およそ20年にわたり配送会社で働いてきた男性。しかし体調を崩し、病院に行くために休みを取るも会社側から罰金を科せられてしまい、彼は懲罰を恐れて病院へ出向くことができなかった。体調が悪化した男性は今年1月に死亡したが、彼の妻がこのほど会社側の理不尽な対応を英メディアに訴えた。『The Guardian』『The Independent』『Mirror』などが伝えている。
英ドーセットのクライストチャーチに住むドン・レーンさん(53歳)は過去19年間、配送会社「DPD」で配達ドライバーとして勤務してきた。DPDはドライバーを業務委託扱いにし、収入は荷物1個を配達するごとに加算していくシステムを取っており、有給休暇などもない。ドライバーはDPDが依頼する分の配達をその日にこなすことができなければ、収入が減るだけでなく損害賠償として1日150ポンド(約23,000円)、半日であれば75ポンドの罰金が科せられるという厳しい規約が敷かれている。
糖尿病を患い2014年から体調を崩していたレーンさんは医師の診察を必要としていたが、罰金制度が経済的なしわ寄せになることを気にして診察予約を何度もキャンセルして勤務に出ていたという。体調が悪いにもかかわらず、タイトなスケジュールの中で配達業務を繰り返していたレーンさんが最初に倒れたのは、2016年12月27日のことだった。この時に妻のルースさんは会社に連絡したが、上司から「罰金のことは心配しなくてよい」という返事を受け取っていた。レーンさんは2017年1月にも仕事中に再び倒れ、糖尿病性昏睡に陥った。
このままでは身がもたないと感じたのだろう、レーンさんは3月に「もう死ぬかもしれない」とルースさんに漏らしていたという。レーンさんの体調はますます悪化しており、糖尿病が原因で目に問題を抱えていたために眼科専門医の診察を受けるべく7月18日に病院へ行くことを上司に事前報告して休みを取った。その頃には血圧とコレステロール数値が高く貧血状態で、腎臓内のクレアチンレベルが上昇しており、治療を受けなければ腎不全になる危険性もあるとも医師に告げられていた。
ところがDPD側は、レーンさんが休んだ代償として150ポンドの罰金を科した。このことがあって以来、レーンさんはどんなに体調が悪くても休まず配達の仕事に出るようになった。しかし9月と12月末に再び倒れ、今年1月4日にロイヤル・ボーンマス病院で息を引き取ってしまったのだ。ルースさんは、22歳の息子と自分を置いて旅立ってしまった夫についてこのように話している。
「夫は『休めば罰金』というDPDの規則に常に脅かされていました。大量の荷物をタイトなスケジュールで配達しなければならず、自分の健康よりも会社の要求を優先していました。亡くなる数日前も夫の具合はかなり悪く吐血までしていたのです。それでも『仕事をしたくないがしなきゃいけない。業務委託だけど雇用されているのと同じだ』と話していました。会社側は医師の診察を受けなければならないほどの夫の容態をもっと配慮すべきだったのです。」
一方でDPDの地域担当マネージャーは、レーンさんの死亡の知らせを受けてこのように述べた。
「病院に行くために、わざわざ1日休みを取らなければならないという考え自体が私の理解の範疇を超えていた。それゆえ、規約通り罰金が科せられて然るべきだと判断したまで。こちらも彼の様子を気を付けて見ていたが、9月に倒れたことは知らなかった。2014年以降、彼の体調が良くないと知ってからはなるべく荷物の量を減らし、静かな田舎のルートでの配達を任せていた。その方が病院の予約を取るのに都合がいいのだろうと思っていた。ただ、彼からは仕事のプレッシャーを感じて罰金を恐れているようには感じられなかった。クリスマス時期でもこうした業界の配達ドライバーは余分に仕事をこなすが、彼はいつも通りのルートを配達していただけだった。吐血するほどの状態だったことに気付かず、我々も彼の死にショックを受け悲しんでいる。」
さらにDPD側は、ドライバーの具合が悪い時には代わりのドライバーに仕事を頼むなどの選択肢を設けており、もし代わりの者が見つからなくても他のドライバーで配達ルートを変更し合って業務をこなすことも可能だと主張している。とはいえ個々の過度の業務内容に変わりはなく、罰金制度が敷かれているという事実から休みを取ることを恐れるドライバーは決して少なくはないだろう。その事実を裏付けるかのように、レーンさんの同期という男性ドライバー(本人の意思で名は明かされず)はこのように話している。
「レーンさんは本当に具合が悪そうでした。でも会社は彼が糖尿病を抱えていることを知っていながらも、その体調を配慮することは全くありませんでした。会社はドライバーが体を壊すまで仕事を押し付けるんです。彼が亡くなった原因のひとつは過労ではないかと思っています。」
現在、イギリス国内のDPDでは約5,000人のドライバーがいる。彼らには制服着用が義務付けられDPDのロゴ入りのバンをドライバー側がレンタルしなければならず、他の運送会社と掛け持ちで働くことは許されない。厳しい規約を敷くDPDに、「IWGB union(英国独立労働組合)」の副会長を務め、自身も配達業で生計を立てているマギー・デューハーストさんはこのように苦言を呈した。
「DPDの対応や管理体制はまったくもって不必要、かつ冷淡で許し難いものです。会社側が罰金を強要するなどという規約はどのような状況に置いても違法とし、警察に通報して然るべきでしょう。レーンさんのように一回の仕事毎に賃金が支払われるようなギグ・エコノミー(gig Economy)の就業形態は、うまく機能することがある一方で、今回のように深刻な結果を生むこともあるのです。労働者が働いた分だけ賃金が支払われるのは当然の権利です。ペナルティーともいえる罰金対応などは違法にするよう、直ちに対策がなされるべきです。」
このニュースを知った人からは「人の命よりも会社の利益を優先する会社なんて最低でしかない」「ほとんどの企業が人を奴隷みたいに扱っているよね」「こんな会社、裁判沙汰にすべきだ」「自分も別の配送会社で働いているが、娘が病気になった時に翌日の仕事を欠勤したらとんでもない罰金を科せられた。配送会社で働く者にとって、この問題は深刻だと思う。このニュースが拡散されて対応が良くなればいいけど…」「勤務中に昏睡状態って…事故でも起こしたらもっと大変なことになる。レーンさんも仕事をすべきじゃなかったと思う」「部下のことなどお構いなしの企業。これが21世紀のイギリスだなんて情けないね」「家族を養うためにきっと必死に働いていたのでしょうね。あまりにも悲しい死だわ」といった声があがっている。
画像は『Mirror 2018年2月5日付「Diabetic parcel courier who was fined £150 for taking day off to see doctor dies of disease」(Image: BNPS)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)