プレナスなでしこリーグ1部で、浦和レッズレディースが6年ぶり3度目の優勝を成し遂げた。その原動力となったのが、選手たちが流動的に動きながらテンポ良くパスを回し、奪われたら即時奪回して押し込み続ける魅惑のサッカー。それを構築したのが、就任2年目となる森栄次監督だ。日テレ・東京ヴェルディベレーザをリーグ3連覇に導いたあと、レッズレディース再建を託された指揮官は、選手たちから「良いおじいちゃん」と呼ばれる好々爺。しかし、その胸のうちにはスペクタクルなサッカーへの飽くなき情熱があった。
――優勝が決まった瞬間は、どのような思いが湧きましたか?
正直なところはホッとしました。浦和というビッグクラブに招いてもらったからには優勝させないといけないという使命感、プレッシャーがあったなかで獲れたので、非常にホッとしたというのが正直なところですね。
――レッズレディースのサッカーは、見ていて楽しい、やっていて楽しいサッカーです。就任1年目の昨季もそうしたサッカーを展開していましたが、勝負弱いところがあった。でも、今季は接戦をモノにすることができました。
去年の最初の頃は「止める・蹴る」もあまりできていなかったんです。ただ「止める・蹴る」のではなく、どこに止めるのか、どんなパススピードで蹴るのか。速いボールばかりじゃなく、緩いボールも入れる。その強弱も大事だと。そういうことを根気強く、コツコツとやって、ボールを握る力が付いていった。
ただ、ポゼッションだけでは勝てません。だから今年、強調したのはディフェンスのほう。取られたらすぐに取り返す。回収率を上げたかった。パスを回すためには選手間の距離、程よい近さが大事になってきますが、近さというのはパスを回すためだけではない。すぐに奪いに行くための近さ。そこからショートカウンターを仕掛ける。そういうイメージでプレーしてもらっています。囲い込みといいますか、すぐに奪い返せるからこそ、ボールを握れる部分があると思います。
――勝負強さを示すゲームとして、0-2から3-2と引っくり返した2節のアルビレックス新潟レディース戦が挙げられると思います。
確かにあの試合は大きかったですね。0-2で迎えた前半の給水タイムで、「とにかく1点返して来い」と言ったんですね。「1点返せば、あと2点は行けるから」と。そうしたら菅澤(優衣香)が前半のうちに決めてくれて、後半に引っくり返した。本当に勝負強くなったなと思いました。3節では(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザにも1-0で勝った。ベレーザをゼロで抑えたのも、大きな成長ですよね。
――昨季、リーグ戦とカップ戦で4敗したINAC神戸レオネッサに2戦2勝(1-0、4-1)でした。チームにとって自信となる勝利だったと思います。
去年、チームとしてINACに対して苦手意識があるのかなと感じたんですね。その相手に対して勝ち切れるようになった。しかも、何か策を講じたわけではなく、積み重ねてきたサッカーで立ち向かって結果が出たのは、選手たちにとって自信になったと思います。この2勝も優勝の大きな要因だと思いますね。
――今年はコロナ禍のために開幕が4か月遅れました。その影響はどうでしたか?
ありましたね。シーズン前に沖縄合宿をやらせてもらって、非常に良いコンディションを作れたと思っていたんですけど、コロナ禍の影響で自宅待機になってしまった。その後、少しずつ外で走ったり、ボールを扱えるような状況になって、最初は個人練習、次はグループ練習と。ただ、そこからコンディションを作り直さないといけなかったし、開幕が夏場になったので、非常に厳しかったです。試合中に足を攣る選手もいましたから。
だから、2番手、3番手というか、サブの選手がすごく重要になると思っていました。私のサッカーはサポートや攻守の切り替えを含め、走らないと成り立たない。暑い時期に酷だったかもしれませんが、走るスピードや選手間の距離は要求しました。
――非常に伸びたな、と感じる若い選手はいますか?
今季だと……遠藤優とか、高橋はなとか。南萌華も面白いですよね。たくさんいますよ。僕はトレーニングでAチーム、Bチームと分けないで、ごちゃ混ぜにしてやっているんですけど、若い選手たち、サブの選手たちが伸びてきて、誰が試合に出ても違和感ないですから。11人だけではシーズンは戦えないので、サブの選手の存在は大きかったかなと思います。
――今季は猶本光選手がドイツのSCフライブルクから1年半ぶりに復帰しました。ボランチが本職ですが、トップ下で起用しましたね。
彼女はパンチ力のあるシュートを持っているので、ボランチよりもうひとつ前に置いたほうがゴールを狙いやすいのかなと。ただ、最初の頃は僕のスタイルにちょっと戸惑っていたところがありましたね。おそらくドイツとか、今までもそうだったのかもしれないけど、味方との距離が少し遠かったんです。でも、僕のサッカーでは近い距離でのパスワークと取られたらすぐに取り返すことがセットなので、彼女と話し合いながら。試合を重ねるごとに、それができるようになっていきましたね。
――では、12月6日の2回戦から出場する「皇后杯 JFA 第42回全日本女子サッカー選手権大会」に向けての意気込みを聞かせてください。
昨年の決勝(ベレーザ戦/0-1)では1万人以上の方々が足を運んでくださって、その中で戦えてすごく嬉しかったですが、期待に応えられなかった悔しさがあるので、今年はなんとしても皇后杯を獲りたいと思っているし、狙える力もあると感じています。チーム一丸となって戦いますので、みなさん、ぜひ応援していただけると嬉しいです。
(取材/文・飯尾篤史)