「死にたい」「消えたい」……。
自殺願望を語ってくれた、首都圏の大学生・美葉(仮名、20)さん
「死ねたらいいな」という気持ち
「コロナ自粛はキツかったです。生活も乱れて、午前11時に起床することもありました。両親ともに仕事があり、“家を出るな”と明言はされず、どちらかというと自分はひきこもり傾向があるので、“公的ひきこもり”でした。ただ、家族もストレスがたまってきていて、自分も同じでした。通常であれば、家に自分以外、誰もいないことが多いけど、父親は緊急事態宣言で帰宅が早まり、弟や妹もいるので、誰かしら家にいる状況でした」
「積極的に死にたいというのではなく、死ねたらいいな、と思ったんです。そのためには過量服薬(OD)がいちばんやりやすいと思ったんです。今回は、市販薬でやってみようと思いました。過去にも市販薬を84錠飲んだことはありましたが、病院に運ばれるほどではなく、24時間後には普通に歩けました。だから、死ねないのでは? と思っていて、本気で死のうというよりは、家からちょっと離れたい気持ちのほうが大きく、精神科に入院できればいいな、と思ったんです。決行日を決めたのは、1週間前です」
「記録のない'18年のほうが病んでいました。メモをするようになったのは、診察のためです。でも、治りたいという気持ちがあるのか? と聞かれれば、まだないかな。病気であれば、助けてくれる人がいます。治ると、みんな、一気にいなくなってしまう不安があります。疾病利得を感じているんです」
「告白の相手はキャス主(動画サービス「ツイキャス」の配信者)の男性。特に視聴者が多いわけではないのですが、気になって見ていたんです。一度も会ったことはないけど、ここ数か月はLINEでメッセージや通話もしていました。もし告白して、付き合うのがOKなら、今後も生きてみようと思ったんです。でも、相手の男性は20代後半で、結婚を考える年代です。そのため、『結婚するかどうか、そんな決断に巻き込むわけにはいかない』と言われたんです。納得するしかありませんでした」
「死にたい」理由の発端は、兄からの性的虐待
「最初に身体を触られたのはお風呂に入っていたときでした。小学校4年生のときに、兄とセックスしました。最初は何をしているのかわからなかったんですが、恥ずかしいとはわかっていました。いつも、性的虐待の最後に兄は『誰にも言うな』と言うので、従っていました」
「痛いし、怖いんです。また痛い思いをしないといけないと思ったりしました。でも、刺激を待っていたときもあったんです。一方で、身構えていた面もありました。矛盾ですよね。しかも、兄は避妊はいつもしないんですよ。抵抗すると『うるさい』と言うので、諦めていました。はたからみると、普通のきょうだいでしたが……」
兄との関係を母親に知られて
「エアコンをつけながら、妹と並んで部屋で寝ていたら『涼しいじゃん』と言って、兄が間に入ってきました。兄は妹に『早く寝なさい』と言って、私も寝ようとしていたら、母親が洗濯物を置きに部屋に入ってきたんです。でも、そのとき私はすでに脱がされている状態だったので、母親は『何をしてるの!』と。あとで兄との関係を聞かれ、とっさに『小5から』とウソを言いました。あとで知ることになりますが、妹も触れられたことがあったようです」
「親に言うのは嫌だったので、担任に相談したんです。最初は『家に帰りたくない』と話していました。ただ、児相に対しては、兄をかばう気持ちがありました。兄は、部活の顧問から理不尽な指導をされていて、相当ストレスが溜まっていたようです。『兄も大変なんだから仕方がない、私が我慢していればいい』と思いました」
「家族に縛られずに生活できるのがうれしかった。職員と一緒にいた子どもたちは、すごくいい人でした。家族より居心地がいい。保護所にいる子たちは、つらいことがあってここにいる。そう思うと私と同じ境遇なわけで、心で繋がっている気がしたんです」
「OD後に、一時保護所の職員と連絡が取れて、入院できてよかったです」
「いつか何かをやらかしそうで怖いんです。でも、死ぬのも怖い。座間市男女9人殺人事件が発覚したころも病んでいたので、犯人とつながっていたら、自分もついていったでしょうね。殺してもらえるならそれでいいと思っていたので、被害者の気持ちはわかる気がします」
渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。