臨床心理士が教える|怒りにもう振り回されない「アンガーマネジメント怒りの対処法」とは?
どうしたら穏やかな気持ちでいられるんだろう…「怒りやイライラに振り回されたくない」「怒りたくないのに、なぜか怒ってしまう」怒りの感情がコントロールできずに悩んでいる方はいらっしゃいますか? 怒りのコントロールは人間関係に影響を与えやすく、感情の中でも「怒り」や「イライラ」に悩んでいる方はとても多い印象です。今回は、多くの方が悩みを抱える「怒り」への対処法についてご紹介します。
「怒り」にはどんな意味があるの?
感情は悪いものでも、無くさないといけないものでもありません。そして、感情は出しちゃいけないものでもありません。感情は「私たちに大切なことを教えてくれるサイン」です。良い悪いで判断するものではなく、感情を適切に表現することが大切です。
それでは、怒りには私たちにどのようなことを教えてくれるサインでしょうか? 怒りは、「期待と現実にズレがあること」を教えてくれるサインです。例えば、部下が締め切りまでに報告書をまとめてくれると思ったのに、全く手をつけていなかった。恋人が自分の誕生日を優先してくれると思ったのに、残業でなかなか帰ってこない。自分や他人に対して「期待」していたのに、「現実はズレがあった」というサインになります。思い描いていた理想や自他への期待と現実にズレがある場合、人はどうなると思いますか?みなさん「困る」と思います。
部下が締め切りまでに報告書をまとめていなくてどうしようかと困っている。恋人が残業でなかなか帰宅せずに困っている。実は、怒っている状態は「困っている」状態と置き換えて考えることができます。怒りの正体は「困りごと」です。例えば、大切にしていた本を友人に汚された時。綺麗に使おうと思っていたのに現実では汚されてしまい困っている状態。プライドが傷ついた時は、自分を尊敬して欲しかったのに、現実では雑に扱われて、バカにされたと感じている。ズレがありどうしていいのか困っている状態と変換することができます。
怒りの後ろには困り事が隠れています。「理想と違って困った」「期待と違って困った」「予定通りに行かなくて困った」と怒りを困ったに置き換えて考えることで、怒りに振り回されづらくなります。怒りは強いので、気をぬくと怒りに巻き込まれてしまいます。いまは自分は困っているのだと考えることで、怒りと距離が取れ、冷静に対処しやすくなります。
怒りへの対処法「RAIN」4つのパターンとは?
怒りを困ったに置き換え、少し冷静になったところで、怒りへの対処法に取り組みましょう。怒りなどネガティブな感情やストレスに有効とされる対処法「RAIN」を紹介します。感情に巻き込まれず、感情をコントロールするためには、まずは怒りに注意を向けることが大切です。
ネガティブな感情ほど、なかったことにしよう、見ないようにしようと対処したくなります。しかし、その対処法は効果的ではありません。怒りを抑え込み我慢することで、抑え込むこと自体に大きなエネルギーを使用し疲労してしまったり、身体や心など別のところに不調が出てしまったりと、ネガティブな影響が出てしまいます。
「RAIN」は瞑想教師であるミシェル・マクドナルドが開発した対処法で、怒りだけではなく、強いストレスを感じたときなどにも有効な方法と言われています。「RAIN」によって、感情をコントロールし、気持ちが落ち着き、冷静に物事に対応できるようになります。
1. Recognize 怒りに気づく
まずは怒りに気づくことです。怒りは瞬間的にやってきます。感情が強すぎると、怒りに圧倒されてしまい、冷静に考えられなくなります。「自分は怒っている」「自分はイライラしている」と目を背けずに自分の気持ちに気づきます。
2. Accept 怒りを受け入れる
怒りの感情はネガティブに受け取りやすいものです。しかし、「怒ってはダメ」「怒りは悪いもの」など良し悪しを判断せず、「私は怒っていない」と目を背けたり否認しないことがポイントです。いまの状況で「自分は怒っている」と事実をまっすぐに受け入れます。
3. Investigate 怒りを調査する
怒りの原因を調査します。なぜ、この状況で怒りが湧いたのだろうと自己分析し、原因を探ります。例えば、相手に〜と期待していたのに、現実は〜だったから、期待はずれで困っていたため怒りの感情を感じたのでは?と、原因を考えます。また、怒りの影響を調査します。怒りによって身体反応が出ているかもしれません。例えば、呼吸が早くなったり、心臓がドキドキしたり、顔が熱くなったりと、身体的な影響があるかもしれません。また、頭の中に浮かんだ考えや、怒り以外の感情があるのか、怒りによって自分はどんな行動をとっているのかと、ひとつずつ調査します。もしかしたら、「また私を無視して!」と言う考えが浮かび、怒りと同時に「悲しみ」の感情も感じ、行動としては「険しい顔を作る」「部屋を飛び出す」など、何かアクションを起こしたかもしれません。
4. Non-Identification 客観的になる
怒りに巻き込まれている時は、怒りと自分が一体化してしまったように感じるかもしれません。怒りと自分が一体化していると、怒りのままに行動してしまうことがあります。しかし、怒りと自分は全く別の存在です。アニメ「インサイドヘッド」のように、私たちの中には様々な感情があります。怒り=自分自身ではありません。洋服を着替えるかのように、感情も着替えることができます。私たちは、怒っているときもあれば、喜んでいるとき、泣いているときもあります。
怒りの外側から、「自分はいま怒っているんだな。」「こんな理由があるから怒ってしまったんだな」と、怒りを冷静に観察できる存在こそが自分になります。怒りはとても強いです。そのままでは怒りに振り回されてしまいます。怒りのままに行動すると、現在の問題がさらにややこしくなったり、解決できるものが解決しづらくなる場合もあります。怒りに対して客観的になることで、現在の困りごとに対して冷静に対応していくことが可能となります。
まとめ
本日は怒りの対処法についてご紹介しました。怒りは、「期待と現実にズレがあること」を教えてくれるサインです。そして、怒りの感情の後ろには「困りごと」が隠れています。怒りを感じたら、自分は何に困っているのか考えてみましょう。そして、怒りへの対処法RAINが有効と言われています。怒りに気づき、良し悪しを判断せずに受け止め、怒りの原因や影響を分析します。怒りから距離を取り客観的になることで、現在の困りごとに対し、怒りに振り回されずに冷静に対応していくことできます。怒りやイライラに悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
ライター/石上友梨
臨床心理士/公認心理師 大学・大学院と心理学を学び、警視庁に入庁。職員のメンタルヘルス管理や、心理カウンセリング、スポーツ選手へのメンタルトレーニングなどを経験。ヨガや瞑想を本場で学ぶためインド・ネパールへ。全米ヨガアライアンス200取得。現在は認知行動療法をベースとした心理カウンセリング、セミナー講師、ライター、ヨガインストラクターなど、活動の幅を広げている。また、発達障害を支援する活動にも力を入れている。