ついていったらマルチだった―。“洗脳”で全てを搾取。「潜入取材」で暴いた正体と、首謀者の言い分
毎日新聞
記事を読む
  • 総評亀松太郎

    街で見知らぬ者に声をかけ、質問する。それは記者の仕事の一つだ。しかし、この記事は逆だ。記者が街で声をかけられて「いい居酒屋知らない?」と問われるところから、ストーリーが始まる。意表をついた書き出しに心を掴まれた。 声をかけてきたのはマルチ商法の勧誘員。「正体を突き止めたい」という記者魂からあえて誘いに乗り、さまざまな内部イベントに参加しながら、マルチ商法の勧誘方法と組織の実態を解明しようと試みる。その取材者としての粘り強い姿勢に感心した。 記者自身がマルチ商法に誘われる「当事者」になり、現場で見聞きしたことを綴っていくスタイル。描写は非常に具体的で、読者もその場に居合わせているかのように感じさせるリアリティがある。 街頭で撮影した勧誘員たちの「写真」や組織幹部の講演の「音声」も臨場感を高めている。さまざまな表現手法によって、外見上はごく普通に見える若者たちがマルチ商法の先兵となっている現実を読者に突きつける。「今のマルチ商法はこんなにもカジュアルなスタイルで勢力を拡大しているのか」と戦慄した。 「あなたは、ついていきますか?」という最後の一文が重い。若者にぜひ読んでほしい記事である。

  • 総評治部れんげ

    若者をターゲットに、友達作り、飲み会名目で声をかけ、高収入を得られると誘うマルチ商法に、記者自身が潜入取材した読み応えのあるルポです。 記者とマルチ商法の勧誘を行う人物との会話から、働く20代の現実が見えてきます。現代の社会は、人々に人生の夢を語ることを奨励します。そして、夢の実現には多額のお金が必要であり、その金額は一般的な労働者の生涯賃金からかけ離れています。 多くの大人は夢と現実に折り合いをつけて日常生活を送ります。記事に登場するマルチ商法の主宰者は、折り合いをつける前の若い世代に言葉巧みにアプローチしています。マルチ商法の問題を明確に記しつつ、マルチに惹かれてしまう人の気持ちも理解できる、深みのある記事です。昨今、注目されているカルト宗教の手口なども想起しながら読み進めることができるでしょう。 この記事は、紙版の新聞でも非常に興味深く読んでいました。LINE NEWSの形で「推す」ことで、より多くの人に届き被害を減らすことにつながることを期待します。

LINE NEWS編集部より

街で手当たり次第に声をかける若者たちはいったい何者なのか?特定商取引法に抵触しないよう考え抜かれた「脱法マルチ商法」。自ら体験した者にしか書けない圧倒的なディテールをもって明かされている組織の手口の詳細は、何よりの注意喚起となり読み手に訴える。