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今は「人生3度目」の引きこもり。古川未鈴が語る、でんぱ組.incが在宅でも輝ける理由

2020年5月25日 11:00 LINE NEWS編集部

新型コロナウイルスの影響により、ライブやイベントの中止が続くエンタメ業界。
その状況下で、いち早く配信メインの活動にシフトし、遠隔作業のみで新曲やミュージックビデオまで作ったアイドルがいる。

「全然 全然 何も 諦めない
 エンタメの灯は消さへんで」

始動からわずか8日間で完成させた新曲「なんと!世界公認 引きこもり!」の中で、でんぱ組.incは力強く、こう言い放った。

同曲には「おうちにいたって 通常運転だい」というフレーズもある。

でんぱ組.incのメンバーは、もともと全員がコアなオタクであり、おのおのの趣味を楽しみながら充実した自宅時間を過ごしてきた。
そんな経験が、在宅を強いられる状況を前向きなものへと変えている。

当事者であるメンバーは、今この事態をどう受け止め、どう過ごしているのか。
グループでセンターを務め、10代の頃に引きこもっていた過去を持つ古川未鈴に話を聞いた。


ネットの世界にずっと住んでいたかった


「いじめられ 部屋にひきこもっていた
 ゲーセンだけが 私の居場所だった」

メンバーの実体験をもとに制作された代表曲「W.W.D」の中で、古川はこう歌っている。

いじめを経験した中学の頃から、オンラインゲームに夢中になった。
高校は入学から半年ほどで中退。
それ以降は、1日の大半を家でゲームをして過ごしていた。

「目覚めるのが13時くらいで、そのあとアルバイトに行って、夜に帰ってくる。そこから朝までネットゲームをやって、朝6時くらいに寝る。本当にずっと、その繰り返しでしたね」

ただ古川は、そんな生活を心から楽しんでいた。

「ゲームの中にたまり場みたいなものがあって、ログインしたらいつでも誰かがいるんですよ。そういう状況って、それまでの私の人生では一度もなかったから」

「友達の家に集まって、みんなでゲームをやる、みたいなのに憧れがあったんですよ。そういう私が思い描く青春みたいなものをネットゲームに感じていたので、そこの仲間とずっと過ごすことができればいいなと思っていました」

普段は感情を表に出せず、自分の考えを言葉で伝えるのが苦手だったが、ネット上ではスムーズに相手と対話することができた。

「当時のリアルでの口癖が『別に』と『何でもいい』だったんですよ。人と何をどうしゃべっていいか分からなかった。でもネトゲの中で、キーボードで打った文字だと話せるんです」

「それが本当に心地良くて、私の居場所はここだったんだって思いました。80歳のおばあちゃんになるまで、その世界に住んでいたいと思っていましたね」

程なくして秋葉原のゲームセンターに通い、でんぱ組.inc結成のきっかけとなるディアステージで働くようになる。

アイドル活動をするようになると、家にいる時間は必然的に少なくなっていった。

グループが大きくなってから、2017年にも引きこもりがちな期間があった。
この年は、でんぱ組.incとしてのライブがほとんどなかったためだ。

「この時は高校の頃と違って、家にいることに落ち込んだんですよね。次のライブが決まっていなかったので、自分にもう需要がないのかもしれないって」

「机の上にカップ麺の容器がいくつも転がってたり、みかんの皮が落ちてたりするような生活で、大変でしたね(苦笑)。でんぱ組.incがないと私はダメなんだな、と再認識した時期でもありました」


先が見えない状況下で注力したこと


そして今回「人生で3度目」の引きこもりを余儀なくされることとなった。

当初は、これほどまでに自粛期間が長引くとは考えていなかった。
様々なイベントの延期や中止が報じられる中で、意識は徐々に変わっていったという。

「このままだと、でんぱ組.incの春のツアーも開催できないんじゃないか…」

そんな予感は、すぐに現実となってしまった。
5月2日より開催予定だった全国ツアー「THE FAMILY TOUR 2020」の中止が決まったのだ。

「身近な部分で影響が出て、より事の重大さを感じました。ツアーが中止になったけど、そもそもいつライブができるようになるんだろうって。ライブができないのはすごく不安だし、先が見えない状況ですね」

「でも誰が悪いわけでもないし、どこに気持ちをぶつければいいのかわからない。Twitterとかで『ツアーができなくてごめんね』って言うと、ファンの方が『謝らなくていいよ』って言ってくれるんです。みんな『しょうがない』と言い聞かせて乗り切ろうとしているのを感じました」

悔しさやもどかしさを抱える一方で、グループは3月頃から配信プラットフォームの活用に力を入れていた。
所属事務所などが主催した生配信の音楽フェス「#DSPM STREAM FESTIVAL」への出演のほか、サイン会など様々な企画をオンラインで実施した。

さらにメンバー個人のYouTubeチャンネルを開設。
LINE LIVEやTwitchなどのプラットフォームを使い分け、個人配信も精力的に行った。

古川はもちろん、他のメンバーや事務所のスタッフも、もともとインターネットが大好きな人たちばかり。
そのため、配信の活用は自然な流れだったという。

「慣れている分野だった、というのはあります。私の個人配信も今回始めたわけではなく、3年前からやってましたし。この状況下になってネットに移行したというより、前から強かったけど、ますますパワーを入れてる感じですね」

YouTubeチャンネルで公開している個人の動画は、企画から撮影、編集、動画のアップロードまで、すべてメンバー自身が行っている。

初めての挑戦にも古川は「めっちゃ楽しいです」と無邪気な笑みを見せる。

「ゲームをやってる感覚なんですよね。それがすごく面白くて、向いてるなと思いました。自分の戦力をどう上げていくか、再生数や登録者数という数字をどう上げていくかを考えながら進めていくゲームですね」


引きこもりが正義になった瞬間


ライブができない状況が続く中、政府が緊急事態宣言を発令する前夜の4月6日深夜。
Twitter上で突如、リモートでの新曲制作が始まった。

プロデューサーのもふくちゃんこと福嶋麻衣子の呼びかけに作家やミュージシャン、ミュージックビデオの監督などが次々と応じ、制作が進んでいった。

古川は当初、詳細を聞かされていなかったが、彼らのやりとりを見て胸を躍らせていた。

「Twitter上でどんどんやりとりが進んでいったので、私もわくわくしていました。もふくちゃんは必ず、何か考えているはずだと思っていたので」

「こういう事態になってしまったけど、でんぱ組.incだからこそ強く生きていけると思ったんですよね。ネットに助けられ、ネットに生きてきた人たちなので。だからこそ、ネットを使って世の中を沸かせたいというのは、みんな思っていたんじゃないかな」

曲のデモを渡されると、iPhoneを使い自分で歌を録音した。

通常のレコーディングとは違い、歌い方を指示してくれるディレクターはその場にいない。
そのため、自分が思い描いたものを表現することに集中して、何度も歌った。

MVも、それぞれのメンバーが撮影した映像を組み合わせて完成させた。
照明など、必要となる最低限の機材は自分たちでセッティングした。

こうして新曲「なんと!世界公認 引きこもり!」が完成し、MVが公開された。

「『在宅』って名の剣で
 世界を照らせ!!」

「天命は 自宅警備
 世界公認 引きこもり!」

ヒャダインの作詞による同曲のラストには、こうつづられている。
曲に込められたメッセージは、歌っている古川自身にも響いた。

「引きこもりってどうしてもネガティブなイメージがあるじゃないですか。それがこの歌では、在宅という名の剣を持って戦ってるんですよ」

「引きこもりが正義になった瞬間というか。ほんと最高だなと思って、感動しましたね」

制作期間は、わずか8日間。
もふくちゃんやディレクターのYGQによると、通常の楽曲は早くても完成までに1〜2カ月はかかるという。

これだけ急いだのは「他の人に負けたくない気持ちが強かった」と、もふくちゃんは振り返る。

もふくちゃん

「こういう時期に一番最初に動くチームでありたいという思いが、すごく強いんです。アイドル戦国時代と言われる中を10年、生き抜いてきたものとして。でんぱ組.incが最初にやったことって結構あると思うんですけど、先陣切ってやらないと武器がなくなっちゃうんですよね」

YGQ

「他のレーベルだったら、部長に上げたり会議をやったり、すごく時間がかかるけど、僕らは少人数でやってるからこそ、こういうことができる」

もふくちゃん

「ノーハンコだよね(笑)」

古川未鈴

「そこはほんとに強みだと思ってます。秋葉原で育って、なんとかしようと這い上がってきた人間なので、そういうのが似合ってると思うし」

もふくちゃん

「そもそも大手だったら、今のメンバーは採用してないしね。最近は、絶対に大手が採用しないような個性的なアイドルも増えてるじゃないですか。そういうのが許される先駆けとなったのが、でんぱ組.incだと思うんですよ」


今は武器や装備を集める期間


新曲発表から1カ月後、でんぱ組.incは再び話題を呼ぶ。

5月16日に開催した有料の配信ライブ「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」。
中止となったツアーのオンライン版とも言える公演は、ファンの想像を超える内容だった。

全員が別々の場所で歌っていながら、その映像に目まぐるしくエフェクトが施され、メンバーはバーチャル空間を自由自在に移動。
オンラインだからこそできる臨場感あふれる演出により、配信ライブの新たな形を提示して見せた。

アンコールでは「なんと!世界公認 引きこもり!」を感無量の表情で力強く歌いきった。

このライブのMCで、古川はファンにこう伝えた。

「ここで足を止めてはいけない。やっぱり私たちはアイドルだから、みんなに明るい気持ちを持ってもらいたい」

先行きが不透明な中で、もちろん不安な気持ちもある。
それでもでんぱ組.incは立ち止まらず、慣れ親しんだネットを駆使しながら、前を向いて活動を続ける。

「今ここでペダルをこぐのをやめてしまうと、次に再開しようとしたときに、もうこげなくなっちゃう気がするんですよね。だからちょっとでも、ゆっくりでもいいから、ペダルをこぎ続けないといけないなと思っています」

家という限りあるスペースでも「結構、何でもできる」と、古川は話す。

「それは私が引きこもり体質だから思えるのかもしれない。もしかしたら高校時代に引きこもっていた経験があったから、今こうやって病まないでいられるのかもしれない」

「そう考えると、あの頃に引きこもっていた経験というのは、悪ではないと思えたというか。高校の時と今は状況は違うけど、前に進むためになんとかやっていこうという、前向きな引きこもりだと思うんです」

没頭できるものを見つけられれば、在宅時間も楽しめると考えている。

「私の場合は今は動画編集とかだと思うんですけど、動画を見るでも、ゲームをやるでも、本を読むでも、何でもいいと思います。自分の中で一つ好きなことが見つかったら、すごくいい時間になると思うし、自粛期間が明けた後も自分の武器になると思うんです」

「今は武器や装備を集める期間というか。それを楽しむことができれば、在宅の期間を乗り越えられるんじゃないかなと思います」

グループでの観客を入れたライブは、もう半年近く行っていない。

それでも古川は「しばらくこういう状況だと思うので、私は在宅を全力で楽しみます!って感じですかね」と、アイドルらしい笑顔でつぶやいた。


すべてリモートで実施した今回の取材。
撮影はカメラマンが遠隔で指示し、古川がその都度、部屋のセッティングを変えながら進めていった。

指示をそしゃくした上で、自らアイデアを出す古川。
カメラの向きや照明を念入りに調整し、納得するまで次々とポーズを変える。

緊急事態宣言の解除が進むが、まだライブ開催の見通しは立たない。

でんぱ組.incはその一方で、試行錯誤を繰り返しながら、着実に歩みを進めていく。


【取材・文 : 前田将博(LINE NEWS編集部)、写真 : 藤城貴則、動画 : 二宮ユーキ】
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「なんと!世界公認 引きこもり!」MV
でんぱ組.inc 公式サイト