますか?」と尋ねてみたらどうでしょうか。家族の生活を支える重圧を感じている男性からは「イエス」の回答が寄せられるかもしれません。 ところで、イスラエルの合計特殊出生率は2.9であり、先進国では珍しく2を超えています。宗教や文化的な背景もあり、子どもを持つことが奨励される社会 で「母親の後悔」が語られるのは、興味深いです。
- 総評亀松太郎
『母親になって後悔してる』。現代社会では公の場で発信することがタブーとされるメッセージを正面から取り上げ、世界各地で反響を呼んだ書籍。その話題の書に対して日本国内で起きた多様な反応を紹介する、興味深い記事である。 今の日本では、子どもを産み育てることは最上の価値があるとされ、子育てを忌避することは無責任だと厳しく非難される。しかし実際には、子どもを産んだことを後悔する女性もいて、その悩みを誰にも打ち明けられないまま苦しんでいるーー。 この記事は、そんな少数派の女性たちの複雑な心情を、さまざまな論者や著者本人に取材することで解き明かしていく。タブーの裏にある多様な意見を提示し、我々の固定観念を揺さぶる。これもジャーナリズムの役割の一つだ。 SNSが発達した今、話題の本に対する読者の感想だけなら、誰でも簡単に知ることができる。ジャーナリズムに期待するのは、その先だ。 書籍に共鳴する人々に取材して心理を掘り下げたり、専門家に人々の反応の背景を分析してもらったり、著者に当たって執筆の意図を確認したり。 SNSでは知り得ない情報をどこまで提示できるか。そこにジャーナリズムを担うメディアの存在意義がある。
LINE NEWS編集部より