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演じることが、マンガへの恩返し。松岡茉優が全ての現場で全力を尽くす理由

2018年8月21日 11:00 LINE NEWS編集部

 
都内のスタジオ。
CM撮影のセットに入ると、女優・松岡茉優の表情が変わる。

セットの壁に貼られた、マンガ「響」の名場面。
それを見ながら、吹き出しの中の「名言」を読み上げる。

カットの声。
せりふを言い終え、立ち止まった際の頭の位置が、想定よりもほんの少しだけずれていた。リテイクの求めに、ほほ笑んで応える。

立ち止まった際の足の位置を調整するのとは、訳が違う。
空中のどの位置に、自分の頭が止まるか。数センチ単位の調整は、最後は偶然にも頼るような作業だ。

10回を超えて、リテイクは繰り返された。
それでも寸分たがわぬ声色、テンションで演技を続ける。

そんな彼女が、セットの中で一瞬だけ「素」の表情を見せた。
壁に貼られたマンガのひとこまをのぞき込み、白い頬をほころばせる。

それは本当に、一瞬のことだった。
カメラの方を振り返った表情は、再び「女優」のものに戻っていた。


「このセットの山吹色の世界観、マンガ好きにはたまらないんです。大好きな1ページ、1ページがセット一面にある、誰もがあこがれる空間。だから、あっという間に時間が過ぎていった気がします」

撮影の合間、彼女はうれしそうに言った。

「だから今回のCM撮影は、私が一番気負わずにいられる時間と、お仕事のマッチングというか、融合というか。これがお仕事で本当によいのでしょうか、と思うくらいでした」

文字通り、目を輝かせる。

「絵が描けない身からすると、うらやましい限りです。例えば役のイメージに合わせたヘアスタイルを相談するときも、年齢、世代、趣味が違うと伝わらないんです」

「頭の中で考えていることを絵にできたらなと、いつも思います。イメージを形にするという意味で、女優とマンガは似ているようですけど、私が似ていると言うのはおこがましいですね」


女優としての声価は、この数年で一気に高まった。
それでも彼女は「おこがましい」と言う。

「毎回、自分にがっかりするんですよ」

深々と、ため息をつく。

「撮り終わった後、心底がっかりします。毎回。ヘタしたら1カットごとにがっかりしますし。ちょっと今回いけたんじゃないと思っても、試写でがっかりする」

苦笑いをして、気持ちを整理しようとしてみる。
セットの中のようには、うまくはいかない。

「たぶん、もっと自分ができるって過信をしているんだと思うんです。それは樹木希林さん、安藤サクラさんみたいな先輩がものすごくかっこいいから」

カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した「万引き家族」。
彼女は先輩2人に引けを取らない演技で、評価を高めた。

しかし本人が感じたのは憧憬(しょうけい)であり、絶望でもあったという。

「わたしもここまでいけるかも、って希望を抱いてしまうんですよね。全然いけないのに」


壁にぶつかった時、活路の求め方は、人それぞれだ。
とことん悩んでみる。人に教えを請う。壁を避ける道を選ぶ。

彼女はマンガを手に取る。

「何か吸収したい時に、あらためて読んでみたりします。というよりも、読みたい時が、吸収する時なんだと思います。そういう時には逆らわず読む。身体が求めている時には、読んだ方がいいなと」

マンガにしてもらっていること。
それは彼女にとって、非常に大きいという。

「影響を受けたマンガなら、たくさんあります。どれを挙げるか、となったら、さあどうしましょうってほどです」

セットの中で一瞬だけ見せた「素」の表情。
それが徐々に、垣間見えてきた。

「人生が変わったマンガだってあるし、考え方が変わったマンガもあります。大きな決断をしたきっかけになったマンガもある。強いて1つ挙げるなら、『ONE PIECE』」

語るスピードが、急に速まってくる。

「誰になんと言われようが、って誰もなんとも言わないですけど、でも私は世代が『ONE PIECE』世代なので。小学校からずっと読んできましたから」

愛する作品。
それについて語っているだけでも、言葉に生気がみなぎってくる。

彼女は畳み掛けるように、記者に逆質問する。

「キャプテン翼?ドラゴンボール?スラムダンク?」

好きだったマンガを聞いているのだろう。
スラムダンクと答えると、食い気味に返す。

「スラダン!ですよね!」

腕を組んで、何度もうなずく。

「そういう感じで、ありますよね。世代マンガ。私は『ONE PIECE』。80巻以上出てますけど、全部持っています。引っ越しのたびに、全部持ち運びますから」

なぜ、女優になろうと思ったのか。
壁にぶち当たった時に、何を思って乗り越えたのか。

人生の節目で、彼女の傍らにはいつも「ONE PIECE」があった。ヒントをくれた。背中を押された。
だから、それを読み返せば、自分の人生を振り返ることもできる。


身体が酸素を欲するように。あるいは水を要するように。
彼女はマンガを求め続ける。

「今ハマっている『僕等がいた』は、本当はロケ先にも全巻持って行きたいくらいなんです。でも仕事柄、1日の間に現場を何度も移動したりがあるので、全16冊を持ち歩くわけにはいかなくて」

だからこそ、新しいマンガのあり方にも興味を持つ。

「私は紙のマンガが大好きなんですけど、でもスマホに好きなマンガが全巻入っているというのは、すごく手軽でいいツールですよね。すぐに連載開始当初のストーリーに戻れるのもいいなと」

スマホを操作する手ぶりを交えて笑った後、しみじみと言う。

「そういう新しいコンテンツのイメージキャラクターに選んでいただいたことは、すごくうれしいです。今までやってきた役が生きてきたんだと思いますが、とてもありがたいことです」

マンガのあり方も変わっていこうとしている。
そんな現場に立ち会ったことで、確信を得たこともある。

「どんな媒体であれ、伝わることが大事だと思うんです」

目を見開くようにして、語気を強める。

「この広告でも、私に対して新しいイメージを持っていただける方もいると思います。ひとつひとつの作品が、次につながるのは、私たちの仕事ならではかなと」

媒体を選ばなければ、さらに多くの媒体に表現の場を求めることができる。

「よい印象ばかり残したいわけではないんですけど、なるべく多く伝わるように。単に多くというより、ひとりひとりに伝わる作品をたくさんつくれるように」

加速度的に、表現の機会は増える。

「そのためには映画だけじゃなく、分野外のものも含めてつくれたらと思うんです。今回の広告しかり、このインタビューしかり」

偶然、必然を問わず、伝わるチャンスは広がる。

「世界のどこかで見たものが、その人の人生にとっていい影響を与えられていたら、本当にすてきなことだと思うので」


そう思うのは、演技を続ける上で支えになった、ファンの声に応えたいからこそだ。

「学園ものに出演したときに『高校に行くかどうか迷っていたけど、あんな学園生活を送りたいから行くことにしました。頑張って受験勉強します』というお手紙が来て。本当にうれしかった」

演技がうまくいかない時も、こうした声が支えになる。
前を向かせてくれる。

「私がふさぎがちな女の子を演じたときに、ふさぎがちだという女の子から『松岡さんのその役を見て、ちょっと外に出ようと思いました』っていうお手紙をいただいたこともありました」

そんな気持ちは、よく分かる。
彼女自身が、マンガに同じことをしてもらってきたからだ。

「いつも私がマンガにしてもらっていることを、お芝居で返せるなら、それ以上のことってないと思うので」

熱っぽい語り口から一転。
遠い目をして、静かに語る。

「そんな気持ちになってもらえて、毎日を楽しくすごすちょっとの助けにしてもらえたら、そんなにうれしいことはないです」


CM撮影が再開された。
やはり、リテイクは繰り返される。

それでも、彼女は毎回、張り詰めた女優の表情で演じ切る。
監督にも、自分なりの役柄への解釈をぶつける。短くとも、熱を込めた議論をする。

CMでも、映画でも、伝える相手は変わらない。

マンガをむさぼるように読んだ。
救われた。背中を押してもらった。
そんな「あの日の自分」が、今日もカメラの向こう側にいる。




【取材・文=塩畑大輔(LINE NEWS編集部)撮影=宮川勝也】

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