ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)が理想とするフットボールにぐっと近づいたシーズンだった。
最終ラインから丁寧にパスをつないでいくスタイルは、この男の存在なしにうまく機能することはなかったと言っていい。当時の背番号は21番。三顧の礼で迎え入れたサンフレッチェ広島の西川周作は、移籍1年目から攻守両面で大きく貢献した。
最後尾でボールを受けて、相手のプレッシャーを掛けられても慌てることは一切ない。落ち着いてパスをさばき、ときには突っ込んでくるFWをひらりとかわした。
最終ラインのビルドアップで詰まると、大きな声でパスを呼び込んだ。西川のプレーには自信がみなぎっており、ボールを取られることを全く恐れていないようだった。
長短のパスも自在。左足から繰り出すキックは、フィールドプレーヤーも顔負けの精度を誇った。
そして、ゴールマウスを守るという最も大事な仕事も、完璧に近い形でこなした。2013年度に比べると、失点数は「24」も減少。守備の安定感が出てきたチームは、いよいよリーグの覇権を争うようになっていく。
11節で初めて首位に立つと、シーズンを通して上位をキープした。夏前に攻撃の核となる原口元気がドイツのヘルタ・ベルリンへ移籍したが、梅崎司、李忠成らがその穴を埋めるような活躍を披露する。
そして、19節からはトップを走り続ける。一時期は2位のガンバ大阪と勝ち点差5ポイントも離した。誰もがそのまま優勝テープを切ると思ったものの、サッカーの神様から厳しい試練を与えられる。
11月22日、本拠地の埼玉スタジアムには5万6758人が詰めかけた。2位のG大阪を迎え、会場は試合が始まる前からヒートアップ。大きな歌声が響き渡り、2006年以来のリーグ優勝を待ちわびるファン・サポーターたちの思いがあふれ出ていた。気合を入れてピッチに入ってくる以下のスターティングメンバーたちも闘志をみなぎらせていた。
FW:⑳李忠成
MF:③宇賀神友弥、⑦梅崎司、⑧柏木陽介、⑭平川忠亮、⑯青木拓矢、㉒阿部勇樹
DF:④那須大亮、⑤槙野智章、㊻森脇良太
GK:㉑西川周作
試合は2014年度のレッズを象徴するようにボールを支配し、果敢に攻めを続けた。スコアレスドローという結果でも御の字だったものの、イレブンの体に染み付いた攻撃マインドがそれを許さなかった。
0-0で迎えた88分にカウンターを浴びて失点を喫すると、終了間際にも追加点を献上してしまう。
まさかの足踏み。次節のサガン鳥栖で引き分けると、2位に転落。最終節の名古屋グランパス戦で勝ち点3を積み上げれば、逆転優勝の可能性は残されていたが、それも叶わずに悔し涙に暮れた。
時が流れても、終盤に失速して優勝をつかみそこねた事実が消えることはない。
ただ、最後まで攻撃的なスタイルを貫いたからこそ、多くの人たちを魅了するコンビネーションサッカーの基盤が築かれたのだろう。守護神の西川から攻撃を組み立て、相手のゴール前までテンポよくパスをつないで崩していった。
チームが成長していくなかで、浦和ユースから昇格してきた関根貴大も確かな足跡を残している。スーパーサブとして働き、存在感を示した。
一方で、涙ながらにチームを去る者もいた。クラブ初タイトルの03年ナビスコカップ優勝をはじめ、J1リーグ、ACL制覇などに貢献。功労者の坪井慶介は退団セレモニーで目を潤ませ、ファン・サポーターへの感謝の意を述べた。
「違う色のユニホームを着て走り続けることになると思いますが、これからも共に走り続けていきましょう。13年間、ありがとうございました」
最終節にホームで優勝を逃した直後だったにも関わらず、スタジアムを真っ赤に染めた人たちからは温かい大きな拍手を注がれた。14年シーズンの最後の最後は、感動の涙で締めくくられたことを覚えている人も多いのではないか。
Jリーグ:2位
ナビスコカップ:ベスト8
天皇杯:3回戦敗退
ベストイレブン:西川周作
(取材/文・杉園昌之)
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