「未来に選ばれるビジネスモデル」とは?
『非常識な成功法則』『2022-これから10年、活躍できる人の条件』など数々のベストセラーを輩出し、「日本のトップマーケター」にも選出されたカリスマ経営コンサルタント・神田昌典氏。
その神田氏が、コンサルタント活動20年目の集大成として満を持して送り出すのが、最新刊『インパクトカンパニー』だ。成熟業界、衰退業種の中小企業であっても、「インパクトカンパニー」となることで復活し、世界を目指すことも可能になる。
ただ、そのためには従来の常識を捨て、「未来に選ばれるビジネスモデル」を構築する必要があるという。では、「未来に選ばれるビジネスモデル」とは何か。新著から抜粋してお届けする。
仲の良い会社より、殺伐とした会社のほうが業績が良い?
ある時、立て続けにコンサル依頼が入った。どちらも100億円を超える成長企業だが、会社の雰囲気はまったく異なる。
一方は、社員同士の仲が良く、会社に感謝し、社長は社員のことを心から気づかっている。
もう一方は、社員同士が裏で悪口を言い、会社の悪口を言い、社長は社員のことを見ようともしない。
さて、どちらの業績が良かったか?
答えは、後者。
人が良い会社よりも、殺伐とした会社のほうが、圧倒的に好業績だったのである
「みんなで仲良く疲弊する」企業の悲劇
社員同士の仲が良いか悪いか、会社の雰囲気が良いか悪いか、というのは、実は、会社の収益性とは、あまり関係ない。
それどころか、人の良い社員が多く、社員同士の仲が良い会社は、低収益率に甘んじているケースが目立つ。
「人が良い会社の社員はひもじい」
――なぜ、この理不尽な現実が、起こってしまうのか?
もちろん、働いている人たちもそこで働くことに心から幸せを感じていて、しかも、十分に利益が上がっているという会社にできれば、それが理想だ。
しかしながら――ビジネスの収益は、ビジネスモデルで決まる。いくら従業員満足(ES)や顧客満足(CS)が高くなるよう経営者が努力しても、すでに賞味期限が切れたビジネスモデルでは、残念ながら、業績を維持することで精一杯。未来から選ばれるビジネスモデルを作り上げることが、経営者にとっての最優先の仕事である。
社員にとって居心地のいい会社を維持するために、ビジネスモデルの変革が後手に回ってしまえば、結局、年中休みなく忙しい会社ができあがる。社員は、みんなで仲良く疲弊してしまうことになる。
ビジネスモデル進化の「Vプロセス」とは何か?
では、「未来から選ばれるビジネスモデル」とは、一体何か?
それを考える上で、ぜひ知っておいてほしいのが、「ビジネスモデル進化の『Vプロセス』」である。今の事業を、どうすれば、人口減社会においても成長し続ける事業にできるのか――そのための指針をわかりやすく提示するフレームなので、お話ししておきたい。
デジタル以前は、会社を立ち上げ、年々業績を成長させようとするなら、そのビジネスモデルは、請負型→コンテンツ型→プロダクト型→コミュニティ型→ショップ型と、進化することが、典型的な道筋だった。
それぞれのビジネスモデルについて、ざっと説明しよう。
まず、「請負型」とは、創業した会社のほとんどが最初に手掛けるビジネスモデルだ。
簡単に言えば、顧客の要望に沿って、一つひとつオーダーメイドで商品を仕上げること。住宅であれば、施主の理想を叶える注文住宅を一から作ることであり、ITであれば顧客の要望に応じて一からシステムやアプリを構築すること。コンサルティング会社であれば、問題の原因を診断し、解決する計画を策定・実行していくことだ。
請負型のビジネスモデルは、受注してから仕事が始まるため、粗利益は確保しやすいが、一つひとつの仕事に手間と労力がかかる。そのため、たくさんの仕事をこなすことができず、売上規模を拡大していくには限度がある。
「プロダクト」「コンテンツ」への移行がセオリーだったが……
そこで、それ以上に拡大していきたい会社が次に行うのが、「請負型」から、「コンテンツ型」や「プロダクト型」のビジネスモデルへと移行することだ。
ひと言で言えば、自社のノウハウを、コンテンツやプロダクト(商品)にして販売するビジネスモデルだ。
たとえば、自社の業績アップのノウハウを、書籍やセミナーなどの形で提供する。システム開発企業なら、システムを一から作るのではなく、どの企業でも使える汎用のクラウドサービスにして販売するというのが、一般的な方法だ。
こうして自社の商品やサービスを支持する顧客が増えてくると、今度は、「コミュニティ型」のビジネスモデルに転換を図るようになる。顧客との関係性を深めることにより、コミュニティを作り、生涯にわたって価値を提供しようと努めるのだ。
さらには、リアル店舗を持つことで、常に営業を仕掛け続けるのではなく、通りすがりの人々にも認知される「ショップ型」のビジネスモデルに移行して、顧客層を拡大していくのが、一つのスタンダードな流れだった。
このように年輪を刻むように、会社を安定成長させていくのが、模範的な経営者であると考えられてきた。
年輪経営に立ち塞がる、成長の壁
ところが、近年ではこのような「年輪経営」だけを唯一の道と信じていると、成長の壁にぶつかってしまうケースが目立ち始めた。
売上や利益の規模を拡大しようと、どんなに頑張っていても、今までの延長線上では、低収益体質に陥ってしまうのだ。
その原因は何か。
大きな理由の一つは、昔に比べて、コンテンツやプロダクトが高く売れなくなったことだ。
今や情報はネット上にあふれているので、わざわざお金を出さなくても、必要なノウハウはある程度手に入る。またネットで探せば、全世界から最安値で取り寄せられるプロダクトも多いため、どんなに高い商品力があっても、そのブランド管理が行き届いていなければ、顧客はお金を払ってくれなくなっている。
加えて、もう一つ大きな理由として挙げられるのは、ビジネスモデルが進化すればするほど、商品数や業務が増え、利益が増える以上に、経費がかかるようになることである。
顧客満足度を上げるため、顧客の要望に丁寧に応えようとすると、どうなるか。商品やサービスの数は自然と増えていき、一方で一つひとつの商品の売上は減っていく。つまり、多品種少量生産になっていく。
すると、業務が煩雑になり、従業員を増やさなければ回らなくなるわけだが、ここに落とし穴がある。人を増やした結果、教育に時間がかかったり、できない人の分のフォローを仕事ができる社員がしなくてはならなくなったりなど、生産性が下がってしまうことが多いのだ。
「忙しすぎる社長」はなぜ生まれる?
また、コミュニティ型ビジネスにおいては、顧客とのやり取りを密に行う必要が出てくるが、それには単純に人を増やすだけではダメで、おもてなしの心を持ったスタッフを育成することが欠かせない。
こうなると、大変なのは社長である。最近は組織のフラット化が進んだこともあり、増えた業務の多くを社長が決裁しなくてはならなくなった。しかし、社長といえども、たくさんの決裁事項を一気に判断するのは難しい。
その結果、社長の仕事が滞って、社内が大渋滞を起こす。現場のスケジュールは混乱し、残業は常態化し、その残業代で会社の収益は悪化。これでは、社内の雰囲気が悪くならないほうが不思議だ。
そこで、会社の雰囲気を良くしようと、福利厚生に力を入れたり、社員旅行をしたり、地域貢献活動をしたりするわけだが、そうすると、さらに人件費などのコストがかさんでしまう。
こうして、売上や利益を求めるほど、会社の収益性はどんどん低下していく。こんな善意による悲劇が、日本の至るところで起きている。
V字回復のカギは「プラットフォーム事業化」
だがここで、異なる方向へと舵を切り直せば、活動できる市場もローカルからグローバルへと広がり、売上も利益も飛躍的に伸ばせる領域に踏み出せることになる。
その進化のプロセスは、「プラットフォーム型」「メディア型」「マネー型」と、3段階に分けると理解しやすい(図の右上)。
ここでは、最近のベンチャー企業に多い「プラットフォーム型」を説明しよう。
プラットフォームビジネスとは、人々が一同に集う「場所」をウェブ上に作り、そこで「何らかの価値を必要とする人」と「その価値を提供できる人」をマッチングする仕組みを運営することで、対価を得るビジネスモデルである。
誰でも知っている例で説明すれば、エアビーアンドビー(Airbnb)。自分の持ち家を「貸したい人」と「借りたい人」をつなぎ合わせる民泊事業だ。
その他の例としては、「運転したい人」と「移動したい人」をつなぐウーバー。「スマホ上で販売したい人」と「買いたい人」をつなぐメルカリ、そして「仕事を求めている人」と「働き手を探している人」をつなぐインディードといったように、短期間に業界を制覇するほどの可能性を秘めているのが、プラットフォーム型ビジネスに取り組む会社――プラットフォーマーの特徴だ。
V字の左か右かで、天と地ほどの違いが
プラットフォーマーたちは、なぜ急成長できるのか。
その最大の理由は、旧来のビジネスモデルが、会社の中だけで価値を作ろうとするのに対し、プラットフォーム型のビジネスモデルは、利用するユーザーたちが自分たちで勝手に価値を作っていってくれることだ。また、ユーザーが増えれば増えるほど、利便性が高まるというネットワーク効果により、カテゴリートップになれば、顧客が顧客をつれてくるようになる。
そして、既存のビジネスモデルと異なり、プラットフォーム内での取引が増えても、自社の商品や業務が大きく増えることがないために、一度固定費を回収してしまえば、その後、収益性は急速に高くなっていく。
さらに、一度プラットフォームができれば、広告収入を収益の柱とする「メディア事業」や、「マネー事業」つまり金融事業への進出も可能になってくる。
つまり、V字の左側にいるか、右側にいるかで、将来の事業拡張性は、天と地ほどの差が生まれる。そして、ずっとV字の左側にいる企業は、いくら会社の雰囲気が良くても、「誰もが忙しいのに儲からない」という状況に陥りがちなのである。
(神田昌典著『インパクトカンパニー』(PHP研究所)より)
神田昌典(かんだ・まさのり)経営・マーケティングコンサルタント、作家
上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。その後、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本のトップマーケター」に選出。2012年、大手ネット書店の年間ビジネス書売上ランキング第1位。ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。主な著書に『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)など多数。アルマ・クリエイション株式会社代表取締役。一般社団法人Read For Action代表理事。(『THE21オンライン』2019年01月22日 公開)