中村勘九郎と阿部サダヲがダブル主演を務める大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。
同作は、宮藤官九郎が脚本を手掛けた日本のスポーツの歴史物語。日本で初めてのオリンピックに参加した金栗四三(勘九郎)と、日本にオリンピックを招致した田畑政治(阿部)が奮闘する姿を描く。
ドラマ「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(2019年、日本テレビ系)で水泳部のエース役で注目を集めた上白石萌歌は本作で、「前畑、頑張れ!」の実況でも知られる伝説のスイマー・前畑秀子を演じる。
200メートルの平泳ぎが専門で、1932年のロサンゼルスオリンピックで銀メダル、1936年ベルリンオリンピックで金メダルを獲得した。
そんな前畑を演じる上白石に、撮影前から取り組んだという役作りなどについて聞いた。
前畑さんと同じように“水泳を誰よりも愛そう”
――前原さんを演じてみての感想を教えてください。
お化粧で肌のトーンを5つくらい下げ、さらに日焼けサロンに通って、当時水泳をされていた方の体型や肌の色に近づけるように準備しました。
でもロサンゼルス五輪、ベルリン五輪を撮影したロケでさらに焼けてしまって…。途中からドーラン(化粧品)がいらなくなるくらい日焼けしましたね(笑)。
そういったことも含めてご本人に近づけたような気がして、すごくうれしいです。
――上白石さんが前畑さんに共感する部分があれば教えてください。
前畑さんは周りの人からしたら本当にその時代のスター選手ですし、特別な女の子として扱われていたと思います。
でも、前畑さん自身は普通の心を持った女の子で、大会の前には緊張のあまり控え室で走り回ったり、男子選手の「この人格好いいよね!」みたいなことを女子部屋で繰り広げていたりして…。そういう普通の一面を持っていることにすごく共感しました。
すごい選手でも一人の人間だし、プレッシャーを感じて、胸の中には期待も不安もずっとあって…。そんな中で戦ってきたんだなと思うと、私の役にかける思いもどんどん膨れ上がっていきました。
前畑さんと通じる部分でいうと、私も水泳がもともと好きで、中でも平泳ぎが一番好きだったので、水泳にかける思いやプールに飛び込む前の目つきの変わり方がリンクするといいなと。
私も前畑さんと同じように、“水泳を誰よりも愛そう”という気持ちで練習に取り組んでいました。
前畑役は「祖母に孝行できたかな」
――上白石さんは今回の出演が決まる前から前畑さんのことはご存知でしたか?
はい。私の祖母が水泳をしていて、祖母に「前畑秀子さんを演じることになりました」と報告したらすごく喜んでくれました。
前畑さんは祖母がオリンピックを見ていた時代にものすごく輝いていらっしゃった方だと思うので、そういった意味では祖母に孝行できたかなと思います。
――水泳がお得意なおばあさまからは、当時何かアドバイスなどはもらいましたか?
大会に出場できるような腕前ではなかったのですが、小学生の頃に水泳を習っていて、その練習をよく祖母が見に来てくれていたんです。
平泳ぎをしていたら祖母に「伸びが足りない!」って注意されて(笑)。厳しいなって思いましたね。
――小学生の頃におばあさまがアドバイスくださっていたということですが、それは前畑さんを演じる上でも生きましたか?
前畑さんの泳ぎは今とは違うので、あまり伸びちゃいけないんです(笑)。伸びというより瞬発力でガンガン進んでいく感じでした。むしろ最初に伸びを意識して練習していたら、「そうじゃないよ」って言われました(笑)。
前畑さんの当時の映像も拝見したのですが、飛び込みの速さもやっぱり一人だけ全然違うんです。そういった映像は泳ぎのヒントになりました。
――もともと水泳はお好きだったんですか?
小学校3年生くらいまですごく苦手でした。始めたきっかけが「おばあちゃんがあんなに泳げるのに、私はなんで泳げないんだろう?」と思った時にすごく悔しくなって…。
そして、小学校4年生になった時におばあちゃんに「私も水泳がやりたい」って言って同じスイミングスクールに通わせてもらって、夏の強化練習とか行っていました。
「生き様を自分の中に自然と落とし込んでいけるんだ」
――役作りのため7キロ増量されたとのことですが、苦労された点や、女優業に対する意識で変わったことなどがあれば教えてください。
体形を変えて役にアプローチするというのは今回が初めてでした。今までの役と違い、練習期間・準備期間を含め半年くらい、水泳の練習や食生活を見直す時間をいただきました。
増量は痩せるのと同じくらい大変で…。ずっと胃の中に食べ物がなくてはならないという状況が思った以上に大変でした。
ハイカロリーな食事がメインで、野菜も摂ってはいたのですが、途中で軽い食事がしたいなと思うこともありました。でも、時間をかければかけるほど自分が前畑さんに近づいていっているような気がして、肉体からのアプローチってこんなにもせりふを自分のものにできるんだ、生き様を自分の中に自然と落とし込んでいけるんだと感じました。
これからも自分でセーブをかけずに、いろんなことに挑戦して役作りしていけたらと思います。
――具体的にどのような食事を摂って、どんなことが辛かったでしょうか?
食生活に関してはサポーターの方が主に管理をしてくださいましたが、一時期すごく運動もして、食べる量も増やしているつもりなのに、体重の増加が停滞してしまった時期がありました。
その時にひたすら脂質を摂らなきゃいけなくなったのはすごく辛かったです。なるべく脂の多いものやすぐにエネルギーに変わるものを選んで食べるという、ダイエットの真逆の生活をする必要があって…。
食事もなるべく1日5回とって、寝る前に食べたり、夜中に脂質をたくさん摂ったりするのは、とても辛かったです。
――肉体改造をしたことによって前畑さんの生き様を自分に落とし込めたとのことですが、上白石さんの感じた前畑さんの生き様とはどのようなものでしょうか?
1930年代頃はまだ女性の地位も高いわけではなく、女学校を出たらすぐに嫁ぐというのが普通だったと思うんです。そんな中で前畑さんは普通じゃない扱いを受けていただろうし、せりふの中にはそこまでひどい言葉はありませんが、実際はいろんなことを言われたんだろうなと思うと胸が痛くなります。
前畑さんは、幼い頃に両親を亡くした経験や水泳にかける情熱、信念など、さまざまな強さを持っている方です。日本人初の金メダリストということで、当時の女性の進出にもすごく影響を与えたと思います。
――今回前畑さんを演じたことによって、スポーツ選手の見方は変わったりしましたか?
昔からスポーツ選手の方のドキュメンタリー番組をよく見ていたのですが、前畑さんを演じてからは大会に向けてのプロセスを知りたいなと思うようになりました。
また、最近パラリンピックに関するお仕事をさせていただいたのですが、パラリンピックの水泳選手の方のドキュメンタリーもすごく感動しました。
パラリンピックは特別な訓練を重ねないとできない競技だと思うので、そういったドキュメンタリーに触れて、どんどん知っていきたいなという好奇心が広がっているところです。