cat_316809_issue_vslzctuuvguf oa-president_vslzctuuvguf_ilrf1gfhvxsw_大量の未開封DVDとサーバーに埋もれて40代男性は黒い染みになった ilrf1gfhvxsw ilrf1gfhvxsw 大量の未開封DVDとサーバーに埋もれて40代男性は黒い染みになった oa-president 0

大量の未開封DVDとサーバーに埋もれて40代男性は黒い染みになった

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

孤独死はもはや高齢者に限った問題ではない。10年以上のキャリアを持つ特殊清掃業者は「急性心筋梗塞による孤独死は、働き盛りの30代、40代の男性に圧倒的に多い」という。ノンフィクション作家の菅野久美子氏が聞いた――。

※本稿は、菅野久美子『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)の一部を再編集したものです。

孤独死の8割以上は65歳以下の現役世代

数々の孤独死事例を取材したが、最も衝撃を受けたのは、30代、40代も含む現役世代の孤独死がより深刻だということだ。孤独死現場の遺品などを見て感じるのは、何らかの事情で人生の歯車が狂い、その場に崩れ落ちてしまった現役世代の姿である。

原状回復工事に携わって、10年以上のキャリアを持つ塩田卓也は現役世代の孤独死現場と日々向き合い葛藤している特殊清掃業者の一人だ。塩田は、特殊清掃業者、武蔵シンクタンクの代表を務め、日々清掃作業に明け暮れている。

「うちにやってくる孤独死の特殊清掃の8割以上は65歳以下なんです。65歳以上は地域の見守りがなされていて、たとえ孤独死したとしても早く見つかるケースが多い。孤独死が深刻なのは、働き盛りの現役世代なんですよ」

塩田はそう言って、少しでもそんな現状を知って欲しいと、私を数々の現場に案内してくれた。

ある日、塩田が管理会社の依頼を受けて、東京都某市のマンションの一室のドアを開けると、廊下に突然、ジャングルジムのようなメタルラックの仕切りが現れた。その上にサーバー機が何十台と並べられ、HDDと配線、その熱を放出するためのファンとサーキュレーターが、ひしめき合うように圧縮陳列され、張り巡らされていた。その隙間にも、キーボードやマウスが足の踏み場もないほどに置かれている。

サーバー機のわずかな隙間に埋もれて亡くなった男性

この部屋に住んでいた40代の男性は、東北地方から上京し、ウェブ関係の専門学校に進学。卒業後、都内のウェブ制作会社に就職したが、一度も無断欠勤をしたことはなかったという。GWが明けた後に、なかなか出勤しないことを心配した同僚がマンションを訪ねると、そこにはすでに事切れた彼の姿があったのだという。死因は急性心筋梗塞だった。

この部屋の特殊清掃は難航を極めた。サーバー機に阻まれ、奥に進むことさえできなかったからだ。その隙間には、インスタントラーメンの食べかすや、空のコンビニ弁当、飲みかけのコーヒー牛乳などが溢れ返って、いくつもの層を作っており、蠅が集まっていた。10年以上原状回復工事に携わっている塩田でさえも、たじろぐほどの異臭であった。

男性は欠勤することなく会社に通勤しつつも、何十年にもわたって不衛生な環境で、不摂生な食生活を送っていたと塩田は、すぐに察知した。

黒い染みの様子から、男性はサーバー機のわずかな隙間に埋もれるようにして亡くなっていたという。

「しょこたん」(中川翔子さん)や水樹奈々さんのファンだったようで、初回限定版のCD・DVDや写真集、漫画本などが見つかり、そのほとんどが未開封で、アニメのポスターと一緒に棚に積まれていた。

団塊ジュニアやゆとり世代は社会的孤立に陥りやすい

数日間かけて、ようやく無数に張り巡らされている配線とサーバー機を外したが、室温はゆうに40度を超えており、一歩間違えば火災の危険があったという。

「急性心筋梗塞による孤独死は、働き盛りの30代、40代の男性に圧倒的に多いんです。その生活ぶりを見ていると、仕事には真面目で実直な人ばかりなんです。その分、趣味などで自分の世界にこもりがちで、世間との軋轢も多くて、普通の人よりもストレスを抱えやすいのだと思います。若年者の孤独死について感じるのは、生前、彼らが社会において孤立していたということです。慢性的な孤立状態が寿命を縮めてしまうというのは、特殊清掃現場に携わっていて毎回ひしひしと感じることです」

塩田は、若年者の孤独死について、こう警鐘を鳴らす。

特に、団塊ジュニア、ゆとり世代は、社会的孤立に陥りやすく、孤独死しても長期間遺体が見つからないという痛ましいケースが多い。孤独死はもはや高齢者に限った問題ではない。その日本社会の暗部と日々向き合っているのが、塩田のような特殊清掃人だ。

真面目な人がセルフネグレクトに陥るという現実

メタルラックに掛かっていた布をめくると突然、小さな仏壇が出てきた。その奥には、二つの位牌と写真数枚が置かれていた。それは、男性の母親と妹の写真らしかった。写真をめくると、原形が判別できないほどに潰れた車の写真があった。男性は若い頃に、交通事故で母と妹を同時に亡くしていたことがわかった。肉親を同時に2人も失ったことは、男性にとってとてつもない大きな悲しみだったのではないかと、塩田は声を詰まらせた。

「現役世代の特殊清掃の現場で思うのは、なぜ普通の人よりも真面目にやってきた人が、若くして亡くなって、何日も発見されないんだろうということです。世の中には、仕事もそこそこにこなして、毎日楽しく、楽に生きている人もたくさんいるはず。

それなのに、仕事に一生懸命打ち込んできた故人様のような方が、セルフネグレクトに陥ってしまい、孤独死するケースが多い。切ないですよね。特殊清掃を仕事にしている僕が言うのもおかしいと思われるでしょうが、孤独死は減ったほうがいいと思うんです」

塩田は全ての作業が終わると、「いつか生まれ変わったら、亡くなったお母さん、妹さんと故人様が、笑顔で再会できますように」と心の中で祈り、涙ながらに深く手を合わせた。

生涯未婚率の増加などによって、単身世帯は年々増加の一途をたどっている。2015年には、三世帯に一世帯が単身世帯になった。そして、この数は今後も増え続けていくとみられる。単身世帯が右肩上がりで増え続ける現在、孤独死は誰もが当事者となりえる。特に、地域の見守りなどが充実している高齢者と違って、現役世代のセルフネグレクトや社会的孤立は、完全に見過ごされているといっていい。特殊清掃の現場は、それを私たちに伝えている。

孤独死はふとしたきっかけで訪れる

見てきたように、現役世代の孤独死の特徴として、彼らは、生前、長期間家にひきこもっていたというケースばかりではない。現役で働いていたり、少なくとも、数年前までは勤めていた形跡があったり、かつては社会とかかわりを持っていた形跡を感じることが多い。

そして、ふとしたきっかけで、つまずき、孤独死してしまうのだ。

2019年2月、塩田は、横浜市にある2DKの分譲マンションの一室に足を踏み入れようとしていた。200匹はくだらない数の蠅が、塩田の顔面に容赦なく、突進してくる。

隣のマンションの住民の子供が、毎日同じ部屋の電気がついていることを不審に思い、親に相談。管理会社に通報があり、女性の孤独死が発覚した。

この部屋で亡くなっていたのは、40代の女性で、死後1カ月が経過していた。女性は、自営業のノマドワーカーで、在宅でネット販売の仕事をしていた。居間には、仕事用のネット販売の顧客リストや郵送用の販促物などが山のように積んであった。

仕事は順調、通帳の預金残高は1000万円

その周囲は、異様な数のブランド物の洋服や、バッグ、キャリーバッグなどで固められていて、いわゆるモノ屋敷だった。女性は、買い物依存に陥っていたのだろうと、塩田はピンときた。

女性の仕事の業績は順調だったらしく、通帳の預金残高も1000万円近くあり、金銭的には不自由した様子はなかった。しかし、仕事以外の人とのつながりを示すものは何も見つからなかった。男性関係を示すものはおろか、友人や親族など、人間関係を完全に遮断していたようだ。

「この女性は、いわば仕事と結婚したようなもので、まさに仕事に生きていた女性だったのでしょう。化粧品も全くなかったですし、社会との接点は、本当に仕事だけ。もちろん、このような状態の部屋に人を招き入れることはなかったはずです。

ただ、毎日の仕事だけが彼女の生きがいだったのかもしれません。しかし、そんな仕事だけの人生が、逆に彼女を孤立させて、心身をむしばんでいったのだと思いました」

冷蔵庫の中は空っぽで、大量のカップラーメンが段ボールに入っており、一部は残り汁がそのままに、机の上に放置されていた。女性は、明らかに栄養面では偏り、不摂生な食生活を送っており、孤独死へとジワジワと追い打ちをかけていたことが見てとれる。

マンションの配管を伝って体液が流れ出す

女性は、いわゆるワーカホリックで仕事に邁進し、身の回りのことに手がつかなくなっていたようだ。お風呂場で亡くなったらしく、強烈な臭いを放つ浴室は、水が抜けていて空っぽだった。

ちなみに浴槽で亡くなった場合は、警察が水の張っている風呂の中から、遺体を引き上げる際に、栓を抜いてしまうことが多い。つまり、腐敗した体液が、排水溝にそのまま流れてしまうというわけだ。これが、のちに大問題を引き起こす。

マンションの1階ならまだしも、上層階の浴槽で孤独死が起こった場合、下層階まで排水管を伝ってその臭いが下の階に漏れ出てしまうのだ。下手をすると、マンション1棟を巻き込むほどの、大騒動が勃発する。

人の腐敗した体液は、えもいわれぬ強烈な悪臭で、それを取るには高度な専門知識が必要になる。統計上の死因で、交通事故よりも多いヒートショック死だが、現実問題として、孤独死は近隣住民にも、多大なダメージを被らせてしまうことが多いのである。この女性のようなヒートショック死は、実は孤独死の類型として、決して珍しいものではない。冬場は、寒暖差による突然死が多く発生するからだ。

死因は、急性心筋梗塞──。しかし、それ以前の偏った食生活や、不衛生な部屋の状態が女性の寿命を縮めてしまったのだろう。しかし、孤独死現場に日々取材で向き合う私自身も含めて、仕事に没頭するあまり、このような状態へと落ち込んでしまうことは、ありえることなのだ。

現役世代はセルフネグレクトに陥りやすい

特に現役世代はワーカホリックで、仕事に追われるあまり、セルフネグレクトに陥り、食生活がなおざりになり、孤独死するケースも多い。部屋も仕事上のモノで溢れ、衛生状態が悪いというケースが後を絶たない。塩田はその現状をつぶさに見てきた。

「在宅だけで完結するノマドワーカーやIT関係の方など、人と密に関わらなくても済んでしまう仕事をしている人も、実は孤独死を招きやすいのです。特に今は、パソコンやスマホで仕事が完結してしまう。亡くなった女性は、かなりの仕事人間で、日常生活は仕事に追われていた。しかし、喜怒哀楽をともにする友人や親族はほとんどなく、社会的に孤立していたのではないでしょうか」

遺族である母親は、すでに80代で認知症を患っており、女性も仕事以外の人間関係が全くなかったため、女性の遺品のほとんどはゴミとして処理された。

これが日々我々の社会で起こっている孤独死のリアルなのである。長年、孤独死の取材をしていると、その現場からは私たちの社会が抱える現状と大きな課題が浮き彫りになる。それは、声なき悲鳴として、特殊清掃人や私に訴えかけている。

[ノンフィクション作家 菅野 久美子]

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橋下徹「僕が菅総理の『自助論』に賛同する理由」

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

いよいよスタートした菅義偉政権。実務家・改革派をそろえた組閣人事で期待感が高まるが、「自助・共助・公助」に言及した菅氏のスピーチに違和感を示す人もいる。大阪府知事・大阪市長として大改革を進めた橋下徹氏はどう評価するか。

菅内閣が進めるのは「安倍政治の完成」である

はっきり言うけど、菅総理にビジョンがないと言っているメディアはかなり危ないね。万年政権与党の自民党と万年野党の社会党で構成されていた1955年体制の政治から意識が抜け出せていないんだろう。

自民党が万年政権与党だったときには、自民党内の総裁(=総理大臣)争いによって、ある種の政権交代(疑似政権交代)が起きていた。だから自民党内で総裁が変わるごとに、新総裁のビジョンというものが問われるのが当然だった。

しかし、今は、形の上では与野党が政権交代する二大政党制を前提としている。

ということは、自民党は党組織としてのビジョンを掲げて、誰が総裁になったとしてもそのビジョンを実現していくという組織マネジメントが必要になる。

総裁の属人的なビジョンから、党の組織的なビジョンへ。

菅さんは、7年8カ月の間、政府ナンバー2の官房長官として安倍政権を支えてきた。当然安倍政権の掲げたビジョンというものに、菅さんは関与もしているし責任も負っている。つまり安倍政権のビジョンは、菅さんのビジョンでもある。

菅さんは、安倍政権を基本的には継承すると明言しているのだから、国家像もビジョンも安倍政権のものと同じということで明確だ。

特にアベノミクスの3本の矢について、安倍さんは金融緩和と財政出動は実現した。他方、成長戦略と言われた規制改革のところが不十分だったと、これまでさんざんメディアや学者は批判していたじゃないか!!

だから菅さんは、このアベノミクスで不十分だった規制改革に力を入れると宣言した。

まさに菅さんは、安倍政治を完成に向けようとしているんだ。

一人の政治家がなんでもかんでもすべて完璧に実現できるわけではない。改革のテーマが大きくなればなるほど、何人ものリーダーが連なって実現するしかない。

政治において最も重要な目標は国民が「飯を食っていけること」

政治の目標や目的は考えれば考えるほど無限に出てくる。

それでもその中から何か一つを選べと言われれば、やはり国民がきちんと「飯を食っていけること」になるだろう。

ここでメディアを通じて政治評論をおこなう、いわゆるインテリたちの感覚とズレが生じる。

というのは、政治評論をするインテリたちのほとんどは、飯を食うことに困っていない。だから政治に求める目標や目的が、どうしても「高尚」なものになってしまうんだ。

しかし大多数の国民にとって一番重要なことは、ちゃんと飯を食っていけることなんだ。

この「国民が飯を食っていけること」という政治の目標・目的から考えると、やはり「失業率の低下」が重要な指標だ。

正規雇用者と非正規雇用者がどれだけ増えたか。この点でも安倍政権に対して、非正規雇用が増えただけ!! と批判する者が多い。

しかし政治に100%の完璧を求めること自体、適切な評価とは言えない。安倍政権ではコロナ禍前までは約500万人の新規就業者が増えて、そのうち150万人が正規雇用の増、350万人が非正規雇用の増である。

150万人も正規雇用が増えれば、60点の及第点には達するのではないだろうか?

自助を基本に成長を目指す菅政権か、成長を目指さない「エダノミクス」か?

ここからは加点事由の話になるが、改革を推し進め、日本の国の潜在的成長率を高めれば、どんどん100点満点に近づいていく。

雇用も増え、賃金も上昇する。

菅政権にはこの方向性を目指してほしいというのが僕の論だが、これに対して、枝野幸男さん率いる新・立憲民主党は成長をことさら目指さないということらしい。

さらに枝野さんは、菅さんが掲げる「自助」という言葉にも嫌悪感を示す。

僕は菅さんと同じく、「まずは自分のことは自分でする」という自助がとりあえず基本だと思う。それは個人に責任を押し付けるという意味ではない。自助がなければ成長は生まれないし、さらに自分のことは自分でできる人を増やすことで、限られた税金を、支えが本当に必要な人にできる限り多く配分できるようになるからだ。

支えが必要な人が多くなれば、支えるための税金がそれだけ必要になる。逆に自助の人が増えて支えが必要な人が少なくなれば、本当に支えが必要な人に多くの配分ができる。

支える人をしっかりと支えるためにも、自分のことは自分でできる人を増やすべきだ、というのが僕の自助論だ。菅さんも同じだと思う。

日本の国は成長を目指すのか、自助が基本なのか。

この点は菅政権と新・立憲民主党で考え方が異なるようなので、まさにこの点を徹底的に国会論戦、党首討論して欲しい。最後は国民が選挙によってどちらの方向性でいくのかを選ぶことになる。

「おかしいよね」を指摘し実際に正すのが改革だ

僕は成長を目指す派だし、自助が基本。菅さんもそのために徹底して改革をやるのだと思う。

新規参入を阻んでいる規制が強すぎると、切磋琢磨が生じず成長しない。

この点、菅さんには国家観がなく、思い付きだけの脈絡のない改革屋だという批判がある。

アホか!!

こういう批判をする輩は、改革の「か」の字もやったことのない連中だろう。

そもそも規制改革とは脈絡のないもの。世の中にごまんとある既得権益を守る壁を、一つずつ見つけては打ち壊していく作業。一つ見つけては一つ正す。ほんと途方もない地道な作業の連続なんだ。

改革をするのに必要なのは、本で得た知識ではない。「これおかしいよね」と感じる感性と、それを口に出せる勇気。おかしいことを口に出せたら、あとはそれを変えるのみ。

しかしほとんどの政治家は、そのおかしいことを口に出せない。これまでのやり方をよしとしている人たちから批判を受けるのが嫌だからね。

悪しき前例主義を改める!! おかしいことは変えなきゃならない!! までは誰でも言えること。

じゃあ、どこがおかしいのか。どこを変えなければならないのか。ここを具体的に指摘できる政治家はほとんどいない。

ここで新大臣に就任した河野太郎行革担当大臣が、深夜に及ぶ新閣僚の就任記者会見について「さっさとやめたらいい」と言い出した。

素晴らしい!!

これまでの多くの政治家たち、記者たち、官僚たちは、この深夜の記者会見を改めることがなかった。こんな深夜の記者会見くらいのことでも、おかしいとは誰も言い出さない。これが改革の難しさの象徴だね。

人は皆、これまでやってきたことをそのまま続けてしまうのが普通だろう。これはおかしい! とは、なかなか指摘できない。

そこを「これはおかしいよね」ということを口に出して、実際それを正そうと挑戦し続けてきたのが菅さんだ。

[元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹]

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絶縁した父の死を告げる市役所からの電話に23歳男性が起こした行動

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

西良太さん(仮名・37歳)は、子供時代に自分を苦しめてきた両親と距離を置いて暮らしている。だが23歳のとき、父の死を知らせる市役所からの連絡で過去の記憶がフラッシュバックしたという。ノンフィクション作家の菅野久美子氏が話を聞いた――。

※本稿は、菅野久美子『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)の一部を再編集したものです。

ふと苦々しい記憶がフラッシュバックした

「青森県の某市役所の者です。お父さんが波打ち際に打ち上げられて亡くなっていました。海に身投げして自殺したみたいです」

西良太(仮名・37歳)の携帯電話に青森の市役所の職員から連絡があったのは、23歳の暑い夏の日のことだった。

その言葉を聞いた瞬間、一粒だけ涙がこぼれた。

オヤジ、死んだのか──。

悲しみなのか、怒りなのか、よくわからない感情が込み上げ、良太の胸はぐちゃぐちゃになった。

ふと、頭の片隅に父親の顔がフラッシュバックする。父親の記憶は、どれも苦々しいものだった。良太にとって、父親は絶えずギャンブルや女性に溺れていた身勝手な存在という記憶しかない。

良太の父親は、かつては電車の整備員をしていた。しかし、友人の会社の保証人になり、多額の借金を抱えたことで一家の転落が始まっていく。父親は借金の返済のためにギャンブルにハマり、良太が3歳の時にマイホームを失い、一家は路頭に迷ってしまう。

父親が電車の整備員の仕事を辞めると、一家はある会社の寮に移住することになる。父親はそこで社員たちの調理師兼管理人として住み込みで働くことになった。しかし、父親のギャンブル癖は止むことはなかった。パチンコにのめり込み、借金は見る見るうちに膨れ上がっていく。父親は不倫も繰り返していて、家に帰ってこないこともよくあった。

しまいには良太が小学三年生の時に、不倫相手の女性とともに蒸発。残された家族には借金だけが残り、清掃員の母親がわずかな給料から月々返済していくという貧乏を絵にかいたような日々が続いた。それでも借金は払いきれずに、家に借金取りが押し寄せ、生活は火の車だった。

泥酔した母親を警察から引き取った中学生時代

良太には、今でも忘れられない思い出がある。

貧困のため母親の給料だけでは給食費を払えず、何度も、職員室に後から納めに行ったこと。小さい頃に買ってもらったボロボロの自転車を、体が大きくなるまで乗り回していたこと。

自分の家は、なぜ、他の家と違って貧乏でお金がないんだろう──。なんで自分たち家族はこんな思いをしなくてはいけないんだろう。

お父さんさえ、しっかりしていれば──。理不尽な思いが良太の中で募っていった。そんな境遇もあって良太自身、子供の頃から抑うつ症状が現れていた。将来が不安で夜安心して眠れない日々が続いたのだ。

母親も働けど働けど豊かにならない生活に疲れ果てたのか、いつしか酒に溺れるようになっていく。

次第に母親も夜の街に繰り出して、家に帰ってこなくなっていった。良太が中学生ぐらいになると、警察から「母親が道端で寝ていたから引き取りに来て欲しい」という連絡が頻繁に入るようになる。母親はよく、警官に両腕を抱えられ、泥酔していた。そんな母を見るのは何よりも辛く、屈辱的だった。

母親は何とか貧困生活から抜け出そうと良太の反対を押し切って地元でスナックを始めたが、それも立ち行かず借金だけが残った。

良太にとって、ギャンブル中毒の父も、厚顔無恥な母も家族そのものが記憶から消去したい存在だった。自分を苦しめた父も母も、良太は大嫌いだった。

良太は、家族の窮状を受け止めきれず思春期になると自暴自棄になっていく。特攻服を着て、駅前にいるヤンキーの真似事をしたこともあった。

しかし、高校卒業後親元を出て社会人になってからは、真面目に勤めてきたのだった。父の死を知らされたとき、これまでの過去と、様々な交錯する思いが、まるで走馬灯のようにフラッシュバックして、思わず眩暈がした。

市役所の職員は「家族なら当たり前」といったように…

「それで、お父さんのご遺体もそうですが、お父さんのアパートも車もそのままになっています。それをこっちに引き取りにきて欲しいんですよ」

しかし、すぐに市役所の男性の言葉によって、現実に引き戻された。

電話の向こうの市役所の職員は、家族なら当たり前といったように、良太にそう投げかけてくる。

「いやいや、ちょっと待ってください」

ついカッとして、慌ててそう言い返した。

「申し訳ないけど、そっちで『処理』してくださいよ」
「そう言われても……」

相手は、困り果てた様子で、それでも食い下がってくる。

「知らねーよ!!」

怒りで思わず頭に血が上り、罵倒している自分がいた。市役所の職員によると、父親の最後の勤め先はパチンコ店だった。年齢を計算すると享年63になる。父親は一人暮らしで、最後まで借金は絶えず、一緒にいたはずの女性も姿を消していたらしい。

なぜ父親は最後まで自分たちを苦しめるのか

なぜ、散々迷惑をかけ、最後には家族を捨てていった父親の面倒を、子供だというだけで自分が見なくてはいけないのか。なぜ、親族というだけで、最後の後始末まで自分が引き受けなければならないのか。なぜ、父親は最後まで自分たちを苦しめるのか。

そう思うと、無関係な職員には悪かったが、大声を上げて拒絶するしかなかった。

「じゃあ、仕方ないですね。わかりました」

結局、長時間の押し問答の末、市役所の職員は根負けする形で引き下がった。それ以降、二度と市役所から連絡が来ることはなかった。

「父親は、最終的に周りに誰も頼る人がいなかったみたいなんです。本当に孤独な最期だったと思いますね。狭いアパートで、一人暮らし。女性もいなかった。借金苦の末に自殺。

でも父ならいつかそんな死に方を、するだろうなと思ったんです。そりゃ孤独な死を迎えるよ。そうなるしかない。人を捨てていった人は、そういう結末を迎えるしかないと思うんです」

私には、良太の葛藤が痛いほどに伝わってきた。良太にとって、父親は決して思い出したくない過去の一つだったのだ。良太はその一件があってから、本格的に「家族を切る」決意をした。

普通になるために、全てをなかったことにしたい

良太はいつだって、「普通の家族」に憧れていた。お父さんがいてお母さんがいて、お金に苦労することもなく、いつも笑いあって、仲が良くて、みんなが当たり前のように手に入れている、そんな「普通」の家庭──。だけど自分の家族は、明らかに周りとは違っていた。

だから、「普通になるために」父も、母も全てを消し去りたいと思った。そして、できるならば自分の家族の存在をなかったことにしたい。

それを実行するために、良太はあることをしに居住地の市役所に行った。

それは、自分の戸籍を抜くことだった。もう、二度と父親の件で行政などから連絡が来ないようにするために。

「籍を抜きたいんです」そう告げると市役所の職員の年配の男性は、良太の深刻な表情に何か事情があると察したのか、好意的な態度で手続きをしてくれた。戸籍には、初めて見る父方の祖母の名前があった。

職員は、「人生色々あると思うけど、頑張りなさいね」と言って良太に優しいまなざしを送った。戸籍を抜いても法的な親子関係が切れるわけではない。しかし、籍を抜いた瞬間、良太はどこか晴れ晴れしい気持ちになった。

家族を捨てること、それが新たな自分にとっての出発になる、それが長年の良太の願いだった。

「全てが血縁ベースの社会になっているのが苦しい」

今が幸せだからこそ、自分を苦しめてきた家族とは縁を切りたいし関わりたくない──。その考えは二児の父となり、妻と子供と幸せな家庭を持った今も変わらない。

「全てが、血縁がベースの社会になっているのが苦しいんですよ。だけど、自分の家族も行政もそれが当たり前だと思ってる。そういう意味で、家族は捨てられないのがやっかいだと思うんです。本当のことを言えば家族は全部捨てたいんですよ」

良太を苦しめるのは、亡くなった父親だけではない。良太は酒に溺れ、10年以上会っていない母親とも、その関係を清算しようと考えていた。良太にとって家族とは、まとわりついて離れない生霊のようなものなのだ。自立心のない母親にも、散々振り回されてきた。血縁というだけでその始末が自分に降りかかり、その度に良太は過去のトラウマを思い出し、仕事に手がつかなくなることも度々あった。

良太はかつての家族を清算することで、初めて自分が守るべき、家族と向き合おうとしていた。

[ノンフィクション作家 菅野 久美子]

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cat_316809_issue_vslzctuuvguf oa-president_vslzctuuvguf_m3jh98uo0vm8_「コロナから家族を守る」感染症専門医が自宅でやっている5つのポイント m3jh98uo0vm8 m3jh98uo0vm8 「コロナから家族を守る」感染症専門医が自宅でやっている5つのポイント oa-president 0

「コロナから家族を守る」感染症専門医が自宅でやっている5つのポイント

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

大切な家族を感染から守るにはどうすればいいか。『感染症専門医が普段やっている 感染症自衛マニュアル』(SBクリエイティブ)を出した感染症専門医の佐藤昭裕氏は「一人暮らしなら、外出から帰ってきたとき、トイレの前後、調理の前後、食事の前後で手を洗えば問題はないが、家族と同居している人は頻度を上げたほうがいい」という——。

物に付着した菌やウイルスの寿命とは

新型コロナウイルスも、「接触感染」するといわれています。「接触感染」とは、感染者の手などからモノへと菌やウイルスが移動し、そこに触れた手などを介して感染するという経路です。

たとえば、感染者Aさんが、自分の口や鼻に触れると、口や鼻の粘膜から手へとウイルスが移動します。その後、Aさんが手を洗わずに電車に乗り、菌やウイルスが付着した手でつり革につかまったとしましょう。

ここでAさんに付着していた菌、ウイルスの何割かがつり革に移動します。そのつり革に健康なBさんがつかまると、今度はつり革からBさんの手へと菌、ウイルスが移動します。そしてBさんが、手を洗わずに自分の口や鼻に触れると、手に付着していた菌、ウイルスがBさんの体内に侵入してしまうのです。

新型コロナウイルスは、人類が初めて出会うウイルスであり、まだまだ実体がつかみきれていません。

現時点で、新型コロナの生存時間は、「ダンボールの表面では約24時間」「ステンレス、プラスチックの表面では48~72時間」と示唆されていますが、さらなる実証研究が待たれるところです。

手洗いとアルコール消毒は何が違うか

手を石鹸で洗い流す「手洗い」は「洗浄」である一方、「消毒」に当たるのは「アルコール消毒」です。

医療現場では、目に見える汚れがあるときには手洗い、目に見える汚れがないときにはアルコール消毒、としています。

細菌やウイルスは手についても見えませんので、医療従事者は「患者さんに触れる前」「清潔操作(点滴などをするとき)の前」「患者さんの体液に触れた可能性があるとき」「患者さんに触れた後」「患者さんの周囲にある物品に触れた後」の5つのタイミングでアルコール消毒をするようにしています(WHOの推奨する5モーメントといわれるタイミングです)。

アルコールは、それ自体に菌やウイルスを破壊する作用があるため、手やモノに吹きかけてなじませたら、洗い流す必要はありません。

アルコール消毒は、手洗いと同等に感染症予防に効果的ですが、その際にも、いくつか意識していただきたいことがあります。

・「ワンプッシュ押し切った量」が適量

今は、たいていのスーパーや公共施設の出入り口に「プッシュ式のアルコール消毒液」が設置されています。

これを使うときに気をつけたいのは「ワンプッシュ押し切る」ことです。製品によって多少異なりますが、多くの製品がしっかりワンプッシュ押し切って出た量が適量となります。

しっかり押し切ると手からあふれそうな量になるため、「もったいない」「無駄遣いしては申し訳ない」と思っていた方も多いかと思います。しかし、実は「ワンプッシュ押し切って出る量」が、両手をアルコール消毒できる適量なのです。

・手首までなじませながら乾かす

ワンプッシュ押し切って手にアルコールを受け取ったら、乾くまで両手にしっかりともみ込みます。

よく、手をパタパタと振って乾かそうとしている人を見かけますが、それだと、両手全体に行き届かないままアルコールが揮発しているだけで、効果半減です。手首までしっかりと、アルコール消毒液をなじませるようにしてください。

いつ、どんなときに手を洗うか

最近は、家庭内感染が増えてきました。家庭内の感染を防ぐにも、ひとつに手を洗うことが大事です。

一人暮らしならば、外出から帰ってきたとき、トイレの前後、調理の前後、食事の前後で手を洗えばまず問題はないですが、家族と同居している人は、さらに頻度を上げたほうがいいでしょう。咳やくしゃみを手で押さえたり、鼻をかんだりした後にも手を洗います。同居人に高齢者がいる場合は、なおのことです。

とくに、新型コロナウイルスのように、症状が現れない期間(潜伏期間)が長い感染症が流行しているときは、「自分がすでに感染している可能性」を念頭に置いて、できるだけマメに手を洗うことをおすすめします。

もし症状が現れはじめたら、もはや手洗いの頻度だけの問題ではありません。部屋を別にする、食事を別々にとるなどの「自宅内隔離」が必要です。

家庭内感染を防ぐ5つのポイント

家庭内感染を防ぐためのいくつかのポイントを紹介しておきましょう。

・手を拭くにはペーパータオルがベストですが、タオルを使う場合は、各々の専用タオルを設け、毎日、取り替えます。


・家族みんなが触れるドアノブ、電気のスイッチ、テレビのリモコン、食器などは、アルコール消毒液か次亜塩素酸ナトリウムの消毒液を染み込ませたペーパータオルや乾いた布で消毒します(ただし次亜塩素酸ナトリウムはデリケートなものには使えません。また、成分が残っていると素材が傷みますので、後で乾いた布などでふき取るとよいでしょう)。


・枕カバーなどの寝具は個別に洗いましょう。


・食事は、できるだけ個別に盛りましょう。夏場はそうめんなどを1つのざるに盛って、みんなで食べるご家庭もあると思いますが、新型コロナウイルスのように潜伏期間が長い感染症が流行っているときは、避けたほうが無難だと思います。


・感染症が疑われる人の入浴は、同居人全員の入浴後にしましょう(同居人に、「うつさない」ため)。

子どもと楽しくできる対策がある

手洗い、アルコール消毒、三密を避けること、マスク。こうした基本の感染症対策を、小さなお子さんに実践させる難しさを感じている方もいらっしゃると思います。

「三密」は、親子が一緒に行動していれば、自動的に避けられるでしょう。

となると、手の衛生とマスクの重要性をどう伝えるかですが、遊びの要素を取り入れながら、これらを教える方法があります。

親子一緒に、手にたっぷり「ラメ」をつけて丸一日を過ごします。すると1日が終わるころには、家の中の至るところ、さらには自分の顔中にも、ラメが付着しているはずです。つまり、それだけ菌、ウイルスは、いろいろなところに付着しやすく、そこから感染しやすいと示すことができるのです。

この遊びを、マスクをつけた状態で行えば、マスク表面に多くラメが付着することになります。マスクをつける意味や、マスクの取り扱い方(耳の部分を持つこと)、マスクの表面に触れないことの重要性なども教えられるというわけです。

もちろん、大人にとっても、感染症予防の重要ポイントを再確認できる、有意義な遊びといえます。ラメの代わりに、ブラックライトを当てると光る特殊塗料とブラックライトを準備し、同様に行ってもいいでしょう。

このような予防対策をすることにより、インフルエンザの予防にもなりますので、積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。

[KARADA内科クリニック院長 医学博士 日本感染症学会専門医 日本内科学会認定医 佐藤 昭裕]

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脇役のはずの「ポテサラ」を主役に据える居酒屋が増えているワケ

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

ポテトサラダは居酒屋の定番メニューだ。その存在はどちらかといえば脇役だったが、最近は主役に据える居酒屋が増えている。ライターの石田哲大氏は「そうしたポテサラには、外食店でしか味わえない創意工夫が見てとれる」という――。

「自分で作るポテサラ」が現れた

ちまたの居酒屋のポテトサラダ(以下、ポテサラ)がおもしろいことになっている。燻製ポテサラ、焼きポテサラ、さらには焼いた肉やベーコンの塊をのせたり、フォアグラ入りだったりと、最近のポテサラはじつに多彩で、百花繚乱の様相だ。極めつきは串カツチェーン「串カツ田中」の自分でつくるポテサラ。器にはふかしたジャガイモとゆで卵、マヨネーズなどが入っているだけ。添えられている小さなすりこぎを使って、お客が自分で材料をつぶし混ぜるという趣向だ。

筆者にとってのポテサラとは、刺身や焼きもの、揚げものといったほかのメニューが届くまでの“つなぎ”や“箸休め”で、脇役という認識だった。それが、ここ数年に新規オープンした居酒屋では、ポテサラに創意工夫が施されて主役級の役割を担っていることがよくある。

いぶりがっこ入り、酒粕入り、温かい状態で提供…

以下、最近おもしろいと思ったポテサラの具体例を列挙する。ウナギとジビエに特化した居酒屋「新宿寅箱」(東京・新宿)の「献上節のポテトサラダ」、クラフトビール専門店を大衆酒場業態に落とし込んだ「居酒屋ビールボーイ」(同・吉祥寺。2020年7月19日に営業を終了)の「いぶりがっことカラスミのポテサラ」、日本酒専門の立ち飲み居酒屋「日本酒 室 MURO」(同・浜松町)の「自家製沢庵と竹葉酒粕のポテサラ」。

これらは、定番のポテサラにプラスアルファの材料を加えた“足し算”のポテサラといえる。昔ながらのポテサラはしみじみとおいしいものだが、パンチには乏しい。だから、うま味を補強したり、食感に変化をつけたりすることで、食べ手の印象に残るように仕立てているわけだ。

気の利いた日本酒のセレクトとつまみが売りの「月肴」(同・四谷三丁目)の「温かいポテサラ」や炉端焼きと日本酒が売りの「燗アガリ」(同・新宿)の「できたてあったかポテトサラダ」のように、出来合いであることが普通であるポテサラのあり様を逆手に取って、あえてツーオーダーで出来立てのポテサラを提供している店もある。これがポテサラなのか? という疑問はさておくとして、キャッチーであることは間違いない。それに、おいしい。

※ここで紹介しているメニューは変更している可能性があります

若い世代の居酒屋で増えている

こうした進化系ポテサラが提供されるようになった背景としては、昔ながらの居酒屋に対して比較的若い世代の店主が近年開業した「NEO居酒屋」などとカテゴライズされる店が影響しているように思える。こうした店は個性が最大の売りであり、ポテサラひとつ取ってもほかと同じではつまらないと、あの手この手で特色を出そうとするからである。

これに対して、昔ながらのポテサラ、つまりは蒸したりゆでたりしたジャガイモをつぶして、ハムやタマネギ、キュウリ、ニンジンなどの具材と一緒にマヨネーズで和えたオーソドックスなポテサラを愛好する人たちも存在する。彼らにとってみると、こうした進化系ポテサラに違和感を覚えるかもしれない。しかしながら、そもそもポテサラというのはもっと自由な存在である。

「ポテサラ」に似た料理は世界中にあったはずだ

ポテサラの起源は、諸説あるようだが、有力とされているのはロシア説。ロシアで150年前に誕生した「オリヴィエ・サラダ」と呼ばれる料理であり、これがポテサラの起源というわけだ。ただし、仮にそれが事実だとしても、この料理がどのように日本に伝わったのかがわからない。ほかにもドイツ説、フランス説もあるにはあるようだが、ロシア説と同様に決め手に欠ける。ジャガイモは世界各地で栽培されており、ポテサラに似た料理は世界中で食べられていたはずだ。「起原」を探すというのが、どだい無理な話なのかもしれない。

というわけで、もともとポテサラは国の数だけ、いや、つくり手の数だけその形があるものなのだ。それが日本の場合は、マヨネーズの普及にともなって、あの定番のポテサラが一般家庭で食べられるようになった。1900年代初頭にご存じキユーピー株式会社の創始者である中島董一郎氏が、缶詰の勉強のためにアメリカに渡った際にマヨネーズを食べて感銘を受け、日本で製造、販売にこぎつけた話は有名だ。

「定番」といっても作り方は多種多様

1925年にマヨネーズが発売された当時は、まだまだ高級品で、その後も原料不足の影響で安定して供給することはできなかったが、戦後になって一般家庭に普及するようになった。小泉武夫氏のエッセイ『食でたどる日本の記憶』(東京堂出版)のなかにも、1950年代になってはじめてマヨネーズを使ったポテサラを食べたときの感動がつづられている。おそらく、そのころに材料が安価で栄養価が高いポテサラが、居酒屋や料理屋の定番メニューにもなったと考えられる。

定番のポテサラといっても、ジャガイモを蒸すのか茹でるかによってジャガイモの歯触りが変わり、それをどの程度の粗さでつぶすかによって食感が決まる。マヨネーズとジャガイモの比率によっては、「マヨネーズ感」が強かったり、反対にジャガイモの味わいをストレートに表現したり。味を引き締めるためにお酢を加える店も多いし、コショウやカラシ、マスタードでキレを出す人もいる。

具材にしたって、卵を入れるか入れないか、入れるなら固ゆでか、半熟か。ピクルス、アンチョビ、オリーブなどの洋素材を加える店もめずらしくなくなってきた。要するに、われわれが「定番」だと思っているポテサラも非常に奥の深い料理なのである。

居酒屋には「外食ならではの楽しさ」が求められる

こうしたオーソドックスなポテサラのしみじみとしたおいしさは捨てがたいものがある。しかし、いまは味にしろ、演出にしろ、居酒屋には外食でしか得られない楽しさや感動が求められている。先に紹介した「串カツ田中」のポテサラなどはその典型で、ただおいしいだけではなく、そこに娯楽性があるからこそ、お客に受けているのだろう。

「出来たてのポテサラ」も同じで、家庭でかんたんに味わうことはできない。肉を売りにしたビストロでよく見かけるベーコンの塊をのせたポテサラ、ワイン酒場で提供する生クリームとバターをたっぷり使ったリッチなポテサラなども同様だ。

一般的なポテサラであれば、スーパーの総菜売り場からデパ地下、コンビニでも買えて、それなりにおいしかったりする。居酒屋のポテサラは、外食店でしか味わえない創意工夫がいま以上に求められていくだろう。最近、SNSをにぎわせたように、家庭でポテサラをつくるとなると意外と手間がかかる。ぜひ酒場めぐりをしながら、お気に入りのポテサラを探してみてほしい。

【参考文献】
『みんな大好き ポテトサラダ』(新星出版社)
『ポテサラ酒場』(辰巳出版)
『居酒屋2018』(柴田書店)
『居酒屋NEO』(柴田書店)

[ライター 石田 哲大]

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「保健所より厳しい」社員7万人トヨタの感染対策はやはりすごかった

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。テーマは「徹底された現場の感染対策」——。

フィリピンの3つの工場が操業停止に

2月4日に始まった対策本部だが、毎日、開いていたのが3カ月後には閉会した。特に終了宣言をするわけではなく、「トヨタの危機管理人」として座長を務める朝倉正司が「もういいだろう。今後は問題の都度、招集する。大部屋は当面残し、情報はアップデートしてほしい」と言ったところで終わる。部品の供給が平常に戻ったのがちょうどその頃だった。ただ、供給危機への対応は終わったが、医療機器、医療用ガウンの製造などへの支援は続いていた。

さて、ここからは、災害、感染症の危機の度に、部品の調達網をつなぐ仕事をし、また数ある協力工場へ赴いて復旧支援してきた危機管理人、朝倉に危機への対処について、ノウハウを語ってもらう。

「今回はある部品の供給が止まりました。いくつか仕入れ先がありますが、いずれもフィリピンに工場を持っていたのです。フィリピンは都市が封鎖になったので、工場の操業ができなくなりました。生産能力はあるのだけれど、従業員が出社できなかった。病気でもないし、工場が被災したわけでもない。それでも作ることができなかったのです。

ただし、徐々に封鎖も解けてきて、出社できる州もあればダメなところもありました。状況は時々刻々と変わりました。これ、災害でも、経済危機でも、危機の特徴なんです。うちの友山(茂樹、執行役員)が『危機は大きな変化だ』と言ったでしょうけれど、危機の最中は事態の変化が激しい。つねに新しい情報を入手しなければいけない」

初めての危機にどう対応したのか

「危機管理ではわれわれはつねに調達と一緒になってやります。まず日本の全工場における車の生産台数を調べる。そうすると、各部品の日当たりの必要量がわかる。生産能力が全世界の協力工場で半分になったとわかったら、次は在庫量を調べる。

トヨタの場合は他社とは違い、在庫量が少ないんです。他社が1週間分とすればうちは2、3日分しか持っていない。リーン(引き締まった、ムダのないの意)な体制だから、実は年がら年中、供給危機に対応しているようなものです。災害や新型コロナの危機では対応する工場と量が大きく増えただけです」

今回、具体的に対策会議が出した解決法は次の通りだった。

フィリピンの工場で作っていた量は他の国の工場よりも多かった。代替生産するにも一国では無理だったので、タイの工場と日本国内の工場に振り替えたのである。

「タイと日本のどこそこへ持ってこよう」と判断ができたのは調達部門が平常時に緻密な調達部品マップを作成していたからだ。

生産地を振り替え、復元するまでのプランを一気に練る

代替する場合、生産が動いている国で、フィリピンの工場のコストに見合った生産ができる国の工場に生産を振るのが基本だ。生産を振る場所が決まったら、次は日本の組み立て工場まで持ってくる物流のルートを確保しなければならない。

朝倉は言う。

「設備は工作機械が多いわけではないし、難しいものではありません。人海戦術でやって、できないことではない。ただ、手作業だから、人件費の安いところでやらなきゃならないんですよ。

それで、フィリピンが都市封鎖になったから、タイの工場に振りました。また、一部は日本にも生産設備を引き揚げて、作りました。ただ、日本の場合は緊急にはやれるけれど、継続的にはできない。日本人がやったら、そろばんに合わないからです。

フィリピン、ベトナムといった手先が器用で、細かいことをやれる人がいるところで作るのが基本ですよ。要は、現在、部品を作っている工場って、最適生産だから、そこでやっている。それを変えたら、また元に戻さなきゃならん。そこまで考えて振替生産のプランを作って実行するわけです」

どの業界にも当てはまる「物流」の問題

今回の危機に際してはタイミングがよかったと言っていいのかどうか判断に迷うところだが、トヨタは数年前から本格的な物流改革をやっているところだった。

「リードタイムを短く、小口の量で、フレキシブルに、そしてリーズナブルな値段で運ぶ」物流を構築しているさなかだったため、物流ルートの振り替えもスムーズに行うことができた。

トヨタが供給危機に対応できたのは生産部門と物流部門が日頃から協同で物流改革に臨んでいたからだ。システムの端々までを知悉(ちしつ)し、動かし方をわかっていたので、振り替えも難しくなかったのである。

どんな会社でもセクションが違うとコミュニケーションがスムーズにいかなかったりする。危機への備えのひとつに各セクションが日頃から情報の共有を行っていることが欠かせない。ただし、これは実行することは簡単ではない。

たいていのメーカーは質はともあれ調達網のマップは作っている。つまり、振替生産のプランを立てることはできる。しかし、物流の全体マップを持っていても、フレキシブルな運用をできる会社は限られている。

メーカーであれ、販売会社であれ、商社であれ、危機管理では物流についての知識、知恵、現場経験が必要となってくる。危機に際しては物流ルートの状況把握と代替輸送をするとすればどこに頼むのか、それとも自社でやれるのかといったプランBは用意しておかなくてはならない。

7万人の社員を抱えて「3密」対策もしなければ

対策会議で討議に時間がかかるのは振替生産をするかしないか、やるならばどの工場に持っていくか、物流のラインは確保できるのか。生産に直結する問題が第一だが、むろんそれだけではない。

災害であれば、事後は復旧するだけだ。ただし、新型コロナ危機に際しては「3密」の回避といったこれまでの危機にはない作業体制を考えなくてはならなかった。

トヨタが行った生産現場での新型コロナ危機対応を次に挙げておく。

なお、トヨタの国内従業員の総数は約7万2000人。このうち、生産現場にいる技能職は4万3000人、事務部門の事技職は1万5000人で、事務部門の人々をサポートする業務職が4000人。加えて、課長級以上の基幹職・幹部職が8500人となっている(2020年8月現在)。

以上に加えて、生産現場、事務の現場では協力会社から出向している人間、アルバイトがいる。すべてを合わせれば10万人に欠ける人数が全国のトヨタ工場、事業所で働いているとみられる。

徹底した「4つの感染対策」

1 すべての工場において、3密にならないような作業体制を取る。工程や作業によって違いはあるけれど、工程間に間仕切りを入れてソーシャルディスタンスを保って作業する。マスクもしくはフェイスシールドを着用する。

2 食堂、移動用のバスなどの共用エリアでは毎日、消毒を実施する。何度も消毒している様子を見た作業者は「徹底しているな」と感じるので、感染予防の意識を向上させる役目もある。

3 体温チェックは朝と夕方の2回。体温の情報は「見える化」する。体調管理は標準作業のひとつ。

4 工場の勤務は「2直」(直(ちょく)とはシフトを組んだ勤務体制のこと)が基本だ。1直と2直の作業者が交代時間に接触する機会を減らすために、2直の開始時間を30分、後へ遅らせる。ただし、永続的にではなく、新型コロナの蔓延が一息ついたら、元に戻す。

では、次に感染者が出たら、どういった対応を取るか、である。

もしも感染者が出た場合は

感染予防については各社、各組織ともにトヨタと同様の対応をしているだろうけれど、感染者が出た場合の対応について、トヨタが標準的な手続きを決定したのは早かった。そして、この部分は各社の担当者がもっとも参考にできる。

1 PCR検査を受ける人が出た段階で、対象者の行動範囲を把握する。濃厚接触者も聞いておく。そうして、職場の消毒を実施する。検査結果が出る前に感染予防策を取るということだ。

2 陽性者が出たら、全社で情報を共有する。休日であっても会議を開催する。その際、リモートを活用する。

陽性者の行動記録に基づいて、職場を消毒し、閉鎖する。濃厚接触者は自宅待機にする。2次濃厚接触者(濃厚接触者の濃厚接触者)についても自宅待機にする。これは保健所の決めた原則よりもはるかに厳格な対応だ。

3 工場で陽性者が出た場合、安全を第一としつつも、稼働を継続するため、状況に応じて前後の工程から人員を補充するなどフレキシブルに対応する。

他社の工場ではラインで陽性者が出たら、前後の工程を担当できず稼働維持できないケースもあるから、工場全体の稼働を停止するしかない。

トヨタの場合はトヨタ生産方式にのっとって作業している。作業者は多能工になっていて、前後の工程の作業ができるようになっている。補充人員に新たな教育をしなくとも、ラインに参加できる人数がいる。工場をすべて停止しなくとも生産の継続ができる。

「非稼働日」に社員は何をしているか

4 「非稼働日」を設定する。トヨタの生産現場には「非稼働日」というものがある。災害などで部品が届かくなり、生産調整が必要となったら、対策会議で検討し、組合とも協議して、2種類の非稼働日を設定する。その場合、工場の稼働は止め、生産は行わないが、出勤はする。出勤した作業者は改善や清掃などの作業をするか、もしくは有給休暇に振り替えて、休むこともできる。出勤はするけれど、生産活動は行わない。もちろん、給料は出る。

新型コロナ危機では国内の全完成車工場(全15工場28ライン)において、6日間の非稼働日(カレンダー振り替えあり)と別に、生産を行わない非稼働日を工場ごとに作った。

後者の非稼働日とは学生が学校へ行って自習するようなものだ。工場へ行き、原価低減につながる作業の見直しや各種の改善、ラインの敷設など、日頃できなかった細かい清掃などをしながら、自分の仕事のやり方を考える。工作機械を見つめて補修してもいいし、仕事に関係する本を読んでもいい。何かをしてはいけないということはなく、好きなように勉強していい。

非稼働日には精神がリラックスするというメリットもある。これはメーカーだけでなく、他社も真似できる制度だと思う。

[ノンフィクション作家 野地 秩嘉]

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スタバ、タリーズも参戦「タピオカバブル」が残した空前のお茶ブーム

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

コーヒーチェーン大手のスターバックスとタリーズが、同じタイミングでお茶の新商品を発売した。両社がコーヒー以外に力を入れる背景には何があるのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏が取材した――。

世界の茶生産量は10年前に比べて約43%増

大手カフェチェーンの「スターバックス コーヒー」と「タリーズコーヒー」が、相次いでティーメニューの新商品を発表、「茶系ドリンク」に注力し始めた。

スタバとタリーズは国内店舗数で1位と4位だ。現在スタバは1580店以上、タリーズは750店以上を展開する。ともに女性客が多いのも特徴だ。

その両社が、同時期にティーに注力し始めたのはなぜか。

理由のひとつは、「タピオカブーム」だ。現在は人気のピークを過ぎたが、ブームで間口は広がり、消費者は(無意識のうちに)タピオカドリンクのベースとなる茶系への関心が増した。実際、2019年の茶生産量は全世界で過去最高の614万9600トンとなり、10年前に比べて約43%も増えた(ITC=国際茶業委員会調べ)。

各社はどうやって茶系飲料を訴求しているのか。その時代性と消費者意識の変化をお伝えしたい。

スタバは中目黒の「ティバーナ」を六本木でも展開

7月1日、スターバックスが六本木に新しいスタイルの店をオープンさせた。

正式店舗名は「スターバックス コーヒー 六本木ヒルズ メトロハット/ハリウッドプラザ店」という。本稿では通称の「ティバーナ」(TEAVANA)で記したい。

この店は、紅茶をはじめ、さまざまな茶系ドリンクを前面に打ち出す。コーヒーも飲めるが、主力はティーだ。同社の表現を借りれば「色鮮やかで香り豊かな“ティー”を多彩なビバレッジで展開」となる。来店客層として、近隣で働く女性も意識した。

オープンして3カ月近くたった。新型コロナウイルスの影響で多くの都心店舗が苦戦する中、女性客も増えて浸透してきたという。

もともと「ティバーナ」は、米国のスターバックスが買収したブランドだ。日本では昨年2月に東京・中目黒に開業した「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」(以下、「ロースタリー」)の2階全体を、茶系商品を打ち出した「ティバーナ」ブランドで展開している。

一方、六本木の「ティバーナ」には、十数種類の店舗限定ティーメニューが並ぶ。店のオープンに合わせて、新たに開発した商品も提供する。

中目黒「ロースタリー」の開業後、同社は「あれだけの店ができたのでティー事業の足掛かりを得られた」という。その後の店づくりや商品開発も、ここで培ったノウハウを展開することも行う。

六本木のこの店にも、そうした横展開が透けて見える。まるで映画やドラマの登場人物が、他の映画・ドラマで活躍する“スピンオフ”のようだ。

コンセプトは「お店で飲みたくなるお茶」

今回は、新型コロナウイルスによる外出自粛も意識して、メニューを開発したという。

例えば「ゆず&シトラス ラベンダー セージ ティー」(ホット/アイス)は、特長的なティーにシトラス果肉とルビーグレープフルーツジュレを合わせ、ゆず果皮を用いた。

「お茶(茶系飲料)は自宅でも飲めますが、わざわざ来店されて、スターバックスで飲みたくなる場合、どんなメニューがふさわしいのかを考えながら、部内で開発しました」

こう説明するのは、コーヒー&ビバレッジ部ビバレッジ商品開発チーム チームマネージャーの中島史絵氏だ。埼玉県さいたま市などの店舗勤務を経て、2006年からビバレッジ(飲料)開発を担当。十数年にわたり、多くの新商品を企画開発してきた。

同店では人気のフラペチーノ系もそろえた。「洋系」「和系」で区分すると、洋系では「ストロベリー & パッション ティー フラペチーノ」や「アップル クランベリー & ブラック ティー フラペチーノ」(期間限定品)があり、和系では「和三盆 抹茶 フラペチーノ」「和三盆 ほうじ茶 フラペチーノ」などもある。紹介した商品の価格は、540円から680円(+税、以下同)だ。

商品によっては、注文後にバリスタがシェイクした後で提供されるものもある。手軽さを打ち出しつつ、ひと手間かけた形式で提供する。

伊藤園系のタリーズは茶系飲料に強みあり

一方、9月2日からタリーズが販売している期間限定ドリンクは2種類ある。「宇治抹茶フルーツティー ペア&アップル」(ホット/アイス。ショートサイズは430円)と「ほうじ茶リスタ」(アイスのみ。同560円)だ。

前者は、毎年人気の抹茶を使ったドリンクに、今回初めてフルーツ=洋梨を組み合わせ、果肉入りアップルソースでトッピングした。後者はダブルに焙煎したほうじ茶を使った濃厚なシェイクだ。トッピングのクーベルチュールチョコレートも楽しめる。

「茶葉をそのまま挽いて粉末にしているので、お茶本来の風味と香りが楽しめます。他社はお茶を異文化と融合させる『フュージョン系』に力を入れますが、うちは愚直に、あくまで素材にこだわって勝負します」と、マーケティング本部マーケティング第二グループ グループ長の工藤和幸氏は自信を示す。

タリーズは「お~いお茶」で知られる伊藤園のグループ会社だ。茶系には強みがある。

「茶系に本腰を入れ始めたのが2013年に伊藤園から本間代子(のりこ)が来て、製品開発の専門チームを立ち上げてからです。本間は日本茶、中国の茶芸師、英国の紅茶協会の資格など公的制度の資格も取得した“お茶のプロ”で、茶葉を提供する生産地を探すことから始め、年々、茶系の味を深めていきました。近年のタリーズは、コーヒー系よりも紅茶系商品の伸びのほうが高いほどです」(広報担当者)

専門店として2017年から「タリーズコーヒー &TEA」という業態も始め、現在11店を展開する(2020年9月現在)。一方、伊藤園には「オチャルーム アシタ イトウエン(ocha room ashita ITOEN)」という高価格の店がある。タリーズを取材してきた筆者としては、上質感を伊藤園に任せ、タリーズは「身近さ」を訴求したほうが強みになると感じる。

上質な「ティーサロン」が減った理由

なぜ「身近さ」がポイントになるのか。その理由は茶系の歴史を紐解くとよく分かるだろう。昭和から平成の途中まで、喫茶店に来る女性客は総じてコーヒーよりも紅茶を好んだ。「紅茶のおいしい喫茶店」というフレーズで始まる歌も流行ったほどだ(柏原芳恵「ハロー・グッバイ」1981年)。

この曲がヒットした昭和56年は、喫茶店(カフェも含む)の国内店舗数が15万4630店と、調査史上最も多かった年だ(総務省統計局「事業所統計調査報告書」を基にした全日本コーヒー協会の発表データ)。それが現在は7万店を割り、ティーサロンも減った。

「ティーサロンが減った理由」を、元ドトールコーヒー常務でフードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦(ますひこ)氏に聞いたことがある。同氏はこう解説した。

「昔に比べてコーヒー好きの女性も増えました。紅茶がおいしい店は、気のきいたスイーツやサンドイッチなど、サイドメニューの上品さ、上質な雰囲気が求められたのです。だから百貨店との相性もよく、館内にティーサロンがあります。しかし働く女性が一般的となって忙しく、平日の昼間に紅茶でゆったり過ごすという生活習慣も減りました」

紅茶の老舗は女性客が約8割を占める

筆者は学生だった1980年代、東京・青山のティーサロン(現在は閉店)でもアルバイトをした。欧米の高級洋食器で飲食を提供し、1杯650円のロイヤルミルクティーや900円前後のサンドイッチの注文がよく入った。常連客には、近くのカルチャースクールでの受講を終えた主婦が多く、滞在時間も長かった。

その後もずっと飲食店の興亡を見てきたが、現在は女性の社会進出もあり、ティーサロンも上質よりも気軽さ、フードメニューは軽食よりもしっかり取れる傾向に変わった。

それを象徴する店が東京・渋谷にある「ケニヤン」だ。昭和時代からセイロン産などオリジナル紅茶をそろえ、パスタやドリアなどフードメニューも人気だ。9月上旬に訪れたが、コロナ禍でも入れ替わりでお客が訪れていた。創業40年を超える老舗で女性客が約8割を占める。店内は入店しやすい雰囲気となり、ドリンクのテイクアウトも行う。老舗店も時代を意識している。

こうした時代の変化に前述のタピオカ流行が加わり“茶系再び”になったと思う。

ウィズコロナは「生活文化」を変えるチャンス

カフェが茶系に注力する理由として、「消費者の健康志向」も指摘したい。

例えば、冒頭で触れた茶生産量の他にも、国内の飲料市場における「無糖飲料製品構成比」が「2019年は約49%」となった(全国清涼飲料連合会調べ)。無糖の炭酸水の伸びが目立つが、むぎ茶飲料も伸び、緑茶飲料も手堅い。

店で出す茶系も、以前からハーブティーなど身体によさそうなメニューが目立つ。

茶系に力を入れる各社に残された課題は「生活習慣」を変えることだ。多くの消費者は朝からコーヒーを飲む。日本では、紅茶は優雅な「アフタヌーンティー」のイメージもあり、朝のイメージは薄い。

ウィズコロナが続く現在は、そうした生活文化を変えるチャンスだ。リモートワークで、いつもと違う朝の飲料で気分転換を図る人もいれば、外出時のカフェでも違うメニューを頼んでくれるかもしれない。大手カフェが展開すると、メニューの多様性も増す。

コンビニコーヒーの拡大や定着もあり、コーヒー系が注目されてきたが、今後はティーにも注目が集まりそうだ。本質を考えて訴求する店が増えれば、潮流も変わるだろう。

[経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之]

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cat_316809_issue_vslzctuuvguf oa-president_vslzctuuvguf_8a6j37uh6jc3_「2単位→28単位」オンライン授業のおかげで留年を免れた女子大生の本音 8a6j37uh6jc3 8a6j37uh6jc3 「2単位→28単位」オンライン授業のおかげで留年を免れた女子大生の本音 oa-president 0

「2単位→28単位」オンライン授業のおかげで留年を免れた女子大生の本音

2020年9月26日 12:00 PRESIDENT Online

文部科学省が全国の大学などに行った調査によると、9月下旬以降に始める後期授業の形式について、約8割の学校がオンライン授業を対面授業と併用して続けるという。上智大学4年生の茂木響平氏は、「私の周囲にはオンライン授業のせいで留年になった学生がいる一方、オンライン授業のおかげで卒業を決められた学生もいる」という——。

アドバイスももらえず、大学の設備も使えない

オンライン授業によって良くも悪くも大学生たちの学生生活は大きな変化を迎えることとなった。対面でないことへの不満から休学や留年を検討する学生が続出している現実もある。立命館大学公認の学生新聞・メディア団体の立命館大学新聞社は、同大学の学生の25%が休学を、10%が退学を視野にいれているとする調査を発表した。大学生である筆者の周りにも、オンライン授業を理由に留年を決めた学生がいる。一方で、「オンライン授業のおかげで留年を免れた」と語る学生もいる。双方に話を聞いてみた。

「オンライン授業では学びは少ないと感じ、6月ごろには留年することを決めました」

そう話す池田さん(仮名・20歳)は都内の美術大学でデザインを学ぶ2年生だ。大学の授業がオンライン化されてからは、関西の実家に帰って受講していた。

「特に質が落ちたと感じたのは、実技の授業です。オンラインでの実技授業は、大学から送られてくる器具とこちらでそろえた材料で成果物を作って発表するという形式。教員や友人のアドバイスをもらいながら創作をしたり、大学の設備を使ったりといった通常のような創作活動ができず、これでは独学と変わらないと思いました。自分一人で黙々と創作をできるほど引き出しのある学生にとっては悪くないのかもしれませんが、私にとっては求める学びを得られなかったです」

オンライン授業のおかげで留年を回避した学生も

美術大学や音楽大学などは、一般的な大学以上に実技での学びが重要となる。その分、学費も高額だ。授業のオンライン化で、対価に見合った学びが得られないなら留年という選択を取ることも仕方がないように思える。

「秋学期から実技だけは対面授業に切り替える専攻もあるらしいですが、私の専攻は引き続きオンラインで行うようです。サークルや個展の開催などの課外活動を充実させるのも難しい中、これからの学生生活が不安です」

オンライン授業にならなければ留年することはなかったという池田さんは、氷山の一角にすぎない。享受できるはずだった学びを授業のオンライン化が奪ったことは、多くの大学生に深刻な影響を与えている。

一方で、池田さんとは逆に授業のオンライン化で留年を免れたと話す大学生もいる。筆者の友人である岸部さん(仮名・22歳)は、都内の私立大学文系学部に通う大学4年生。授業がオンラインになってから取得単位数が激増したという。

「去年の私はゼミの単位すら落として、秋学期の取得単位はたったの2単位。留年はほぼ確定してしまったと思い、4年での卒業は諦めるしかないかと考えていました」

しかし、岸部さんは授業がオンライン化された今学期は打って変わって28単位もの単位を取得することに成功した。今までとったこともない好成績のおかげで、何とか留年も回避することができたという。一体、彼女に何があったのか。

「人の目が怖くて家に引き返してしまう」

「私がこれまで大学で単位が取れなかったのは、精神的な障害を抱えていたことが原因です。双極性障害(躁鬱病)を抱える私は、これまで普通の人のように外出をすることができず、授業への出席が困難になることが頻繁にありました」

「鬱の症状が出ているときに外出をすると、人の目が極端に怖くなってしまうんです。周りの人が自分のことをブスだ、奇形だと思っているように感じてしまい錯乱してしまいます。大学に通うには東京駅を経由しなければならないのですが、そこでの人混みが特に苦手で……。道行く人が自分の顔の悪さを嗤(わら)っているように思えて、家に引き返してしまうんです。当然、大学には行けず単位もろくに取得できませんでした」

実際の岸部さんは、学内で目立つほど傍目には誰しもが美人だと思うような顔立ちだ。しかし、多くの人がいる場所では自分のルックスの悪さに注目が集まっていると感じてしまう。このような精神状態は「醜形恐怖症(身体醜形障害)」と呼ばれる。自己の身体的なイメージが実際よりも低いことが原因で、自分の身体の美醜に極度にこだわってしまい、日常生活に支障をきたすことも多い。

「外に出ること」自体が大きな課題だった

そんな岸部さんの抱える問題を解決したのがオンライン授業だった。

「私にとってオンライン授業の良さは、なんといっても人と会わなくても済む点です。在宅で受講できるオンライン授業なら、多くの人がいる場所を通っての通学も必要ありません。おかげでこれまでの課題だった授業への出席もすんなりこなせました」

精神的な障害を抱える岸部さんは、「外に出ること」が大きな課題だった。1年留年したところで、必ずしも単位をとれるとは限らない。大きな不安を抱える岸部さんにとってオンライン授業は渡りに船だった。岸部さんはこのことを「精神的なバリアフリー化」と呼ぶ。

「本当にオンライン授業には感謝しています。レポート課題中心の成績評価や一部導入されたオンデマンド視聴可の授業は、双極性障害の私でも安定期に集中的に取り組めるのでとても助かりました。オンライン授業にはメリットしか感じていませんね」

岸部さんはこの機会に簡単な整形手術も受けたという。コロナ禍で外出する機会がないこの時期は、しばらくの期間手術跡が目立ってしまう顔の整形手術には好都合だそうだ。おかげで、見た目へのコンプレックスも少し解消されたという。大学4年生になる岸部さんは就職先も決まり、来年度から無事に社会人として働くことになる。抱える障害を完全に克服したわけではないが、オンライン授業のおかげで岸部さんの人生は大きく好転した。

オンライン授業には良い面も悪い面もある

池田さんや岸部さんのケースから見えてくるのは、オンライン授業はそれぞれの学生が抱えるバックグラウンドによって、善しあしが大きく変わってしまうことだ。

対面での授業は学生のメンタルやモチベーションの面でも重要だ。池田さんが「教員や友人のアドバイスをもらえる」「大学の設備や環境を存分に利用できる」と話したように、授業内容を充実させるだけでは代替できない学びもある。オンライン授業の合理性が評価され、これからの教育現場での導入を求める声も大きいが、画一的な合理化によってそれらが失われてしまってはもったいない。

一方で岸部さんのケースからは、オンライン授業は障害を抱える学生にとって授業のバリアフリー化をもたらす側面も見えてきた。本稿で紹介したのは精神的な障害のある学生だったが、例えば足が不自由で大学への進学が困難だった学生など、さまざまな事情を抱える人たちに大学での勉強の機会を与えることにつなげていける。

オンライン授業は、肯定か否定かといった二項対立の議論になりがちだが、「オンライン授業ではだめな学生」「オンライン授業でないとならない学生」といった個別のケースにも目を向けて、柔軟に活用していくことも大切だ。

[上智大学文学部史学科 茂木 響平]

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