「私が社長です」でおなじみアパホテル社長・元谷芙美子さん。息子たちが家で宿題をしていると「勉強するな」と叱った!?
名家の育ち、親が破天荒、大家族貧乏、厳格すぎる親など「しんどい家」に生まれた方々が幼少期の笑えるエピソードを激白する特番「バカリ&秋山の しんどい家に生まれました‼~今なら笑えるトンデモ人生~」を放送。
アパホテルネットワークとして日本最大級の659ホテルを展開するアパホテル株式会社。コロナ禍においては新型コロナウイルス患者の受け入れにいち早く名乗りを挙げたことでも話題となりました。番組には、社長を務める元谷芙美子さんと、息子であり専務の元谷拓さんが登場し、衝撃エピソードの数々を紹介します。「テレ東プラス」では、収録を終えたばかりのお2人にインタビュー。アパグループの創業者"元谷家"ならではの教育方針や、拓さんの本音などをうかがいました。
無駄に泣いていたら"ピシッ" 元谷家の教育方針
──番組では、「家で勉強するな」(勉強ばかりすると勉強バカになる)という芙美子社長の教育方針を紹介しますが、その他にも元谷家の変わったルールはありましたか?
芙美子社長「うちでは、赤ちゃんのころから無駄に泣いていたら"ピシッ"(平手打ちのポーズ)。今だとちょっと問題になってしまいそうですが、"泣いても事は済まない"ということを経験として教えていました。また、『ワンワン(犬)』などの子どもの言葉で話しかけたことは一度もないです。同じ目線で話し、子どもとしてではなく一人の"人"として接していました。
正直、"子どもは親の都合に合わせるべき"と思うところもあって。私たちが夜遅くに仕事から帰ってきて、そこから経営について教えたりしたこともありました」
拓専務「当時は"なんで大人のルールに合わせなければいけないんだろう?"と思うこともあったのですが、両親ともに日本中を飛び回り、夜中まで働いて、休日もなく、家でぐうたらしているところなど見たことがなかったので、"それもそうだ"と納得していたところが大きいです。今思えば、早くから周りの状況を見て相手の気持ちを考えることを、言葉ではなく経験で教わっていたのだと思います。それがこの仕事にとって最も大切なことですから」
芙美子社長「反面教師で良かったのかもしれませんね(笑)。私たちは放任主義で、『〇〇をしなさい』とは一切言わなかったので、自分で見て感じて考える力を培ってくれました」
──幼い頃から達観していらっしゃいますが、拓さんには反抗期はなかったのですか?
拓専務「大きいものはなかったと思います。親の事情に合わせなければいけない家なので、反抗していると生きていけなくなると思っていたのでしょうね(笑)」
芙美子社長「厳しくするには訳があって。私たちは創業者として会社を興したら、お客様、従業員、お取り引き先など全てのことに責任がございます。一代だけで終わらせてはならず、跡継ぎがきちんと引き継いで、10年先、100年先まで見据えてお仕事をする企業にしなければならないという使命感がありました。ですので、心を鬼にして厳しくしていたのかもしれないですね」
──創業者でありグループ代表のお父様からはどのようなことを教わりましたか?
拓専務「リーダーシップのある父親からは"一度交わした約束は必ず守りなさい。できない約束はするものではない"ということを教わりました。
代表はやると決めたことは必ずやります。これは私が社会人になってからの出来事ですが、会社全体でのゴルフコンペの日に雪が積もり、さすがにゴルフはできないだろうと思ったのですが、中止の連絡がなかったため、とりあえずゴルフ場に向かったら、代表は当然のように『やるよ。ドラコンで勝負だ。池に向かって打て』と。
代表は、ゴルフを中止にすると、ここまで準備したことが台無しになる、社員にとってはこの日は休みだったのに仕事をすることになる、お願いしていた食事のテナントさんは潤わない......など、私が思っていた以上に周りのことを考えて決行の判断をされていました。雪の中でのゴルフ大会は印象に残りました。社会人としても人としても、一番大事なことを教わったと思います」
引継ぎ守っていく...二代目としての覚悟と心構え
──先を見据えてのお仕事とのことですが、社長は、拓さんに二代目として心得ておいて欲しいと思うことはありますか?
芙美子社長「"人の情は大事"と、常に思っています。"創業は易く守成は難し"と申しますが、興すことより守っていくことの方が何倍も何十倍も大変。それを理解し、覚悟していただかなければいけません。
創業者はゼロから事業を興しているので、織田信長のように一心不乱に突き進むことが大事ですが、それを預かった代は創業者の行動がある意味迷惑でもあり重しになってしまうことも多いと思います。うまくやっていくためには、周りのみなさんのご協力を得て支えていただくことが大事。従業員やお取引きの方々と密に支えていただきながら、崩れ積みの石垣のように小さい石も大きい石も役割がある。ひとつになっていかなければならない。その気持ちを忘れないでいて欲しいと思っています。
こういう家庭に生まれてしまったのは偶然なのですが、負けずに立ち向かってもらいたいです」
拓専務「社長の"偶然とは必然という名の運命である"という名言があるのですが、まさしくその通りだと思います」
芙美子社長「これは私が作った言葉なのですが、"生まれたからには運命であると腹をくくって生きなければならない"ということをお伝えしたいのです。実力とともに運も味方にしてこの世の中を戦っていかなければならないと思います。そしてただ運が良かったと喜ぶのではなく、そこに感謝の気持ちがなければ運は逃げていきます。常に周りに感謝できる人であって欲しいです」
芙美子社長の名言
──拓さんは、専務としてアパブランドを世に広げる活動に力を入れていらっしゃるそうですね。
拓専務「例えば、ご好評いただいている社長の顔入りの"アパ社長カレー"や"うまい棒"などの商品をプロデュースしました。カレーは"アパホテルの本格派ビーフカレー"という名前で社長の写真もなかったのですが、代表から『全然面白くない。逃げるな』と言われ、写真を入れた今のネーミングと形に。目にとまるし、気になるし、売上も急上昇しました」
芙美子社長「専務はアパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉などで展開しているプールのネーミングライツにも力を入れています。両国はネスレ日本さんによる"ネスカフェプール"、アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉には大塚製薬さんによる"ポカリスエットプール"などがあります。このように新たなシステムを考えてくれることはありがたいです」
拓専務「私はアパグループに関係なくとも、人と人をつないでいくことが好きな性分で。例えば、アパグループ発行の情報マガジン『AppleTown(アップルタウン)』の企画・監修も担当しているのですが、取材などで出会った企業様同士を紹介し、業界を超えてコラボレーションしていただけるとうれしいんですよ。そしてそれは回り回ってアパグループや、利用するお客様、お取引き先の方々に還元されていくと思います。
こうした性分は、子どもの頃から色んなところに連れて行っていただいたり、人と会わせていただいたことによる経験から培われたことかもしれないですね。経験が人を見る目や状況判断を自然と養っていくのだと思っています」
情報マガジン「AppleTown(アップルタウン)」
──グループを継ぐという使命を持って生まれ育った拓さんですが、違う職業に憧れたりはしなかったのですか?
拓専務「おもちゃ屋さんや野球選手になりたいとは思っていましたが、それはあくまでも子どものときの夢で。両親の背中を見て育ってきたので、兄を含め私自身も自然と今の道を歩みました。ただ親が大きすぎて、なかなか親孝行はできないんですけどね」
──拓さんのお兄様、ご長男の一志さんはグループの社長をされているんですよね。
芙美子社長「私が専務に教えたこととして唯一あるとしたら、"お兄ちゃんと仲良く"ということですね。兄弟二人しかいないのですから、兄を立てていかないと弟の本分は保てません。私たちのグループはオーナー経営ですので、それぞれにお嫁さんをもらって子どもができた後も、一緒に支え合うことが大事ですから」
拓専務「父である代表からは『昔と違い長男と次男の差はないように見えるが、社会に出ると長男と次男の差は思っている以上にある』と言われたことを覚えています。最初から差があるのだから弟は兄以上に優秀であることが当たり前だ、と。それは今でも心に残っていますね」
芙美子社長「お兄ちゃんは本当に優しいんですよ。専務は地元・石川県の大学に進学しようと考えていましたが、お兄ちゃんは『大人になってからの人脈はすごく大切だから、拓を東京の大学に入れたい』と、高校二年生の夏休みに東京の大学の見学ツアーに連れ出したんです。結果、専務は東京の大学に進学。すばらしいアドバイスだったと思います」
拓専務「兄のおかげで視野が広がりました」
──拓さんはお子さまがいらっしゃいますが、"元谷家"の教育方法を受け継いでいきますか?
拓専務「良いところは参考にしつつ、それぞれの人生があるわけですから自分の人生を全うしてもらいたいです。
ただ、私が教わったように、両親、そして周りの人に感謝する気持ちを持って育って欲しいと思っています。そのためには自分の行動には責任を持たなければなりません。子どもは周りを見て育ちますから、両親から教わったことを子どもに伝えながら、私自身もまだまだ学びなら成長していきたいです。
この番組は『しんどい家に生まれてきました』というタイトルですが、"しんどい家"というのをどう解釈するかが大事で。しんどいといえばしんどいですが、僕はこの家に生まれてありがたかったと思っています」
芙美子社長「どう考えるかで人生は変わりますから。親としてはこんなに恵まれた素敵な家はないと思っていますよ」
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(取材・文/玉置晴子)