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「ちっぽけなことで悩む必要はない」24歳の映画監督・枝優花のメッセージ

2019年2月21日 11:00 LINE NEWS編集部

1月中旬、東京・港区。

ポニーキャニオン本社のエレベーターから降り立った彼女は、一見するとどこにでもいるようなかわいらしい女性だ。

枝優花(えだ・ゆうか)--1994年生まれの24歳。職業、映画監督。

2017年に公開された自身初の長編映画『少女邂逅』が、映画と音楽の祭典「MOOSIC LAB 2017」で観客賞を受賞したほか、第42回香港国際映画祭に正式招待された。

自主制作映画としては異例のヒットを記録した本作は、監督が14歳だった頃の経験を基に生まれた作品だ。

いじめられ、森で拾った蚕が唯一の友だちだった小原ミユリ(保紫萌香、現・穂志もえか)と、東京から来た転校生・富田紬(モトーラ世理奈)によるストーリー。青春時代の少女ならではの心情変化を、残酷でありながらも繊細で美しく描写した。


引っ込み思案な少女を救った映画

「群馬の田舎に住んでいて、大した学生生活を送っていませんでした。東京の高校生って帰り道に寄るところが多いじゃないですか!それに比べて私の地元はほとんどない(笑)引っ込み思案な性格で、友だちも多くなかったです」

人間関係に悩む少女にとって、映画を見る時間はかけがえのないものだった。

「これだ!というきっかけはないのですが、まず父が映画好きだったことが大きいですね。仕事で忙しい父がたまの休みに連れて行ってくれるのが、映画館でした。私の中では、映画館に行く=家族との時間がある。これが最初に好きになったきっかけかもしれないです」

「家の隣にある公園では子どもたちが遊んでいるんですけど、気にしいだから入っていけませんでした。みんなが帰るまで、一人でテレビや映画をよく見ていましたが、映像の世界がすごく楽しそうで」

両親が共働きで、友だちも少ない。
映画の存在が、一人の時間を救ってくれた。


人間関係に悩む学生時代

幼い頃から人間関係に悩み、中学2年生のときには「場面緘黙(かんもく)症」という特定の場面で話すことができなくなる病気を発症。

「中学時代にちょっとしたいざこざがあって、同級生と対立してしまいました。この頃って、真面目にやるのがダサいみたいな風潮あるじゃないですか。当時の私は、一生懸命やりたい気持ちと周りの空気の温度差をうまく埋められなかったんです」

長期休み明けに学校へ行くと、動悸が止まらず、声が出なくなった。

家では問題なく話すことができたが、学校では「おはよう」の一言すら、声を発することができなかった。

「悪い病気だと思って、保健室の先生に相談したんです。けれど『寝不足かな〜』って言われてしまって(笑)。ただ、この環境が間違いなく自分にとって良くないことは自覚していました」

当時は、自分が「場面緘黙症」だとは分からなかった。大人になり、たまたまテレビの特集を見て病気のことを知ったという。

そんな環境から脱しようと、中学校から離れた高校に進学。「リハビリだった」と語るように、高校では人間関係を一からやり直して過ごした。


「映像の世界に行けるのかも」

「私はこの狭い現実世界で、こんな小さいことで悩んでいるけど、なんでもっと自由にできないんだろう」

映像の中のキラキラした世界に魅了される一方で、自由にできない現実。

「当然ですけど、画面の中の人たちって楽しそうじゃないですか。幼いときは、それが仕事だと分からなくて。メイキング映像を見たとき、裏側には何人もの大人がいることを知りました。『あ、これは大人たちが作っているんだ』って。東京に行ったら、私もその世界に行けるのかもしれないと」

映画に救われた少女が、今度は誰かを救える。そう思えた瞬間だった。


映画の世界への第一歩

そして大学進学とともに上京し、すぐさま映画サークルに入会。大好きな映画を通じて、仲間を作り、居場所を見つけた。

「18歳のときに、10分くらいの作品を作ったんです。そこで監督をやることの楽しさを知りました」

充実する大学生活。場面緘黙症を含め、当時の思い出は"封印"していたが、薄れていく記憶を残しておきたくて『少女邂逅』の脚本を書いた。

「サークルの先輩に脚本を見せたら、『絶対に面白くなるから、映像化した方がいい』と言ってくださいました。でも当時の私には、"演出力"も"キャストを集める信頼"も"お金"もない。先輩と相談して、作品は少し寝かせることにしました」


突然来たチャンス

この『少女邂逅』の代わりに撮った42分の短編映画『さよならスピカ』(2013年)で、「第26回早稲田映画まつり」の観客賞と審査員特別賞を受賞し、結果を残す。

しかし、それだけでは満足できなかった。

映画監督として足りないものは何か--。
監督としてのスキルを客観視して、学生時代を含めて5年間、撮影アシスタントや助監督、演技指導などに携わり、インプットの時間を作った。

「ただ5年間、修行したからといって準備万端という感じではなくて…。『MOOSIC LAB』で企画を募集しているよと知り合いが教えてくれて。企画を書いて送ったら、パッと決まっちゃったんです」

「5年間は準備期間だと言い訳していたけれど、いざ来たらパニックでした。いつも思うんですけど、準備が完璧にできたときなんて一度もない(笑)」


ちっぽけなことで悩む必要はない

そう笑うが、「特に10代に見に来てほしかった」と作品にかける思いをはっきりと話す。

「10代の子からSNSで『映像業界に入りたいけど、どうすればいいですか』といったものから『部活がうまくいきません』といった人生に関わるような質問まで来て。多くの悩みを聞いて、そんなことで悩む必要はないと思ったんです。でもそう思うのは、自分が大人になっちゃったから。当時、あれだけ私も悩んでいたのに忘れちゃうものだなと」

上京して世界が広がった今は「ちっぽけな悩み」と思える一方で、多感な時期の気持ちを痛いほど知っている。

薄れていく記憶を作品にするのは、何より今まさに悩んでいる10代に向けたメッセージだ。


若さだけが華じゃない

「作品を撮ったときは、私自身が少女と女性の過渡期だったから、10代のときの一瞬しかない煌めきや、ここでしかない若さに強烈に惹かれました。一方で、自分は限りなく大人に近づいています」

大人に近づくに連れて、自身の心情も変化していく。

「もっと大事なことがあるんじゃないか」と、悶々する日々。

「昨日、仕事でご一緒したことのあるアイドルのライブを見に行ったんです。彼女たちはだいたい10代〜20代前半なんですけど、アイドルって、ネットで劣化したと言われることや、年齢的に卒業を迎えるときがありますよね。でも自分自身が大人になっているからこそ、若くてかわいいときだけが華だとは思えなくて」

彼女たちは、今この瞬間だけが魅力的なのか?

ライブで声援を浴びる彼女たちを見て、モヤモヤが少しずつ整理されていった。

「若さに執着しないで、どう魅力的に年齢を重ねていくか。それが重要だと思ったんです。今後の作品では、そういうことを伝えていきたいと思いました」

他人の人生に寄り添うことができるのは、自分もそれだけ悩んできたから。人一倍悩んできたからこそ、伝えられるメッセージがある。

自分を救った映画を通じて、これからも。


【取材・文 : 加藤貴大(LINE NEWS編集部)、写真 : 酒井拓哉/竹村正成/森下大、動画 : 森下大】

枝優花監督からのお知らせ

映画『少女邂逅』のアナザーストーリーとなるWEBドラマ『放課後ソーダ日和』が2019年3月22日(金)よりアップリンク吉祥寺他にて特別版を劇場公開&Blu-rayの先行販売が決定!

『少女邂逅』Blu-ray&DVD好評発売中
公式HP:http://kaikogirl.com/
『放課後ソーダ日和』公式Twitter:@sodabiyori

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