4月25日の大分トリニータ戦では移籍後初ゴールをマーク。歯車が噛み合い始めた新生レッズを支えるキーマンの一人と言っていい。
今季、ヴィッセル神戸から加入した西大伍は期待に違わぬ活躍を披露している。
右サイドを駆け上がり、精度の高いクロスで好機を演出したかと思えば、ペナルティーエリアに侵入してゴールまで奪ってしまう。あの手この手で攻めていく右サイドバックの魅力は奥深い。
日本代表経験も持つ33歳は、落ち着いた口調で丁寧に話す。
「多彩な攻め方ができるから面白いんです。その難しいところが好きかな」
ブラックバス釣りの話である。
釣り歴は10年。鹿島アントラーズ在籍時にすっかりはまったという。近所の霞ヶ浦、北浦に通い続け、週3回は湖で釣り糸を投げていた。
ブラックバスは雑食で時期によって、食べるものが変わり、ルアー(疑似餌)もそれに応じて変えている。
ただ、どれだけ頭をひねっても、サッカーと同じで思い通りにはなかなかいかない。
「10年くらい同じ場所、同じ時間に通い続けてようやく分かってくるものです。僕は正直まだ答えが分からない。それでも、いろいろ考えた結果、自分の選んだパターンがうまくはまると、うれしいですね」
小さなボードで湖面に静かに浮かんでいるときは釣りだけに没頭している。10時間、ぶっ続けで打ち込むこともある。
水を飲むのも、食べることも忘れてしまう。次はどこに投げるか。糸の先の感覚を敏感にキャッチにするために神経を研ぎ澄ます。西には仕事の流儀ならぬ、趣味の流儀がある。
「釣りっていうのは、自然のなかでやること。体にもいいし、脳にもいい。周りに人がいない環境で、釣りだけに集中できる。気持ちいいんですよ。サッカーを仕事としている僕にとっては、すごく重要な時間。やっぱり、何かを極めていくには『やらない時間』が大事かなと。仕事以外のことに夢中になれる時間は大切です。それはサッカーのときの集中力にも、つながってくると思っています」
たとえ、一匹も釣り上げられず帰路に着くことがあっても、ストレスを抱え込むことはない。むしろ、前向きにとらえている。
「釣れたほうが楽しいですが、いつも釣れるわけではないので。それは、それでいいんです。その日に答えが出なくても、必ずヒントはあります。きょう使ったルアーがダメだったということは、違う攻め方があったかなとか。それとも、場所が違ったかとか。釣りは奥深いですよ」
いまはコロナ禍の影響もあり、空前のアウトドアブーム。これから釣りを始めたいと思っている人も少なくないのではないか。レッズの釣り名人は、初心者に優しく手引きしてくれた。
「一番釣れるのは海かな。まずは釣具屋さんに足を運んで、店員さんに話を聞くのがいいですね。お店から近いところの情報をくれると思います。海まで行くのが大変なら、小さな水路でも釣りはできます。メダカ、タナゴ、ザリガリでもいい。釣り糸を垂らしてみると、きっと夢中になりますよ。僕はいまでもなりますから」
釣りの面白みを知ったならば、西大伍の金言を再度チェックしてもらいたい。きっといま以上に心に響くはずだ。
(取材/文・杉園昌之)