cat_159185_issue_93b836a0f452 oa-tokyoshimbun_93b836a0f452_f706a288fcc9_表の顔に隠された本心 女優・松井玲奈さんが短編集 「装って生きる人たち」描く f706a288fcc9 0

表の顔に隠された本心 女優・松井玲奈さんが短編集 「装って生きる人たち」描く

2019年4月15日 11:06 東京新聞

【書く人】表の顔に隠された本心『カモフラージュ』 女優・松井玲奈さん(27)

 アイドルグループSKE48を引っぱった人気者は、根っからの読書好き。二〇一五年にグループを卒業後、女優として活動してきたが、小説家としても一歩を踏み出した。本作は、初の単行本となる短篇集。小説の月刊誌掲載作に書き下ろしを加えた全六篇で「装って生きる人たち」を描いた。

 その中の一作「リアルタイム・インテンション」は、ユーチューバーが主人公。動画の生配信中に、本音が出てしまうという闇鍋を食べて炎上する。自身と同じように公共に向けて表現活動をする人の「装いがはがれる瞬間の面白さを描きたかった。同じ立場として、共感できた」。

 表の顔と内面との違和感にさいなまれる主人公には、ほの暗さが漂う。「誰しも後ろ暗いところはあるし、どこまでいっても分かりあえない感覚を持っていますよね。しかも皆、表立って出さない」。これまで周囲と接する中で捉えてきた人間関係のイメージが反映されている。

 スプラッタ映画や漫画など、好きなものの要素も作中に数多く取り入れた。書き下ろしの一篇「完熟」のテーマは、少年漫画を愛読する中で感じ取った「男子の理想の女性像」。「少年、青年期に出会ったヒロインが、大人になってもずっと理想の女性像として残っている。次が出てきたら上塗りしていく女子とは違うと感じた」。その違いを、主人公の性癖という形で増幅させた。

 読書と同じく、書店も愛する。「棚の圧迫感と匂いに囲まれるのが好き。無限に時間が使える」。子どものころは、本の話の続きを考えて遊んだ。ただ、これまでは雑誌で読書エッセーを書く程度で、感覚としては「読む側」だった。書く側になって「ゼロから一を生み出すことに、ものすごく体力と精神力が要ると体感した」。地元・愛知県豊橋市での仕事に向かう新幹線の車内など、細かな空き時間を充てて仕上げた。

 アイドルだったという知名度から本を手にする人がいるだろうことを自覚し、「こつこつ努力する作家から見たら横入りで、マイナスのスタート」とも語る。それでも「この本が読書体験の入り口になるのでもいいと思う」。一冊の形にできた喜びを味わい、「書き続けて、作家としてプラスの位置に立ちたい」と意欲を見せる。

 集英社・一五一二円。(松崎晃子)

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cat_159185_issue_93b836a0f452 oa-tokyoshimbun_93b836a0f452_f5a57a5873ff_<働き方改革の死角>ネット内職、報酬低すぎ 自由・手軽…実は過酷 f5a57a5873ff 0

<働き方改革の死角>ネット内職、報酬低すぎ 自由・手軽…実は過酷

2019年4月15日 11:00 東京新聞

 会社に雇われず自宅などでネットで仕事を受注する「クラウドソーシング」が広がってきた。文章作成など特別な技術なしでできる仕事もあり、政府は「自由で柔軟な働き方」として推進。厚生労働省が十二日、有識者会議で公表した最新推計ではクラウドソーシングなどを利用して仕事を請け負う働き手は百七十万人に到達した。手軽にできる「ネット内職」だが、多くは低報酬。会社員を含め働く人全体の賃金が引っ張られて下がる懸念がある。(編集委員・久原穏)

 東京都内の五十代の女性の体験はこうだ。

 仲介業者サイトにパソコンで無料登録。希望の仕事、報酬水準を記入すると、すぐ「おすすめの仕事」がメールで次々届いた。

 「ウェブサイトに載せるテレビドラマのあらすじをまとめる仕事。一文字0・7円で千字」

 単純計算で報酬は七百円。約三時間半かかったから時給で二百円未満。だが、報酬はそのまま得られない。仲介業者がシステム利用料として20%(この場合百四十円)を徴収する。

 報酬合計が三千円以上にならないと口座に振り込んでもらえない。振込手数料も自己負担。「パート並みに稼ごうとすれば、大変な長時間労働になる」。スーパーのパートをやめた女性は誤算を悔いた。

 連合総研の調査でも二〇一六年時点で働き手(専業、兼業)の八割は年収二百万円未満。専業の平均は六十二万円にすぎなかった。

 安倍政権はこうした仕事の仕方を働き方改革実行計画に盛り込み推進している。中小企業庁の補助金を得て業界団体が作成した活用ガイドは、狙いをこううたう。

 「人材を『必要な時に必要なだけ』活用したい企業にとって、正社員、派遣社員に次ぐ『第三の矢』となる」-。最新推計の百七十万人はすでに派遣社員(百三十六万人)をしのぐ。

 同ガイドは、デザインを下請け企業に外注するのに比べ「十分の一の費用で五十倍の提案を受けられる」とメリットをPRする。

 自宅で仕事できるのは育児や介護をしている人に限らず魅力だ。異常な低報酬でも希望者は後を絶たず、報酬はさらに低下する。

 しかし、企業のコストが下がるのは働き手への分配が減るのと同義。アクセサリー作りなど内職は家内労働法で最低工賃が定められるなど保護されているが、クラウドソーシングの働き手は、労働者でなく「個人事業主」。最低賃金も適用されず、失業保険や労災もないなど環境は過酷。「自由な働き方」の政府PRと裏腹に、それだけで生活しようとすればひたすら仕事をこなさねばならず、場所も時間も拘束されがちだ。

 「景気が悪くなると、コストの安い方にどんどん仕事は流れる。(企業に雇われる一般の労働者など)雇用者の足元も崩れてしまう」。厚労省の有識者会議。水町勇一郎東大教授は最低報酬など何らかの歯止め策を講じない限り、働く人全体の賃金低下を招くことになると警告した。

◆労働者全体に悪影響の恐れ

 政府は、クラウドソーシングを「働く場所も時間も自由な柔軟な働き方」として推進する一方で、不当に低い報酬などの問題点を実態調査もしないまま放置してきた。これでは労働者としての保護を何ら受けられない新たなワーキングプアが増加するばかりか、労働者全体の賃金低下や条件悪化傾向に拍車をかけるおそれがある。(編集委員・久原穏)

 政府は、二〇一七年三月にまとめた「働き方改革実行計画」の中で、クラウドソーシングの働き手が経験している課題を列挙。「仲介事業者との間で様々なトラブルに直面している」と認めている。

 厚生労働省が労働政策研究・研修機構に依頼した最新調査でも、多くの働き手が「報酬の支払い遅れ」「報酬の一方的な減額」などを経験していることが裏付けられた。

 報酬水準について、労働問題の専門家らは、働き手を「労働者に準じる者」として最低賃金制の対象とするほか、内職労働者を保護する家内労働法の改正で、イラストやアプリ作成にも最低工賃を定めるなどを課題に挙げる。

 ネットで仕事をあっせんする業者についても何らかの規制が必要との意見も多い。通常の職業紹介業者や派遣業者は求職者を保護するため一定の基準を満たすよう免許制になっている。

 しかし、政府は問題を早くから認識しながらも「法的保護策は中長期的課題」と腰が重い。仕事を発注する企業の人件費削減を優先させる姿勢のほか、成長戦略でめぼしい成果がない中、仲介業などを有望業種として優遇し育成しようとの狙いがうかがわれる。

 いまクラウドソーシングのサイトでは、インターネットで受け渡しできるイラストなどの仕事はもちろん、商品の発送業務、玩具の組み立てなどリアルな作業まで発注され、あっせんされる仕事の業種は急拡大している。アプリの指令に基づきレストランで料理を受け取り、自分のバイクで一般家庭に出前する「ウーバーイーツ」で稼ぐ若者も増えている。

 サイトで仲介される仕事と通常の仕事の垣根は消えつつあり、企業が社員を減らして「クラウド発注」する仕事を増やしていけば、失業や賃金低下に直面する人も増えかねない。

 労働問題に詳しい川上資人弁護士は「スキルがない人が稼げるようになったのだからよしとする風潮があるが、それは違う。不当に低い報酬は許されるべきではないと社会全体が意識改革すべきだ」と警鐘を鳴らしている。

<クラウドソーシング> インターネットの仲介サイトを通じ、企業が仕事を委託(アウトソーシング)し、個人が受注する働き方。文章作成、翻訳、イラスト、ウェブ制作、動画などネットで成果を受け渡しできるものから、飲食宅配まで対象は広範。報酬額に応じて5~20%を仲介業者がシステム利用料名目で徴収。厚労省推計では従事する170万人(一部内職やシルバー人材センター会員も含む)のうち「本業」は約130万人、「副業」は約40万人。

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cat_159185_issue_93b836a0f452 oa-tokyoshimbun_93b836a0f452_f51a72635100_<考える広場>喫茶店という居場所 f51a72635100 0

<考える広場>喫茶店という居場所

2019年4月15日 12:10 東京新聞

 四月十三日は「喫茶店の日」。一八八八(明治二十一)年のこの日、東京・上野に日本初の喫茶店「可否(かひ)茶館」が開業したことにちなむ。全国に広がり、心を和ませ続ける喫茶店の今は?

 <喫茶店の現況>総務省の統計では、1981年の15万4630事業所をピークに減少一途で、2016年には半数以下の6万7198に。都道府県別では、大阪府が1位で8680事業所、愛知県が2位で7784、東京都は6710で3位、以下兵庫、岐阜県と続く。喫茶代への1世帯当たり年間支出額(14~16年平均)を県庁所在地別で見ると、東海地方が高く、岐阜市が1万5018円で1位、2位が名古屋市の1万2945円と、全国平均(6045円)の倍以上だった。

◆早朝に店開ける両親 タレント・濱口優さん

 両親が大阪で「はまゆう」という喫茶店をやっています。二十人も入ればいっぱいになりそうなちっちゃい店ですよ。自慢はサンドイッチとオムライス。毎日午前六時半に開けてます。駅から近い所でもないので、お客は常連さんばかりです。

 開店したころ、おれは小学生。中学に上がると、店の手伝いもやらされました。それで覚えているのが、客に「いらっしゃいませ」と言うのを親に聞かれるのがすごく恥ずかしかったということです。

 外でのバイトならもちろん仕事ですから簡単に言うてます。なのに自分の家みたいな店の中ではなぜか言えない。外での自分を見せたくないということやったんですかね。喫茶店って家の中みたいに落ち着くけど、いろんな人が来る外の世界でもあるということでしょうか。

 そんな喫茶店の空間で、人生を変える言葉に出合ったんです。高校時代、占いがよく当たるという喫茶店がたまり場でした。コーヒー頼めば、店のおばちゃんがただで見てくれる。そのころおれは芸人になりたくて、今の相方(有野晋哉さん)と一緒に見てもらったんです。

 「売れるんやったら、パパーっと売れちゃう。逆に売れへんかったら、全くなんの芽も出えへん。早く結論が出るから挑戦したら」って言われました。有野は「(濱口さんを)手伝ってあげなさいね」と言われて。その言葉が「よゐこ」結成に重要な役割を果たしたわけです。

 東京でも「はまゆう」みたいな古いタイプの喫茶店に入ることがあります。というか、仕事の打ち合わせはそっちタイプでやることが多いです。やっぱり、落ち着きますよね。回転を上げるために座りにくくしてあるような椅子ではなく、座り心地のいい椅子。たまに、ぼろぼろなのもあるけど。ちょっと薄暗くて、死角になる所もあって。

 ただ、東京はそういう喫茶店が少ない。のんびりしてたら嫌なことを言われて追い出される。客も嫌なやつしかいないような。なんか忙しそうで落ち着きがない。

 両親はずっと店を続けると思います。個人的な意見ですが、喫茶店はもうからないです、絶対に。トントンに持っていけたら上々。じゃあ、なぜやってんのか。答えは、それしかないから、生きてるから。だから明日も六時半に店を開けるんでしょうね。(聞き手・大森雅弥)

 <はまぐち・まさる> 1972年、大阪府生まれ。90年に有野晋哉さんと「よゐこ」を結成。現在はNHKEテレ「なりきり!むーにゃん生きもの学園」、メ~テレ「デルサタ」などに出演中。

◆個性豊かで心地いい 東京喫茶店研究所2代目所長・難波里奈さん

 毎日必ず、どこかの喫茶店に寄ります。コーヒーを飲める場所で特に好きなのが純喫茶。仕事が終わってまっすぐ帰宅してしまうと、会社と自宅が地続きになってしまう。寄り道をしてそこで過ごすことによって、時の流れが止まったようなゆったりした空間に身を置け、気持ちがすっきりして前向きになれます。一日中誰かとつながってしまうスマホはかばんの中にしまって、自分だけのひとときを味わう。そうすることによって心に余白が生まれるのです。

 純喫茶というパラレルワールドの非日常感を演出しているのは「昭和」の薫りが大きいのかも。黒電話にレースをかけていたあの時代の丁寧さ、そのちょっとした「隙」に引かれます。現在のデザインはシンプルで少し物足りない。例えば、コーヒーチェーン店はどこも同じような内装とメニューで安心感はあるもののフラット(平板)な印象があります。純喫茶はお店によってさまざまで、マスターの好み、センス、その歴史が内装やメニュー、BGMに反映されて、個性豊かです。今日の取材場所のショパン(東京・神田)の特徴はステンドグラス。きらびやかですが、書かれた欧文にこっそりスペルミスが潜んでいるところがいとおしい。

 このごろはチェーン店とはまた違った上質さを求める若者たちが純喫茶の魅力に気付き、SNSで発信する盛り上がりも。そして彼らの口からはなぜか「懐かしい」という言葉が出る。体験していない時代のはずなのにそういう感情が生まれるのは、面白いところ。自分の部屋みたいでありながら気分転換もできるすてきなリビング。まるで田舎のおばあちゃんの家にやってきたような居心地の良さがあるからでしょうか。

 さまざまな年代からの関心が高まり、都心ではメディアで紹介されるお店も増えました。けれど、有名無名にかかわらず、人それぞれに一番大事なお店があると思っています。聞き上手な優しいママのいるお店があれば、友達と楽しく話せるお店もあります。通勤通学路を少し遠回りして歩いてみると、お気に入りのお店に出合えるかもしれません。

 純喫茶は年々減少しています。寂しいことですが、時代の移り変わりとともに失われていくものだからこそ、悔いのないように毎日通うことにしています。(聞き手・清水萌)

 <なんば・りな> 東京都生まれ。これまでに訪れた純喫茶は2000店以上。著書に『純喫茶とあまいもの』(誠文堂新光社)『純喫茶の空間 こだわりのインテリアたち』(エクスナレッジ)など。

◆目的問わない寛容さ 名古屋大大学院准教授・小松尚さん

 私は建築が専門ですが「居場所」が建築を見る視点の一つになっています。喫茶店はまさにまちの居場所の一つですね。

 建築の分野で居場所という言葉が注目されるようになったのは一九九〇年代ごろです。古代ローマの時代から建築には「用・強・美」という見方があります。「用」は実用性です。例えば、学校建築や住宅には明確な用途があるように、建築は何かの役に立つことが求められます。それに対して喫茶店は、お茶を飲んだり、おしゃべりをしたりする場所ですが、用途や目的があまりはっきりしません。だから建築学の議論の対象には長らくなりませんでした。

 ところが、建築が充足してきたころ、ちょうどバブルが崩壊したころから、使いやすさというような従来の物差しだけではなく、その建築や場所の持つ意味が意識されるようになりました。そこが好きだとか、居心地がいいとか、愛着があるとか。それが居場所です。喫茶店のような場所の価値が少しずつ見いだされてきたということです。

 二十年近く前、学生が喫茶店を卒業論文のテーマに選び、私も一緒に研究しました。場所の固有性と匿名性、そこに来る人の固有性と匿名性を二つの軸にして喫茶店を分類する。そして、それぞれの場所で何が起こっているのか分析する。近所の常連客が集まる店では、新聞や雑誌を読んでいるのが日常的光景でした。その日常性がそこに来る人たちには心地よく、大事な場所になっていました。

 喫茶店は許容性が高い場所です。パソコンで仕事をしたり、読書をしたり、おしゃべりをしたり。人がいる場所に身を置きたいと思って来ている一人暮らしの高齢者がいるかもしれません。周りに迷惑をかけなければ何をしても許される。よほどのことがない限り「そろそろ出ていってください」とは言われません。とても寛容な場所です。そういう場所は、ほかにはあまり見当たりません。

 最近は、公共施設の中にも喫茶店が設けられています。私が設計などに携わった三重県の小中学校三校にはカフェがあります。曜日や時間を決めて開くと地域の人が集まり、コミュニケーションの場になる。学校や公民館、図書館などの公共施設は実用性が問われる建築です。しかし、それだけでなく、誰かの居場所になり得る公共の場所が今求められていると思います。(聞き手・越智俊至)

 <こまつ・ひさし> 1966年、長野県生まれ。名古屋大大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門は建築計画・まちづくり。著書に『「地区の家」と「屋根のある広場」』(共著)など。

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