デイリースポーツ評論家・狩野恵輔氏(37)が、今シーズンで現役引退した藤川球児氏(40)とバッテリーを組んだ試合の中で最も印象に残っている試合を述懐。猛虎一筋17年のプロ生活を送った狩野氏が挙げた試合は2009年5月27日・西武戦(甲子園)だった。藤川-狩野のコンビによる配球の“ギアチェンジ”で生まれた名場面「3者連続3球三振」を振り返る。(敬称略)
◇ ◇
長いシーズンをにらんで他球団を惑わせる配球と勝負所での配球-。藤川-狩野のバッテリーによる「3者連続3球三振」は2009年5月27日・西武戦だった。猛虎の歴史の中でも印象度の高いシーンが生まれたのは“エサまき”で走者を背負いピンチを招いたことが背景にあった。
この日、スタメンマスクだった狩野は先発・下柳をリードで7回1失点に導き、八回に登板した2番手・アッチソンを1回無失点。そして3点リードで迎えた九回のマウンドへ守護神・藤川が登る。
「あの頃、球児さんとよく話をしていて。球児さんの真っすぐなら相手を抑えられるのは分かっている。だけど、例えば3点差の場面で、そういう攻め方をしてしまうと、データとして相手(他球団)に残ってしまうから、例えば3点差なら違う球種で抑えていこう、と」
あくまで最大の武器は藤川の代名詞でもあるストレート。一方でカーブなどの“残像”も植え付けたい。各球団に集まるデータは、カウントごとでの球種比率。「カウントに応じた球種がデータとして残るんです。例えば2ストライクからはフォークの比率が高くなるとか。ただ、そのデータには点差やスコアは反映されていない。だから(3点リードの場面では)あえてエサまきを」
今後の戦いを見据えたバッテリーの“戦略”。3点リードを踏まえて、この日は通常と違うカーブといった変化球に比重を置く配球の算段を立てた。
狩野がリードを「ギア・チェンジ」させたのは無死一、二塁のピンチとなってから。この回先頭の代打・大崎を四球で歩かせ、続くGG佐藤に初球のカーブを左前へ運ばれた。本塁打で同点の状況となり狩野がリードを一変させる。
「セーブシチュエーションではありましたが3点差。ただ、GG佐藤さんにカーブを打たれてしまい、ホームランを打たれないようにギア・チェンジを。真っすぐに」
西武ベンチは、石井義、ボカチカ、江藤と立て続けに代打攻勢を仕掛けてくる。対して藤川-狩野のバッテリーは、最終打者となった江藤への初球に選んだフォークを除いて直球で押した。実に9球の内、8球がストレートだった。
結果は3人いずれも空振りの3球三振。ファウルすら打たせない。9つのストライクの内、4つを見逃し、5つを空振りで奪って試合を締めた。
「何でもかんでも、真っすぐとフォークを投げていたら、いつかしんどくなる。そういうやり取りを普段からしていて」。一発同点の難局から1点リード時の配球への切り替え。得点差に応じた配球を常に2人で確認していたが故、あうんの呼吸で「3者連続3球三振」の名シーンが生まれた。
外部リンク