サイド攻撃から、カウンターから、中央突破から、ミドルシュートから――。
多彩なゴールでシーズン最初の公式戦となったYBCルヴァンカップ・ベガルタ仙台戦に5-2の大勝を飾ったとき、これほど苦しいシーズンになると誰が予想しただろうか。
攻守に主体的なサッカーの実現、ACL出場権獲得、得失点差プラス二桁を掲げてスタートした2020年シーズン。思わぬ方向へと転がり出したのは、YBCルヴァンカップ・松本山雅戦を翌日に控えた2月25日のことである。
Jリーグの村井満チェアマンが日本スポーツ界に先駆けて重大な決断を下す。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、すべての公式試合を延期――。
期間は2月26日から3月15日まで。しかし、新型コロナウイルスの猛威は収まるどころか拡大し、日本全国に緊急事態宣言が発令。公式戦再開の目処は立たな区なった。
緊急事態宣言中、選手たちは自宅にこもって自主トレに励むことになる。
そのうちにオンラインでのチームミーティングを開始。さらに石栗建フィジカルコーチ、関芳衛ドクターのもと、オンラインでのフィジカルトレーニングが始まった。
緊急事態宣言が明けてしばらく経った頃には、大原グラウンドで各自が自主トレをスタート。その後、チーム練習を再開してリーグ再開の日を待った。
J1リーグが再開されたのは、中断から約4か月後の7月4日だった。
浦和レッズの再開初戦はホーム、埼玉スタジアムでの横浜F・マリノス戦。無観客で行われたこの試合で選手たちを迎えたのは、鮮やかなビジュアルサポートだった。これにはキャプテンの西川周作も感極まった。
「自分たちがこの日を迎えるにあたって、クラブスタッフの方がファン・サポーターのみなさんからのバトンをしっかりと受け取って、1枚1枚スタンドにビニールを貼っていただいたりしました。
僕は2014年に無観客試合を経験していますが、そのときとはまったく違う雰囲気でプレーすることができました。感謝の気持ちでいっぱいだという思いを込めて、今日はプレーさせていただきました」
横浜FM戦は0-0で引き分けたものの、3節の仙台戦に2-1、4節の鹿島アントラーズ戦に1-0と勝利し、3勝1分で2位に浮上する。
「ACL出場権獲得と得失点差プラス二桁」の目標に向けて好スタートを切ったかと思われたが、5節のFC東京戦に0-2と敗れると、その後は中断前の仙台戦のように躍動感溢れるサッカーを見せられない。
過密日程のなか、大槻毅監督は選手のコンディションを重視してスタメンを固定せず、多くの組み合わせを試した。しかし、白星と黒星が交互に繰り返され、少しずつ順位を下げていく。
そこで意地を見せたのは、ベテランだった。
控えに回っていた槙野智章が7節の横浜FC戦で初先発を飾ると、2-0の完封勝利に貢献。ポジションを奪い返す。
3節の仙台戦で浦和レッズにおける通算100ゴールに到達した興梠慎三も、15節のサガン鳥栖戦でシーズン3ゴール目、18節の清水エスパルス戦で4ゴール目を挙げ、9年連続二桁得点の偉業に向けてゴールを重ねていく。
さらに、サブ組がチームにカツを入れる。
10月10日の21節・鳥栖戦では右サイドを突破したマルティノスのクロスに、汰木康也が体ごと飛び込む執念のゴールで1-0と勝利する。
そして23節のホーム・仙台戦は、この年のベストマッチとも言うべきゲームとなった。
FW:⑨武藤雄樹、㉚興梠慎三
MF:⑦長澤和輝、⑧エヴェルトン、⑪マルティノス、㉔汰木康也
DF:③宇賀神友弥、⑤槙野智章、㉗橋岡大樹、㉛岩波拓也
GK:①西川周作
8分の長澤和輝のゴールを皮切りに、マルティノス、興梠が2ゴール、レオナルドが2ゴールと続いて大量点。6-0と大勝を飾るのだ。
チームは21節の鳥栖戦から26節のサンフレッチェ広島戦まで6試合無敗をマーク。シーズン終盤を迎え、ようやく流れに乗れたかと思われた。
しかし、27節の横浜FM戦に2-6と大敗し、流れが断たれてしまう。
大槻監督との契約満了が発表されたのは、11月25日のことだった。
「チームを作るというのは、家で言うと増改築みたいなもの。歴史もあるし、人の流れもある。ACLがあったときには、ACLに合わせた編成をしなければいけなかったりする。ここ数年、ミシャさん以降、監督が代わる回数が多かった。そのたびにクラブがオーダーを訊いて選手を補強してきたので、編成も含めて、少しバランスが悪いところが出てきた」
チームを再建するにあたり、まずはバランスをゼロに戻す作業が必要だった、と指揮官は明かした。
ラスト2試合ではルーキーの武田英寿をトップ下に抜擢し、未来への投資とも言える起用をしたが、すでに優勝を決めていた川崎フロンターレに1-3、北海道コンサドーレ札幌に0-2と連敗で2020年シーズンは幕を閉じる。
全日程を終えた12月22日、徳島ヴォルティスをJ1昇格に導いたばかりのリカルド ロドリゲス監督の就任が発表された。強い浦和を取り戻すべく、3年計画の2年目に希望をつなぐのだった。
J1リーグ:10位
TBCルヴァンカップ:グループステージ敗退
天皇杯:―
(取材/文・飯尾篤史)