——練習場の桜も咲き、春になりました。この美しい桜を長年、見続けてきたふたりに、「桜」をテーマに話を聞かせてもらえればと思います。いきなりですが「桜」と聞いて、まずは何を連想しますか?
阿部
パッと思うことはふたつありますね。ひとつは入学式。出会いや新生活といったところですかね。この時期は何かと新しいことがはじまる季節。桜を見ると、新たな生活のスタートというのを思い出します。もうひとつは、「前田慶次」……。
水上
それ漫画のやつ?
阿部
そうです(笑)。『花の慶次—雲のかなたに—』という漫画を読んでいて、その中に桜の花びらが紙吹雪のように舞う場面が出てくるんです。全巻持っているほど好きな漫画だったので、それを思い出しましたね(笑)。
水上
僕は埼玉で生まれ育ったんです。東浦和のほうから見沼通船堀という道が通っているんですけど、そこが10km以上の桜並木になっているんですね。浦和レッズに入社してから今年で28年目になるのですが、僕はその道をずっと通勤しているんです。だから桜と聞くと、僕は真っ先にその風景が思い浮かびますね。
——ここ大原サッカー場も立派な桜並木があり、美しいですよね。
阿部
それはもう毎年のように感じますよね。今年は新型コロナウイルスの影響でJリーグの中断が続いていますけど、リーグが開幕してしばらく経つと、毎年、ここ大原の桜が満開になる。その中で練習しているときは、いつも、いつ満開になるのだろうとワクワクする。サッカーの練習も真剣に取り組みつつ、フッと桜を眺める。この時期はいつもそうやって過ごしていたなって思い出します。それは浦和レッズに加入してから毎年、感じることですね。
水上
実はこの桜の木って浦和レッズとともに成長してきたんです。大原サッカー場は1993年にできたのですが、そのときに桜の木も一緒に植えてもらったんです。だから、当時はまだ小さくて。僕らの身長より、少し高かったくらい。幹もまだまだ細くてね。本当に小さな、小さな桜の木だったんです。それが27年の時を経て、これだけ立派な桜の木に育った。僕はその成長をずっと見届けてきたんです。
阿部
そうだったんだ。全然、そうした経緯は知らなかった。僕が2007年に浦和レッズに加入したときには、すでに大きかったので。
水上
植えた当初は、まだ木も細かったから、ボールが当たって枝葉が折れてしまったこともあった。中には病気になり、枯れてしまった木もあった。でも、それも1本か2本。ほとんどの木が、太く大きく成長してきた。まるでその成長は、このクラブと一緒だなって感じるんです。
阿部
思い起こすと、浦和レッズに加入して、最初の春を迎えたとき、こんなにも桜の木に囲まれた練習場って他にあるんだろうかって思ったな。僕自身、多くのクラブでプレーした経験があるわけじゃないから、他のクラブの環境というのは分からない。だけど、冬に始動したときには、ここまでとは思っていなかった。満開の桜を見て、本当に素晴らしい場所に練習場があるんだなって改めて思いましたから。
——浦和レッズの成長とともに太く大きくなってきた桜の木。改めて感慨深いものがありますね。
阿部
今、とてもいい話を聞いた気分になりましたよね。そうしたエピソードを聞くと、また見方も変わる。僕にとってはたぶん、13回目の開花を見たことになるのかな。これだけ長く見ることができたというのは、もちろんうれしいですし、それだけ長くここでプレーさせてもらっているんだなと。本当に満開になったときの桜を見ると、「いいな」って思えるんですよね。
今、Jリーグが中断していて難しい状況にありますけど、僕らサッカー選手が「いいね」って思ってもらえるのは、やっぱり、サッカーの試合をして、ファン・サポーターのみなさんに応援してもらい、浦和レッズのサッカーって素晴らしいなって感じてもらえたとき。そういう風にまた思ってもらえるようにならなければと思います。
水上
僕はここの桜が、本当に自慢の桜の木だと思っているんです。例えば、新たに加入する外国籍の選手や監督が来たとき、満開の桜を見ると、みんながみんな、「きれい」といって驚くんです。満開の時期は1週間程度しかないんですけど、この景色を見ると、「浦和レッズの練習場ってすごいんだな」って言ってくれる。その姿を見るのがまた楽しみなんですよね。
しかも、花が咲き誇ったあと、今度は花が散るときに、ピッチに花びらが吹雪のように舞うんです。風情というものを外国籍の選手の中には知らない人もいるので、つぼみが咲き、満開になり、散るという一連の時間を、毎年、感じてもらいたいなという思いもあります。「どうだ、うちの練習場はすごいだろ」って(笑)。
阿部
選手同士でも、そろそろ満開の時期かなとか話題になりますからね。それで、よくよく見ると、まだ七分咲きだったりして。みんなも、いつ満開になるのかなと、楽しみにしているところはあります。
——思わず、写真を撮ってしまうなんてこともあるんですか?
阿部
あります、あります。
水上
僕もありますよ。今回、桜をテーマに話をすると聞いたので、事前に撮ったんですよ。クラブハウスの屋上からパノラマで撮影した写真。綺麗じゃないですか?
阿部
いや、ちょっと待ってください。僕もありますから。
水上
どうせ撮ったことないんじゃないの?
阿部
あります、あります!
水上
仕方がないから、僕が撮った一枚を自分が撮ったことにしてあげようか?
阿部
いやいや、あるんですってば。これ、これ、ほら。ここのですよ。昨年の写真なんですけど、練習に行くときに、あまりに綺麗だったから、思わず車から降りて写真を撮ったんですから。僕だってちゃんと撮ってるんですよ(笑)。
<後編に続く>
(取材/文・原田大輔)
(空撮/塩畑大輔)