ミーティングからいまいる時間の大切さを噛み締めていた。試合ではベンチに座っているだけだったが、日の丸のずっしりとした重みを実感した。
3年4カ月ぶりの代表は、やはり特別な場所である。レッズに戻ってきた西川周作の表情には、充実感がにじんでいた。
「すごくいい刺激になっています。これが日本代表だなって。あらためてサッカー選手として、目指さないといけないところだと思いました」
現代表の体制では初招集。A代表で背番号1をもらったのは初めてだという。喜びはあるものの、それだけで満足するつもりはない。
すでに6月の代表戦を視野に入れており、モチベーションは高まりばかり。指揮を執るのは、サンフレッチェ広島時代にリーグ2連覇を果たしたときの恩師でもある。森保一監督の言葉は励みになった。
<人としての姿勢が変わっていないことが素晴らしい。プレー、結果は常に見ている。周作は周作らしく楽しんでやってほしい。またクラブでも頑張って。年齢ではない。何歳でも調子のいい選手を呼ぶ>
ここまでも安定したパフォーマンスを発揮してきたが、意識はさらに高くなった。
4月3日の鹿島アントラーズ戦以降は、目に見えるプレーの変化もある。ビルドアップにより積極的に関わり、攻撃の一歩となる効果的なパスを配給。GKは最終ラインのただの"逃げ場"ではない。
「自分の良さを出すためには、自分も高い位置にいかないといけない。吹っ切れたところはあります。ディフェンダーに任せるだけでは、チームのためにならないので。自分に何ができるのかを考えています。ワンプレーで流れを変えられるのがキーパーです。そこを目指しているし、お金を払ってでも見たいと思うようなプレーを見せたい」
鹿島戦では相手最終ラインの裏を突く矢のようなロングパスを通し、周囲の度肝を抜いた。埼玉スタジアムのスタンドからはどよめきが起こり、試合を中継していた解説者の戸田和幸さんも大絶賛していた。
<このキックが蹴れるのは、この地球上でエデルソン(マンチェスター・シティ所属)か西川くらい>
試合後、インターネットでプレー動画が拡散されたこともあり、本人のもとにも多くのメッセージが届いた。
「戸田さんにあんな名誉なことを言ってもらえるとは」と照れ笑いを浮かべていた。
常に90分間のなかで背後を狙うタイミングは窺っている。流れの中で1本あるかないか。あの瞬間はまさにそのときだった。練習どおりのキックが蹴れる状況で、味方と相手のポジショニングも最適。ボールは弾丸ライナーだったが、すべてを計算に入れていた。
「埼スタの芝生は水がまかれているので1バウンド目はスリッピーになり、流れます。ただ、2バウンド目以降は止まる傾向にあるので、少し奥に蹴っても大丈夫だと思いました」
聞けば聞くほど芸当である。ただ、仲間の助けがあったことも補足していた。
「岩波(拓也)選手のバックパスの質がよかったんです。トラップしやすいボールをくれました。ボールの置きどころさえよければ、いいキックは蹴れます。振り足に注目されますが、その前のトラップはもっと大事。僕が一番気をつけているところです。
そして、裏へ飛び出した明本(考浩)選手。あの時間帯(78分過ぎ)なのによく踏ん張って追いついてくれました。最初は足元に欲しがっていましたが、彼なら前へ出ていけると思ったんです。いい反応をしてくれたと思います」
ボールを足元に置いても、手に持っても、定評のあるキックの質は一級品。年齢を重ねるたびにバリエーションは増えていく。
鹿島戦と4月7日の清水エスパルス戦で高い位置を取る右サイドバックの西大伍へ届けた低空ライナーのパントキックに目を奪われた人も少ないないはずだ。
「ピッチの状態が良かったので、トントントーンとね、芝生の上を滑らせるような感じで蹴りました。相手もいてぎりぎりのコースでしたが、自信はありました。大伍はトラップがうまいので、信頼して蹴れます」
際立つのはキックだけではない。肝心なゴールマウスを守る仕事ぶりも光る。
だからこそ、再び代表に選ばれたのだ。今季は、とくにハイラインの背後の大きなスペースまでカバー。リカルド ロドリゲス監督の要求に応えるために、守備範囲を広げている。
ペナルティエリアから飛び出しても慌てることははない。心がけるのはクリアではなく、前に出てカットし、そこからパスをつなぐことだ。
そして、守備でさらに目立つのはチームを救うビッグセーブ。鹿島戦では後半開始早々に見せ場がやってきた。エヴェラウドに個で守備網を突破され、1対1の局面を迎えたときだ。体を倒して、足でセーブ。相手が切り替えしてDFをかわした瞬間、すっと前に出てコースを消していたのだ。普段の練習から取り組んでいる動きが無意識に出たという。
「あのワンプレーは大きかった。そのあと、チャンスが増えて、点を決めて勝ちました。ゴールキーパーの醍醐味だと思います」
6月で35歳を迎えるが、向上心あふれる守護神はどん欲である。あと2試合で到達するJ1通算500試合も通過点のひとつに過ぎない。
現在、583試合と先を走り続けている先輩の阿部勇樹もいれば、その先にはかねてから目標のひとつとしている631試合のGK楢崎正剛(元名古屋グランパス)がいる。
「そこを追い越していきます。(GKの)ナンバーワンになりたい」
もちろん、レッズのユニホームを着て、大記録を祝うつもりでいる。浦和に加入して8年目。最も欲しいのはリーグタイトル。
「サポーターの人たちも一番、待っているはずですから。強い浦和レッズを見せていきます」
チームとともに頂点を目指す挑戦は、まだまだ続いていく。
(取材/文・杉園昌之)