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中3で"代表入り"。両アキレス腱断裂のケガに泣き…私だからできるバレー解説 狩野舞子

2019年9月29日 11:00 LINE NEWS編集部

 
9月18日、横浜アリーナ。
バレーボールW杯女子大会の会場の一角に、モデルのような9頭身の後ろ姿が現れた。

元・日本代表にして、W杯ではバレーボール解説の仕事を担っている狩野舞子は、中国とドミニカ共和国の試合に見入っていた。

「背番号2のエース、朱婷選手にみんな注目するし、日本もマークすると思うんですけど、なぜ中国が強いかというところは他にもあると思うんですよね」

手にしたノートに、熱心に何かを書き込んでいく。

「対角に張常寧という選手がいて、朱婷選手が後列に下がっている時でも決めてくれる。ミドルの攻撃も強くて、サイドに頼らない。スターひとりに頼らない、全体のバランスの良さが、中国の強さじゃないかと」

熱っぽく語っていたが、ふと我に返って、苦笑いする。

「ごめんなさい、つい。でもホント、好きなんですよね。バレーボールを見るのが」

解説でのテレビ出演の予定はない日だった。
それでも彼女は会場に足を運び、試合に見入っていた。



解説に備えたリサーチ、のはずが…


「普段から、見るのが好きなんですよ。YouTubeの動画とか」

そう言いながら、彼女はスマホを操作する。

「家族みんながバレーボール好きなこともあって、面白い動画があったらシェアしあいます。だから解説する試合についてのリサーチも、中継局の方が準備してくださる資料以外にも、YouTubeでプレー動画を探して見たりするんです」

リサーチのはずが、動画視聴はどんどん「深み」にはまっていく。

「日本代表の選手は知っているので、どちらかというと対戦国の選手について、ですよね。普段プレーしているクラブチームでのプレー動画を見ていったりします。あ、代表とは違うポジションやっているんだ、とか」

意外な発見に、思わずテンションが上がる。気付くと、リサーチの域を超えてしまっている。

「この国のリーグ自体が面白いなーと思って、そっちを見てしまったり。今回はフジテレビさんが、日本戦以外も全試合ネット中継してくださっている関係で、解説の機会がそもそも多い。試合後、夜のニュースでしゃべらせていただいたりもする。ただでさえハードなのに、ついリサーチが過ぎてしまって…。さらにハードな毎日にしてしまっています(苦笑い)」



夢も、目標もあった。それなのに…


アスリートの中には、プレー中以外はできるだけ競技のことを考えたくない、というタイプも少なくない。
彼女はなぜ、そんなにバレーボールのとりこになっているのか。

「それはやっぱり、自分は他の選手よりも紆余曲折があって、バレーボールについていろいろ考える機会が多かったからじゃないかと思うんです」

父は実業団で活躍した選手。母も名門・八王子実践高出身というバレーボール一家に育った。
小学6年生ですでに身長が174cmに達し、中学3年生でアテネ五輪日本代表候補18人の中に入った。

中学生として選出されたのは、中田久美(現・日本代表監督)と大谷佐知子以来、24年ぶりのことだった。
令和の世で例えれば、サッカーの久保建英のように将来を嘱望された存在。だがそこから、彼女を立て続けに試練が襲った。

腰の成長痛に悩まされるようになり、アテネ五輪の出場メンバーから漏れた。
八王子実践高を経て入団した久光製薬では、すぐに先発になったが、直後に右アキレス腱断裂の大ケガを負った。

負傷箇所をかばえば、他にひずみが生じる。
ケガの連鎖に悩むアスリート同様、彼女は復帰後もさらに苦しんだ。今度は左アキレス腱を切った。

「最初に名前が世に出たのも早かったので、自分の中でも夢とか、目標とかはそれなりに持っていたんですが…。全日本の中心選手になって、五輪に出て…とか」

育った環境もある。バレーボール選手を辞める、という選択肢はなかった。
だからこそ、心が折れそうになりながらも、ひたすら現実と向き合うしかなかった。



選手だったら、嫌ですけど


スマホを操作していた彼女が「これ、見たことあります?」と画面を示してきた。
今回のW杯、フジテレビは従来のテレビ向け試合中継とは別に、スマホ向けに「注目選手追っかけカメラ」という映像を配信している。

コート全体ではなく、特定の選手にフォーカスした映像を流す。
最新技術を使って、テレビからの遅延を極限まで減らしたことで、試合全体と選手個人の様子を同時に見ることができるようになった。

「これ、本当に面白いんですよ。本人が点を取った場面はもちろん、他の選手が決めた場面で、この選手のこの動きが相手をかく乱したから決まったのか、みたいな裏側が見えてくる」

いかにも楽しそうに、笑顔で続ける。

「単純に、好きな選手をずっと見ていられる、という楽しさもありますよね。どんな表情でやっているのか、とかはやっぱり通常の中継映像では分からないところもありますし。『この選手はこういうプレーをする時には、事前に必ずこういうしぐさをする』みたいなクセを見つけるとか、若干変態的な目線で楽しむというのもありますよね(笑い)」

「でもね」と断り、彼女はいたずらっぽい表情をする。

「自分が選手だったら、嫌ですけどね。見られたくない(笑い)。でも見る側としてはこんなに楽しいものはない。そこも含めて、本当に面白い仕掛けだと思います」

固定カメラを見かけ、つい変顔をする狩野



ケガがあったからこそ—


終始楽しそうに、明るくバレーボールの魅力を話す彼女だが「もともとはネガティブでしたよ」と言う。

19日、日本対中国戦。狩野は解説席に"恩師"と並んで座った。
ロンドン五輪日本代表監督の眞鍋政義。彼女にとっては久光製薬時代の監督でもある。

入団直後、アキレス腱を切る大ケガで打ちひしがれる彼女は、周囲との関わりを絶っていた。
当時の眞鍋は「その感じ、やめろ」とあえて厳しい言葉をかけたという。

「自分に起こっていることを、何でもいいからポジティブに受け止めてみろ、って感じで言われて。眞鍋さんからの指導は、バレーボールのことよりもまずそこでした。最初はよく分からなかった。ケガしていいことなんかなくない?って」

周囲にはどんどん差をつけられる。練習を見ながら焦る狩野に、眞鍋はヒントを与えた。
ケガしていてもできるトレーニング。外から見るからこそのバレーボールの戦術学習。それらは小さいながらも、彼女にとって久々の手応えになった。

「無理かも、と思うほどの大ケガでしたけど、復帰することもできた。ああ、リハビリ頑張りさえすれば戻れるんだな、というのは気持ちをさらにポジティブにしてくれました。次に反対のアキレス腱を切った時も『まあ、戻れるかな』って思えて」

大ケガから復帰しても、負傷前のプレー水準に戻れないことに苦しむアスリートは多い。
だが彼女は「いい意味で、言い訳がきく状況じゃん、って思うことができた」と振り返る。

「そりゃ最初は複雑でした。でも『ケガしたし、戻れないのが当たり前。むしろ今くらいできているのがすごくない?』ってポジティブに考えられたのがよかった。もともとそんなに高く飛べてたわけじゃないし、これを機にプレースタイル変えるか、サーブも磨いて、くらいに思えて」

意識が変わっただけではない。ケガをする中で、新しく得たものもあった。

「ケガについての知識とか、身体についての知識は、間違いなくつきました。そして何より、自分がどれだけバレーボールをやりたいか、というのが分かりました。バレーボールをやるのが当然の環境に育ったので、かえって分からなかった部分かも。やれない時期があったからこそ、自分がどれだけバレーボールが好きなのかが分かったんです」



遠回りしたからこそ、分かったこと


ケガから狩野が学んだことが、もう一つある。

「やっぱり、いろんな立場を経験してみた方がいい、ということですね」

順調なキャリアの中では知りえなかったことを、たくさん知ることができた。
次は、ケガでそういう状況を強いられる前に、自分から未知の領域に踏み出そう。そう思うようになった。

アキレス腱のケガが癒えると、イタリア1部のパヴィーアに移籍。
さらにトルコのベシクタシュでもプレーした。

「向こうではダイナミックさ、パワフルさを押していくのが主流ですけど、だからこそ日本で培った粘りのプレーが『日本人の魂みたいなもの、いいよね。守備に表れているよ』っていろんな人に評価されたりして」

みんなでつなぐ。気配りを欠かさない。
そういう「日本バレーの美学」の真価に気付くことができた。

「『注目選手追っかけカメラ』でぜひ見ていただきたいんですけど、選手の目線ってものすごい勢いで動くんですよね。レシーブひとつとっても、そうやって周りの選手の動きをよく見て、配慮して、セッターにとってもスパイカーにとってもいい上げ方をする」

言葉が熱を帯びだす。

「日本人の温かさ、おもてなしの心みたいなものは、そういうところにも通じていると思うんですよね。海外でのプレー経験で、そういう価値にも気付けた。せっかくなので、解説でもそういう視点でバレーボールの魅力を伝えたいんですよね」

強烈なスパイクを拾い、つないで、ポイントする。日本が見せる粘りのプレー(オランダ戦より=フジテレビ提供)



最新技術と知識、経験のコラボを


視野が広がったことで、他の競技にも興味を持つようになった。

「サッカーっていいなと思うんですよね。競技自体を好きになっている人が多い。だからみんな、他の国の代表を応援したり、他の国のリーグを見たりする。バルセロナのユニホームを着ていたり、レアル・マドリードのグッズを持っていたりするお子さんも多い」

大好きなバレーボールも、ファンにそういう愛され方をしてほしい、と強く望む。

「バレーボールはやっぱり、日本代表だけを応援する文化かなあと。他の国のエースが好きって言ってもいいじゃん、って思います。そういう意味で、今回は他国の試合含めて、全試合がネット中継されるというのは、すごくいいんじゃないかなと」

野球は特に好きだ。
試合観戦に行く機会も多い。

「だから、バレーボールも野球と同じように、スパイクやサーブの球速や角度を解析できるようになったのが、すごくうれしくて。これってバレーボール中継をすごく楽しくしてくれるんじゃないかと思います」

スパイクの打点の高さ、球速を計測し、瞬時に表示する最新技術「モーションスカウター」(映像=フジテレビ提供)

数字はスパイクの威力を分かりやすく伝えるものでもある。
狩野はさらに「球速が速かったり、打点が高かったりすれば決まるというものでもない」という点を伝える、何よりの材料にもなると捉えている。

「『こんなに球速が遅いのに決まったのは、ブロックのここを抜いたからなんです』みたいな話ができたらいいなと思うんですよね。技術と解説者の知識がコラボして、すごく分かりやすく伝わるんじゃないかと」



彼女もまだ、経験していないこと


現役生活の終盤には、久光製薬の監督を務めていた中田久美の勧めで、セッターにチャレンジしたこともあった。

将来を嘱望される超新星。
相次ぐケガで期待に応えられないガラスのエース。
出番に備え、ベンチを温める控え選手。
スパイカー、そしてセッター。

ありとあらゆる立場を経験したことは、現役を退いた後も生きている。

「リベロだけはやったことがないのですが、それ以外のポジションについては、コートレベルの経験を踏まえて、信ぴょう性を出しながらお伝えできるかなと」

解説を担当しない試合。狩野は観戦しながら、スマホとにらめっこしていた。

「今ってこうやって、試合のスタッツ(データ統計)をリアルタイムで見ることができるんですよね。これってベンチで監督が見ているデータと、ほとんど一緒で」

「この選手がこの位置から、こっちに打った時の成功率が何パーセント、みたいなものが見られる。好きな人なら『相手のブロックのここが強いから、マークされて決まらないのか』『ならこういう攻め方をすれば、状況が打開できるのかも』と想像を膨らますことができる。それはすごく楽しい見方ですよね。監督気分を味わえる」

笑顔を向けたかと思うと、一転、鋭い視線をコートに送った。
「監督気分」どころか、本当に指揮を執りだしそうなオーラを醸し出す。

まだ経験したことのない"新しい立場"へのチャレンジ—。
そんなことも予感させながら。

狩野は次の解説に備えて、きびすを返して控室へと消えていった。

【取材・撮影・文=塩畑大輔】



お知らせ


狩野舞子さんが解説を務めるバレーボールワールドカップ中継は、フジテレビ系列で放送中(一部地域を除く)。また特設サイトの「デジタルワールドカップバレー2019」では狩野さんおすすめの「注目選手追っかけカメラ」「全試合ネット中継」などが見られます。