クラブスタッフから届いたLINEのメッセージを開いた瞬間、思わず目を丸くした。なでしこジャパン初招集のお知らせである。
「まさか自分が選ばれるとは思っていなかったので。いつもチームの月間予定には、代表のスケジュールが書き込まれているのですが、正直、一度もそこを意識したことはありませんでした」
2011年女子ワールドカップ優勝に大きな感銘を受け、幼い頃からずっと憧れてきた。U-20代表を経験しているが、やはり格別。それでも、穏やかな表情に浮かれた様子は見えない。
「選ばれたからといって、みんなと同じ場所に立ったとは思っていません」
これまで視野にも入らなかった東京五輪が薄っすら見えても、言葉を慎重に選んでいた。
「大会が延期されたからこそ、可能性が出てきたと思います。できる限り頑張ろうと思いますが、いまは先の大きな夢よりも、なでしこジャパンに定着できるようにしたいです」
塩越はあくまで謙虚な姿勢を崩さないが、客観的に見れば、代表候補に名を連ねても何ら不思議はない。なでしこリーグの首位を快走する浦和レッズレディースで3節以降、先発出場を続けており、いまや欠かせない戦力のひとり。得意の攻撃的なポジションで水を得た魚のように動き回り、ボールに絡んでいる。得意のドリブルにも自信がみなぎる。2節のアルビレックス新潟レディース戦ではカットインからスーパーゴールを決めた。本人も持ち味を出せていることには、手応えを感じている。
塩越柚歩のスーパーゴール解説
「今季は自分のやりたいことをやらせてもらっています。これも周りに年上の選手が多くて、みんながカバーしてくれるおかげです。ミスしてもすぐに取り返してくれますから。私も思い切ったプレーができます」
ベンチに座ることが多い経験豊富な安藤梢の存在は大きいようだ。周囲に気遣い、後輩たちの背中を押しているのだ。塩越もその恩恵を受けているひとり。試合前のウォーミングアップで気持ちのいいシュートを1本でも決めれば、「きょうはいいよ」と声をかけられる。試合中の飲水タイムのときにも、自信がつくようなひと言をもらうという。
「『きょうはゆず(塩越)にこぼれ球がきているから、いけるよ』とか些細なことですけど、それがうれしいんです。私はメンタルが強い方ではないので、本当に助けてもらっています」
いよいよ、なでしこリーグも最終盤を迎える。残り5試合で、2位との勝ち点差は6ポイント。来季からは女子プロリーグ「WEリーグ」の参戦が発表されており、レッズレディースとして同リーグを戦うのはラストになる。6年ぶりの優勝に向けて周囲の期待は高まるばかりだが、選手たちは落ち着いている。
「まだ優勝という言葉は、誰も口にしないですね。目の前の試合に勝つことだけを考えています」
17日にはマイナビベガルタ仙台レディースを駒場で迎え撃つ。スタンドで赤いユニホームを見るだけで戦う意欲があふれてくる。
「心強いですよ。私自身、一度もホームで点を取っていないので、どこかのタイミングで取りたいですね。浦和駒場で初ゴールを決めて勝ち、それで優勝できれば最高ですね」
静かに笑う顔に重圧の二文字はない。子供から憧れられるような女子プロ選手になることを誓う23歳は、最後まで自然体でタイトルをつかみにいく。
(取材/文・杉園昌之)
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