乃木坂46、櫻坂46といった「坂道シリーズ」のなかでも唯一メンバーの選抜制がなく、22人全員でパフォーマンスをする日向坂46。もし選抜制やAKB48グループのような総選挙が導入されるとしたら――キャプテンの佐々木久美(25)は「えー、どうしよう」と笑う。「ライバル」というよりも「仲間」だという日向坂46の雰囲気はどこから生まれてくるのか。佐々木、そしてシングル4作でセンターを務めた小坂菜緒(18)、ニューシングル『君しか勝たん』でセンターに立つ加藤史帆(23)に聞いた。(取材・文:宗像明将/撮影:佐々木康太/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
13カ月ぶりの有観客ライブ、メンバーの声が震えていた
欅坂46の下部組織「けやき坂46」として2016年に活動を開始し、2019年に改名して独立した日向坂46。同年からは2年連続で「NHK紅白歌合戦」に出場している。
そんな順調な歩みのなか、昨年12月に予定されていた初の東京ドーム公演はコロナ禍で延期となり、代替公演として別会場で無観客配信ライブを開催した。2020年2月のイベント以降、ライブでファンと対面できなかったが、2021年3月27日の限定700人のライブでついにファンと再会。その瞬間、多くのメンバーの目から涙が溢れ出した。
加藤「ずっと寂しくて会いたくて『う~』って感じだったんです。だからこそみなさんが見えた瞬間、嬉しくて涙がバーッて出てきて。こんなに自分が感動しちゃうなんて思わなくて」
小坂「あの瞬間は、私は絶対に涙を流さないと決めていたんですけど、それでもウルッときた瞬間はあって。イヤモニ(ライブ中に耳に装着するイヤホンのようなもの)の中から聞こえてくるメンバーの声が震えていて。やっぱりファンのみなさんの力ってすごく偉大だなって感じました」
佐々木「号泣しているファンの方もいて、メンバーの松田(好花)も『大丈夫?』ってくらい号泣していて(笑)。みんなの感情が爆発した瞬間に自分がいられるのが嬉しくて、逆に私は笑顔になっちゃいました」
コロナ禍で握手会ができなくなったかわりに、アプリを通してファンと個別に会話をする「オンラインミート&グリート」、略して「ミーグリ」と呼ばれるシステムも生まれた。そこではさまざまな愛情表現を受け取っているという。
加藤「私へのオリジナルソングを歌ってくださる方もいて。相手の方も私も、いつ終わるかわからないので、突然終わりました(笑)。握手会とは違う方法だけど、同じぐらいたくさん愛が伝わってきます」
佐々木「私のときは日向坂46の曲を弾いてくださる方がいて。このために練習されて聴かせてくれたのは、ミーグリでしか絶対できないことなので嬉しかったです」
ファンと会えない間も、ブログを長文で更新していたのが小坂だ。それを読んだファンが、「日向坂46メッセージ」というメッセージアプリを通して感想を送ってくれることで、「私たちってすごくつながっているな」と感じたという。センターに立つことが多かった小坂が、「自己プロデュースや発信が、人より少し苦手な私」と意外な吐露をブログに綴ったときには、こんな反応があったという。
小坂「『でも、自分は菜緒ちゃんのことをこう思ってるよ』みたいな感じで励ましの言葉もたくさんいただいて。言葉だからこそ今、通じ合えるものもあるので、それはすごくいいなと思いました」
全員が全員を認め合っている
4月に発売された日向坂46写真集『日向撮(ひなさつ)VOL.01』(講談社)には、メンバー同士で撮影した写真が掲載されている。発売記者会見で加藤が「ハグしか勝たん」と表現したほど、写真の中のメンバーたちは親密だ。
小坂「ノリが良くて、誰かがはしゃいだり楽しんだりしていると、それに便乗してくるメンバーがたくさんいるので、抱きついている写真とか、みんながギュッと集まっている写真がとても多いなと感じます」
加藤「みんながハグしたりギューッてしたりしている写真が私はすごく大好きで。しかも自然となっているので、『これは本当のギューです!』って伝えたいです」
そうしたグループの雰囲気が『日向撮』に記録されているのは、選抜制もなければ総選挙もなく、22人のメンバー全員でパフォーマンスをするスタイルが深く関係していそうだ。もし、日向坂46に総選挙や選抜制が導入されたらどう思うかと聞くと、三者三様の答えが返ってきた。
佐々木「えー、どうしよう(笑)。そういう制度が始まってしまうと、本当にライバルになっちゃいそうですね。それよりも仲間っていう割合が大きくて、そういうところから私たちのこの雰囲気は生まれているのかなって思っているので。そうするとなったら、『なんでですか? そうなった理由を教えてください』って言いにいくと思います。理由が欲しいですね」
加藤「私は『どうしてそうなっちゃったんですか?』『私たちどうすれば良かったんですか?』ってなっちゃうかもしれないです……」
小坂「望まないんですけど、もしもそのときが来たら、そうするんじゃないかなって思うんです。でも、今あるものは変わらないので。みんながライバルではあるけれども、全員が全員を支え合っていることはすごく感じます。ひとりに対して全員が手を差し伸べているんだ、っていうのが表現的には伝わりやすいのかなって思います」
昨年公開された日向坂46のドキュメンタリー映画「3年目のデビュー」のキャッチコピーも「私たちは誰も諦めない、誰も見捨てない」だった。支え合う姿勢が日向坂46というグループには強くあり、それが同世代のファンから大きな支持を得ている理由のひとつだろう。
佐々木「全員が全員のことを好きだからだと思います。『グループが良くなるために』っていうのが、まずみんなの根本にあるので、そういうところから生まれているんじゃないかなと思います」
小坂「全員が全員を認め合っているのが大きいのかなと思います。一人ひとり『この子にはこの子の良さがある』っていうのをわかっている。例えば、久美さんがバラエティーに出ているのを私も見てすごく楽しむことも多いし、史帆さんは歌がうまいって思える存在。『なんであの人が?』っていうのがまったくないっていうのが一番強いのかなと思います」
日向坂46のメンバーは少年っぽい
そして、やや異なる視点から日向坂46の特徴を挙げたのが加藤だ。
加藤「私たちが、いい意味で子供っぽいというか、少年っぽいからかなって思います。少女というより、マンガやアニメ、スポーツとかゲームが好きっていう少年っぽい人が集まったから。あと、なんか変な人が集まっている気がします。自分も昔は『変』って言われて、『う~ん』って悲しいときもあったけど、日向坂にいるとすごい居心地が良くて、それはみんな変だからかなって思います」
そんな加藤について佐々木が「パーフェクトだなって思います」と褒めれば、加藤は驚きの表情を浮かべて大きくリアクションをし、「インタビューだから言うのはやめてください!」と笑う。小坂も加藤について「先輩ではあるけれど、甘えにいきやすいし、頼りやすい」と語ると、加藤はうつむいて「恥ずかしい……汗かいてきました」と照れる。その会話の絶妙の間合いの奥には、個々のメンバーを尊重し合う姿勢と、メンバー同士の信頼感がうかがえる。
そして、佐々木も小坂も『君しか勝たん』のセンターは加藤だと予測していたという。センターだと告げられたとき、泣きだす加藤と、それを笑顔で見守るメンバーの光景が印象的だった。
佐々木「日向坂46の新しい顔を見せるために、新しい人がセンターになるだろうなって考えていて、やっぱり今ノリに乗っている加藤かなって」
加藤「ノリに乗っているなんて思ったこともないんですけど、いつでもノリ続けていたい。本当に私、絶対自分じゃないと思っていたんですよ。でも、『この人に任せよう』と思ってもらえたんだと思うと、不安より嬉しさが勝ちました」
小坂「史帆さんに『懐かしいですね』って言いました。史帆さんがセンターだった『ハッピーオーラ』(2018年、けやき坂46時代の楽曲)のときに隣に立っていたんですけど、そのときよりもお互いに成長した姿を見せ合えるのかなって思うし、また隣に立てて嬉しいなっていう思いがあります」
新しい面を見せて変わり続けていく日向坂46。そんな彼女たちの姿を記録した『日向撮』について、佐々木は記者会見で「46億人に見てほしい」とユーモアを交えて宣言した。
佐々木「インスタグラマーの方にも見てほしいです。こういう素の姿も映えるんだよ、って知ってほしいです。声が聞こえてくる写真っていうのが、一番見ていて幸せになるんだよっていうのを知ってもらいたいです」
加藤史帆(かとう・しほ)
1998年2月2日生まれ、東京都出身。一期生として2016年から活動。
佐々木久美(ささき・くみ)
1996年1月22日生まれ、千葉県出身。一期生として2016年から活動。
小坂菜緒(こさか・なお)
2002年9月7日生まれ、大阪府出身。二期生として2017年から活動。