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日本代表MF柴崎岳が"すべて"を語る 岩政大樹とのスペシャル対談

2018年11月15日 11:00 LINE NEWS編集部

 
その日は、風が強く、冷たかった。

わずかにのぞく青空を、新たな雲が駆け足で埋めていく。
日が差したり、かげったりがめまぐるしく繰り返される。

11月5日。スペイン・マドリード近郊の街、ヘタフェ。
きまぐれなスペインの空の下、岩政大樹はマフラーをきつく巻いて、練習場の入り口の方を見つめていた。

「おお、来たよ。真っ先に」

"待ち人"の方も、すぐに気付いた。
硬かった表情をほころばせて、歩み寄ってくる。

「来てくれたのですね。いつ着いたのですか?」

日本代表MF、柴崎岳26歳。
スペイン1部、ヘタフェCFで10番を背負う男。

寡黙で、言葉を慎重に選ぶ姿が印象的だが、この日は違った。
最も慕う先輩の来訪に、言葉が弾む。

ひとしきり旧交を温めると、柴崎は名残惜しそうに、チーム練習のピッチに向かう。

「後で、お願いね」

「はい!練習後に」

もう一度、しっかりと握手をする。



練習終了後。
ヘタフェから程近い、マドリード市内のホテルの一室。

インタビュー用の部屋に入ってきた柴崎は、岩政に歩み寄ると、もう一度がっちりと握手をした。

「大樹さん、ちょっと前に引退の話を聞いていましたので、とりあえずおつかれさまでした」

「そういう話じゃない!主役はオレじゃないから、今回は!(笑い)。ちゃんと敬語で話すからね、ここからは」

目配せして、にやりと笑い合う。

"考えながら蹴る男"のルーツとは


岩政さん

まず、ルーツの話を聞かせてください。当時の鹿島には天才的、感覚的な選手が多かったけど、柴崎選手は思考しながらプレーするタイプだった。どういう生い立ちでそうなったのかなと。

柴崎選手

兄が2人いて、その影響でサッカーを始めたのがスタートです。生まれ育った青森の町には、娯楽といった娯楽もなく、暇さえあればボールを蹴っていました。

岩政さん

お兄さんたちは上手だったんですか?

柴崎選手

上手でしたね。面白いもので、子どもの頃の記憶ってずっと刷り込まれているところもあるじゃないですか。今ですら、自分が当時の兄の姿には追いつけないみたいなイメージはあります。

岩政さん

サッカーを観戦する環境はあったんですか?

柴崎選手

なかったですね。ちょうどセリエAがはやりだしたときでしたけど、ニュースなどで見る程度で。1試合まるまる見られるような環境ではなかったですね。

岩政さん

ということは、どうプレーしたらいいかとか、どうやったらうまくなるかとかは、自分で考えてきたんですね。

柴崎選手

もちろん、指導者の方から受けた影響もあります。でもやはり、自分で考えることが必要だった状況、というのもありますね。

岩政さん

僕も山口の離島育ちだから、よく分かります。あまり情報に恵まれずに育った方が、自分でいろいろ考える習慣がつくのかもしれません。


「活路」を自分で見つけた、中1の春


岩政さん

チームに入ると、結果も問われたりして、周囲と自分を比べるようになっていくじゃないですか。自分は特別だと感じるところは出てきましたか?

柴崎選手

最初は思わなかったですけど、ちょっとしたことを境に、子どもから青年にかわる瞬間があった気がします。心の中が子どもっぽく、にぎやかだったのが、ちょっとずつ落ち着いてくるような感覚があって。中学生でしたから、失敗したりはありましたけど。

岩政さん

ちょっとずつ、冷静になっていって、周囲が見えてくるようになったということですかね?

柴崎選手

そうですね。あと、小学生のときはFWで、身体能力にもスピードにも、ドリブルにも自信があったのですけど、中学に上がったら3年生がいて、全部通用しなかった。

柴崎選手

でもそれを受け止めて、プレースタイルを変えられた。それは自分で考えた結果でした。そういうところは、周囲とは違ったかもしれません。

岩政さん

そういう感受性は、すでにあったんですね。それでプレースタイルを変えて、中盤に下がったわけですか。

柴崎選手

もともと、FWでもアシストは多かった方なので。周りを生かしつつ、生かされつつというのは、自分に合っていたのかなと。だから中盤に下がっても、自分の居場所を確立できたと思っています。

岩政さん

中学生なんて、何となくやっていてもうまくなるし、身体は大きくなって、速くなる。そこに身をゆだねる子がほとんど。

柴崎選手

そうですね。でも自分は単純にうまくなりたい気持ちが強かった。そして、いろいろ考えざるを得ない状況を、指導者の皆さんにつくっていただいたというのもあります。

柴崎選手

中2のころには、高校生の練習に参加していました。通っていた青森山田は中高一貫だったので。指導者の方がそうしてくださって、常に上に、上にと意識を向けさせてくれました。


年長者の懐に、あえて飛び込む


岩政さん

そうやって世代別の代表にも加わっていくわけですけど、柴崎選手の同世代は「プラチナ世代」とも称されて、うまい選手もたくさんいた。その選手たちと合流し、日本全体が競争相手になっていく中で、自分の特性の捉え方は変わりましたか。

柴崎選手

僕らの年代はU-17W杯に向けて、16から海外遠征が増えました。その中で、日本のフル代表と同時に、海外の選手とプレーすることも意識させてもらえました。

岩政さん

そこからプロに入って、いつしか僕なんかともすごく話すようになったわけですけど、それはプロに入って立ち位置も変わって、成長には吸収が必要だと自覚していたからですか?

柴崎選手

それをひとつの目的として鹿島を選びました。大樹さんはもちろん、ゴールデンエイジの方々もいらっしゃいましたし。当時はリーグ3連覇の翌々年で、当時を経験した選手は多かったです。

柴崎選手

そういう選手から盗めるものは盗みたかった。そのために、いろんな話を聞きたいなと思って、鹿島を選んだので。中でも個人的に一番お話を伺ったのは大樹さんですね。

岩政さん

僕も寮にいましたからね。

柴崎選手

そうですね。時間があれば、同じテーブルを囲んで、夢を語らせてもらって。18歳の僕が、プロ選手としてキャリアの後半に差し掛かっている先輩の話を聞けるのは、とても貴重な経験でした。

岩政さん

これはどんな業界でも一緒かもしれませんが、貴重だと分かっていても、あえて先輩の懐に飛び込むというのは、誰でもやっていることではない。多くの選手はもったいないことをしているなと。

岩政さん

その点、柴崎選手は探究心が強くて、そこに一歩踏み込んでいくコミュニケーションの力もある。それはプロ選手にとって大事なことだと思う。意識してやっていたんですか?

柴崎選手

自然にやっていたと思います。中学、高校のときから、同年代とサッカー談義するより、年上の方から話を聞いて吸収する方が多かった。その対象が、プロ入り後は鹿島の先輩方となったというだけで。

岩政さん

上のレベル、上の年代と交わることで、上を目標値にするというのを、中学生のころからずっと継続していたんですね。


なぜ"日本人にとっての鬼門"を選ぶのか


岩政さん

鹿島からスペインに渡ってきたわけですが、スペインへのこだわりはあったんですか?

柴崎選手

確か16歳くらいのときに一度、年代別代表の遠征でスペインに来たんです。ビジャレアルかな。

柴崎選手

すごくいい思い出で、だからいつかこの国でプレーしたいと、ずっと思っていました。海外に来るなら、まずスペインを希望しようと。

岩政さん

もっと早く来たいというのはありましたか?

柴崎選手

それはありましたね。何が正解かは分かりませんけど、もうちょっと早く来ていたら、いろんな選択肢を持てたのかなと。

岩政さん

スペインで活躍できている日本人は少ない。そこにあえて飛び込むという選択は柴崎選手らしいなと思うんですけど、ご本人の中でも新しい挑戦をしたい、難しいところに行きたいというのはあったんでしょうか?

柴崎選手

高校を出てプロ入りを決断した際にも、いろいろ選択肢はありました。そのときも、一番試合に出るのが難しいからこそ一番成長できる、と思って鹿島を選びました。

柴崎選手

より自分にとって厳しい環境、難しい環境を選ぶときに、それがスペインだったということかなと。

岩政さん

柴崎選手は「サッカーがうまいタイプの選手」だと思います。同じ特長を持つ選手が多い国に行くというのも、難しさがあるのでは?

柴崎選手

リーガの中では、自分は技術的にノーマル。中には僕よりうまくない選手もいます。でも、そこじゃないというか。問われるのはそこだけではない気がします。

柴崎選手

そういう環境の中で、今まで生きていた特長を生かすために、自分の中での短所、やらないといけないことをいろいろと改善しているところです。

岩政さん

言える範囲で、どんな改善をしているんですか?

柴崎選手

W杯のときも感じたのですが、やっぱり僕はこういう体型で、ムキムキの選手とは違う。そことガチでやり合おうというのは、ちょっと違うんじゃないかなと。

柴崎選手

イメージ的に言うと、南米系の細くて強い筋肉というか。ヘタフェにもウルグアイ人選手がいるんですけど、見た目は細いけど密度の詰まったような筋肉をしている。強度もあって、走れて、量もこなせる。自分の持ち味を出すためにも、そっちを目指してトレーニングをする方向性にシフトしようと。

岩政さん

相変わらず、よく観察をして、考えていますね。ヘタフェでの練習も拝見しましたが、ほしいタイミングでパスをもらえていない印象が強かった。そういう難しさは感じていますか?

柴崎選手

はい。スペインのサッカーと、自分の感覚がまだズレている感触はあります。こっちで求められていることに、もっと慣れていく必要があります。

岩政さん

どんな感じですか?具体的に言うと。パスが出てくるのが遅いというか、みんなボールを持っちゃうということですか?

柴崎選手

リーガ全体の傾向でもあると思うのですが、パスが入ってきたときに、ダイレクトでも出せるときでも、自分でマークを剥がそうという意識が働く。自分は剥がさないで出すパスを要求しちゃっているんですけど、彼らは剥がしてから出したがる。

岩政さん

確かに、最近は自分でボールを運ぶ中盤の選手が増えましたよね。そもそも日本側の感覚が違っていたのかもしれないですけど。

柴崎選手

自分の課題だと思います。もっと独力で運べて、チームに推進力を生める選手にならないと。そこは練習の中でもチャレンジしているところです。彼らを見ていると、必要なんだろうなと。


いつも"代表"の未来を思う


岩政さん

そうして柔軟に自分のスタイルを見つめなおすことができるというところこそ、柴崎選手の特別なところだと思います。周囲を生かし、合わせるスタイルは、世代が変わりつつある日本代表でも生きるんじゃないかと期待しています。

柴崎選手

やりがいはあります。ロシアW杯前に代表に入ったときには、自分が何かをつくる側に回るというよりは、4年間かけてつくられてきたチームに入れてもらうイメージでした。

柴崎選手

もちろん今回も、実力を認めてもらえないと残ってはいけません。でもその中で自分がどういう風に振る舞えば、これから入ってくる選手がマッチして、うまくチームを形成できるかというのは、いろいろイメージしたりします。それは今までにはなかった考えです。より代表のことを考えるようになりました。

岩政さん

ロシアW杯は、個人的にも自信を得られた大会になったのではないですか?

柴崎選手

自分の全てを出し切れた大会でした。結果に対する悔しさはありましたけど、やり残した感覚はありませんでした。

柴崎選手

4年後、また同じチャンスが来たときに、自分がどうなっていないといけないかも確認できました。それに沿って、今は日々思考をめぐらせることができています。そういう意味でも、いいW杯でした。

岩政さん

リーガに来て、W杯も経験して、さらに自分を高めるための感覚を肌で得られているところはあると思います。次の目標地点も見えてきたんじゃないかなと。

柴崎選手

個人的には、より高いレベルの大会に出て行きたいという思いもあります。一方で今、まずは試合に出続けることも必要で、そのためにどうするか。

柴崎選手

代表については、少し低迷していた人気面もW杯で良くなった。だからこそ、期待される代表を徐々につくらないといけないと思います。日本にとって代表がどうならないといけないのか。競技としてだけじゃなくて、いろいろな影響を与えられる日本代表というのもあると思うようになりました。

岩政さん

ここまでの4年間、個人的に新たなステップアップをして来られたわけですが、次の4年間はサッカー界全体について包括的に考えることにもなりそうですね。

柴崎選手

それぞれ方法は違うと思いますけど、皆さんその人なりに考えていて、日本サッカーの将来のためになっていると思う。自分も微力ながら、何かをやっていかないといけないと思う、そんな年頃です。



「今日は久々に面白い話をできて、刺激をいただきました。頭の中の整理もできて、とてもいい時間になりました」

柴崎はそう言って、頭を下げた。

岩政とはロシアW杯前に帰国した際、JR有楽町駅の改札の目の前にあるカフェのテラス席で、人目もはばからずに3時間以上も話しこんだこともあった。

サッカー界の誰よりも心を許す先輩。
メディアを前に心のうちを明かすことが少ない柴崎が、ここまで話したのは、強い信頼関係があってのことだろう。

「この後、どうするのですか?」

「娘のためのスペイン土産を探さないといけなくてさ」

「じゃあ、自分が市内を案内させていただきます。後で合流させてください」

クールなパブリックイメージを覆すように、屈託なく笑う。
数時間後の再会を約して、柴崎は対談の場を後にした。

対談の最中、強いにわか雨が降っていた通りには、雲間から強い日差しが差し込んでいた。

薄暗いホテルのロビーから、外に足を踏み出した柴崎の背中は、光の中に溶けこんでいくようにも見えた。


【取材・撮影・文=塩畑大輔(LINE NEWS編集部)】


お知らせ


岩政さんと柴崎選手の対談の全容は、前編が16日午後9時45分からスカパー!の「スカサカ!ライブ」内で無料放送されます。
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