11月20日、駒場はかつてないほどの熱気に包まれていた。秋晴れの空に紙吹雪が舞い、歌声はどこまでも響き渡る。初のステージ制覇に王手をかけ、試合前からボルテージは上がりっぱなし。残り3試合で、2位のガンバ大阪との勝ち点差は7ポイント。引き分け以上で自力優勝、他会場の結果次第でもタイトルが転がり込んでくる。試合前からカウントダウンが始まっているような雰囲気が漂っていた。
ホームに迎えたのは、すでに優勝の望みが消えている名古屋グランパス。加入11年目で初めてキャプテンを務めた山田暢久を先頭に、自信あふれるイレブンがゆっくりと入場してくる。
FW:⑪田中達也、⑨永井雄一郎、⑩エメルソン
MF:⑥山田暢久、⑰長谷部誠、⑯三都主アレサンドロ、⑬鈴木啓太
DF:③アルパイ、④田中マルクス闘莉王、㉝ネネ
GK:①山岸範宏
序盤から圧倒的な得点力を誇ったエメルソン、田中達也、永井雄一郎の3トップが襲いかかったものの、ゴールだけは遠かった。スコアが動かないまま迎えた後半、まさかの2失点。最後にエメルソンがPKで1点を返したが、反撃はここまで。優勝を意識した硬さもあったのだろう。決定機を逃すたびに就任1年目のギド・ブッフバルト監督はベンチの前で眉間にしわを寄せ、苦い表情を浮かべていた。
それでも、試合終了の笛が鳴り、2位G大阪の敗戦が場内アナウンスで知らされると、聖地は興奮の坩堝と化す。かつて駒場のピッチで戦ったドイツ人指揮官がマイクを握った瞬間、割れんばかりの歓声が巻き起こる。セレモニーでは生え抜きの山田がトロフィーを掲げ、その横ではヴィッセル神戸から戻ってきた岡野雅行が喜んでいた。ジョーカーとして活躍した快足自慢のベテランは、しみじみと話した。
「J2に降格したのも、J1に昇格したのも駒場。いろいろあったこの駒場でステージ優勝できて本当に良かった」
経験豊富な選手たちが要所を締めれば、若い選手たちもピッチで存分に躍動できる。20歳の長谷部誠は、そうそうたるメンバーのなかで大きな存在感を示した。8月29日のジュビロ磐田戦では独走シュートを決めて、周囲の度肝を抜く。23歳の鈴木啓太も中盤の底で大車輪の活躍を披露。素早く火消しに走り、守備を安定させた。移籍1年目の闘莉王がセンターバックの位置から自在に攻撃参加できたのも、気が利くボランチがいたからこそだ。同じ新加入組ではアレックス(三都主アレサンドロ)の働きも語り落とせない。持ち前のスピードで左サイドを破り、精度の高い左足クロスで次から次に好機を演出した。
前線にはエメルソン、田中、永井というタレントがそろい、第2ステージはそのすべての駒がかみ合った。計15試合でリーグ最多の40得点を記録し、守ってはリーグ最少の15失点。脇を固めた外国籍選手たちの貢献度も大きい。アルパイ、ネネは闘莉王とともに堅固な守備ブロックを築いた。
そして、第2ステージの勢いそのままにチャンピオンシップに臨む。百戦錬磨の横浜F・マリノスとPK戦にもつれ込み最後まで競り合ったものの、惜しくも年間王者の称号には手が届かなかった。
ただ、第1ステージで3位につけ、年間勝ち点ではトップの計62ポイント。総合的な強さは際立っていた。前年までチームを率いたハンス・オフト監督が築いた土台を生かしつつ、大胆な補強でチームの強化に成功。人への投資だけではなく、近代的なクラブハウスが完成したのも2004年である。
フロントと現場が一体となり、名実ともにビッグクラブへの第一歩を踏み出したシーズンだった。
Jリーグ:第1ステージ:3位
Jリーグ:第2ステージ:優勝
ナビスコカップ:準優勝
天皇杯:準決勝敗退
得点王:エメルソン(27得点)
ベストイレブン:エメルソン、長谷部誠、田中マルクス闘莉王
(取材/文・杉園昌之)
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