カワイイの発信地、原宿は、多くの若者で賑わうショッピングタウンだ。だが買い物で歩き回ると必ず空腹に襲われるという事実を念頭に置いておかないと、荷物を抱えながらレストラン難民になりかねない。ここでは都内有数のショッピング地区に佇(たたず)み、この街を物欲だけでなく食欲も満たせる最高の街にしてくれる立役者たちを紹介する。
赤寶亭
赤寶亭のシェフ赤塚真一が作る料理は、めったにない「ご馳走」と断言できる。静かな声で話す、眼鏡姿の赤塚は、美しさ、季節感、伝統、そして調和を重んじる日本の高級料理、懐石の東京における第一人者だ。12年前にオープンし、今ではミシュランの二つ星を誇る外苑前の静かな店には、美しい料理を食べるのにぴったりの4つの端正な個室と、静謐な日本庭園を眺められるカウンター席がある。赤塚が、高校を卒業したころは味噌汁も満足に作れなかったとはにわかには信じがたい。現在の彼は、熟成味噌の名手としてだけでなく、日本中から集められる、新鮮な魚や海鮮を中心とした季節の食材を組み合わせる天才としても名高い。夜の『おまかせコース』は飲み物別で1万6,000円~。だが東京でも指折りの懐石を味わえるのだから値段の価値は十分にある。
フロリレージュ
フロリレージュ(Florilège)の川手寛康が最高のシェフであることは、以前から分かっていたことだ。しかし、2015年に青山に店を移して以来、さらに腕が磨かれたようだ。フロリレージュが他店と一線を画すのにはいくつかの要素がある。まず、セッティングがドラマチックだ。カウンターと壁は灰と炭の色、床は溶岩のような赤に塗られている。オープンキッチンの生け花は、ほの暗い部屋の中で、驚くほど明るく緑に輝いている。そして、川手と足早に動くスタッフたちが、スポットライトの下で静かに働いている。
2ヶ月ごとに替わる川手のメニューは、店の内装と同調するように、鮮やかな食材が、それとは対照的な土色の器に盛られている。『熟成肉とスモークポテトのビーフコンソメ』は絶品だし、サンドライドトマトとイワシが盛られたパスタも、見た目から味まで完璧だ。
キキ ハラジュク
原宿の中心から歩いてすぐの静かな裏通りにたたずむのは、野田雄紀が作り出す魅惑の料理の数々が人気のキキ(Kiki)だ。22歳でフランスに留学した野田は、パリの老舗レストラン、タイユヴァン(Taillevent)で働いた後、ミシュランの星も獲得している、神楽坂のフレンチレストラン、ルグドゥノム ブション リヨネでシェフのクリストフ・ポコ(Christophe Paucod)に師事。2011年に独立し、カジュアルな雰囲気のレストランキキをオープンした。若い世代にもフレンチを楽しんでもらえればと、7品のディナーコースを5000円で提供している。
季節のフルーツやベリーを好んで使用しており、彼のリヨン風サラダは、ルッコラとビートをインディアンマスタードで和え、そこにイチゴ、ラズベリー、ベーコン、ひよこ豆を組み合わせた独創的な絶品料理だ。
原宿 はしづめ
広尾や南青山にも店を構える人気中華料理店のはしづめが今年5月、原宿駅近くにオープンした。大正ロマンを思わせる洋館を用いた原宿店のテーマは「蕎麦前」だ。中華料理の技法をベースに、旬の食材を用いて作られた酒肴(しゅこう)をこだわりの器で味わうことができる。シメに忘れてならないのが、橋爪の麺。多くの高級ホテルに麺を卸す橋爪製麺が、気軽に同社の麺を楽しめる場を作りたいとオープンさせたはしづめでは、ヌードルアーティストである社長の橋爪利幸自らがプロデュースした麺を楽しむことができるのだ。定番の中華麺のほか、ゴボウやサンショウ、ホウレンソウなどをベースとしたものも用意されているので、ほかでは味わうことのできない麺料理を堪能できるだろう。
ベポカ
原宿にあるベポカ(Bépocah)は店内に足を踏み入れる前から、ペルー料理をおおいに主張していることが分かる。2013年に開店して以来、その鮮やかな黄色の建物はランドマークになっている。内装は暗めの木目を基調としており、カウンター席、1階に一人で来る客やカップルが居心地良く過ごせるテーブル席2つ、2階には団体客向けのテーブル席がある。 シェフで共同経営者の仲村渠(なかんだかり)ブルーノは、伝統的なペルー料理を現代的なスタイルで作り上げる。それはペルー独特のじゃがいもを重ねて作る料理『カウサ』のユニークさにも表れている。北海道産の黄色と鮮やかな紫色のじゃがいもを重ねてクリーミーなチキンサラダを挟んだ『カウサ・レジェーナ』は絶品。見た目で楽しめるだけではなく、ライムの酸味とアヒ アマリーヨ(黄色い唐辛子)の辛さが絶妙な味わいを醸し出す。