── 石野卓球さんと…ウルトラの瀧さん?
石野卓球
はい。いろんなところで発表しているから、もう知っている方もいると思うんですけど、2019年は電気グルーヴを結成して30周年なので、電気グルーヴの活動においては「ウルトラの瀧」という名前で一年間活動していくんですね。
ウルトラの瀧(ピエール瀧)
そういうことになりました(笑)。
石野卓球
来年はまた「ピエール瀧」に戻るので。単なる、悪ふざけです(笑)。
ミュージシャンって、音源を作るのが仕事なんですよね
── 今の話にもありましたが、今年は結成30周年ということで、まずはそれを記念したアルバム「30」がリリースされます。
石野卓球
そうですね。その後もう一枚、今年中にオリジナルアルバムを出そうと思っています。
── あ、オリジナルアルバムも。というか、最近制作のペースが、ものすごく速いですよね?
石野卓球
それ、みんな言うんですけど、ミュージシャンって、音源を作るのが仕事なんですよね。
石野卓球
みんな、曲ができないだのなんだの言い訳してますけど、河岸に行かずにおすし屋さんができないのと一緒で、それは河岸に行ってないだけなんです。
ウルトラの瀧
まあ、一理ありますよね。
服装が変わるように、音楽もその時代に合ったアレンジがある
石野卓球
あと、今回の「30」に関しては、作曲という行為が、ほとんどないじゃないですか。曲はほとんど、もともとあったものなので。だから、すごく楽しんでやりましたよ。
── そう、今回の「30」は、20周年のときの「20」や25周年のときの「25」と同じく、過去の音源を新たにリメイクしたものが中心となっています。
石野卓球
うちらは、テクノという音楽をやっているのもあって、基本的にリメイクやリミックスが多いんですけど、やっぱりそのときそのときで服装が変わるように、その時代に合ったアレンジっていうのがあるんですよね。そのときの自分たちの気分に合ったものっていうのが。
ウルトラの瀧
あとは、フェスとかライブの現場で、音源と違うアレンジでやっているものが結構あったりするんですよね。音源ではインストだったものに、新たに歌詞を入れてライブでやったりもしているので。そういうものを、この機会に新たにレコーディングし直してみたり。
ウルトラの瀧
とはいえ、「Shangri-La」と「富士山」と「Flashback Disco」っていう電気グルーヴの代表曲が、このタイミングでそろい踏みしているのは、みんな結構衝撃だったみたいですけど(笑)。
石野卓球
そう。その辺の時代の曲は、うちら、ずっと手を付けてなかったんですよね。
── それも含めて、今回の選曲というのは、どういうふうに決めていったのですか?
石野卓球
おととしに、「DENKI GROOVE DECADE 2008~2017」っていう、ここ10年ぐらいの曲をまとめたベスト盤的なものを出して、去年「クラーケン鷹」っていうライブ盤を出したんですね。
石野卓球
で、ライブ盤っていうのはうちらの場合、リミックス盤みたいなものなので、それとカブらないもの…カブってる曲もあるんですけど、スタジオレコーディングはまだされてなかった「いちご娘はひとりっ子」とか、そういうものを入れていった感じですかね。
ウルトラの瀧
まあでも、「DENKI GROOVE DECADE 2008~2017」を出したから、こういう選曲になったっていうのはありますよね。そこで一回、ここ10年のものをまとめたから、さっき言った3曲じゃないけど、さらにその前のものを、改めて見ることができたっていう。
2人の共通項は絞られてくる。でも、そこが飽きないところ
── 今、「DENKI GROOVE DECADE 2008~2017」の話が出てきましたけど、ここ10年ぐらいの電気グルーヴは、すごく順調に活動を展開されている印象があります。
石野卓球
ここ10年というか、1999年にまりん(砂原良徳)が脱退して、瀧と2人になってからですよね。
石野卓球
もちろん、それまでも、自分たちがやりたいことを、やりたいようにやってはいたんですけど、自分たちがホントにやりたいことや楽しんでやれることの方向性がはっきりしたのが、瀧と2人になってからなので。
── とはいえ、2人になってからも、2001年から2004年の約3年間、電気グルーヴを休止していた時期があったわけで…ここ10年で、何が変わったのでしょう?
ウルトラの瀧
まあ、さっき卓球くんが言ったように、悩まなくなりましたよね。音源にしてもライブにしても、この2人が持っている共通項って考えると、かなり絞られてくるので。でも、そこが飽きないところなんですよね(笑)。
── それがすごいですよね。
石野卓球
そこら辺は、初めて会った頃と全然変わらないんですよね。瀧とは、16歳のときに鑑別所で会ったんですけど…しかも、女子鑑別所で(笑)。
ウルトラの瀧
うん、そうだね。
石野卓球
女子鑑別所に忍び込んだとき、偶然同じパンティーに手をかけて…。
ウルトラの瀧
そこで運命の出会いを果たしたっていう(笑)。
── (笑)。
うちらは、プロでいるのが好きなんですよ
── この10年の間には、音楽業界全体でも、いろいろな変化がありました。例えば、シングルを切ってアルバムを出してツアーをするみたいなルーティンが、だんだん成立しづらくなってきたり…。
石野卓球
ああ、そういうのがなくなったのは、うちらにとっては、すごく良かったですよね。昔は、アルバムを作る前に、まずはリードシングルを作って、それは必ず何かのタイアップを付けなくちゃいけないみたいなのがあったじゃないですか。
石野卓球
だから、一般的なもの…まあ当たり前なんだけど、オンエアできるものを作らなくちゃいけないっていうのがあったから。
── オンエアできるもの(笑)。
ウルトラの瀧
まあ、前はレコード会社の都合やフォーマットに合わせなくちゃいけない感じがあったけど、この2人になってから、会社も言いづらくなったんじゃないですか。
ウルトラの瀧
だから、自分たちに対しては、かなり素直になってきていますよね。もちろん、僕らも一応プロなので、やらなくちゃいけない範囲のことは、ある程度分かっていたりはするんですけど。
石野卓球
そう、うちらは、プロでいるのが好きなんですよ。それが、別に苦じゃないというか…だから、今は嫌々やっていることがないんですよね。
石野卓球
これをしなきゃいけないとか、アルバムを出して、すごい数のツアーをやらなきゃいけないっていうほどでも、今はないので。ちょうどいい湯加減なんですよね。
「やりたいことしかやらない」と、「やりたくないことはやらない」は違う
── とはいえ、そこで自分たちのやりたいことしかやらない感じで閉じていくのではなく、むしろ最近の電気グルーヴは、外に向けてますます開いてきている印象があります。
石野卓球
だから、そこが違うんですよ。「自分たちがやりたいことしかやりません」じゃなくて、「自分たちがやりたくないことはやらない」んです。
石野卓球
やりたいことだけやるのも、それはそれで難しいと思うんですよね。
ウルトラの瀧
うん、「やりたくないことをやらない」が正しいですね。それ、ベクトルは違うけど、すごく大事なことですよ。
ウルトラの瀧
だから、外に開いていくみたいなことも…基本ライブとかっていうのは、その場のお客さんと楽しい時間を過ごしたいと思ってやるものじゃないですか。
石野卓球
そう。別に、この2人の中だけで完結しているつもりはないんですよね。この2人が楽しめるものは、うちらのことを楽しめるお客さんだったら、きっと楽しめるだろうっていう。
石野卓球
それぐらいの常識は、うちらにもあるんですよ。それを「ポップセンス」って言うみたいなんですけど(笑)。
── なるほど。
石野卓球
あと、長くやっていると、自分たちの力量とかも、大体分かるじゃないですか。これ以上広げても伝わらないとか。
石野卓球
まあ、楽しんでもらえはするのかもしれないけど、それで余計な厄介を抱え込むのは、やっぱり嫌ですから。それはそれで、またストレスになると思うんですよね。だから、ほどほどより、ちょっと上ぐらいの感じがいいですよね。
「ホントに頭のおかしい人たちだ」って理解されるようになってきた
── ただ、そうやって電気グルーヴを面白がる層が、ここ最近、また広がってきているようにも思います。
石野卓球
それはやっぱり、長くやってきたからじゃないですか。ずっとやっているから、理解してくれる人が増えてきたっていう。
石野卓球
「どうやらホントに頭のおかしい人たちだ」ってことが、たくさんの人に理解されるようになってきた(笑)。
── (笑)。
石野卓球
まあ、昔は音楽雑誌とかテレビとかしかなかったでしょ。でも今は、ネットや他のところから情報を得ることもできるし、過去のアーカイブとかも探れるから、昔に比べると、変な誤解はすごく減りましたよね。
── インターネットやSNSによって、いろんな情報に触れることができるようになったからこそ、ウソがないことが分かってきたというか。
石野卓球
だって、それが一番ストレスですもん。自分たちの曲を聴いてもらいたいがために、何かを偽るとか。そうやって自分を偽って聴いてもらって、後で本性がバレてガッカリされるとかさ。そんな客、相手にしたくないですもん。
ウルトラの瀧
まあ、うちらも、デビューして数年とかは、箸にも棒にも掛からないんだったら、何かしら爪痕を残さなくちゃいけないみたいなことを考えていたところはありましたよね。
ウルトラの瀧
他のアーティストと横並びになる中で、どうするかっていうのもあっただろうし。
石野卓球
ちょっと、偽悪的過ぎたよね。
ウルトラの瀧
そうそう。何の印象も残らないんだったら、せめてマイナスを残そうってぐらいの覚悟もあったしね(笑)。
ウルトラの瀧
で、そういうことをやっていたのを、ある程度脱ぎ捨てながら、どんどんシンプルになってきているところはありますよね。長い年月をかけて、「この人たちの芯は、ここなんだな」って理解してくれる人が増えていったというか。
石野卓球
「この人たちは、ホントにウソつきなんだ」ってことが、理解されるようになってきた(笑)。
── ウソをつくことを含めて、ウソのない人たちだということが分かってきた?
石野卓球
そうなんですよ。ウソしかつかない感じの信用できるやつっていう(笑)。あと、ガッツリ作り込まれていると、どっか隙があるんじゃないかって、みんな見るじゃないですか。そういう見方をされても、うちらは全方位、隙しかないですから(笑)。だから、強いんじゃないですかね。
電気グルーヴは本業、昔から変わらないもの
── ちなみに、卓球さんはDJ、瀧さんは役者やタレント業など、それぞれ別の活動がある中で今、電気グルーヴというのは、どういう位置付けになっているのでしょう?
ウルトラの瀧
まあ、やっぱり本業は本業ですよね。電気グルーヴは、その関わり方も含めて、昔から全然変わらないので。卓球くんが作って、それを僕が「いいね」とか言いながら、ライブで何か足すっていう。そういう構造は、昔も今も変わらないですから。
ウルトラの瀧
僕のソロの仕事が増えて人の目に付くようになった分、そっちがメインのように見えがちなんですけど、それは電気グルーヴというお店のシャッターを開けるまでの間隔が長くなって、外に仕事に行くことが増えたっていうだけのことなので。
石野卓球
あれだろ、自分の店を持ってるヘアメイクさんみたいな感じだろ?
ウルトラの瀧
そうだね。いろんなところに行くけど、自分のサロンは、ちゃんとあるような感じですかね。だから、自分のお店はちゃんとあるし、お店を開けるときは、やっぱり楽しいですよね。
── 卓球さんは?
石野卓球
僕の場合、ソロも電気グルーヴも、音楽ってところでは同じなんですけど、自分がソロでやっているものにプラスアルファされるのが電気グルーヴなんですよね。
石野卓球
そこが面白いというか、ソロだったら自分が良ければOKじゃないですか。でも、電気グルーヴの場合、瀧もそうだし、電気グルーヴを取り巻くお客さんだったり、そういうものも込みだったりするので。だから、すごくやりがいはありますよね。
ウルトラの瀧
これに電気グルーヴのロゴを押していいものかどうかっていう、何らかの判断基準があるんですよね。それはもう、感覚でしかないんですけど。
── 「電気グルーヴとして、どうなのか?」みたいなものが、2人の中にはっきりあるわけですね。
ウルトラの瀧
そうそう。もちろん、この2人でやれば電気グルーヴなんですけど、そこにやっぱり電気グルーヴ的なものを入れないと、電気グルーヴにはならないんですよ。そこは、ちょっと複雑というか、どう見るかによって違うんですけど。
石野卓球
まあ、うちらよく、仲がいいって言われるじゃないですか。実際、仲はいいんですけど、例えば2人で飲みに行ったとして、それは別に電気グルーヴじゃないんですよ。
石野卓球
でも、そのときの会話を電気グルーヴにすることはできるんです。
ウルトラの瀧
そうだね。あと、そこに誰かが入ってきたときに、電気グルーヴのモードで、そいつに接することは、全然できるっていう。
石野卓球
それは別に、うちら全然苦じゃないし、すぐにチャンネルを切り替えて…営業モードとかではなく、うちらの中の自然なチャンネルとしてあるんですよね。
ウルトラの瀧
だから、2人で飲んでるのを見かけた人が、「あ、電気グルーヴが飲んでる」って思ったとして…別にうちらは、普通に飲んでるだけだったとしても、向こうが電気グルーヴを欲してるなと思ったら、電気グルーヴのモードにパシッと切り替わることができるんです。
石野卓球
そう、フミくんとマー坊から、卓球とピエールにね。あ、違うわ、卓球とウルトラだ。
ウルトラの瀧
それ、お前が忘れるのずるいわ。お前が言い出したんだろっていう。
石野卓球
そうだ。ごめんなさい。今、うっすら忘れてた(笑)。あ、この記事も、ちゃんと「ウルトラの瀧」って書いてくださいね。
── 分かりました(笑)。
「ウルトラの瀧」お前は絶対忘れるなよ
ウルトラの瀧
そう、この間こいつが電話かけてきて、「ウルトラの瀧の件だけど、お前のソロの仕事も名前変えなきゃいけないの、大変だな」とか言ってきて。
石野卓球
そう、よく考えたら、こいつが自分で築いたキャリアのところまでウルトラにする必要ないなっていうか、俺にそんな権限なかったわっていう(笑)。
ウルトラの瀧
「お前が築き上げたキャリアもウルトラにしなきゃいけないの大変だな」「それは逆に俺、やれって言われたら嫌だわ」って、お前が言ったからやってんじゃんって思って。だから、お前が忘れるのはずるいわ。お前は絶対、忘れるなよ。
石野卓球
はい(笑)。
電気グルーヴ
1989年結成。石野卓球とウルトラの瀧(ピエール瀧)の2人組。1991年のメジャーデビュー以降、世界基準のエレクトロニック・ミュージックと特異なキャラクターで独自の立ち位置を築き、国内外を問わず精力的に活動。
【取材・文=麦倉正樹、編集=奥村小雪(LINE NEWS編集部)、写真=大橋祐希、動画=滝梓】
電気グルーヴからのお知らせ
1月23日に結成30周年アルバム「30」初回生産限定盤と通常盤の2種類をリリースします。また、3月には「ウルトラのツアー」を開催。チケット一般発売は1月26日から。