1993年のJリーグ元年を屈辱的な最下位で終えた浦和レッズにとっての最重要課題――。
それは、守備の立て直しだった。
リーグ戦36試合78失点は、もちろんリーグワーストの数字。そのため、94年シーズンに就任した横山謙三新監督は、サンフレッチェ広島から元日本代表DF田口禎則を、柏レイソルからDF曺貴裁を迎え入れ、守備の補強に注力した。
さらに、ヴェルディ川崎(現東京V)から技巧派MF菊原志郎を期限付き移籍で、スロバキアのインテル・ブラチスラヴァから同国代表FWルボミール・ルホビー(ルル)を、ガンバ大阪から、のちに日本代表に選出される長身FW佐藤慶明を獲得。戦力の充実を図り、2年目のJリーグに臨んだ。
ところが、開幕戦でさっそく誤算が生じてしまう……。
新ディフェンスリーダーとして期待された田口が、横浜マリノスとの開幕戦で一発退場。出場停止から復帰した3節のジェフ市原(現千葉)戦でも退場処分を受け、今度は2試合の出場停止。その間、チームは開幕5連敗。しかも5節の名古屋グランパスエイト戦は2-7と大敗し、当時のリーグ最多失点を更新するというオマケ付きだった。
サントリーシリーズ(第1ステージ)半ばの4月には、名古屋から日本代表ボランチの浅野哲也を期限付き移籍で獲得したが、守備の強化は思い描いたように進まない。5月にはエースの福田正博(元コーチ)が、恥骨結合症による長期離脱を余儀なくされた。
そんななかで奮闘したのが、“若い力”だった。
大阪商業大から加入したルーキーのDF杉山弘一(元ハートフルクラブコーチ)が左サイドバックとして定着。日本大から加わったFW岡野雅行が、長い髪をなびかせて相手陣内を疾走する。
さらに気を吐いたのが、プロ2年目のFW池田伸康(現ユース監督)だ。3-0と完勝し、サントリーシリーズにおけるベストゲームとなった5月18日の横浜フリューゲルス戦では、66分にダメ押しゴールをゲット。自身の誕生日を自らのゴールで祝うとともに、「お焼香ポーズ」のゴールセレブレーションでスタンドを沸かせた。
若手の奮闘も虚しく、前年から3ステージ連続して最下位に終わったレッズだったが、希望の光がなかったわけではない。開幕からの連敗を止めた6節のG大阪戦のあと、ビッグサプライズが発表されていたからだ。
ドイツ代表DFギド・ブッフバルトとMFウーベ・バインの獲得――。
ともに90年イタリア・ワールドカップを制した西ドイツ代表の一員である。ブッフバルトに至っては、この年夏のアメリカ・ワールドカップにもドイツ代表として出場することが予定されていた。
チーム再建のために「超一流のプロフェッショナル」を必要としていた横山監督が熱望した、起死回生の切り札だった。
アメリカ・ワールドカップが終了した7月、ブッフバルトとバインはレッズに合流。ニコスシリーズ(第2ステージ)の開幕戦となる、横浜M戦のスタメンに名を連ねた。
GK:①土田尚史
DF:③岡島清延、④曺貴裁、⑤池田太
MF:②堀孝史、⑥ブッフバルト、⑧浅野哲也、⑨広瀬治、⑩バイン
FW:⑦岡野雅行、⑪ルンメニゲ
この試合は0-3で敗れたが、2節の清水エスパルス戦はルンメニゲと佐藤のゴールで2-0と快勝、3節の市原戦でもルンメニゲと佐藤が2ゴールずつ奪って4-3と競り勝った。なかでもブッフバルトは、豪快なスライディングと読みのいいポジショニングで相手の攻撃を阻止。期待どおりの活躍を見せる。
3勝3敗で迎えた7節の横浜F戦は、終了間際に得たPKをブッフバルトが決めて1-0と勝利した。
だが、1年半の間に染み付いた負け癖は簡単には払拭できず、8節から5連敗。しかも5連敗目となった12節の清水戦では、ルルがハットトリックを決めたにもかかわらず、4-5とVゴール負け。その後、勝ちと負けを繰り返したあと19節から3連敗を喫し、横浜Mとの最終節を迎えた。
ホームゲームながら富山で開催されたこの試合には、12両編成の特別列車、バス22台を使った後援会ツアーを含め、2万を超えるファン・サポーターが駆けつけたが、1-1で迎えた後半に守備が崩壊。3-6で敗れると、サポーターがドレッシングルームに押し入ろうとする騒ぎまで起きた。
ニコスシリーズは12チーム中11位となり、辛うじて4ステージ連続最下位という不名誉な記録は回避できたが、依然としてレッズは「Jリーグのお荷物」と揶揄されていた。
だが、ネガティブなことばかりではない。
ブッフバルトとバインは着々と、プロフェッショナルな姿勢をチームに植え付けつつあった。また、大卒ルーキーの岡野と杉山だけでなく、藤枝東高から加入した山田暢久(元ユースサポートコーチ)も16試合に出場し、頭角を現し始めていた。翌シーズンに向けた種は、しっかりと蒔かれていたのである。
Jリーグ・サントリーシリーズ:12位
Jリーグ・ニコスシリーズ:11位
ナビスコカップ:2回戦敗退
天皇杯:ベスト8
(取材/文・飯尾篤史)