浦和の静かな練習グラウンドで東日本大震災の犠牲者を悼み、黙とうをささげた。
仙台で被災した武藤雄樹は1分間じっと目を閉じ、9年前のことを思い返していた。
「毎年、この日は震災が起きたときのことを思い出します。ベガルタの選手たちは、被害の大きかった場所に足を運んだりもしました。あの光景を思い出すたびに、当たり前のようにサッカーができる日常を大切にしようと思います。家族、仲間と一緒にいられるのは特別なことです」
「"復興のシンボルになろう"と一丸となって戦い、被災地の"希望の光"になっていたと思います。サッカーを見ている人たちの心を動かしました」
「本当に感動しました。だからこそ、いまでもファン・サポーターのために頑張らないといけないと思っています」
震災を乗り越えてきた武藤は、リーグ再開を心待ちにする人たちがいる有り難みをひしひしと感じている。再延期が決まっても、モチベーションを落とすことはない。
中断期間の時間もプラスに捉え、コンディションを上げることに余念がない。練習から2トップの一角として持ち味を発揮している。
3月11日の水戸ホーリーホックとの練習試合では、2ゴールをマーク。得意のワンタッチゴールでもネットを揺らした。
「"ごっつあん"でしたけどね」と照れ笑いを浮かべつつも、顔には充実感が漂う。真骨頂のゴールには、一家言持っている。
「ワンタッチゴールが多いのは、駆け引きして点を取れる場所に入っていけるからです。ここ数年そういったプレーをあまり出せていませんが、今季は自分の良さを出せるポジションを任されています」
ゴール中央付近でパスを受け、素早く反転すると、すかさず足を振り抜く。そのほとんどが、GKの手が届かないコースへ飛んでいた。
「中央でセンターバックと勝負する機会が増えるので、この練習を取り入れました」
もどかしさが消えて、日々サッカーを楽しんでいる。もちろん、置かれている立場は重々承知。2トップのポジションを争う興梠慎三、レオナルド、杉本健勇がいずれも公式戦ですでに結果を残しており、刺激も受けている。
「最初のワンチャンスを生かしたい」
「結果を残さないと先はない。浦和1年目(15年は13ゴール)のようなゴールを取る武藤雄樹を見せたい。あとは自分次第だと思っています。こんな楽しみなシーズンはない」
(取材/文・杉園昌之)