クラブが英断を下したのは、開幕からすぐのことだった。
前年には、日本のクラブとして初めてAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で優勝した。ただし、J1では最後の最後でタイトルを逃し、苦杯を嘗めていた。
ACL連覇に加え、J1優勝——そんな目標を掲げて臨んだ2008年だった。ところが、リーグ開幕から連敗し、いきなりチームは躓く。
結果以上に、チームに漂う重い空気を感じ取ったクラブは、3月16日、ホルガー・オジェック監督を解任。コーチを務めていたゲルト・エンゲルスに指揮を託した。
「チームの熱さ、情熱。それを90分間、皆さんにお見せしたい」
就任会見でそう意気込みを語ったエンゲルス監督は、直後のナビスコカップこそ結果を残せなかったが、思い切った采配により第3節の新潟戦で勝利を飾る。
FW:⑨永井雄一郎、⑰エジミウソン
MF:⑭平川忠亮、④田中マルクス闘莉王、⑬鈴木啓太、⑯相馬崇人、⑥山田暢久
DF:⑫堤俊輔、⑳堀之内聖、㉒阿部勇樹
GK:㉓都築龍太
驚かされたのは、MFに入っている闘莉王のポジションだった。定位置のCBではなく、1列前のボランチで起用。本人も「プロでは初めて」と話す大抜擢は、見事に奏功した。
闘莉王は中盤の底から展開力を発揮すると、ゴール前にも顔を出した。そして、エジミウソンとのコンビネーションからゴールまで決めたのである。
「リーダーシップもあるし、前に出たときのアイデアもある」(エンゲルス監督)
3−0で快勝した新潟戦の勝利を含めチームは4連勝。10戦無敗で首位にも躍り出た。
戦術は闘莉王と言わんばかりに、ときにはCB、ときにはボランチ、またあるときはトップ下と、様々なポジションでチーム屈指の戦士は躍動した。そうした思い切った選手起用ができるところもエンゲルス監督の魅力だった。
この年、新加入したエジミウソンも徐々にチームにフィット。左サイドを務めた相馬崇人のクロスをエジミウソンと闘莉王が狙う攻撃は脅威を与えた。実際、エジミウソンも闘莉王も11得点ずつをマーク。セットプレーでもターゲットマンが2人いたことが強みになった。
フランクフルトから加入した高原直泰のゴール前での存在感、永井雄一郎のカウンターでのドリブル突破も忘れることはできない。中盤では阿部勇樹や鈴木啓太、細貝萌が攻守に躍動し、この年加入した梅崎司も攻撃のアクセントを担った。
勢いを取り戻してからは、優勝争いに食らいついていった一方で、大事な試合を勝ち切れなかったのも事実だ。結果的に2位で終えた川崎に第18節で1−3と敗れ、優勝を許した鹿島には第19節で1−1と引き分け、勝ち点3を奪えなかった。
前年王者として決勝トーナメントから参戦したACLでも同様だった。G大阪と対戦した準決勝。アウェイで戦った第1戦を1−1で終えて臨んだホームの第2戦。36分に高原の得点でリードを奪うも後半に3失点。連覇の夢は潰えた。
リーグ戦も同様に、第32節の清水戦を落とすと3連敗。最終的に7位に終わり、ACL出場圏を逃す結果となった。
退任が決定していたエンゲルス監督は、コーチ時代も含め5年間在籍したクラブに、「この雰囲気のなか、楽しく仕事ができた」とホーム最終戦後に挨拶した。その直前には、やはり退団が決まっていた岡野雅行が感謝の言葉をファン・サポーターへと届けた。
そして、もう1人——1996年の加入から13年間、浦和レッズ一筋でプレーしてきた内舘秀樹もユニフォームを脱いだ。涙をこらえながら、浦和レッズへの愛を語ったレジェンドたちの言葉は重く、そして愛情がこもっていた。
同時に、浦和レッズは転換期を迎えていたのかもしれない。
Jリーグ:7位
ヤマザキナビスコカップ:予選リーグ敗退
天皇杯:5回戦敗退
AFCチャンピオンズリーグ:ベスト4
ベストイレブン:田中マルクス闘莉王
(取材/文・原田大輔)