空港へ、新幹線へ、乗り換え1回
大阪と京都、そして滋賀を結ぶ京阪電鉄。毎日およそ80万人が利用し、関西大手私鉄の一翼を担っています。ここでは筆者(伊原 薫:鉄道ライター)が、「住むなら京阪沿線」と思わせる10の理由を紹介します。
6号車を有料座席指定車両「プレミアムカー」に改造した8000系電車(2017年5月、恵 知仁撮影)。
キタとミナミの両方に「お安く」アクセス!
京阪の大阪側のターミナルは、淀屋橋駅(大阪市中央区)。周辺は西日本屈指のオフィス街で、多くの企業が集まっています。ここで働く人たちにとって、京阪が通勤に便利なのはもちろんですが、この他に梅田エリア(キタ)や難波エリア(ミナミ)で働く人にも大きなメリットがあるのです。というのも、淀屋橋から梅田や難波へは、いずれも大阪メトロ御堂筋線の1区運賃(180円)で移動が可能。梅田~難波間は2区運賃(230円)ですから、「キタとミナミ、両方を使いたい」という人には最適です。
さらに、大阪メトロ堺筋線や谷町線とも乗り換えできるので、大阪市内の“タテ移動”も便利。大阪市内をアクティブに動き回りたい人にとっては、かなり魅力的です。
淀川を越えての移動がとっても楽チン!
まだまだ見逃せない乗り換えがあります。例えば、京阪本線は大阪モノレールや、まもなく開業するJRおおさか東線と接続しており、万博記念公園や伊丹空港、JR新大阪駅などに乗り換え1回でたどり着けます。京橋駅(大阪市都島区)でJRの関空快速に乗り換えれば、関西空港へも乗り換え1回。ビジネスやレジャーなどに、大きな威力を発揮することでしょう。
また、京阪は淀川の左岸(南側)を走っていますが、いくつかの主要駅から右岸へ、グループ会社の京阪バスが路線を伸ばしています。実は、淀川を越えての移動はかなり難しく、鉄道だけを利用する場合は大回りする必要があります。京阪沿線に住んでいれば、守口市駅(大阪府守口市)や枚方市駅(同・枚方市)からバスで吹田・茨木・高槻方面へ移動でき、行動範囲がグンと広がります。両エリアには大学なども多く、通学にも大きな味方です。
沿線は買い物便利 京橋は「食」の楽しみも
活気あふれる商店街も! 買い物の便利なエリアがずらり
京阪電車の“名物”といえば、天満橋駅(大阪市中央区)から萱島駅(大阪府寝屋川市)にかけての複々線区間。なかでも、京橋駅の先にあるカーブから土居駅(同・守口市)の手前までは、ほぼ一直線の高架橋が続き、しかも駅間が短いため、3駅向こうまで見渡せます。まさに“見る鉄スポット”なのですが、このエリアは住むにもメリットが。
土居駅から見た複々線区間。数駅先まで見渡せ、行き交う列車を見ているだけでも楽しい(伊原 薫撮影)。
大阪有数の商店街「千林商店街」を筆頭に、多くの商店が並んでおり、買い物には全く困りません。また、千林駅から3駅隣の守口市駅前には、グループ会社の京阪百貨店も店舗を構えており、京阪随一のターミナルである京橋駅は説明するまでもなく買い物に事欠きません。食料品から雑貨、衣類、贈答品に至るまで、不自由することなく暮らせるといえるでしょう。
余談ですが、京阪百貨店の開業は1985(昭和60)年と、関西大手私鉄が手掛けた百貨店としては最後発。京阪は百貨店運営のノウハウを持っていなかったため、“先輩”である阪急百貨店が、社員教育などを協力したという逸話も残っています。
飲み屋からフランクフルトまで! 大阪有数の歓楽街に直結
先ほど「買い物に事欠かない」と書いた京橋駅は、大阪有数の歓楽街としても有名です。駅を出れば、大阪名物(?)の立ち飲みからふぐ料理、もつ鍋、そして〆にぴったりの立ち食いうどんまで、目の前にはあらゆるジャンルの飲食店が軒を連ねています。そして、その多くがとてもリーズナブル。深夜0時を過ぎても、京都市内の淀駅まで帰れるというのも、お酒好きにはうれしいところです。
そして、そんな京橋駅のもうひとつの名物が、ホームの売店で売られているフランクフルト。専用の機械でパリッと焼かれたその味は、ケチャップやマスタードを付けずにさっと食べられるよう「しっかりめ」。ホームのベンチで、このフランクフルトを片手に缶ビールを飲む人の姿も見られます。
京都の観光地や琵琶湖へかんたんアクセス
世界的に有名な観光名所があふれる沿線
一方、休日もいろいろな楽しみがあふれているのが京阪の良いところです。
沿線には、伏見稲荷大社(京都市伏見区)や石清水八幡宮(京都府八幡市)を筆頭に、世界的に有名な観光名所がいっぱい。さらに、京阪グループの叡山電鉄(叡電)や京福電気鉄道(嵐電)に乗れば、鞍馬、比叡山、嵐山などへのアクセスも可能です。こうした観光地を、旅行で一度だけ……というのではなく、日常的に訪れることができます。
観光名所といえば、琵琶湖も忘れてはいけません。京阪では、比叡山から大津を経て琵琶湖に至る観光ルートを「山と水と光の廻廊」と名付け、様々な取り組みを行っています。そのひとつが、毎年3月に行われる「びわ湖開き」。NHK連続テレビ小説などの出演者が「黄金の鍵」を投げ入れるシーンは、春を告げる風物詩としておなじみです。
地下鉄から路面電車まで何でも来い! 京津線の「スーパーカー」
京津線の「スーパーカー」800系電車。びわ湖浜大津駅付近では車と並走する(伊原 薫撮影)。
そんな琵琶湖方面へ向かうのは、京阪京津線。かつては三条(京津三条)駅を起点としていましたが、京都市営地下鉄東西線に乗り入れる形で路線が短縮されました。地下鉄線内で多くの乗客を運ぶため、車体は長くなり、列車も2両編成から4両編成に伸ばされています。
一方、京津線には日本の普通鉄道ではトップ3に入るという、61パーミルの勾配(1000m水平に進むごとに61m上るまたは下る)や急カーブ、さらには自動車と同じところを走る併用軌道区間まであります。こうした条件に対応するため、京津線用の800系電車は小柄な車体に数多くの機器を搭載。1両の製造価格は3億円を超え、1mあたりの「単価」は新幹線より高いともいわれています。
沿線には「昔ながらの遊園地」も
プレミアムカーに2階建て車両も! 個性的な車両たち
京津線の800系以外にも、京阪には個性的な車両がいっぱいです。その代表は「プレミアムカー」。ゆったりとした3列シートには電源コンセントや無料Wi-Fiも完備されています。料金はワンコイン(500円)以下なので、観光客や会社帰りの人々はもちろん、「ちょっと買い物で荷物が多くなって……」というときでも気軽に利用できます。
京阪の有料座席指定車両「プレミアムカー」。ゆったりした車内で快適に移動できる(伊原 薫撮影)。
また、特急用の8000系電車には特別料金が不要のダブルデッカー(2階建て車両)も連結されています。2階建て車両に運賃だけで乗れるというのは、なんともおトクな気分です。見晴らしの良い2階席と、落ち着いた雰囲気の1階席を、気分に応じて使い分けられます。
一方、石山坂本線では様々なラッピング車両が活躍しています。最近は、人気アニメとコラボレーションしたラッピングも増えており、全国からファンが訪れる人気ぶりです。さらに、京阪沿線を舞台にしたアニメもいくつか登場。駅や列車、車窓の風景が、驚くほどリアルに再現されているのを見ると、なんともうれしい気持ちになるに違いありません。
昔ながらの遊園地「ひらパー」でリフレッシュ!
関西の大手私鉄5社は、かつて全社が沿線に遊園地などのレジャー施設を持っていました。しかし、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」(大阪市此花区)の躍進をはじめ、レジャーの多様化に伴い、「宝塚ファミリーランド」や「甲子園阪神パーク」「奈良ドリームランド」といった、いわゆる“昔ながらの遊園地”は次々と姿を消していきました。
そんななか、現在も奮闘しているのが、“ひらパー”の愛称で知られる、京阪の「ひらかたパーク」(大阪府枚方市)です。かつて日本最大級の菊人形展を開催していたひらパーも、21世紀に入ってからは来園者数が落ち込み、閉園の危機を迎えていました。そこで、大幅なリニューアルとともに、人気アイドルグループやお笑い芸人を使った大々的な宣伝を行い、これが大当たり。“昔ながらの遊園地”ならではの雰囲気も、逆に人気を呼ぶ結果となり、来園者数は大幅に回復しました。休みの日にふらっと立ち寄り、心身をリフレッシュするには最適です。
京阪の将来性は?
お父さんの強い味方? 駅直結のゴルフ場
さて、「レジャーといえばゴルフ」というお父さん方も多いでしょう。そんな方にも、京阪はおすすめ。京都府との府境に近い樟葉駅(大阪府枚方市)を降りると、すぐ目の前に広大なゴルフ場「樟葉パブリック・ゴルフ・コース」があるのです。開設は1957(昭和32)年と、60年以上の歴史を持つゴルフ場で、一時は国際大会も開かれていました。クラブハウスが駅に直結しているという利便性の高さや、リーズナブルな利用料金で、多くの人に愛されています。なお、現在は大規模リニューアル工事が行われており、2019年秋には新しい姿を見せてくれることになっています。
ところで、このゴルフ場は淀川の河川敷にあるのですが、洪水時には市街地への浸水を防ぐ緩衝地帯の役割も持っています。現在は治水が進んだため、そうした事態にはほとんどならないのですが、それ以前はしばしば冠水し、コースが使えなくなることもありました。水が引いた後、コースにはたくさんの魚やスッポンが打ち上げられており、従業員が美味しくいただいた、という逸話も残っています。
中之島線の延伸で、京阪がもっと便利に!
2008年の開業から10年が経過した中之島線の終点、中之島駅。ここから先への延伸が検討されている(伊原 薫撮影)。
住む場所を決める際、もうひとつ大切なのが「将来性」。その点でも京阪は魅力的です。その理由が、2008(平成20)年に開業した中之島線。現在は中之島駅(大阪市北区)が終点ですが、2025年の大阪万博開催や、IR(統合型リゾート施設)建設をにらんで、埋め立て地である夢洲方面への延伸が検討されています。いまのところ、大阪メトロと阪神電鉄の九条駅(同・西区)を経由し、JRと阪神電鉄の西九条駅(同・此花区)に至るルートが有力視されていますが、もし実現すれば大阪市西部や、USJへのアクセスも格段に便利となるでしょう。
さらに、大阪市内を南北に走る「なにわ筋線」計画が、2031年の完成を目指して進められています。同線と中之島線は中之島駅で乗り換えが可能。なにわ筋線が完成すれば、関西空港や和歌山方面、さらには高野山などへのアクセスも便利になることでしょう。