今季のリーグ戦は、いまだ無得点。浦和レッズの武藤雄樹はケガで出遅れ、戦列に復帰した3月30日の5節から12試合ゴールなし。ストライカーとしての苦悩を口にする。
「この結果は情けない。点を取って、チームの勝利に貢献したいです」
ただ、チームに求められているのは、点を取ることだけではない。2シャドーの一角に入る背番号9は、仕上げの仕事以外に攻守両面で献身的に働いている。おとりの動きとなるフリーランを惜しまず、ボールを引き出すために何度もポジションを取り直す。守備になると、自陣に戻ってプレスをかけたかと思えば、敵陣深くまで何度でもボールを追いかける。無得点の焦りを感じながらも、ピッチで自分の仕事を見失うことはない。
「心のバランスが取れるようになってきた。昔の僕ならノーゴールが続くと、ゴール前で“俺にボールをくれ、俺にボールをくれ”という感じになっていたと思います」
30歳になり、フットボーラーとして成熟してきたことを実感している。相手の最終ラインと中盤の間でパスを受け、攻撃の起点をつくる仕事には絶対の自信を持つ。7月6日のベガルタ仙台戦で興梠慎三の決勝点をアシストした一連のプレーは圧巻だった。レッズ通算92点目を決め、クラブ歴代最多得点者となったエースも、相棒の技を絶賛した。
「いいターンをしてくれた。武藤が前を振り向いたときは、いつも動き出すことを心がけている。このゴールの半分は、武藤のおかげ」
岩波拓也から縦パスをもらうと、トラップ一発で方向転換。一瞬でボランチとセンターバックを置き去りにして前を向き、もう一方のセンターバックまで引きつけて、スルーパスを出した。
「自信のあるプレーでした。自分の特徴を出せたと思います」
狭いところでパスを受け、前を向くプレーはもともと武器と呼べるものではなかった。出場機会に恵まれなかった仙台時代、監督にアピールする手段として、訓練を始めたものだった。それが浦和でさらに磨かれたのだ。ミハイロ・ペトロヴィッチ元監督にはシャドーのイロハを徹底して叩き込まれた。
「ポジション取りが一番大事。相手にとって、面倒くさい場所にいることを心がけています。周りを見ておくことも重要でしょうね」
浦和ではワンタッチで後方にはたくフリックを取得。新たな武器となったが、オリベイラ前監督には確実性に乏しい技よりも、ボールを止める必要性を説かれた。タイプの異なる監督の指導を受けて、得意プレーの幅は広がった。柔軟な対応が求められる大槻体制下では、ここまでの経験が生きている。
「止めるか、フリックか。いまは考えて選択しています。味方、相手の状況を見て、判断している。昔のように無理やりにでもフリックすることはないですね(笑)。おかげでボールロストが少なくなりました。僕は以前よりもサッカーはうまくなっていると思います」
点を取れていなくても、出場機会が減らない理由は言わずもがな。ゴールへの道筋を逆にたどれば、そこには9番がいる。パスだけではない。6戦ぶりに勝利を挙げた15節の鳥栖戦ではおとりになり、岩武克弥のクロスをスルーして宇賀神友弥の同点ゴールを演出した。
それでも、本人は葛藤している。
FWとしてどん欲にゴールを奪いにいく姿勢が頭の片隅にあるという。コンビネーションがより向上してきた3年目以降はアシストが増えても、反比例するようにゴール数は減少。
「3年前までは(2年連続で)2ケタ得点を取っていました。いまはいろんなことができますが、昔のほうがいいと言う人もいるでしょう。自分を擁護すると、ゴールに絡んでいるシーンもあるので、チームのためにやれている。厳しく見ると、それでいてゴールも取らないとダメでしょう」
そもそも、現在と点を取っていた時期のサッカースタイルは違う。同じシャドーであっても武藤の役割は異なるものの、本人はきっぱり言う。
「言い訳はしたくない。前線で試合に出場している以上、ゴールを決めて、チームを助けたい。いまは興梠さんしか点を取っていないような状況です。それでは勝てません。チームが上にいくためにも僕が決めないと。ひとつ取れば、乗っていけます」
最後の言葉には自信がにじんでいた。仙台戦で古傷の右足首を痛め、19節の横浜FM戦は欠場したが、順調に回復している。復帰に向けて、意欲は十分。昨季は17試合ぶりにゴールを奪ってから、8試合6得点と一気に量産し、シーズンを終えた。
「昨年のゴール数(7点)よりは取りたい。まだまだ取れる可能性はあるので。全部の仕事をこなした上で、点も決めます」
年齢を重ねてきた男は、どんどん欲張りになっている。ボールを引き出すだけでも、点を取るだけでも満足しない。どん欲な武藤が目指すのはスペシャリストではなく、ゼネラリストだ。
(取材/文・杉園昌之)
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