J1制覇とACL優勝――。前年の天皇杯優勝を受けて掲げた目標とは裏腹に、2019年の浦和レッズは苦しいシーズンを送った。
リーグ戦では2011年以来となる残留争いに巻き込まれ、まさかの無冠に終わるのだ。
その予兆はプレシーズンからあった。
キャンプではフィジカルトレーニングが重視され、練習試合はキャンプ最終日の1試合しか組まれなかった。
「今シーズン、我々は70試合プレーする。だから今は、せっかくある時間を練習に費やしたいと思っています」
就任2年目を迎えるオズワルド オリヴェイラ監督はこう説明した。
70試合とは、リーグ戦、カップ戦に加えてAFCチャンピオンズリーグでも決勝まで戦うことを想定した数字。しかし、案の定、チームは開幕から波に乗れなかった。
1分1敗で迎えた3節の松本山雅戦で初勝利をあげ、4節のセレッソ大阪戦で2連勝を飾ったが、5節のFC東京戦は引き分け、6節の横浜F・マリノス戦は0-3の完敗を喫した。
7節のガンバ大阪戦から3連勝を飾り、ようやくエンジンが掛かってきたかと思いきや、10節のジュビロ磐田戦から3連敗してしまう。
5勝2分5敗で迎えた13節のサンフレッチェ広島戦。ここがリーグ制覇の分水嶺だと察したのか、試合前、スタンドから「We are REDS」の大合唱が巻き起こり、ゴール裏には「No Guts, No Glory(闘志なくして、栄光なし)」のビジュアルサポートが浮かび上がった。
ACLの戦いを思わせる最高の雰囲気に包まれたが、チームは最後まで攻撃に鋭さを欠き、0-4の大敗に終わった。
フロントが動いたのは、その2日後の5月28日のことである。
オズワルド オリヴェイラ監督の解任と、大槻毅監督の就任を発表。前年、監督代行としてチームを救った大槻監督は、ここで正式に指揮官の座に就いた。
「組長」の愛称で親しまれ、前年にチームを短期間で蘇らせた大槻監督のモチベーターとしての手腕によって、V字回復が期待された。
しかし、狂った歯車はなかなか戻らない。
サガン鳥栖を2-1で下せば、大分トリニータに0-2で敗れるなど、チームは白星と黒星を繰り返し、安定感を取り戻せない。
チームを蘇らせるために、大槻監督もあの手この手で刺激を与えた。
システムを3-3-2-2から3-4-2-1へと変更。ユース監督時代の教え子である橋岡大樹を右ウイングバックに抜擢。さらに7月には同じく教え子で、ドイツ、ベルギーでプレーした関根貴大に「チームのために、浦和に来てほしい」と復帰を要請する。
約2年ぶりに浦和レッズの一員となった関根は、復帰初戦の20節・磐田戦で興梠慎三のゴールをアシストすると、3試合目の名古屋グランパス戦では自らゴールを奪う。
この活躍に、興梠は「あいつがいると、こんなにも変わるのか」と称賛した。
しかし、抜本的な解決にはならず、チームはリーグ戦で中位から抜け出せない。
9月にはルヴァンカップ準々決勝で鹿島アントラーズに2試合合計4-5と敗れ、大会から姿を消すことに。
同じく9月の天皇杯4回戦では、汰木康也、岩武克弥、池髙暢希ら若手を抜擢する采配が裏目に出たのか、JFL所属のHonda FCに埼玉スタジアムで敗れ、早くも連覇を逃してしまう。
そんなチームにあって孤軍奮闘したのが、興梠だ。
9月25日の湘南ベルマーレ戦でリーグ戦10点目を奪取し、8年連続ふた桁ゴールをマークする。新たな得点源として期待された杉本健勇、助っ人外国人のファブリシオが不振を極めるなかで、エースの活躍が際立った。
さらに、不本意なシーズンを送るチームにとって、希望の光となっていたのがACLだった。
Jリーグ勢で唯一、2度のアジア制覇を経験する浦和レッズは3度目の制覇に向けて、全精力を注ぎ込んでいた。
準々決勝では元ブラジル代表FWフッキ、同MFオスカル擁する上海上港と2試合合計3-3のタイスコアだったが、アウェーゴール数で上回り、この難敵を退ける。
準決勝ではファビオ・カンナバーロ率いる広州恒大と対戦。第1戦にファブリシオと関根のゴールで2-0と先勝。敵地での第2戦でもエース興梠のゴールを守り抜き、2試合合計3-0の完勝で、2年ぶり3度目のファイナルにたどり着く。
決勝の相手は、元イタリア代表FWセバスティアン ジョビンコ、元フランス代表FWバフェティンビ ゴミス、ペルー代表MFアンドレ カリージョらがプレーするサウジアラビアの雄、アルヒラル。2年前の決勝と同じ相手だが、そのときよりも明らかにパワーアップしている。
唯一の目標を胸に、浦和レッズは11月9日、敵地に乗り込んだ。
FW:⑦長澤和輝、⑫ファブリシオ、㉚興梠慎三
MF:⑧エヴェルトン、⑯青木拓矢、㉗橋岡大樹、㊶関根貴大
DF:④鈴木大輔、⑤槙野智章、㉛岩波拓也
GK:㉕福島春樹
立ち上がりから押し込まれる展開だったが、出場停止の西川周作に代わってゴールを守る福島春樹が好セーブを連発し、ゴールを割らせない。鈴木大輔、槙野智章、岩波拓也の3バックも身体を張って、敵の攻撃を凌ぐ。
耳をつんざくようなブーイングのなか、浦和レッズも反撃に出る。17分には関根が渾身のシュートを放ったが、相手DFに防がれてゴールはならなかった。
後半に入っても耐えながら勝機を伺っていた浦和レッズだが、60分に一瞬の隙を突かれて失点。このまま0-1で敗れた。
その2週間後、逆転の望みを懸けてアルヒラルをホームで迎え撃った浦和レッズだったが……結果は0-2と完敗。「キャリア最大の悔しさ」と関根は力の差を認めざるを得なかった。
拠り所にしていたACL制覇を逃したダメージは大きく、残り2節を残していたリーグ戦は1分1敗に終わる。14位と降格は免れたものの、「リーグ制覇とACL優勝」を掲げたシーズンとしては、あまりに不甲斐ない成績だった。
チームは変革を必要としていた。
最終節から12日後の12月19日には強化体制の刷新が発表され、土田尚史がスポーツダイレクターに、西野努がテクニカルダイレクターに就任した。と同時に3か年計画を発表し、2022年のリーグ優勝を宣言するのだった。
J1リーグ:14位
YBCルヴァンカップ:ベスト8敗退
天皇杯:4回戦敗退
AFCチャンピオンズリーグ:準優勝
(取材/文・飯尾篤史)