TURNING POINNT vol.10 阿部勇樹
結果を残さなければ、一緒に戦ってもらえない
「前年にJ1で優勝していたし、移籍してきたときは、『何で来たんだよ』という厳しい目で見られていましたよね。でも、2-2で引き分けた大分トリニータ戦(J1第4節)で、レッズに来てから初めて得点したんです。それも2得点。そうしたら、次の試合から自分の名前をコールしてもらえるようになって。そのとき、感じたんですよね。レッズのファン・サポーターは、どんな選手であっても、周りが納得するような結果を残さなければ、一緒に戦ってもらえないんだなって」
「ここは、そういうクラブなんだな」
「ちょっとでも下手なプレーをしたら、その評価というものはどんどん下がっていくでしょうし、だからプレッシャーにもなるけど、それがモチベーションにもなる。一緒に戦ってくれる彼らを少しでも喜ばせたいという思いで、ここまでやってきたし、結果が出ずに、いいプレーができなければ、ブーイングされることも覚悟しなければならない」
帰ってきたという感覚はなかった
「チャレンジというか、2010年のワールドカップで感じたことをヨーロッパでやりたいっていう思いがあった。向こうに行かなければ経験できないことがあったと思うので、非常に悩んだ時期ではありましたけど、そこでひとつ決断したことは、自分にとってポイントだったかなと思います」
「向こうでは、試合に出られるときもあれば、メンバー外も経験した。日本にいたら、そうした経験はできなかったかもしれないし、試合に出られずに、悔しい思いをしている選手の気持ちや、試合に出るためにどうしていくんだってところでは、海外の選手も変わらないということを知った。2012年にレッズでプレーすることを決めたとき、キャプテンを頼まれましたけど、そのときにも活きたんですよね。あれから年月が経ち、再び自分がそうした立場になった今、どんな状況であっても、常に準備しなければいけないという姿勢にも、すべてはつながっているんですよね」
「帰ってきたという感覚はなかったんです。うん。全くない」
「レッズって、やっぱり見ているファン・サポーターの目は年々厳しくなっているし、サッカーを見る目もどんどん肥えてきていると思ったんですよね。
世界を見渡せば、ここより厳しい環境はある
「一緒に戦ってくれるファン・サポーターの期待もあるだろうし、それに対する責任を見せなければいけないと思った。それは、このクラブでプレーする宿命でもあると思っています。レッズでプレーする意味、重さは、そういったところにも現れていると思うんです。だから、その重みを今、プレーしている選手たちにも個々に感じ取ってほしいなって思う。特に若い選手たちにとっては、プロなることがまずは目標だったかもしれないけど、そこから今度は試合に出るという目標に変わっていく。そして試合に出れば責任も伴うわけで、そこを感じ取ってほしいなって」
「試合に出る出ない、メンバーに入る入らない関係なく、練習から全力で取り組んで、しっかりと準備していくことが重要だということを、レスター時代をはじめ、過去の経験で、僕は学び、今もそれを続けている。だって、いつチャンスが来るかなんて分からないじゃないですか。オレなんかは、この先、長くプレーしていくことはないだろうけど、若い選手たちは違う。だから、現状に満足せずにやってほしい。レッズでプレーするプレッシャーもあるかもしれないけど、世界を見渡せば、ここ以上に厳しい環境もある。だからこそ、現状に甘えずにやってほしいなって、自分に厳しく」
「サッカー選手ですからね。誰もがこのままじゃ終われないと思っているだろうし、それは自分も一緒。じゃあ、試合に出るために何をしなければいけないのか。若いころからずっとそれを考えながらやってきた。そこは今の年齢になっても変わらない。毎日、毎日、うまくなりたい、変わりたい、よくなりたいって思いますし、若い選手たちのやる気やがむしゃらさが刺激を与えてもくれる。そうした気持ちなくして、僕らの成長もないと思うし、その相乗効果がどんどんチームを大きくしていくんだと思う。だからこそ、若い選手たちには、僕ら年齢が上の選手たちに、もっと、もっとパワーを与えてほしいなとも思うんです」
ひとつになったらどれだけの力を発揮するのだろう
「オレたちやるからさ。だからさ、一緒に戦ってよ!」と……。
「あのときは、温かい言葉を掛けてくれる人もいれば、熱くなって檄を飛ばす人もいて、選手も選手で熱くなっている人もいれば、本当にどこかバラバラな感じがしたんですよね。ひとつになってないなって。
「応援してくれるファン・サポーターも含めて、浦和レッズは、関わる人が日本で一番多いと思うんです。それだけの人たちが、ひとつになったら、どれだけの力を発揮するんだろうって思うんです。まだ、そのすべてを僕は見られたとは思っていないので、楽しみでもあるんですよ。もっと、もっと、ひとつになれると思っているし、そこにもゴールってないと思うから」
「ファン・サポーターの人たちにとっては納得のいかないシーズンだと思います。でも、今の結果、現実を、選手もクラブもしっかりと受け入れて、この先どう変わっていくのかというターニングポイントになるような時期にしなければいけないと思うんですよね。これまで素晴らしい雰囲気や気持ちを共有した時期もあれば、今年のように、うまくいかなかったところや悪かったところをお互いに共有したシーズンもある。でも、この先、浦和レッズがひとつになったときのパワーにつなげていくためにも、シーズンの終わり方というか、来季に向けたいいスタートになれるように、しっかりとJ1に残留できたらと思うんですよね」
過去には戻れない。進んでいくしかない
「今日の試合に勝って、チャンピオンになることで、浦和レッズでプレーする責任を感じてもらうことがベストだったと思うけれど、すごくいい相手と対戦できて、悔しいですけど、この悔しい経験を、僕も悔しいし、各選手がそう思っていると思うけど、その周りにはもっと、もっと戦ってくれていた人たちがたくさんいたということを感じ取ってもらいたいかな。それが責任だったり、背負っている重さになっていく。
(文・原田大輔/写真・近藤 篤)