1月19日。
活気あふれる沖縄キャンプの6日目だった。
午前トレーニングを終えて、まだ練習場のピッチに残っていたときだ。大槻毅監督のよく通る野太い声で呼ばれた。
「周作、ちょっといいか」
2人でピッチ脇のベンチにゆっくり腰かけると、いきなり話を切り出された。
「今シーズン、キャプテンをやってもらいたい」
不意を突かれた西川周作は思わず笑いながら、言葉を返した。
「冗談はやめてくださいよ」
ひやかしではない。すぐに空気を察知した。大槻監督の表情をのぞき込むと、普段接している柔和な顔ではなく、目つきは真剣そのもの。
ただ、予想外の打診には驚くほかなかった。今季、クラブは3年計画を掲げ、将来を見据えて強化していくことを発表したばかり。今年で34歳を迎える西川自身、キャプテンは年齢的に中堅の選手たちが担うものと思っていた。
「正直、『キャプテンをやってもらいたい』と言われるとは少しも思っていませんでした」
あらためて、大槻監督は西川の目をしっかり見ると、その真意について口を開いた。
「このチームにはリーダー的な存在はたくさんいる。行動力のある選手もいれば、発言力のある選手もいる。そのなかで、周作にはどのような状況でも変わらず、どしっと構えて、みんなに安心感を与えてほしい」
西川のキャラクターを理解した上での相談だったのだ。サッカー人生において、初めて任される大役。気負ってもおかしくないが、キャプテン候補に挙げられた理由を聞き、ほっとした。
「自分らしく、していけばいいんだって。キャプテンという立場を経験し、いろいろと学びたいと思いました」
迷うこともなかった。大槻監督からの熱いメッセージは心で受け止め、その場で即答した。
「はい、分かりました。がんばります」
その頼もしい言葉に指揮官も安どの表情を浮かべて、頬を緩めた。
「よかった。これからもよろしくな」
その2日後のミーティングでチーム全員にアナウンスされ、GKでは土田尚史(現スポーツダイレクター)以来となる浦和のキャプテンに就任。
想定外の人選に周囲は目を丸くしていたが、異論は出なかった。副キャプテンの一人に就いた関根貴大も歓迎している。
「最初は少し驚きましたが、しっくりきました。適任だなって。これまでと変わりなく、明るくポジティブに引っ張っていってくれると思います」
厳しく追い込む沖縄1次キャンプでも、西川の笑みが絶えることはない。さりげなく若手に話し掛けたり、年齢に関係なくチームメイトたちと自然体でコミュニケーションを取っている。
「みんなの前で積極的に発言したり、チームのルールを決めたりとか、理想的なキャプテン像はありますが、僕自身はそういうタイプではない。マイペースに笑顔でまとめていきたいです。自分がどこまできるかを考えて、無理をせずにやっていきます」
西川らしい決意表明である。ただ、長いシーズンを戦っていれば、苦しい時期に直面することもあるだろう。
まして新しい戦術に取り組み、チャレンジしていく1年。大分トリニータ、サンフレッチェ広島と渡り歩いてきた経験豊富な守護神は甘くない現実を理解している。キャプテンとして厳しい一面ものぞかせた。
「負けても下を向かない。僕の立ち振舞がチームに影響すると思っています。自覚を持たないといけない。そこは意識していきたい。胸を張って、シーズン最後まであきらめずに戦っていきます。(厳しいことを)言わないといけない状況も出てくると思います。この僕が言うときは、よっぽどです。チームが勝っているときこそ、注意してやっていきたい」
優しい顔ばかりではない。今季クラブが強調する"浦和を背負う責任"をひしひしと感じている。
在籍は7年目。レッズの歴史も理解し、ファン・サポーターの思いも肌で感じている。
「あの熱い埼スタでプレーできる喜びは、何歳になってもありがたいと思っています」
いまの環境に甘んじているわけではない。むしろ、危機感さえ持っている。古くから応援してくれる人だけではなく、新たな客層の取り込みの必要性を訴える。西川は伸び悩む集客からも目を背けない。
「選手はプレーで、結果で示さないといけない。そうしなければ、新しいファン・サポーターは増えていきません。それこそ、"浦和を背負う責任"です。一人ひとりが自覚を持たないといけない」
微笑の裏側には闘志が宿っている。笑ってスタンドに手を振るためにも、一戦必勝で戦っていく。
「チームを勝利に導く選手でありたい。それがキャプテンです」
静かに笑みを浮かべながらも、確固たる決意は揺るがない。
(取材/文・杉園昌之)