新型コロナウイルスの影響で異例づくしの一年となった2020年シーズンが幕を閉じました。今回は特別に「浦和レッズニュース」でおなじみのスポーツライター3名が、それぞれの視点でみなさんへコラムをお届けします。
取材/文・杉園昌之
来季、浦和レッズ一筋で12年目を迎える。2021年3月で33歳。アカデミー出身の宇賀神友弥は齢を重ねて、円熟味がぐっと増してきた。20年シーズンは19試合で出場時間は944分。先発出場は11試合のみ。数字だけを見れば、プロキャリアで最も少ない。今季は度重なるケガに苦しんだ影響もあり、コンスタントに出場機会を得ることはできなかった。それでも、その存在価値は大きかった。
左サイドバックのポジションを争い続けた山中亮輔とは互いを高め合い成長した。宇賀神には持論がある。
「仲間の調子が悪いから、代わりに僕が出るという形ではチームは強くならない。調子のいい選手より、僕の方がもっといいから試合に出るという感じにならないと。その逆もしかり。これが切磋琢磨するということ」
だからこそ、気づいたことは助言するのだ。敵に塩を送るという感覚はない。むしろ、仲間の成長がなければ、己の成長もないと思っている。チームメイトへの声がけも、頭ごなしに意見を言うのではない。状況や相手の性格なども考えて、気を使って話している。
右サイドバックの橋岡大樹にクロスを上げる前のボールの持ち出し方を教えることもあれば、縦関係になる左サイドハーフの汰木康也にのびのびとプレーさせるためにコミュニケーションを図ることもある。常に味方の特徴を引き出すことに心を砕いている。
「それが僕の持ち味なので」
スムーズな世代交代と若手の成長はセット。それを促すのは監督、コーチだけでは難しい。宇賀神のようなピッチの中で潤滑油となる存在が必要不可欠だろう。もちろん、まだまだ戦力としても計算できる。球際で激しく戦うスピリットもあれば、守備の安定感もある。今季もピッチに立てば、試合に落ち着きをもたらしていた。
そして、何よりもアカデミーのお手本となり、希望になっているのは大きい。コロナ禍で先行きが不透明な夏の時期に、トップチーム入りを目指すユースの選手たちに語りかけていた。
「人として一人前になることがプロへの近道。プロの世界でも成長していける選手は、人間力が高い人が多い。人の話を聞く傾聴力、自分の頭で考える思考力、自分の言葉で人に伝える主張力、僕はこの3つを大事にしている」
流通経済大を経由し、レッズに戻ってきた苦労人の言葉には重みがある。来季から加入するアカデミー出身の伊藤敦樹も宇賀神の姿が励みになり、大学入学後もレッズ入りをずっとあきらめずに努力してきたという。
スペイン人のリカルド・ロドリゲス新体制となり、メンバーも刷新されるかもしれない。多くの人が新戦力に期待を寄せるのは当然だろう。それでも、レッズの芯となるところにも目を向けてもらいたい。
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