映画、舞台、ドラマの話題作に続々と出演中の西野七瀬(27)。乃木坂46を2018年に卒業してから、役者としての新たなロールモデルとなってきた卒業生だ。卒業直後は時間ができたことを気に病んだものの、役者として仕事を始めてからは楽天的になったという。そこには変化を積極的に選んでいく西野の姿勢があった。(取材・文:宗像明将/撮影:伊藤圭/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
乃木坂46卒業後も芸能活動を続けたのは生活のため
「アイドルの活動をしていたときは、写真でも動画でも常にいい状態で映らなきゃというのがあって、『あんまり崩れた表情はよくない』っていうのが無意識にあったんです。でも、『どの角度から、どの瞬間から見てもかわいい、きれいとかは、ちょっと私には無理だな』って気づいたときがあったんです。だから『いいって一瞬でも思ってもらえるように頑張ろう』って思うようになって」
西野がそう目の前で語るのを、にわかには信じがたい感覚で聞いていた。2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。東京ドーム公演、「NHK紅白歌合戦」出場などの一方、ソロではファッション誌のモデルとして活躍し、写真集も大ヒットさせるなど、同性からも強い支持を得てきた。2018年に乃木坂46を卒業した後は、役者として映画、舞台、ドラマの話題作に続々と出演中だ。
西野の発言が意外だと伝えると、「ほんとですか、どう思ってると思ってました?」と聞き返す。表情も声のトーンも、取材中、常に落ち着いていた。
「自分の中での理想像がきっと高くて。だけど、卒業してひとりになって、役者というお仕事をし始めたら、それを崩さなきゃいけないし、もっといろんな表情のバリエーションを見せられるようになんなきゃと思って、今も進行形で『もっとできるようにならないとな』って思っています」
乃木坂46の卒業後は、そもそも芸能活動を続けるかどうかを決めていなかったという。
「芸能活動を続けたのは、生活のためでした。仕事を続けていかないと生きていけないので、『何を一番、今、自分はやりたいんだろうな?』って考えて。グループのときからお芝居は少しずつさせていただいていたんですけど、他のお仕事もたくさんやりながらだったので、『いろいろ挑戦してみたいな、もっと苦手なこととどんどん向き合っていきたいな』みたいな感じでした。『乃木坂での7年間はアイドルをできた、ここからはまた違う自分として1年目を始めよう』って、過去のことと地続きという感じはまったくありませんでした。卒業直後は、グループの稼働がなくなったぶん、自分の時間がめちゃめちゃできたことに慣れなくて、気に病みましたね。『体力、有り余ってるな』みたいな感じで」
卒業当時は、どうしてもネガティブなことを考えてしまう時間が長かったという。西野の性格を変えたのは、役者の仕事だった。
「卒業してから、すごく楽観的になりました。ネガティブなことも、明るいトーンで言ってたりするんですね。それまでは、毎日同じメンバー、同じスタッフさんと仕事をして、それも楽しかったんですけど、役者は毎日違う現場で違う人に会って。単純に会う人の数も多いし、さまざまな人にお会いできて、いろんなお話が聞けて、すごい楽しいなって思ってきて。卒業してから、ひとりでやっていくかどうかを決めるときは、『生きるため』っていうのが大きかったんです。でも、今は自分自身のためでもあるし、人との出会いのためだったり、作品が完成して、それを受け取ってくれる人のためだったり、いい考えに変わったなって感じがします」
2019年からレギュラー出演している『グータンヌーボ2』(関西テレビ)のロケで、初めて会う人と接することも大きかったと語る。人との新たな出会いが西野を変えていった。
落ち込むことはほとんどないんです
西野に自己肯定感について聞くと、「低くもなく高くもなく、だと思います」と答える。そうした状態を維持する秘訣は、動物やゲーム実況の動画を見たり、お笑いのテレビ番組を見たりすることだという。
「落ち込むことはほとんどないんです。好きなものに触れている時間がかなり多いからかな、って」
ただ、そうした精神的な安定感が出てきたのは最近のことだ。
「25歳ぐらいから本来の自分が出てきた気がします。占いが好きで見るんですけど、『双子座は社交的だ』と書いてあっても、以前はあんまりピンときてなくて。でも、25歳になって、自分が変わって、これが本来持っていたものなのかな、とか」
西野を変えた役者という仕事。それでも、「乃木坂46」というかつての看板は背負っているという。
「今もアイドルのように思われることはありますし、完全に『アイドル』という印象は抜けてはないのかなって思っています。ときどきかわいらしい感じのキャラを求められたときに、『やばい、どうしよう、できない』って焦ったりもしますね」
だが、今年2月から公演開始した劇団☆新感線の舞台『月影花之丞大逆転』での演技は堂々たるものだった。アイドル的な要素もある役柄を正面から受け止めてコメディーを演じ、会場を沸かせていた。
3月からAmazonプライムで配信開始した『ホットママ』では、突然母親になる女性を主演。主人公のシチュエーションが次々と変わっていくなかで、その気持ちの変化を見事に演じきった。
「ふだんからそんなに表情豊かなタイプじゃないし、リアクションもあんまり激しくないんです。でも、あの役は振り回されて、表情が豊かであればあるほど、作品全体がすごく良くなる気がしました。だから、『どういうふうに映っていてもいいや』って、割り切れてできたところもありました」
今月公開の映画『孤狼の血 LEVEL2』にも出演。『ホットママ』と同時期に撮影し、入れ子状態の進行だった。『ホットママ』は東京で撮り、『孤狼~』は広島ロケと、往復を繰り返した。さらに『孤狼~』で演じるのは、ヤクザの世界に翻弄される女性。作品の世界観もまるで異なる。
「大変でしたけど、『大変だったなー』って感じです。『もう二度としたくない』みたいな感じではなくて、『ああ、乗り越えたな』って。その時期は、友達に会って、脱出ゲームで遊んだりして、それが息抜きになってました。昔は休みは絶対家にいたいし、誰とも会いたくないタイプだったんです。でも、今は休みこそ友達と会いたい。会ってしゃべるだけで気持ちもほぐれるので」
自分から壁にぶつかりたい
今月は、カフェの店員を演じた映画『鳩の撃退法』も公開される。『鳩の~』の主演は藤原竜也、『孤狼~』の主演は松坂桃李で、『月影花之丞大逆転』では古田新太や阿部サダヲと共演。日本の演劇のトップランナーたちと共演している。
「みなさんのお芝居がすごいのは当たり前ですけど、『どうしてこんなに上手なんだろう?』ってわからなくて、稽古中もよく見てたんです。『お仕事が来て、それをこなして、っていう時間の積み重ねだけではないんだろうな』っていう結論になって。不安になったときには、『今一線で活躍している素晴らしい役者の方々も、自分みたいに不安な時期がきっとあったはず』って思うようにしています」
役者としての壁に当たることも多いという西野。そこにストイックさがうかがえる。
「すぐ壁を作っちゃうんです。『ぶつかりたい』って。どんどん厳しい道に行きたいタイプで。ぶつかれれば、それはもうチャンスじゃないですか? そこで自分のことを試せる。そういうのがないと、道がバーンと開けていても、『え、大丈夫?』ってなっちゃう。定期的に悩む時期は欲しいです」
キャリアに悩む同世代にアドバイスをするとしたらなんと言うだろうか。
「地元の同級生でひとり、東京にいる子が、最近転職して『お、いいな』って思って。合わなかったら全然変えていいと思います。もちろん簡単に決断できることではないと思いますが、変えないと自分のしんどい時間が続いて、本来伸ばせるものも伸びないかもしれない。少しでも空気を変えて、違う環境に行けたほうがいいんじゃないかって」
乃木坂46卒業後、自ら積極的に環境を変える姿勢を身につけた。それが最大の成功の秘訣なのかもしれない。
「家に帰ってお風呂入ってるときに、『あー、すごく恵まれてるなー、幸せだし楽しいな』ってよく思うんです。ちょっとは自己暗示もあると思うんですけど、毎日楽しく過ごせているので、今、すごく生きやすい感じです。自分でも変わらないといけないと思うんです。でも、無理に変えたわけじゃなくて、生きやすいほうに無意識に変わっていった感じがします。自分で自分の機嫌を取れるほうだと思うし、ペース管理もできるほうだと思うので、あんまり『こう』って決めないで、このまま変わりたいように変わっていくのかなと思います」
西野七瀬(にしの・ななせ)
1994年生まれ、大阪府出身。2011年、乃木坂46の1期生メンバーのオーディションに合格。2015年からはファッション誌『non-no』の専属モデルを務める。2018年、乃木坂46から卒業。同年から『グータンヌーボ2』(関西テレビ)にレギュラー出演。2021年、劇団☆新感線『月影花之丞大逆転』に出演。Amazonプライム『ホットママ』で主演を務める。現在放送中の『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)に出演中。出演映画『孤狼の血 LEVEL2』は8月20日から、『鳩の撃退法』は8月27日から公開予定。