高卒ルーキーが日本代表選手をキリキリ舞いさせる――。
1997年4月12日に行われた横浜マリノスとのリーグ開幕戦の駒場スタジアムを埋めたファン・サポーターが目撃したのは、そんな衝撃的なシーンだった。
三菱養和から加入した永井雄一郎がスルーパスを受けてGK川口能活を抜き去る。さらに、鋭い切り返しでDF小村徳男の逆を取り、スピードに乗ったドリブルでDF井原正巳を翻弄したのだ。最終的に2-3で敗れるが、新時代の到来を感じさせた。
2年間、指揮を執ったホルガー・オジェック監督が去った1997年シーズン、浦和レッズはこれまでの堅守速攻から、パスを繋いで主導権を握るスタイルへと変換を図るべく、同じくドイツ人のホルスト・ケッペル監督を招聘した。
絶対的な司令塔だったウーベ・バインが前年限りで退団したため、元日本代表MF礒貝洋光をガンバ大阪から獲得。さらに、オーストリア代表MFミヒャエル・バウアーも迎え入れ、攻撃のタクトを彼らに託した。
このシーズンから固定番号制となり、バウアーには10番、磯貝には14番が与えられた。しかしながら、ダブル司令塔構想は、早々に頓挫する。バウアーは家族のホームシックを理由に、ヤマザキナビスコカップ5試合とリーグ2試合に出場しただけで帰国。磯貝も故障続きで、満足に試合に出られなかったのだ。
こうしたなかで希望の光となったのが、高卒ルーキーだった。鮮烈なデビューを飾った永井だけでなく、西武台高から加入した田畑昭宏(スカウト担当)も開幕スタメンを飾り、ストッパーとして奮闘する。
国立競技場にサンフレッチェ広島を迎えた4月19日の1stステージ3節は、レッズにとって記念すべきゲームとなった。
92年9月5日に大宮サッカー場でジェフ市原と対戦して以来、100試合目となるホーム公式戦だったのだ。浦和市内には、この試合に向けた特別なポスターが掲出され、そこにはこう書かれていた。
「ありがとう、ホーム100試合」
メモリアルゲームには、以下のようなメンバーで臨んだ。
GK:⑯田北雄気
DF:⑥ブッフバルト、⑫西野努、㉙田畑昭宏
MF:②土橋正樹、⑤堀孝史、⑧広瀬治、⑬山田暢久、⑮杉山弘一
FW:⑦岡野雅行、㉟永井雄一郎
だが、この試合に0-1で敗れるなど、チームはなかなか波に乗れない。前年はケガに泣いた福田正博(元コーチ)が復活を遂げたのは好材料だったが、システムとメンバーが定まらず、戦術もコロコロと変わり、1stステージは9位に終わった。
巻き返しを図るべく、チームは夏にふたりの新外国籍選手を獲得する。
元スペイン代表MFアイトール・ベギリスタインと、オランダ人DFアルフレッド・ネイハイスだ。
“チキ”の愛称で知られるベギリスタインは、ヨハン・クライフ監督のもと「ドリームチーム」と呼ばれたバルセロナのウインガーで、94年アメリカ・ワールドカップにも出場した名手である。
ネイハイスは188cmの長身が武器のセンターバックで、翌年夏にドイツの名門・ドルトムントに移籍するまで、守備の要として奮闘する。
ベギリスタインは2ndステージ2節の横浜M戦で早くも来日初ゴールを決め、勝利に貢献。しかし、チームは1stステージ同様、スタイルの変換もままならず、不安定な戦いを続けた。
3節の清水エスパルス戦では福田、西野努(テクニカルダイレクター)、堀孝史(元監督など)がゴールしたものの3-4と敗戦。9節から3連勝を飾ったが、その後3連敗を喫するなど、最後まで波に乗れず、2ndステージは7位で終わった。
リーグ戦終了後の10月半ばからは、ヤマザキナビスコカップの決勝トーナメントが開催された。
準々決勝に進出していたレッズは、ジュビロ磐田と対戦。この年限りでの退団を表明していたブッフバルトは負傷のために欠場したが、スコアレスドローとなった駒場スタジアムでの第1戦終了後、盛大なセレモニーが行われた。ブッフバルトが白馬にまたがり場内を周ると、盛大な拍手とともに「ダンケ・シェーン、ギド!」の声が飛んだ。
レッズはアウェーに乗り込んだ第2戦で2-3と敗れて準々決勝敗退。12月の天皇杯も4回戦でG大阪の軍門にくだった。
一方、9月から11月にかけて行われたフランス・ワールドカップ・アジア最終予選を戦う日本代表には、レッズから岡野雅行が選ばれていた。それまで1試合も出番のなかった“野人”に初めて出場機会が巡ってきたのは大一番、11月16日のアジア第3代表決定戦のイラン戦、延長に入るタイミングだった。
再三に渡って決定機を逃したあとの117分、最大の見せ場が訪れる。中田英寿のシュートを相手GKが弾くと、突っ込んだ岡野がスライディングで蹴り込み、「ゴールデンゴール」を決めたのだ。こうして日本代表は初のワールドカップ出場権を手に入れた。
11月22日、岡野の功績を讃えるイベントが浦和駅西口で開催され、バスターミナルは1万人ものファン・サポーターで埋め尽くされた。ショッピングセンターの7階バルコニーに主役が登場すると、駅前は「岡野」コールで包まれた。
Jリーグ・1stステージ:9位
Jリーグ・2ndステージ:7位
ヤマザキナビスコカップ:ベスト8
天皇杯:4回戦敗退
(取材/文・飯尾篤史)