軸がブレることはない。
屈強なディフェンダーにがつんとぶつかられても、鍛え抜かれた下半身でぐっと踏ん張る。ずる賢くプレーする方法は頭で理解しているが、あえてその選択肢を取るつもりはない。前線で体を張ってポストプレーをこなす杉本健勇にはこだわりがある。
「簡単に倒れたくないんで。当たり負けはしたくない。これがいいのか、悪いのか、分からんけど、どうしても頑張ってしまう。ピッチに転がらんと、点につなげるのが一番いいと思ってる」
今季は特にファウルを誘発するようなプレーに厳しい目が向けられており、レフェリーがあまり笛を吹かないことも分かっている。
「なおさら、倒れないようにしないと」
9月13日のコンサドーレ札幌戦でも、その体の強さが際立った。最終ラインの裏に抜け出す得意の形から好機をつかむと、斜め後ろから走ってきた相手を弾き飛ばしてシュートを放ち、ゴールネットを揺らした。
「相手にわざと体を当ててからシュートコースをつくったんです。当てないと、スライディングをされると思ったので」
187センチ・79キロ。大柄な体は持って生まれたものであるが、体の強さとキレのある動きは、一朝一夕では身につかない。若い頃からパフォーマンスを向上させるために自分への投資を惜しまなかった。
きっかけは23歳のときだ。2016年に川崎フロンターレからセレッソ大阪に戻り、自らの体をイチから見つめ直した。チーム練習が終われば、個人で契約した専属トレーナーの組むメニューで体を鍛え直し、毎日の食事も改善。日々の積み重ねである。
「重視したのは体のキレ。筋トレしたから体が強くなるわけではない。上半身と下半身を連動させることが大事。結果が出ないときに、どれだけ準備できるかどうかが重要やと思います」
同年、J2で14ゴールを挙げ、翌年にはJ1でキャリアハイの22ゴールを記録。効果はてきめんだった。
「体の変化をはっきり感じましたね。ピッチでの動きが違ったので。2017年の頃は何をやってもうまくいく気がしてました」
しかし、飛ぶ鳥落とす勢いも思わぬ形でブレーキがかかってしまう。17年末、左足首にメスを入れると、以前のように体が動かなくなったのだ。
「たかが足首と思うかもしれないけど、俺の場合、すごく繊細で……。復帰後もずっと違和感が残っていたんです」
かつての感覚は、いつになっても戻らなかった。全体練習後、故障前と同じように個人トレーニングに励んでもしっくりこない。2018年、浦和レッズに加入してからも、かつてのイメージに悩まされた。
「俺はもっとできていたし、できるのになんでできへんねんって」
それでも、昨季途中に周囲からの助言があり、ようやく過去と決別する。
「このままやったらあかん。一回ゼロにしようと思って」
自分の体とコンディションに合った形で、長年連れ添ったトレーナーとともにメニューを組み直した。年齢を重ねて、心身ともに変化すれば、体のチューニングが変わってくるのは当然。今も昔と変わらないのは、コツコツと打ち込むこと。
「トレーニングをしているからといって、結果につながるわけではない。過程が大切。それが僕たちの仕事やから。結果が出ようが、出まいが続けていかないといけない」
ブレない体を支えているのは、ブレない心である。
そして、移籍2年目の秋を迎えたこの時期、そのトレーニングをまた少し変えたという。具体的な変化については「ここではちょっと」と言葉を濁しながらも、口元を緩めていた。
「いまの自分がたどりつくところは見えているんで。もっと頑張らんとあかんけど、そこに近づくために努力してるから。世界を見れば、えげつないくらい強い選手はいっぱいおる。そこにも負けたくない。だから変化して、さらに進化していかないと」
今季、リーグ戦初ゴールは16節の札幌戦。無得点がしばらく続いたものの、自信が揺らぐことはなかった。点を取っていても、取れなくても、やるべきことは変わらないからだ。
「人よりも練習すること」
広い意味での“練習”である。昭和の熱血アニメよろしく、寝る間も惜しまずボールを蹴り続けているわけではない。科学を無視するのはナンセンス。午前の練習が終わり、クラブハウスで昼食を取れば、まっすぐ帰宅。午後からはパフォーマンス向上のためにジムで個人トレーニングに取り組む。夕食は栄養のバランスを考えて口に入れ、夜は睡眠をしっかり確保して体を休める。これらすべてが“練習”の一環なのだ。SNSなどでプライベートの一面を公開することもあるが、それは日常のほんの一部を切り取ったものに過ぎない。タイトなスケジュールで試合をこなしていくなか、体のケアには細心の注意を払っている。
「チームの勝利に貢献するために、まずはケガをしないことを心がけています」
残りの試合数を指折り数えると、ストライカーの矜持が口をつく。
「2ケタ、取りたい。個人目標を聞かれてもあまり口にしてこなかったけど、2ケタは取らないといけないと思ってる」
今季は倒れないポストプレーで味方を生かし、前線からの献身的な守備でチームのためによく働いている。ゴール以外での貢献度は高いが、「それはやって当たり前やから」とさらりと流す。
「自分の仕事はそこにプラスアルファ、点を取ること。もっと点を取りたいし、一番多く取りたいと思っている。自分は周りを生かして、生かされるタイプ。独力でゴールをこじ開ける選手ではない。周囲との連係がさらに深まれば、バンバン取れるはず。最後は自分次第やと思ってる。求められているのは結果やから。俺が20歳やったら違うけど、もうそうじゃない。フォワードって、やっぱり点を取らな、信頼されへん。俺は、そこに人生を懸けてるんで」
言葉には27歳の覚悟と自覚がにじんでいた。“ゼロ”からリスタートして1年。地道に続けてきた努力が浦和で報われる日は、そう遠くないはずだ。そのとき、再び覚醒する。
(取材/文・杉園昌之)
8月8日の記憶は簡単には消えない。名古屋グランパスに前半だけで5点を献上し、後半にも1ゴールを許して計6失点の大敗。コロナ禍の影響でファン・サポーターは敵地に足を運ぶことはできなかったが、画面越しに大きなショックを受けたのは想像に難くない。
10月4日、ホームで雪辱するときがようやくやってきた。この日から埼玉スタジアムの入場数制限が緩和され、最大1万8000人まで収容可能となる。リベンジの舞台は整った。2カ月前の試合で後半から出場した関根貴大は、気持ちを高ぶらせていた。出場停止明けで休養も十分である。
「アウェイであのような負けた方をしているので、ホームではより戦う姿勢を見せないといけない。最終ラインから前線まで守備の意識が大事になる。どの試合もそうですが、借りは返さないといけません」
注目したいのは、レッズの戦い方。2連敗しているなかでも、攻撃の手応えはつかんでいるはず。自陣で守りを固めるだけでは、その先の進歩はないだろう。横浜FC戦、FC東京戦での収穫を生かし、攻めの姿勢に期待したい。
名古屋のコンパクトな守備ブロックを崩すには、サイド攻撃ばかりでは難しい。センターバックの中谷進之介と丸山祐市で固める中央の壁は高くて堅い。どれだけ勇気を持って、中央突破を織り交ぜられるかは見どころのひとつになる。中3日の2連戦でほぼフル稼働し、疲弊している柏木陽介に多くを求めるのは酷。エヴェルトン、柴戸海らボランチの働きが勝敗を左右しそうだ。
中央突破にリスクはつきもの。素早い攻守の切り替えがカギとなる。火消し役のキーマンもボランチか。中央寄りにポジションを取っているサイドハーフの戻りも重要になってくる。あっさりカウンターを浴びれば、前回の二の舞になる。次節こそが、成長した証を見せるときだ。
(取材/文・杉園昌之)
「良いところを見逃さずに次につなげたい」
9月30日、FC東京に敗れた後、大槻毅監督がリモート会見で語ったコメントの一部である。結果として2試合連続で無得点。反省点を挙げれば、切りがないだろう。ただ、相手があえてボールを持たせてくれたという点を差し引いても、豊富な攻撃のバリエーションが垣間見えたと言ってもいいはずだ。
柏木陽介のボランチ起用がもたらしたものはいくつもある。32歳の司令塔は横浜FC戦の後半と同じように、中盤の底からパスを配球し、チームに落ち着きをもたらした。無理なカウンターアタックでボールを失う回数が減り、行ったり来たりの回数が減少。ボール保持率が上がったことで、不必要に体力を消耗しなくなった。どれだけ気持ちが入っていても、人間のスタミナには限界がある。燃料が担保されれば、ハードワークが長く続くのも道理だろう。
今季、浦和でよく聞くフレーズの「縦に速いサッカー」も生きていた。「緩」と「急」があるからこそ、「急」が生きる。縦に急ぐばかりでは、相手にも読まれやすい。
FC東京戦では背番号10がタイミングを見計らって、攻撃のスイッチを入れていた。横パスを入れて、すぐにリターンをもらい、時間をつくることもあれば、手間暇かけずに直線的に仕掛けることもある。同じ縦パスでも裏に出すボールだけでなく、足元から足元へつなぐパターンにもトライし、何度も中央突破を試みた。
武藤雄樹が中継役を担い、最前線の興梠慎三までつながる形は、長年培ったコンビネーション。そこにサイドハーフの汰木康也らがうまく絡み、新たな可能性を感じさせた。サイドからのクロスボールばかりでは堅固な守備ブロックは崩せない。「中央」があるから、「サイド」も生きるというのもの。どのような攻撃も一辺倒では難しい。
浦和の目指すサッカーを具現化するには、「時間」と「幅」をコントロールする司令塔が必要だろう。出場機会をほとんどつかめていない高卒新人の武田英寿も、その候補のひとりのはず。ルーキーの台頭は、今後を占う上でカギとなるかもしれない。
(取材/文・杉園昌之)
9月28日は浦和レッズニュースでもおなじみ「浜野塾」塾長、浜野征哉48歳の誕生日だった。
普段は近づき過ぎると過酷なトレーニングに付き合わされてしまうため、距離を置いている撮影班だが、この日はめでたい誕生日ということもあり突撃インタビューを実施した。
自ら「HAMA48」と呼び、おどける塾長だったが、インタビュー開始直後にボールを蹴りこまれるハプニングが発生。
しかし、さすがの塾長はそんなことも気に留めず、落ち着いた様子でインタビューを再開。
今年の抱負については、「もう年をとりたくない」ということで、体脂肪をさらに落としにかかると言う。
体脂肪なんてすでにほとんど無いはずだが、、、来年どんな身体になっているのか、今から期待をしてしまう。
最後に、鈴木彩艶と石井僚からもお祝いのメッセージを伝えられた塾長。
若手2人の顔は多少引きつっていたように見えなくもなかったが、2人も口をそろえるほどの「アツイ男」浜野征哉GKコーチは、48歳になってもフルスロットルで浦和レッズのGK陣を引っ張っていく。
浜さん、誕生日おめでとう!!
(浦和レッズオフィシャルメディア)
とある日の練習後、テラスから「ジュージュー」と何かの音がしてきた。
そこにいたのはトーマス デン。
「今日は最高のバーベキュー日和だね」トミーが言った。
どうも彼はひとりでバーベキューを楽しんでいるようだ。
さすがオーストラリア代表選手、日本にいてもオーストラリアの心を忘れてはいない。
慣れた手つきでステーキ肉をひっくり返し、ソルト&ペッパーを少々。
未だかつて、クラブハウスでバーベキューをした選手はいないのではないか。
テラスから臨む、大原の素晴らしい景色を見ながら、優雅なランチなんて羨ましい。。。
そんなことを思ったのだが、どうもこちらは、とあるJリーグの企画の準備だそうだ。
オージービーフを丁寧に焼き上げるトミーだったが、これからどんなものが出来上がるのか。
ぜひお楽しみに!
(浦和レッズオフィシャルメディア)
11月4日、ナビスコカップ決勝。5万6064人が集まった旧国立競技場の客席は、レッズの鮮やかな赤ばかりが目立った。快晴の空に大きなフラッグがはためき、まるでホームの雰囲気である。ファン・サポーターの大きな声援がどこまでもこだましていた。初戴冠への期待の高まりは、プレッシャーにもなっていたのだろう。試合前、ベンチ前に一列に並んだイレブンの顔には緊張の色がにじんだ。
FW:⑪トゥット、⑩エメルソン、⑦永井雄一郎
MF:㉘平川忠亮、⑬鈴木啓太、⑨福田正博、②山田暢久
DF:⑲内舘秀樹、③井原正巳、⑳坪井慶介
GK:㉑山岸範宏
ベンチで悠然と構えるのは、就任1年目のハンス・オフト監督だ。
「進歩は急に起きない。急に起きているように見えるだけだ」
名伯楽の口癖である。当時55歳の指揮官は地道に基盤を築き上げ、徐々に力をつけていった。第1ステージは11位。決して肯定的な声ばかりではなかったが、焦らず慌てず歩を進めていく。「オフトマジック」という言葉を何よりも嫌った。第2ステージに9戦負けなしで一時首位に立っても、積み重ねの結果だと言わんばかりに表情をほとんど変えなかった。ナビスコカップでも順調に勝ち進み、準決勝では延長戦の末にガンバ大阪を撃破。ついにクラブ史上初めてとなるファイナルまでたどり着く。
最後に立ちはだかったのは、豊富な優勝経験を持つ鹿島アントラーズ。大舞台の場数を踏んでいる相手は手強かった。勝負どころを知っており、0-1で逃げ切られてしまう。ボランチとして出場していた福田正博は終了の笛を聞くと、静かにピッチ中央へ足を運んだ。下を向くこともなく、途中交代した井原正巳から譲り受けたキャプテンマークを腕に巻き、どこか遠くを見ていた。現役のラストイヤー。どうしても欲しかった自身初タイトルを目の前で逃したのだ。ただショックに打ちひしがれるよりも、本人はチーム力の差を素直に認めていた。引退後、あらためて当時のことを聞いたことがある。
「あのときは、まだ早かったんだと思う。あの試合は負けるべくして負けた。スコア以上に鹿島との差はあったから。鹿島の選手たちは勝ち方を知っていた」
秋以降はリーグ戦でも勢いを失っていた。ナビスコカップ決勝前から含めると6連敗を喫し、第2ステージはそのまま終幕。初のステージ優勝も見えていたが、8位まで転落してしまった。
その年の暮れにはプロの鏡となった井原と、三菱重工、三菱自工のJSL時代から14シーズン、レッズでプレーした福田(元コーチ)がスパイクを脱いだ。偉大な二人がクラブに残した財産は大きい。同年のJ1新人王とナビスコカップのニューヒーロー賞を獲得した坪井慶介は、井原からプロ精神を学んだという。ピッチ内のプレーだけではない。生活面から振る舞いまですべてである。坪井は大敗したあとでも、自らのミスで負けたときも、取材ゾーンでは報道陣の質問には必ず答えていた。
「負けたときこそ話すのがプロ」
40歳でプロキャリアに幕を下ろすまで、尊敬する井原の言葉を胸に留め続けていた。
ミスターレッズの異名を取った福田は、浦和の子供たちに夢を与えた。そして代名詞の背番号9は、レッズの特別なナンバーになった。
「将来、僕もレッズの9番を背負いたい」という思いを秘め、アカデミーに入ってきたのが原口元気(現ハノーファー=ドイツ)。負けん気の強い神童は順調に育ち、17歳でトップ昇格。プロ契約を結んでしばらくした頃、目を輝かせて話してくれた。
「僕もいつか福田さんのような存在になりたい。勝負どころでゴールを決めているイメージが強くて、本当にカッコよかったから。Vゴールも多かったですよね」
背番号の重みを深く理解する男は、プロ6年目で憧れの9番を背負ってプレーし、ドイツへ旅立って行った。
先人たちが築いた歴史は継承され、それが伝統になっていくのだろう。
Jリーグ・第1ステージ:11位
Jリーグ・第2ステージ:8位
ナビスカップ:準優勝
天皇杯:3回戦敗退
ベストイレブン:エメルソン
(取材/文・杉園昌之)
おぼろげだった輪郭が徐々に鮮明になり、はっきりとした形を現そうとしている。
ただ、その景色を臨むには、もうひと山、ふた山、越えなければならないだろう。
何の話かと言うと、浦和レッズのサッカーのことだ。
新型コロナウイルス感染症の影響で中断していたリーグ戦が再開して3カ月弱。折り返しとなる17試合を終えて思うのは、もっとやれたと感じる鼓舞の思いと、後半戦に昂ぶる期待だ。
先に期待感について触れれば、試合を追うごとに、目指している縦に速いサッカーは具現化されつつある。そういった意味でも2-1で勝利したJ1第18節の清水戦は、実にポジティブだった。
ひとつは、興梠慎三が59分に決めた追加点が、まさに狙いとしていた形だったからだ。ボランチで出場していた長澤和輝が自陣でボールを奪い、前線のレオナルドに縦パスを通す。ゴール前に進入したレオナルドは相手を引きつけると、冷静にパスを選択して駆け上がってきた興梠がシュートを決めた。
4-3で撃ち合いを制した札幌戦(J1第17節)で、杉本健勇が決めた2点目も同様だった。青木拓矢が自陣からDFの背後に縦パスを通すと、杉本がスピードで相手をぶっちぎって見せた。
J1第15節の鳥栖戦で興梠が決めた、J1通算150得点目のゴールもそうだった。自陣から槙野智章、関根貴大、興梠と縦に、縦につなぎ、関根がミドルを放つ。そのこぼれ球を興梠が押し込んだ。
0-3で敗れはしたが、川崎F戦の15分にも自陣からのクリアを関根が運び、レオナルドに縦パスを通すと、フィニッシュまで持ち込む場面があった。連戦でメンバーが変わっても、意図した形が作り出せているのは、チームとしてのやるべきことを選手たちが理解し、実行している証だ。
同時に、チームはふたつの顔を持っている。サッカーには当然、流れがあるだけに、自分たちが主導権を握る時間帯もあれば、相手がペースをつかむ状況もある。そうしたときに耐える忍耐性と、勢いを持って前からボールを奪いに行く積極性。このふたつの顔を今シーズンの浦和レッズは見せている。
前者として顕著だったのは、自分たちが3本だったのに対して、相手に20本ものシュートを打たれながら、1-0で勝利した広島戦(J1第10節)だろう。特に後半は12本のシュートを浴びたが、ピッチに立つ選手たちが状況を的確に判断し、ゴール前を固めると、相手の攻撃を跳ね返し続けた。
一方で、試合によっては自分たちが攻勢に回り、押し込む時間帯も作り出している。左SBの山中亮輔がMFとのコンビネーションを活かして外と内を巧みに使う。逆サイドでは、橋岡大樹が深い位置まで進入してクロスを上げる。両SBが頻繁に攻撃参加できている状況がそれだ。
清水戦がポジティブだったと綴ったのは、そうした戦い方を時間帯によって使い分けられるようになっていたからだ。押し込まれているときには、全体的に下がって守備のベースを作り直すと、全員が前向きでプレッシャーを掛けていく。一方でチャンスと見るや、高い位置で連動しながら、前線からボールを奪いに行く。
要するに、そのときどきの相手を見て、戦い方を変えられるまでに、チームは成熟しつつある。
チームに対して、もっとやれたと鼓舞したいのは失点についてだ。これはどのチームにも言えることだが、今シーズンの浦和レッズはことさら先制されると苦しくなる。清水戦も含め、先制した試合では7勝1分というデータが如実に表してもいる。
裏を返せば、先制された試合では、かなり旗色が悪くなるということでもある。にもかかわらず、前半戦を振り返れば、試合開始から15分までに失点しているケースが目につく。
また、その失点にしても、ミスによりボールを失って決められたものや、サイドを揺さぶられてクロスから許したものが圧倒的に多い。完璧に崩されたものではなく、もったいない失点ばかりなのだ。
言い換えれば、それらは改善できる部分であり、修正できるところでもある。
縦に速いだけでなく、サイドからの攻撃も形になっていれば、セットプレーからの得点を狙えるほどキッカーも揃っている。優位に試合を進め、意図した形を多く作り出すためにも、先制点を奪われるのではなく、奪いたい。縦に速い攻撃にしても、その頻度をいかに増やしていけるかだ。
今はまだ、忍耐性を問われる時間帯が長いかもしれないが、積極性を活かせる時間をさらに5分、さらに10分と増やしていければ、見えつつある絶景は眺められる。
なぜなら、浦和レッズが登る山ははっきりとしているのだから。
(取材/文・原田大輔)
前回対戦から11試合を経て、どれだけチームとしての上積みを見せることができるだろうか。
浦和レッズの現在地を知るうえで、J1第19節の横浜FC戦は一つの物差しになりそうだ。
J1第7節で対戦したときには、浦和レッズが2-0で勝利した。52分に関根貴大の縦パスからレオナルドが決めて先制。試合終了間際にもカウンターから素早い攻撃を仕掛けると、最後は長い距離を走ってきたエヴェルトンが押し込んだ。
まさに、今シーズンの浦和レッズが目指すパターンで勝利を飾った試合だ。
一方で、90分を通して振り返れば、シュート数は両チームとも12本。前後半ともに6本ずつと、互いに決定機を作り出し、チームとしての両者の意図が表現された試合だった。
ポゼッションサッカーに挑戦している横浜FCは、自陣でボールを回しながら穴を探った。対する浦和レッズはボールを奪う位置とタイミングを図り、サイドを有効的に使った攻撃を試みた。
横浜FCは前線の斉藤光毅と一美和成、2列目の手塚康平の躍動が目立てば、浦和レッズは関根の突破、興梠慎三のキープ力、レオナルドのスピードが印象に残った試合でもあった。
そこから試合を重ね、現在、横浜FCは5勝2分11敗の14位につけているが、前節は首位の川崎Fを相手に一歩も引かず2-3と競り合った。ポゼッションサッカーに磨きを掛けていれば、チームとしての方向性も定まりつつある。
前回対戦したときよりも、チームとしての完成度は高まっていると考えたほうがいい。
ただし、浦和レッズもそこは負けていない。相手を見ながら、自分たちが成すべきことを探っていく戦い方は、数多く経験してきている。後ろから攻撃を組み立ててくる相手に対して、どこでボールを奪い、どこから仕掛けるか。指標である縦に速い攻撃はもちろんのこと、サイドの幅を使った攻撃も含め、主導権を握る時間帯を前回対戦以上に増やしたい。
中2日での連戦は、コンディション的にも厳しいものがあるが、そこは相手も同様。連戦でもチーム力が乱高下しない選手層があることも浦和レッズの強みである。
結果だけでなく、内容でも相手を凌駕できるか。横浜FC戦は、浦和レッズの現在地と積み重ねてきたものを測る一戦となる。
(取材/文・原田大輔)
特に若手選手たちの多くは、自らの成長のために日々居残り練習をする。
たまに練習をしすぎてコーチ陣たちから注意される選手もいるほど、自分自身のレベルアップに必死だ。
とある日、ルーキーの武田英寿と橋岡大樹が1対1の居残り練習をしていた。
武田が今後の日本を引っ張っていくような選手になるためには、昨年日本代表に初選出された橋岡に勝利することが必要だ。
特にディフェンス能力に定評のある橋岡が相手だ。
「お前には越えなければいけない壁はたくさんある。だが、今は目の前の相手を超えろ!」
そんな声が、横にいる平川忠亮コーチから聞こえてきそうな雰囲気だった。
武田の足に吸い付くような見事なトラップから、1対1が始まる。
右、左、右。武田は重心を左右に揺さぶりながらゴールを目指す。
しかし、身体能力に優れた橋岡がうまく対応し、ボールをカット。勝負ありだ。
今日も大原では選手たちが自分自身の“壁”を超えるために汗を流す。
居残り練習の先に、見えるはずの光を目指して。
(浦和レッズオフィシャルメディア)
直接フリーキックでのゴール――それはサッカー選手なら誰もが夢見る瞬間だ。
大勢のファン・サポーターから一斉に注目を浴び、全員からの期待を背にゴール……その後の大歓声を想像するだけで鳥肌が立ってしまう。
浦和レッズには阿部勇樹、柏木陽介、山中亮輔のほかにも、多くの選手がフリーキックを得意としている。
GK西川周作もユース時代に直接フリーキックを決めたこともあるほどだ。
そんなチームだからこそ、キッカーの権利を得るためにはアピールが必要ということで、選手たちは日々、フリーキッカーになるためのトレーニングをしている。
まずは、マルティノス。
マルティノスはコーナーキックなども任されているように、正確な左足から多彩なキックを蹴ることができる。
映像の通り、この日も美しいフリーキックを2本連続で決めていた。
そしてもう一人は、槙野智章。
槙野といえば、鍛えられた太ももから繰り出す弾丸シュートのイメージが強いが、繊細なコントロールキックもできるのだ。
ボールをセット。
槙野の右足インフロント部分から巻き込むように蹴られたボールは、そのままゴールネットに吸い込まれた。
本人のイメージ通りの軌道。しっかりとアピールできたはずだった。
「大槻さん、見てるぅ??」
槙野が言った。
しかし、遠くにいた大槻監督の視線に槙野の姿は無かったようだ。
選手たちのキッカーへのアピールは続く・・・。
(浦和レッズオフィシャルメディア)