おちおちとまばたきもしていられなかった。少しくらい大げさに書いても、きっと許してもらえるだろう。小さな2トップが電光石火でゴールに迫ると、あっという間にスタジアムは熱狂の渦に巻き込まれた。2003年シーズンは、快足自慢の"エメ"と"タツヤ"がそろって大暴れ。
エメの愛称で親しまれたエメルソンは、浦和に加入して3年目。前年に15ゴールをマークしており、勢いはとどまるところを知らなかった。持ち前の爆発的なスピードを生かし、第1ステージから9得点。一度裏に抜け出せば追いつけるディフェンダーは皆無に等しく、ドリブルを始めればほとんどの相手がストップできなかった。
背番号10の超絶プレーを間近で見て、必死に技を盗んでいたのが田中達也である。2人が浦和に加入した2001年シーズンからアベックゴールを数え上げれば切りがない。2003年途中までは同じピッチに立つ時間は長くなかったが、不思議と呼応してゴールネットを揺らすことが多かった。同シーズンも、第1ステージ第9節のガンバ大阪戦でコンビ弾を披露。途中出場の田中は、この日すでに2点を決めていたエメルソンと並び立つと、期待を裏切らずに追加点を挙げた。
第1ステージはジョーカーとして起用されることが多かったものの、第2ステージは開幕戦からエメルソンの相棒として先発メンバーに抜擢される。すると、さっそくコンビで仲良く結果を残す。エメルソンは2ゴール、田中は1ゴールをマークしてチームを勝利に導いたのだ。第2ステージ第6節の大分トリニータ戦では田中が2得点、エメルソンが1得点で完勝。9節のC大阪戦、12節の東京V戦でもゴールの共演は続いた。
記憶をたどっていけば、次から次にアベックゴールを決めた試合が思い浮かぶが、レッズ史上に残るのは雨のナビスコカップ決勝だろう。
2003年11月3日、国立競技場。2年連続でファイナルの舞台にたどりつくと、待っていたのは昨年同じ場所で惜敗した鹿島アントラーズだ。1年前とは何かもが違った。シャツの色とメンバーの顔ぶれだけではない。
FW:⑪田中達也、⑩エメルソン
MF:⑥山田暢久、⑬鈴木啓太、⑲内舘秀樹、⑭平川忠亮、⑧山瀬功治
DF:②坪井慶介、③ゼリッチ、㉙ニキフォロフ
GK:㉓都築龍太
白いユニフォームで臨んだレッズは、序盤から落ち着いてゲームを進める。前半に山瀬功治のゴールで先手を奪うと、後半は自慢のデュオが大爆発。1点リードで迎えた48分にエメルソンが追加点を挙げ、その8分後には田中、最後は再びエメルソンがダメ押しの4点目を押し込んだ。見事に雪辱を果たし、クラブ史上初のタイトルを獲得。決勝で1得点1アシストの活躍を披露した田中はニューヒーロー賞と大会MVPに輝き、一躍スターダムにのし上がった。
相棒のエメルソンは、ナビスコカップの個人タイトルこそ田中に譲ったものの、リーグ戦ではエース然として働き、チーム最多の18ゴールを記録。得点数だけではなく、その圧倒的なパフォーマンスはリーグでも突出していた。初めて年間の最優秀選手賞を受賞し、名実ともにリーグ屈指のストライカーになっていく。
ただ、すべての歯車がうまく噛み合ったわけではない。田中とエメルソンの連係を熟成させるなど、チームの土台をつくったハンス・オフト監督がナビスコカップ決勝後に辞任を表明。残りのリーグ戦は指揮を執ったが、その影響は否めなかった。初のステージ優勝も見えていたものの、終盤に失速。天皇杯は初戦となる3回戦でJ2の湘南ベルマーレに敗れて、早々と敗退した。
レッズは結果に左右されずに改革を断行し、新たな時代に突き進もうとしていた。
Jリーグ:第1ステージ:6位
Jリーグ:第2ステージ:6位
ナビスコカップ:優勝
天皇杯:3回戦敗退
ベストイレブン:エメルソン、坪井慶介
最優秀選手賞:エメルソン
(取材/文・杉園昌之)