cat_11_issue_oa-shogyokaionline oa-shogyokaionline_0_f75e3e6534eb_木と暖炉と猫の温もりのある宿で心も体も癒された f75e3e6534eb f75e3e6534eb 木と暖炉と猫の温もりのある宿で心も体も癒された oa-shogyokaionline 0

木と暖炉と猫の温もりのある宿で心も体も癒された

2019年11月2日 05:00 商業界オンライン

 静岡県・東伊豆にあるログハウスの宿「スピークイージー(Real country inn Speak Easy)」。建物から料理までオーナーのこだわりが詰まった宿には、3匹の猫たちが暮らしています。敷地面積約3500坪の宿の敷地と素敵な館を自由に行き来していますが、おもてなしも心得た立派な猫スタッフでした。

ノルウェージャン由来の猫たち

 ふわふわの長毛に現れているように猫たちはノルウェージャンフォレストキャットという品種由来の猫たちです。でも、ペットショップで買ったわけでももらったわけでもありません。もともと宿の周辺では多くの農家がネズミ対策で猫を飼っていたこともあり、外来の猫品種も目撃されていました。
 その中で和猫とのミックスの母猫が、宿に居つき子を産みました。長毛の遺伝子を引き継いだ子猫たちは、宿で迎え入れることになり、すくすくと育っていきました。

宿の案内係の第1の猫「コルテス」

 訪れた時に宿にいたのはコルテス(6歳・オス)。他の2匹はお出掛けでしたが、代わりに宿の案内するように、宿のあちこちを移動して回ります。コルテスの好きな場所は暖炉前のようで、しばしロッキングチェアでくつろいでいました。
 この暖炉がある吹き抜けのホールは中央の太い柱が天上を支え、そこから8本の梁が広がるダイナミックな構造です。樹齢128年の杉の大黒柱など大小約1000本の木はオーナー自ら裏山から切り出したもの。完成まで5年の月日を要したこだわりのログハウスの宿です。

2階を案内するコル

 コルテスに導かれて、らせん階段を上った2階には一部回廊があり、大きな窓から明るい光が差し込んできます。ベランダに出ると目の前にはさえぎるものがありません。
 遠くに海を臨みながらコルテスを撮影していたら、ふと現れたのが銀色の長毛猫。宿では女将と呼ばれているジョアン(6歳・メス)がそこにいました。取材に気付いてやってきてくれたのでしょうか。

女将「ジョアン」のお勧め

 ジョアンなりのウエルカム方法でしょうか? 客室のベランダで背中をつけてごろんごろん転がり始めます。そういえば、その客室には人間がごろんとするベットがありますが、なんとアメリカから取り寄せたウォーターベッド。
 80年代頃ブームがあり、憧れていたのですが叶わずそれをジョアンが察して、ぜひにとお勧めしてくれているということですね。さらに客室には、オシャレな猫足のバスタブもあって、宿のこだわりがあちこちから現れてきます。

宿のこだわりオーナー

 随所にこだわる「スピークイージー」のオーナー小林國芳さんは、若い頃、米国マイアミに3年半滞在し、日本料理店で腕を振るっていました。その時のさまざまな人との出会いやユニークな体験が宿のつくりや食に生かされています。
 宿での料理は小林さんの創作料理。本や食べ歩き、食材からのインスピレーションを得て作られたこだわりの料理を提供しています。また、宿の名前スピークイージーは隠れ酒場の意味。バーカウンターには酒場らしく多種多様なお酒が用意されています。

野生的な第3の猫「ダヤン」

 ところで3匹目の猫ダヤン(6歳・オス)にはついにお目にかかれませんでした。自分のお気に入りの場所があるそうですが、夜になれば猫専用の扉からわが家に帰ってくるでしょう。
 これから寒くなれば、宿自慢のカナダ製薪ストーブの出番。ダヤンも含めて猫たちも温かさに引き寄せられてきます。隠れ家的な宿でお酒を片手にストーブの炎を見詰め、3匹の看板猫たちと過ごす時間は身も心も癒されること間違いなしです。
(南幅俊介)

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cat_11_issue_oa-shogyokaionline oa-shogyokaionline_0_f3038d50b8a8_アマゾンは錯覚していないか f3038d50b8a8 f3038d50b8a8 アマゾンは錯覚していないか oa-shogyokaionline 0

アマゾンは錯覚していないか

2019年11月2日 05:00 商業界オンライン

 ウォルマートがアマゾンに脅威を感じるのは、納得できる。なぜならウォルマートは自らが、ナショナルブランドとそのイミテーション廉価版のピービーの、エブリシングの「販路」であることを、十分に自覚しているからだ。だとすれば、店舗無し・店舗在庫・店舗要員・管理コストなど全てゼロで、その上、無限の商品分野をカバーするエブリシング・ストアのアマゾンの「物販」に、脅威を感じるのは、当然である。
 だがそのウォルマートの脅威意識が、逆にアマゾンに錯覚をもたらしたのではないか、というのが私の疑いである。錯覚とは、アマゾンが自らを「物販」ビジネスだと考えてしまったこと、である。私見によれば、アマゾンの本業は、最近の業績でも明らかであり、例えば成毛真氏の著書『Amazon』他でも夙に指摘されているように、AWSという圧倒的シェアを誇るクラウド・ビジネスであり、ロジスティックス・ビジネスである。「物販」ではない。AWSの話は今はさておく。
 私がアマゾンの本業を、ロジスティックス・ビジネスだという根拠を示そう。既に人口に膾炙しているアマゾン創業のエピソードは、こうである。アマゾンはなぜ創業の時、書籍から始めたか。米国の場合、書籍にはA版しかない。しかも圧倒的多数の書籍はA5(週刊誌の大きさ)からA7に集中している。それは包装材料を徹底的に規格化できる、ということである。包装資材が規格化できるということが、ロジスティックスに圧倒的に有利であることは、例えば、そのブツをトラックの荷台に積んだとき、を考えてみればすぐ分かる。荷台にムダな隙間が生じない、のである。
 同じことは、ブツをラックに積んだときも当てはまる。ここにあるのは、「書籍」という「商品」ではなく、ブツを運ぶ・動かす、という徹底的に「物販」と異なる発想である。それは「物販」ではなく、ネットと「ロジスティックス」を優位に置いた発想である。
 だとすればアマゾンは、意識したか・しなかったか知らないが(私は、アマゾンに限らず、「創業の秘話」そのものには、全く興味がない)、創業当時から、そのビジネスの本質は、「物販」ではなく「ロジスティックス」にあった、といい得る。にもかかわらずなぜアマゾンは、いつの間に自らを「物販」ビジネスだと考えるようになってしまったのか。それは例えば、ウォルマートの逆影響、意識過剰だと考えるしかない。
 なぜそれを「逆影響」だというか。創業当時のように「ロジスティックス上有利で、なおかつネット通販に適したブツなら、何でも扱う」という基本戦略を超えて、今、アマゾンは「商品なら全て扱う」という方向に向かっているとしか思えないからである。その典型的例が、ホールフーズ・マーケットの買収である。
 アマゾンは、なぜホールフーズを買収したか。いうまでもなく食品のネット通販に参入するためである。なぜ「食品」なのか。なぜロジスティックスという視点で見て、まだ扱っていないが、扱って有利という商品から侵略しないのか。そう考えると、アマゾンはいつの間にか知らず知らずに、「ロジスティックス上有利なブツなら何でも扱う」という基本戦略から、「商品なら何でも扱う」、そして「売上げの大きい商品なら何でも扱う」というウォルマートまがいの戦略に転換した、すり替わった、といわざるを得ない。
 ロジスティックス上、最も困難な「食品」になぜ手を出すか。既に「食品」は、多くのスーパーマーケット・チェーンがネット通販を実行し、店舗ネットワークがあって初めて、ラスト・ワンマイルのコストをカバーでき、なおかつ即日配達という客のニーズに応え得る、ということが証明されているにもかかわらず、である。アマゾンに改めてスーパーマーケットを始める、どんな意味ある理由があるか。ロジスティックスという視点から考えたら、全く、ない。意味があるのは、「物販」と考えたときだけである。
 だが、今、アマゾンが犯している? 自らのビジネスを「ロジスティックス」ではなく「物販」と考えてしまった錯覚は、これにとどまらない。それは、「無人店舗」と称するアマゾン・ゴーに象徴される。
 もちろんアマゾン・ゴーは、決して「無人店舗」などではない。それは単に売場だけ無人化したにすぎない「無人売場」でしかない。いやもっと正確にいうと、「過大にコストの(特に商品補充の)かかる無人売場」でしかない。それはサプライ要員以外人件費がかからない自販機(それは総合的にいえば画一売店チェーンであるが、実は個々の販売機はそれぞれ品揃えが異なる個店経営である)にも劣る。米国では自販機に治安上の問題があるとしても、である。もしアマゾンが、創業時そうであったパッケージ素材の規格化・単純化というロジスティックス・ビジネスという視点を失わなかったら、これほどの愚行にのめり込むことはなかったのではないか。ちなみにもちろん、日本のJR東日本がトライしている、人々が「無人店舗」と錯覚している売店も、同様に過大な補充コストを抱えた「無人売場」であって、決して「無人店舗」などではない。
 カン違いしてはならない。重要なのは、絵になるからという手前勝手な理由で(もちろんそれぞれに手前勝手でいいのだが)、ジャーナリズムがもてはやす「売場の無人化」などではなく、従ってそのためのカメラ他の機器の動員コストでもなく、まず出店コストであり、「無人補充コスト」であり、「店舗在庫コスト」の方である。そのことを示唆するのは、他ならぬアマゾンがウォルマートを震駭させた戦略利点に他ならない。それは、ロジスティックスという視点で考えなければ出てこない発想である。
 アマゾンに限らず、人々がなぜこのようなトリックにだまされてしまうのか。それはロジスティックスあるいは無人化を、コストダウンとお客の便利、という既存の視点で捉えてしまうからである。確かに有人売場より無人売場の方が(機器コストの点ではまだしではあっても)コストダウンである。お客も便利だろう(ちなみに登場当時のスーパーマーケットが支持されたのは、そのワンストップ・ショッピングの便利以上に、セルフサービスという便利さからだった。そしてセルフサービスの快適とは、接客の無意味、「おもてなし接客」という幻想への、有力な反証になる)。
 だが同時にあくまで「店舗」にこだわるこのアマゾンの無人売場の、コストダウンとお客の便利さとは、既存の「販路」ビジネスである画一売店チェーン店舗と、「程度の差」しかない。アマゾンがネットにおいて導入したのは、それらを真っ向から否定した、構造的・戦略的視点だったはずである。ネットの画期的意味は、店舗よりコストダウンと便利さの点で、「程度の差」を超え「次元の差」を創造したことにあった、のではなかったか。
 こう考えると、アマゾンの「物販」前のめりを、最も歓迎しているのは、ウォルマートではないか、と思えてくる。なぜならウォルマートは、ネットに敏感であることが示すように、店舗という大問題を抱えてはいるが、同時に他方でネット以前から、ロジスティックスを徹底的に重視してきた企業だからである。私が以前の提言で皮肉った「店舗ピックアップ」も、ロジスティックスの視点でいえば、お客が自ら来店する店舗を買物の場にすると同時に、お客の自ら来店による商品ピックアップ・ステーションとしての利用、という巧妙な複合利用であるともいえる。
(島田陽介)

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cat_11_issue_oa-shogyokaionline oa-shogyokaionline_0_377657ad726e_「渋谷スクランブルスクエアの食物販」写真で見せます 377657ad726e 377657ad726e 「渋谷スクランブルスクエアの食物販」写真で見せます oa-shogyokaionline 0

「渋谷スクランブルスクエアの食物販」写真で見せます

2019年11月1日 05:00 商業界オンライン

 東急が中心となってJR東日本、東京メトロも加わり、100年に一度と言われる大規模な再開発が進む東京・渋谷。高さ約230m、地上47階地下2階の大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア(東棟)」が11月1日に開業した。

まずは「渋谷スクランブルスクエア」の全体像を紹介!

 17階~45階は、ミクシィ、サイバーエージェントといったIT企業も入居する渋谷最大級の総賃貸面積約7万3000㎡のオフィス。15階には産業交流施設「渋谷キューズ」を設け、東大、東工大、早慶などと連携し、スタートアップ企業の支援なども行い、イベントも開催する。屋上には渋谷の新たな観光スポットとなる約2500㎡の展望空間「スカイ ステージ」、46階に展望回廊「スカイ ギャラリー」を設け、内外からの観光客を誘致する。
 商業施設は地下2階~14階の約3万2000㎡、物販126店、食物販57店、飲食28店、サービス2店の合計213店で構成されている。ターゲットは「渋谷に愛着や接点がある、時代の最旬を楽しむシブヤな人々」。インバウンドを含む来街者、オフィスワーカー、周辺住民に向けた商品・サービスを提供。日本初上陸7店、都内初4店、渋谷エリア初49店、商業施設初4店、旗艦店8店、新業態39店と半数以上の店舗が新たな魅力を渋谷で発信する。
 また、3階、7階、12階にイベントスペースを備え、さまざまなトレンドや情報を発信し、体験型イベントも実施。1階、2階、4階にポップアップスペースを設けて、最新トレンドや旬のショップを紹介する。オープン時には限定商品や先行販売品も150点以上用意し、「世界最旬」をアピールする。

全店舗の4分の1と食物販が充実している

 全店舗の4分の1以上を占めるほど充実させた食物販は地下2階~1階の3フロア。地下2階には東急百貨店の「東急フードショー エッジ」が出店。地下1階は高級スーパーマーケットの紀ノ国屋の「グルマン マーケット キノクニヤ」、1階のグランドフロアにはJR東日本リテールネットの駅ナカ商業施設「エキュート エディション」という3つの新業態が出店している。

東急百貨店は約120の売場とショップを編集

 今回、東急百貨店は新たなコンセプトで編集した売場である6階コスメゾーン「プラスク ビューティー」、5階にファッションゾーン「プラスク グッズ」を出店、4階にもプロデュースしたポップアップストア「シブヤ224」を設けている。
「プラスクグッズ」はパーク、ストリート、アベニューの3つのゾーンに分かれ、日本初ショップ。渋谷初4ショップをはじめ17ショップで、靴、バッグ、アクセサリー、時計、サングラスなどを展開。「プラスクビューティ」は45の内外の有名ブランドを集積と、デパコスメをはるかに上回る規模で展開している。
 東急百貨店は主体の東急のグループ企業であることから出店。百貨店事業で培った目利き力と編集力を生かし、合わせて約120の売場とショップを編集、日本初上陸4ショップ、オンリー・新業態30ショップを投入している。
 グループでは東急ハンズも10階の1フロアをほぼ使い出店。渋谷に旗艦店があることから取り寄せなどで連携しつつ、商品構成はパーソナルギフト強化など差異化を図っている。

3階ではインバウンド需要の取り込みも

 3階は、インバウンド需要の取り込みも意識し「ジバンシィ」「サンローラン」「ヴァレンティノ」「ブルガリ」「ケンゾー」といったラグジュアリーブランドを11集積し、館の顔として機能する。
 4階、7階、8階、9階のファッションゾーンでは新業態、渋谷エリア初、旗艦店も多数投入し、目新しさをアピール。「ユナイテッドアローズ」「ジャーナルスタンダード」といった有力セレクトショップも展開している。
 11階では、TSUTAYAはコワーキングスペースとカフェラウンジを併設した新業態、中川政七商店は旗艦店で出店している。

レストランゾーンは2フロア

 12階と13階はレストランゾーン。18店中、日本初1店、新業態5店、商業施設初2店、都内初1店、渋谷エリア初6と初づくしの店が大半を占める。
 14階にはNHKの展示・映像ギャラリー「NHKプラスクロスSHIBUYA」、17階にコンビニの「ローソンプラストークス」を誘致している。

初年度400億円の売上げを目指す

 渋谷スクランブルスクエアの商業施設のコンセプトは“ASOVIⅤA(アソビバ)”。渋谷は、友達と会う、買物に行く、仕事に行くなどさまざまな目的を持った人たちが集まる街だが、「遊び・外し・崩し」みたいな“遊び心”が街全体にあることから設定した。「VIVA」という気持ちに遊びを掛け合わせている意味もある。
 さらに、駅直上で街の真ん中に位置することで、渋谷の街に足を運んでもらい、そして来館者を街に送り出すのが使命と考えた。そのためには最も旬な「最旬」にこだわり、継続して取り組むことでさらに魅力を高めていこうとしている。
 そして、ラグジュラリーブランドからファッション、雑貨、コスメ、フード、飲食、スーパーまで多岐にわたるコンテンツを集積。幅広い客層に対応しながら、さまざまな需要を取り込み、初年度400億円の売上げを目指している。

目新しさを打ち出し、トップポジションを目指す

 惣菜ショップからラグジュアリーブランドまでフロアによってジャンルが異なり、多種多様な顔を持ち、さまざまな需要に対応するが、全体的に大人の渋谷を意識したMD構成で、ヤングやファミリーは切り捨てたことでエッジの効いた先端を行く施設に仕上がっている。
「世界最旬」をテーマに日本初出店、新業態、渋谷エリア初のショップを投入し、目新しさを前面に打ち出しアピールすることで、渋谷における立ち位置でトップポジションを目指すことは、施設を特徴付けようとしている。
 ただ、各フロアの売場づくりは際立った目新しさはなく、デパ地下、デパコスメ、ファッションゾーンと従来の手法を踏襲。その中で飲食店ゾーンはそれぞれの店が特色ある店づくりやメニュー展開を行っており、かなり斬新なものに仕上がっている。
 気になるのは、事業主体の東急、JR東日本のグループ企業が出店していること。顧客視点から考えると最適であるか。例えば渋谷はロフトの旗艦店舗もあるので、東急ハンズだけではなくロフトも誘致し、新業態を競わせる。ステーショナリーの伊東屋も組み合わせればさらに魅力が増す。
 紀ノ国屋の新業態は、東急フードショーにある成城石井とバーターし、成城石井の新業態を見てみたい気がするし、そうすれば、食物販がさらにパワーアップしたと考えられる。
 東急百貨店の「東急フードショー エッジ」と「プラスク ビューティ」の売場のつくり方は、デパ地下とデパコスメの範囲を抜け出ておらず、雑貨・ファッション「プラスク グッズ」ももう一段階次元の違うステージで展開すればより魅力的になっただろう。

写真で紹介「東急スクランブルスクエアの食物販編」

 東急百貨店は、2000年に「東横店」に「東急フードショー」を設け、シズル感をアピールしながら食のライブ感を演出。食をファッションとしてとらえ、ワンランクの上の日常の提案することで、“デパ地下”ブームの火付け役となった。
 今回は、店舗名に「エッジ」と付けているように、施設のコンセプトでもある「世界最旬」を意識し、「流行・話題性」「上質・本物」「利便性」をキーワードに店づくりを行い、今までにない新しい価値を持つ食品売場を目指した。商品も地下2階の惣菜と1階のスイーツに絞り込み、最新で最先端のショップを誘致している。

地下2階「東急フードショー エッジ」惣菜フロア

 地下2階は、惣菜をメインに弁当、寿司、ベーカリーなど29ショップ。日本初3ショップ、新業態20ショップ、都内初、渋谷エリア初は各1ショップと、8割以上が初登場で新たな魅力を打ち出している。
 売場は従来のデパ地下を踏襲したつくりで、全ての惣菜ショップでランチボックスメニューを用意。中央に小型のイートインスペースを配置し、即食需要にも対応している。

日本初3ショップ

 日本初は3ショップでいずれも海外発。ロコモコ丼をはじめハワイアンフーズは根強い支持があるが「ピースカフェ ハワイ」は、ハワイの1番人気のカフェの惣菜ショップ。「ハワイアン精進料理」で、「ヴィーガンロコモコ」1189円などをそろえ、スムージーLサイズ843円、Sサイズ627円も提供する。
「参和院」は台北に2014年にオープンしたスタイリッシュな空間で創作料理が楽しめる人気店。パンダやハリネズミなど動物の包子など看板商品をはじめ、台湾の伝統料理も含めて惣菜メニューを各種取り揃えている。
「ティエリー マルクス ラ ブーランジェリー」はパリの2つ星レストラン「シュール ムジュール パール ティエリー マルクス」の総料理長が16年にパリにオープンしたベーカリー。本格的な食事パンを取りそろえ、直径12㎝・高さ17㎝ビッグサイズのブリオッシュ1620円が一押しアイテムだ。

「渋谷カツ Qメンチ」は、東急フードショーにも出店している「精肉あづま」の新業態のメンチカツ専門店。メンチをおかずではなく、前菜、パーティフード、ギフトに使えるよう提案している。高座豚を使用した「王道メンチ」の「金のメンチ」は260円。「極みロースかつ」は778円。
 人気天丼専門店の初のテイクアウト専門店「日本橋 天丼 天むす 金子半之助」。特製江戸前天丼は1380円。新商品として手土産にも好適な「天むす」を発売、程よい塩気とホワイトペッパーの白と甘辛い天丼ダレの黒の2種類で5個入780円。
「キムラミルク」は、銀座に本店がある木村屋の新業態。ソフトな生地に柔らかいこしあんをホイップした「渋谷あんぱん」301円は1日50個限定。メロンパンなども取り扱い、こだわりの牛乳も。
 また、「渋谷ウォークアード」の期間中、シュウマイの崎陽軒では渋谷限定のバーガーBOX3個入を1120円で販売している。

 イートインスペースは売場中央にスタインディングなミニスペース。イートインスペースを設けているショップもある。

1階「東急フードショー エッジ」スイーツゾーン

 1階のスイーツゾーンは、東急百貨店の「東急フードショー エッジ」の「カラット」と「ワールドブティックゾーン」、JR東日本リテールの新業態でスイーツに特化した「エキュートエディション」の3つのゾーンで構成されている。
東急フードショー エッジのスイーツ
 1階のスィーツゾーンは全て初物づくしで、日本初1ショップ、新業態5ショップ、渋谷エリア初7ショップ。編集ゾーン「カラット」ではトレンド、デザイン、マテリアル、ニュートラッドをキーワードに、個性あふれる内外の12のショップを集積している。

日本初ショップ

 日本初出店の洋菓子店「モリヨシダ」は、吉田シェフがフランスの伝統を再解釈して生み出した全く新しいフランス菓子を販売。このフロアのシンボル的な存在で、モンブラン、チョコレートケーキなどを展開している。

カラットゾーンの注目ショップ

 カラットゾーンに出店している新業態「メルズ キャラメル ワークス」は、キャラメルスイーツの専門店。限定商品「メルズフォンデュ」864円はチーズケーキの中にキャラメルクリームが入ったキャラメルフォンデュケーキ。
 ケーキ・焼菓子「アン ヴデット」は商業施設初出店。さまざまなフルーツのパートドフリュイをサンドした新感覚のバウムクーヘンも限定で販売している。

ワールドブティックゾーンの注目ショップ

 フランスの有名バターエシレを使用した洋菓子と焼菓子の「エシレ・パティスリー オブ-ル」。初めてフランスの伝統菓子であるカヌレを展開している。
「ル・ショコラ・アラン・デュカス」は、オーセンティックなデザインのチョコレートブティック。アルザス地方の定番菓子ショコラケーキ「フォレノワール」は同店の限定商品。都内初登場のソフトクリームもある。10月1日には羽田空港にも出店した。

エキュート エディション

「エキュートエディション」は、編集を意識したJR東日本リテールのエキナカ業態「エキュート」の新バージョン。「動きと気づき」「渋谷らしさと洗練」「美しさと機能性」という新しい3要素を掛け合わせた店舗空間に、和洋スイーツ10、ベーカリー、ドライフルーツ、コーヒー各1ショップを常時配し、催事ショップも展開している。

エキュート エディションの注目ショップ

「堀内果実園」は奈良県吉野で100年以上果樹栽培に取り組む老舗。2017年6月に奈良、19年3月大阪に果物加工品とドライフルーツの物販ショップを開設、今回は関東初で3店舗目。ドライフルーツ、シロップ、コンフィチュールなど約60アイテムを取り扱い、ドロアフルーツは1袋756円~972円。おこしにドライフルーツを入れた「くだものナッツおこし」10個袋入り800円を先行販売している。
「うなぎパイ」で有名な春華堂の新しいパイブランド「コネリ」は手ごねパイ専門店。熟練のパイ職人の手技で折り重ねたパイの層は1000層でサクサクな食感。メープルは10本入り1箱756円。パイの楽しみ方を広げるおつまみ系とおやつ系のディップも約50種類用意している。
 森永製菓は、お菓子を超える「をかし」な体験をコンセプトにした創業者 森永太一郎の名を冠した新業態「タイチロウ モリナガ」を出店した。キッコーマンとの共同企画「ガトー醤油ショコラ」2個入り583円や、森永のキャラメル風味を生かした「キャラメルバウム」ホール大2160円、1964年からのロングセラー「ハイクラウン」3本セット864円などを販売する。

地下1階「グルマン マーケット キノクニヤ」

 JR東日本グループの高級スーパーマーケット 紀ノ国屋の新業態「グルマン マーケット キノクニヤ」。おいしいもの好きのグルマン(食いしん坊)が美味を求めて賑わう場(マーケット)をコンセプトに、世界の食品と日本の旬に出会える場所を提案する。
 売場は約136坪。野菜、果物を中心に肉や魚の生鮮から、惣菜、寿司、日配品、加工食品、菓子、酒などを取り扱う。同社で初めてカフェ&バー「グルマンステーション」とレストスペースを設け、即食需要に対応。ベーカリーも展開している。

〈総括〉マーケットをリードしようとする点は評価できる

 惣菜とスイーツの「東急フードショー エッジ」は「東急フードショー」の開発・運営手法を活用し、名前通りにエッジを利かせたショップを導入。それなりに仕上がっているが、東急フードショーの延長線上にあり驚きはない。
「エキュート エディション」は新たな空間づくりを目指したが、残念ながらそれを顧客が感じ取れるレベルに達していると言えない。個々のショップでユニークなものもあれば、普通のものあり混在している状態だ。
 紀ノ国屋の新業態「グルマン マーケット キノクニヤ」は肉と魚が弱い半面、惣菜は充実、ニーズを限定して対応している。カフェ&バー「グルマンステーション」はチャレンジングな取り組みである。
 これらを踏まえると、食物販は都心マーケットを強く意識し、トレンドを追い掛けるのではなくリードしようとしている点は評価できる。
(西川立一)

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cat_11_issue_oa-shogyokaionline oa-shogyokaionline_0_f8f578e17c4d_落語会や卓球台のある霊園 f8f578e17c4d f8f578e17c4d 落語会や卓球台のある霊園 oa-shogyokaionline 0

落語会や卓球台のある霊園

2019年11月1日 05:00 商業界オンライン

 前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある石屋さんの事例を取り上げた。今回はまた別の石材店、製造業ではなく小売業の方の石材店だが、今度は霊園の運営も行っている石材店のお話だ。
 霊園の運営も行う石材店は多くはない。同社が運営を行っている霊園は2939区画の広さ、現在そのうちの約1200区画が販売済み、そのうち建墓済みのお墓が約1000基という状況だ。約15年前から「日本一お墓参りの多い霊園をつくる」という夢を掲げてきた同社だが、そのために今どんなことをやっているか。
 ざっと挙げてみると、顧客とのコミュニケーションを持続させるために定期刊行物(毎月送付のニューズレター)を発行、近隣の優良店舗を紹介。園内にはカフェのような広い休憩スペースを設け、無料のホットコーヒー、書籍・雑誌の設置、輪投げなどの遊具の設置、キッズスペース、アクアリウム、グラノーラ販売、ジェラート販売と、多様なサービスを拡充。近日中には、卓球台も設置されるとのこと。
 さらにイベントも数多く、万灯会、餅つき大会、お月見会、飾り巻き寿司教室、蕎麦打ち教室、落語会、写経会、ミュージックライブ、ヨガ教室など。夏休みに行う親子ワークショップには、300人以上の来場者が。他にも、制服バンクの受け取り場所を引き受け、自転車の貸し出しも行うなど、とにかくこれでもかと「来てもらう」ことに全力を傾けている。今挙げただけでも大変な充実ぶりだが、これらはまだ一部、そのユニークさと盛況ぶりが話題となり、地元新聞の1面を飾り、さらにはそれが地方の新聞にまで取り上げられる事態となっているのである。
 これだけのことをやれば、手間も相当かかる。しかも、人が来るからといって墓石がそうそう売れるわけではない。ではなぜ同社はここまでやるのか。社長は言う。まず「売って終わり」という業界のありようを変えたいと。またこの場が、人が“集まる”場所となり、コミュニケーションが深まり、みんながこの場のファンとなってくれれば、そのファンコミュニティをベースに、商売はいくらでもできるのではないかと。
 今日、お客さんが来てくれないと悩む店は多い。しかしそう悩む一方で、いつもながらの売場を作り、いつもながらのチラシを打って、あとは待っているようなことはないだろうか? 彼らは霊園という来店頻度が低い業種にありながら、最低でも月に1度、多い人は毎日来てくれるような場を目指し、それを果たすため、これだけのことをやっている。そうしてファンコミュニティができれば、実際に商いに、彼の言う道は開けていくのである。
(小阪裕司)

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cat_11_issue_oa-shogyokaionline oa-shogyokaionline_0_2567f02278d0_「武相エリア」を変える!保志真人の野望 2567f02278d0 2567f02278d0 「武相エリア」を変える!保志真人の野望 oa-shogyokaionline 0

「武相エリア」を変える!保志真人の野望

2019年11月1日 05:00 商業界オンライン

キープ・ウィルグループ代表 保志真人氏(人物撮影/千葉太一)

 東京都町田市に本拠を置くキープ・ウィルグループは2003年神奈川・東林間に居酒屋「炎家」で創業。16年目を迎える同社は現在、従業員全体で600人(社員200人)、総店舗数は36(町田17店舗)という陣容になっている。
 同社では昨年の10月15日に「創立15周年」の大会を開き、「GOOD LIFE BUSO」(「BUSO」とは武蔵国と相模国を示す「武相」のこと)の5つのプロジェクトを披露した。それは、①レストランプロジェクト、②イートローカルプロジェクト、③地場プロデュースプロジェクト、④アーティスト・アスリート支援プロジェクト、⑤インキュベーションプロジェクトである。
 この計画を進めるべく、まずライブラリー&ホステル「武相庵」(36室)を昨年12月オープン。コワーキングスベース「BUSO AGORA」(157坪)と町田市内で最大規模のレストラン「STRI」(160坪200席)を今年7月オープンした。「GOOD LIFE BUSO」の活動拠点が整ったことで、キープ・ウィルグループにどのような方向性が見えてきたのか、代表の保志真人氏に聞いた。

「武相エリア」に新たな文化をつくる

――「GOOD LIFE BUSO」はどのようなことを目指すのか。

 率直に言って、私たちの地域は目立って「困っている」ということがあまりないエリアと言えます。過疎化が進んでいるわけではないし、街はにぎわっています。
 そうした中、地元を俯瞰してみて、「自分の地域に対する誇り」が持てないことが課題だと考えるようになりました。一部の方々を除き、コンプレックスに近いものがあると感じています。
 私の父の世代の方々は東京のベッドタウンとして武相エリアに居住したので、この場所を故郷と呼べない人が多かったと思います。しかし、その子供であるわれわれ世代はこの場所が故郷なのです。そこで「地元を故郷として誇れる場所に」というテーマを掲げて武相エリアをブランディングしていこうとしているわけです。

――「この街をよくする」ということをもう少し具体的に。

 関東一円を見ると、「東京都心部」の価値観は日本の中心になっていると思いますが、その他の地域で価値観やアイデンティティを強く感じるのは「湘南」くらいで、それ以外にはないように思います。
 この町田を中心とした武相エリアは「東京の西側」という存在感で捉えられます。アメリカでも東の象徴がニューヨークであれば、西にはロサンゼルスやサンフランシスコがあります。ニューヨークは資本主義ど真ん中の経済都市であり、西の街ではヒッピー文化があるなど自由さがあります。
 われわれのエリアのことを調べていくうちにこれに似た文化があると感ました。資本主義的に成功し、華やかに生きていくのであれば東京都心部がいいでしょう。人生をラフに生きたいという人は湘南に集まっているのではないのか、といった具合に、関東で自分の生き方が反映できるエリアに住もうと考えると選択肢は限定されていると思います。
 そこで、われわれの地域は東京都心部でなく、湘南でもなく、もっと「自分らしくやりたいことを形にできるエリア」というポジションになれるのではないかと考えました。そして、この街にはそのような気質が確かに存在していることに気付くようになりました。
 当社は町田に17店舗を展開していて、今回「武相庵」「BUSO AGORA」「STRI」を開業しましたが、「一つの街にこんなにたくさん出店したら、普通だったら嫌がらせを受けるよ」と言われたものです。しかし、そんなことは一度もありませんでした。

 この街の人たちは新しい出来事に寛容なのだと思います。それは歴史をたどっていくと、さまざまな街道が交差し、人や文化が行き交う場所であり、その背景があって明治時代に自由民権運動が活発化しました。
 そんなことで、現在もさまざまな文化が存在します。おたく文化があればロックもある。古着もあれば風俗もラーメンもある。雑多ですが、コンテンツがたくさん存在し、それがちゃんと深く存在している。「自分らしく生きる」と宣言した瞬間に、その一つ一つのコンテンツがとても誇り高く存在感を放つことができるのです。
 このように、地元を東京ローカルの中でもエッジの効いたエリアであるとしっかりと打ち出してブランディングしていきたい。そのために必要な民間にしかできないインフラを微力ながら整えていきたい。コワーキング施設である「BUSO AGORA」がその象徴であり、地域の人々が交流し、さまざまな「コト」がここから生まれて活躍する事例が増えていくと「武相、町田ってなんかいいね」と語られていくと思います。

この地でビジネスを発展させたい

――「BUSO AGORA」(以下、アゴラ)はどのように機能している。

 ここを活用する人たちは個人事業の方々です。これから起業しようという人だったり、フリーランスの人だったり。さまざまな職種の人が集まっていることから、それぞれがビジネスのシーズ(種)について話し合っている。

 これからはキープ・ウィルグループのビジネスリソースをシェアするなどインキュベーション体制(創業支援)をつくり上げ、インキュベーションマネージャーやコミュニケーションマネージャーが入居者それぞれの活動内容やビジョンを聞き出します。「あの人とあの人を結び付けると良いビジネスが生まれるのではないか」とセッティングしたり、アイデアを形にする支援の環境をつくっていきたい。

――これまでの経済社会の「生産性」とは別の世界ですね。

「アゴラ」のインキュベーションマネージャーの生産性とは。
 それはまず、入居者さまを増やすことです。活用する人が増えることで必然的に当社の本部コストはなくなっていきます。企業の社会貢献における生産性とは、一つは「シェア」だと考えます。しっかりと奉仕することで、利は後からついてくることでしょう。
 これまで企業の本社はコストでしかありませんでした。飲食企業の場合は特にそうです。しかし、本社の空間やビジネスリソースを他の人とシェアすることで、ツーペイになっていく仕組みを創り出せます。
 今、本部スタッフは「アゴラ」の中で当社の本社業務に従事していますが、例えば経理業務は当社の仕事だけで完結するのではなく、「アゴラ」の入居者さまの経理を請け負うことが可能です。人事部も同様、入居者さまの採用を手伝うことが考えられます。このような形であらゆる部門が外販機能を備えると本部の間接コストはなくなっていきます。
 つまり、自社の全ての部門がインキュベーションの対象になるということです。ついには入居者さまとわれわれとの垣根がなくなり各部門が独立した「ティール組織」※1に近い形になると思っています。
 これまで述べたことは3年で完成させる計画です。
※1 従来の組織とは大きく異なる組織構造や慣例、文化を持つ新たな組織モデル

街の誇りとなるレストランが会社の認知度を上げる

――キープ・ウィルグループの飲食事業はどのように進めるか。

 今回の「STRI」は高感度なレストランを展開されている(株)マザーズさまにお手伝いをいただいて、当社のクオリティのレベルを2段階ほどアップさせることができました。
 近年、お客さまから「より本物の料理を」という要望が増えてきました。ハイエンドにあるものを日常的な価格で表現するとたくさんのお客さまから喜ばれるということを、今回の出店で感じています。
「STRI」の開発は他社さまの力を借りて、当社の料理人やバーテンダーの総力を挙げてじっくりとつくり込んでいきました。大きな勝負をしたことになります。街の中心にあり、西東京最大のルーフトップを誇り、地場の食材を活用するなどして地元の方々が誇りを持てる店となることを意識しました。
 その結果、地域の方々から当社グループ店舗はハイブランドとして認知されるようになってきた手応えを感じます。

――「STRI」で培ったノウハウを多店舗化につなげていく発想か。

 いえ、多店舗化は当社の望むところではありません。「STRI」のノウハウは既存店にシャワーしていきます。既存店をボトムアップしていくことにで、増店するより利益が上げられることでしょう。
 飲食店ではQSCを極めていくことが最も重要なことであり、どれだけ会社が大きくなろうとも飲食店の現場は常に同じ地域にある個店との一騎打ちです。店の一つ一つが強くなければ売上げの昨年対比が割れてしまいます。そこで既存店の品質と生産性を常に高めていく必要があるのです。
 また、来年より業務委託での独立事例を増やしていきますが、今後はこのエリア内で当社との関係の深い仲間たちによる社内FCのような事例を増やしていきます。

――新しい事業としてどのようなことに取り組むのか。

 私が統括する社長室では行政の仕事のプロデュースや業務委託をする機会に恵まれてきました。ここでは公園や公共施設のなどでの出店事例を増やしていきたい。それは地域ブランディングを目的としている当社のビジョンと合致しています。
 今進んでいるプロジェクトは「薬師池公園」の活性化です。ここはリス園、ダリ園や自由民権運動記念館など町田の観光資源が凝集されているポイントなのですが、いまひとつ利用する誘因が弱い。そこで当社はこれらをブラッシュアップして、地域や県外の人がやってくるような施設にするために全力で貢献したいと思っています。
 また、町田の農産物は東京都内でも最も大きな生産量を誇っているのですが、市内で流通していないという課題を抱えています。そこで薬師池公園ではマルシェも行い、野菜を集めてここで販売する他、加工して当社のカフェに運び、市内で流通する流れをつくりたい。
 このような形で、当社が目指していることは事業活動そのものが社会貢献となるということです。

「良い会社」になれば採用活動はいらない

――今後、人材の採用はどのように進めるのか。

 これまでは新卒採用を強化してきましたが、大幅に縮小することにし、これからは社内登用の強化に切り替えていきます。
 このような方針になったのは、そもそも「飲食業は社内に社員となる母集団が形成されている」ことに改めて気付いたからです。
 例えば、アルバイトが400人いるということは社員となり得る母集団が400人いるということです。それにもかかわらず人材を外に取りに行っているということは、端的に言って社内で採用することができないから。つまり、魅力的な「良い会社」となっていないからでしょう。
 社内で働いてくれているアルバイトが入社したいほどの会社でないのに、当社のことを知らない学生さんに「良い会社」と宣伝し採用するということは矛盾です。
 そこで「新卒採用を中止する」と決めると、新しい社員はアルバイトないし当社のことをよく知る地元の人を採用することになります。それを可能にするためには現場の環境やレベルを向上させる以外に道はありません。そして、アルバイトをもっと愛情を込めて育成しようという気風になる。これこそが「良い会社」をつくる第一歩でしょう。
 当社は地域でドミナントを形成しています。当社で働いている人、働いたことのある人は当社にとって最も近しい顧客でもあります。ですから、その方々がどのように当社を捉えているかがとても重要になります。
 例えば、このエリアで当社の話題が出たとします。その中に当社で働いたことのある人がいて、「良い会社」と言えば、それはすごい説得力となります。このように「良い会社」と吹聴してくれるようになったとき、本当に「良い会社」になっているのだと思います。
「良い会社」とは待遇が良いことだけで評価されるものだと思いません。店の在り方や哲学がしっかりと根付いていて、働く人が気持ちを込めて仕事ができる環境をつくることが全てであると認識しています。

――社員の待遇はどのようにしていくのか。

 店長、料理長がインセンティブを大きく取れる制度をつくり始めました。会社を良くしていき、稼げる人にはそれに報いるようにしていきます。彼らの給料が増えて豊かな生活を過ごしていることは憧れの対象となると思ったからです。
 そこで、「理念経営」を推し進める一方で実力制度を導入していきます。労働環境の整備や福利厚生を充実させることは重要なことです。ただし、これらばかりであると組織に依存的な体質が出来上がると危惧していました。
 飲食業で働く人は、それぞれがしっかりとした技術を身に付け、稼げる人であることが重要です。われわれは組織に依存する人のために会社を成長させてきたのではありません。
 われわれは、向上心と感謝の心を持ち続けている人と一緒に仕事をしたい。福利厚生にしろ、このような人たちが報われる制度をこれから充実させていきます。
――キープ・ウィルグループは過去、都心で大規模ブライダル事業を手掛ける計画があったが、それが契機となって地域への思いに改めて目覚め、地元に集中し深堀りすることを選択した。7月にオープンしたコワーキングスペースの「アゴラ」や、町田最大級の規模を誇る「STRI」、新卒採用を縮小して社内登用に切り替えるなど、ここで述べられた保志氏の考え方は「武相エリア」を盛り上げることを極めてきた現在進行形である。今日「持続可能」が喧伝されるようになっているが、地域社会の中で企業活動が成立しているという事実を真摯に追求していくことで、企業活動はおのずと社会貢献となり、持続可能な仕組みが出来上がっていくのではないか。保志氏が語る「GOOD LIFE BUSO」というキープ・ウィルグループの展望からそのような構造が見えてきた。
(千葉哲幸)

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三井不動産が日本橋の街を変える!

2019年11月1日 05:00 商業界オンライン

写真:第3ステージに入った日本橋再生計画を象徴するコレド室町テラス。時間消費を楽しめる機能が満載だ。

 日本橋の街が大きく変わりつつある。客層の幅が広がり、休日に遠方から訪れる人も増えている。変化する日本橋の起爆剤となったのが、三井不動産が運営する商業施設だ。COREDO日本橋、COREDO室町1・2・3。そして、この秋には新たにCOREDO室町テラスが誕生した。
 台湾から初上陸した「誠品生活」を核に据え、地下1階~地上2階の3フロアに全31店が出店するCOREDO室町テラスは日本橋にさらなる活気をもたらしている。三井不動産は日本橋の街をどう変えようとしているのか。その試みを追った。

台湾初上陸「誠品生活」を核に据え、活気をもたらす

 筆者は、東京での拠点を小伝馬町に置いている。日本橋とは近いため、日本橋の客層の変化は身をもって実感してきた。変化の中身をひと言でいえば「若返り」だ。シニア層が多いのは以前通りだが、30代のカップルやファミリー層、ベビーカーを押して来街する層が確実に増えている。メディアでの露出度も高くなった。日本橋室町一丁目や日本橋本町一丁目をあわせて「ムロホン」。こんな呼び名も若い世代の集客を後押ししているようだ。
 日本橋三越本店、髙島屋を始め、歴史のある百貨店や老舗を数多く抱え、買物の場所としての機能は満たしていたものの、銀座ほどの活気はなく、どこか黄昏れた街というイメージが強かった日本橋は、いったいいつから変わってきたのだろう。
 三井不動産が日本橋再生計画を始動したのは2004年。1990年代後半にかけて金融地・商業地として停滞していた日本橋を活性化するため、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」を開発コンセプトに、2004年に第1ステージとしてCOREDO日本橋をオープンした。
「2010年にはCOREDO室町1を開業し、2014年からは第2ステージとしてCOREDO室町2・3をオープンしました。大きな転換点となったのが、このCOREDO室町2・3ですね。COREDO室町テラス2に誘致した映画館(TOHOシネマズ日本橋)の影響もあり、2014年を境に、平日のお客さまと休日のお客さまの数が逆転し、休日に訪れるお客さまの方が多くなりました。もともとは50代以上の方やオフィスワーカーが中心客層でしたが、30代、40代が大幅に増えました」(三井不動産 商業施設本部 商業施設営業一部 主事の篠原菜美氏)
 基本的には全方位をターゲットとしながらも、30代、40代に刺さる街づくりを追求し、COREDO室町2・3によってその目的をある程度達成した三井不動産は、次に日本橋の街の魅力向上に必要な機能の補完や強化に着手した。具体的には知的・文化的な体験ができる場所やゆったりと過ごすことのできる空間づくりだ。
「COREDO日本橋ではオフィスワーカーの需要に応えるファッションや食をそろえ、COREDO室町1〜3では、日本橋の老舗や日本各地の優れた逸品をそろえたテナントリーシングを行ってきました。COREDO室町テラスでは、これまでのCOREDOシリーズの文脈を踏襲しながら、さらに『コト消費』の充実を目指しました。『コト消費』『時間消費』が楽しめる街になれば日本橋の魅力度がさらに上がることは間違いない。そこで、『価値ある時間を、過ごす場所。』をコンセプトに、ふらっときて楽しめる飲食店やゆったりと過ごせる広場、知的・文化的体験ができる店やワークショップなどの誘致に特に注力しました」(三井不動産 商業施設本部 アーバン事業部 主任の増田磨人氏)
「コト消費」の他に、COREDO室町テラスにはもう一つ、COREDO室町1〜3にはない大きな特徴がある。海外発店舗の存在だ。
「日本橋は江戸時代から、日本中の良いモノが集まってきた街。それが『日本橋らしさ』の一つだと考えています。COREDO室町1〜3ではそこに『日本』というしばりをかけて、日本橋らしさをより分かりやすく感じられる空間を追求しました。ただ、本来良いモノが集まってくる街であれば、海外の優れたモノが同じように街にあっていいはず。今の日本橋はこの段階にあると考え、今回海外の店舗の誘致にも踏み切りました」(増田氏)

 にんべん、木屋、船橋屋。COREDO室町では幾つもの老舗が出店し、新しい顔を見せている。フレンチやイタリアンの店もあるが、いずれも日本で生まれた日本の店だ。しかし、歴史や伝統、物語を備え、独特の街並みを持つエリアに調和し、『価値ある時間を、過ごす場所。』にふさわしい店は何も日本にはとどまらない。海外にあるのであれば、必ずしもメイドインジャパンにこだわる必要はないのではないか。こうして、COREDO室町テラスの核テナントとして三井不動産が白羽の矢を立てたのが台湾の誠品生活だ。
 誠品生活は書店の誠品書店からスタートし、現在は書籍、雑貨、文具、食物販なども扱うカルチャー体験型店舗を展開している。独自の感性で書籍や雑貨類が編集され、読書と文化の交流の場を育み、発展してきた誠品生活は世界的にもファンが多い。台湾の店舗は日本人旅行客にも大人気のスポットだ。
「最初から、誠品生活は大本命でした。誠品生活はこれまで台湾、香港、蘇州、深圳に計49の店舖を展開していますが、どの店もそれぞれ異なったテーマで店舗づくりをしています。その土地の良さを生かし、人々の暮らしの中で受け継がれてきた文化を反映した店作りを実践している誠品生活に、日本橋の魅力を引き出してほしいと出店を持ちかけました。当初、交渉は難航したのですが、私たちが掲げる『残しながら、蘇らせながら、創っていく』という日本橋再生計画のコンセプトに共鳴していただけたのが大きかったですね。日本だから進出するのではなく、三井不動産の商業施設だから出店するのでもなく、日本橋の街のもつ魅力に共感いただいての出店です」(増田氏)。
 誠品生活は台湾の外に進出した経験はある。
 だが、いずれも中華圏だ。日本への進出となると、言語の壁もあれば、文化の壁もある。日本の書店業界には取次という独特の制度もある。これらの壁をどう乗り越えるか。出した答えが、運営を日本の書店に委ねるという方法だ。選んだパートナーは有隣堂。誠品生活が有隣堂にライセンスを供与し、選書については誠品と有隣堂がチームを組んで棚を構成している。
 誠品生活には、誠品書店(書籍ゾーン)に加えて、誠品文具(文具ゾーン)、セレクト物販・ワークショップゾーン、レストラン・食物販ゾーンのゾーンも設けられた。台湾の老舗菓子店「郭元益(グオユェンイー)」、台湾発の漢方ライフスタイルブランド「DAYLILY(デイリリー)」、台湾茶から創った香水ブランド「P.Seven 茶香水」、スタイリッシュな台湾料理をシャンパンとともに楽しめるレストラン「富錦樹台菜香檳(フージンツリー)」など、いずれも誠品生活の審美眼を通して誘致されたブランドだ。
 体験型イベントが多数用意されているのも、「コト消費」を充実させた空間らしい。映画上映会やトークショー、サイン会、ワークショップ、クッキングスタジオでの実演イベント、漢方の講座など、年間を通して100以上のイベントが予定されている。
 誠品生活の空間全体を見て感じるのが、「日本橋らしさ」と「日本橋らしくなさ」の融合だ。店舗空間はフレームとのれんを用いて幾何学的な演出が施され、天井には竹材が張られている。等間隔に金属製のフレームが連なった回廊は神社の鳥居を思わせるが、受ける印象はシャープでモダンだ。日本橋だからといって、過度に「和」の演出に走らず、未来志向を醸し出している。これが、土地に合わせた店作りを信条とする誠品生活が見て感じた「いまの日本橋」なのだろう。

歴史的資産に海外からの新風が刺激を与える

 オープンから1カ月。「うれしい誤算だった」と増田氏が語るのは、1階に設けた大規模な屋外広場のにぎわいだ。
「外国人はこうした屋外の空間を楽しむことに慣れていますが、果たして日本人はどうなのか。お客さまに浸透するまでの間、広場がガラガラだったらどうしようと多少不安を感じていましたが(笑)、既に予想以上のお客さまに利用していただいています。夕方以降はもう空いている席がないですね。食事をしたり、仕事をしたり、休んだり、思い思いに利用されている印象です」

 はやりのタピオカドリンクを扱うティースタンドの「THE ALLEY(ジ アレイ)」では、大人の男性客の利用も目立つ。大人が多い土地柄が、タピオカドリンク=女性や若者のドリンク、という図式を打ち破り、タピオカドリンクの裾野を広げている。「DAYLILY」や「富錦樹台菜香檳」への反響も大きい。後者は行列が絶えない。
 これまで商業施設で「日本初出店」が話題になるのは、主に欧米のブランドだったが、COREDO室町テラスでは「台湾のブランド初上陸」がニュースとなり、集客の原動力となっているのは興味深い。もちろん、台湾のブランドだからいいのではなく、日本橋という街のストーリーにしっくりはまるブランドが誠品生活のフィルターを通してセレクトされているからこその現象だが、台湾のブランドには他国のブランドにはない独特の魅力があるように思えてならない。
「『可愛い』の概念が共通しているように思います。食に対する考えやこだわりも似ていますね」と増田氏。感性が合うといえばいいのだろうか。日本と相性の良い台湾のブランドが日本に進出し新しい顔を見せていく。こうした動きは今後も続きそうだ。
 COREDO室町テラス全体についていえば、ファッションアパレルの要素がほとんどない点にも注目したい。一般に、商業施設は客単価の高いアパレルをメインに据えるのが常道だが、COREDO室町テラスはそうした慣習からは距離を置く。先にオープンしたCOREDO室町1〜3にもその傾向が見られたが、COREDO室町テラスではさらに加速し、アパレルを扱う店はほぼゼロだ(一部の店舗に品揃えの一端として扱っているだけ)。

「2004年にオープンしたCOREDO日本橋では、まだ百貨店以外にお買物ができる施設がほとんどなかったということもあり、近隣のワーカーの日常の需要を満たすため、オフィスカジュアル向けのアパレルの店を多く誘致しました。ただ、今、日本橋の街全体の魅力を上げるためにまだ足りていないものがあるとしたら、それはアパレルではないように思うんです。アパレルは三越日本橋本店や日本橋髙島屋S.C.を含め、既にかなり充実していますし、近隣エリアには銀座もあります。お客さまが日本橋の街に今、求めているものはアパレルというよりも雑貨や普段の贈り物にも使えるちょっと良いモノ。有名ブランドはもちろんですが、知名度がまだそう高くなくても、ストーリーがあり、クオリティを兼ね備えているブランドや店が求められている。そこに応えました」(篠原氏)
 日本橋再生計画はこれで終わりではない。現状、日本橋川をはさんで商圏がやや分断され、来街者の行き来にややブレーキがかかっている印象があるが、日本橋川のたもとの再開発や日本橋の西側のエリアの開発もこれから進めていくという。
「今後も引き続き、面的な開発を行い、日本橋を楽しむ人の流れを作りたい」と増田氏。同社では、昭和通りを境にWESTエリアとEASTエリアという個性の異なる2つのエリアを「GREATER日本橋」と呼んでいる。土地の持つ歴史的資産に海外からの新風が刺激を与えて活気を帯びる日本橋。これからも、どんな変貌を遂げていくのか楽しみだ。
(三田村蕗子)

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静岡東部の寺町を「中央線カラー」に染める男

2019年11月1日 05:00 商業界オンライン

写真:顔出しNGのハニカムさんとピッタリすぎるタイトルの本

東京から100km超の町に漂う「中央線」の匂い

 湘南と富士山の間に私が創ろうとしている新たなブランド地域、そこに必要不可欠な存在が「素敵な古書店」です。
『魅力的な街には素敵な古書店がある』というのが私の持論なんですが、残念ながら東京では「個性派オーナーが営む個性派店」が減りつつあり、それは古書業界も例外ではありません。
 私は都内の各沿線に「古書店めぐり散策コース」を持っていたのですが、行きつけ店が消えたせいで足を向けなくなった路線が結構あったりする。
「古書店の減少で外出が減り、それに起因する運動不足のせいで健康を害した」と信じる私は「素敵な古書店のない環境は体に悪い」という新説をアチコチで唱えております。
「素敵な古書店が多い路線」の筆頭といえば、古くからサブカルチャー(以下、サブカル)の聖地として知られる「中央線」です。
 私もまた、聖地の空気にドップリ浸りたくて中央線の沿線民となった1人でした。
 往時ほどの活気はないものの、それでも「東京におけるアングラ&サブカルの総本山」としての面目はいまだ保たれている印象の中央線。
 東京を離れるにあたり、最大の心残りだったのが「中央線沿線の古書店めぐりができなくなること」でした。
 ところが、なんと私の新居(静岡県沼津市西部)のすぐ近所にあったんですよ、わが心の故郷たる「中央線」が!
 ……あ、失礼、「中央線の匂いをふんだんに漂わせる素敵な古書店があった」の間違いでした。

中央線オーラを放つ店のオーナーの経歴は?

 その店の名は「書肆ハニカム堂(以下、ハニカム堂)」。

 まずは、私を興奮させた「中央線オーラを濃厚に放つ外観」からご覧ください。

 いかがですか、私と同じ中央線マニアならば「あ~ハイハイ、阿佐ヶ谷とか西荻窪にあっても全く違和感がない店構えですね」と共感してくださるのではないでしょうか?
 私の暮らすのは静かな海辺の寺町なんですが、ここだけはまるで空間がねじれて中央線のどこかの駅前とつながっている感じです。
「この店のオーナーさんとぜひお近づきになりたい!」と心底から思った私は、当連載の取材にかこつけて早速アポイントを取り、いそいそと出掛けていったのでありました。
 快く取材を受けてくださったオーナーさんは44歳の男性で、お店は「会社勤めをしながら土曜・日曜・祝日のみ営む副業」なんだそうです。
 本業との兼ね合いもあって「名前と顔を出すのはNG」とおっしゃるので、今回は「ハニカムさん」という仮称でご登場いただきました。
 屋号の由来は「恥ずかしがる」を意味する「はにかむ」に(まさに人柄にピッタリ!)、80年代にサブカル少年少女を魅了したインディーズレーベル「ナゴムレコード」の愛称「ナゴム」をかけたダブル・ミーニングで、元々はハンドルネームでもあったんだとか。
 ナゴムなんてワードが出てきたこともあって「この人は自分と同じ中央線OBに違いない」と私は確信し、勝手にシンパシーを抱いたのですが……意外やハニカムさんは中央線沿線はおろか「東京で暮らした経験すらない」のだといいます。
 出身は九州で、大学進学のために静岡県中部へ来て、その後に東部へ移住して現在に至るそうなんですが、「生まれ故郷と空気感が似ているので静岡にはすぐになじめた」とハニカムさんは語ります。

運命のなりゆき(?)で始めた古書店経営

 ハニカムさんに関してもう一つ予想外だったのは「本に関した仕事経験ゼロの状態で開業した」という点です。
 てっきり「中央線OBの元出版業界人」だと思っていたのですが丸ハズレで、いや~私のプロファイリング能力は全くもってポンコツですねぇ(プロファイリングが単純過ぎる、という説もありますが……)。
 そんなわけで出版や古書の業界にもさほど明るいわけではなく、古書店経営自体も「かねてからの念願というわけではなかった」と語るハニカムさんは、元々はお隣の富士市にあった「grow books」というセレクト書店の中に「自分の蔵書を売る棚」を置かせてもらっていたそうです。
 その「grow books」が残念ながら2017年に10年の歴史にピリオドを打ち、静岡東部における「サブカル民のたまり場」はなくなってしまいました。
 ハニカムさんはオーナーに会うたびに「また店をやってほしい」と懇願していたそうですが、一方で「他力本願ばかりなのも良くないなぁ……」という思いもあって、やがて「いっそ自分でやってしまおうか!」と考えるようになったといいます。
 ちなみに「grow books」から蔵書を引き上げたのが「2017年8月12日」で、「いっそ自分でやってしまおうか!」の結論であるハニカム堂オープンがきっかり1年後の「2018年8月12日」だったそうです。
 それは全くの偶然だといいますが、しかし私は「ハニカムさんが古書の神様から愛されている証」だと思います。
 神様のご寵愛ぶりがよく分かるもう一つのエピソードが「店舗物件探しにまつわるミラクル」です。
 当初は市内の商業中心地である「JR沼津駅周辺」で探したそうなんですが手頃なテナントが見つからず、たまたま通りかかった自宅近くでビビッとくる物件と出会ったのだといいます。
 シャッターが下ろされていて内部が見えるわけでもなく、それ以前に「賃貸物件」にすらなっていなかったそうなんですが、「ここは良い物件に違いない!」というインスピレーションを信じて、ハニカムさんは所有者に頼み込んで内見させてもらったそうです。

 ハニカムさんの直感は見事、大当たりで、その物件はかなり理想に近いものだったといいます。
 ハニカム堂の店内は、古書好き、サブカル好き、中央線好きならば魂を揺さぶられずにいられないような内装なんですが、なんと「ほとんど元のままで、ちょっとくすんでいた壁に白ペンキを塗った程度のことしかやっていない」というから驚きです。

 この物件には、以前は乳酸菌飲料の営業所やミシン屋さんなどが入居していたそうですが、まるで現在の業種用にあつらえたような造りになっており、「こんな物件と出会わせてくれた古書の神様は、やっぱりハニカムさんを愛しているのだなぁ……」と私はしみじみ思いましたね。
 店内の備品もほとんどがハニカムさん自身によるDIYだそうで、家賃が手頃なこともあって、開店資金はかなりリーズナブルに抑えられたそうです。

 前回ご登場いただいた「駄菓子カフェせせらぎ」のオーナー・樋口淑子さんもそうでしたが、静岡東部での起業というのは「背伸びして大きなスケールでやるよりも、身の丈に合ったサイズでユルくやる」方がうまくいく気がしますね。

 小商いとはちょっと違いますけど、かの『ほぼ日刊イトイ新聞』だって「ほぼ」というユルさを持たせたからこそうまくいったのだと思います。
「必ず日刊!」とか「死んでも日刊!」とかだったら、たぶん重た過ぎて読者に敬遠されたんじゃないですかね?

起業の動機は人が集まる「場」を創ること

 顧客の年齢層は「30代後半~40代」で「男女比はほぼ半々」だというハニカム堂ですが、以前には予想外の来店者もあったそうです。
 音楽好きで、とりわけアナログレコードを愛してやまないハニカムさんが店内でコレクションの虫干し(?)をしていたところ、たまたま通りかかった地域の自治会長さんが「レコードをこんなふうに扱ったらダメだよ~」と入って来て、そのまま音楽談議で盛り上がったんだとか。
 自治会長さんは後日、自分の愛聴盤を抱えて再来店したといい、思いがけなく近所のレコード仲間を得たハニカムさんなのでした。
「静岡東部におけるサブカル民のたまり場」だった「grow books」の後継店たるハニカム堂ですから、オープン動機は言うまでもなく「新たなサブカル民の居場所を作ること」。
 その願いは半ば実現しているのでは? と私は思います。
 サブカルについて語れる場が欲しかった私にとっても、レコードの話をしたかった自治会長さんにとっても、ハニカム堂はもう既に「大切な場」になっているわけですからね。

個人店をやるなら東京近郊のローカルが狙い目?

 今年の8月で無事、開店1周年を迎えたハニカム堂は、これからも「沼津の週末古本屋」というキャッチフレーズを掲げながらマイペースでやっていくそうです。

 もちろん、ただユルいだけではなく、店売りに加えて県内各地のイベントにも積極的に販売ブースを出し、認知度を高めることも忘れません。
 静岡東部は都心からも東海道線で2時間程度で来られるので、SNSで存在を知った県外からのお客さんも一定数いるんだとか。
 冒頭で述べましたように東京からは個人経営の古書店が急速に減りつつありますが、静岡東部のような「首都圏から気軽に日帰りできるローカル」では、むしろこれから増えていくんじゃないかと私は考えています。
 東京からちょっと離れただけで家賃相場はグッと下がりますし、古書マニアというのは「あなどれない店がある」と聞けばたいがいの場所には出向くものですからね。
 これは古書店経営だけの話ではなく、「本当にやりたかった商いで一国一城の主になりたい」と考えている方は「東京のちょっと外側」での出店を考えてみたらいいと思います。
 私の居住エリアは特にオススメなんですが、サブカル系のショップだったら特に大歓迎しますよ。
 ハニカムさんと私と共に、静岡東部に新しい「場」を創りませんか!?
(セージ・サバイバー)

外部リンク

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いまだに現金決済にこだわるお店の人へ

2019年10月31日 05:00 商業界オンライン

「キャッシュレス・ポイント還元事業」が2019年10月より始まり、1カ月がたちました。ステッカーも行き渡ったようで、今まで現金決済オンリーだったお店でもステッカーを目にするようになりました。これを機にほとんどのお店でキャッシュレス化が進めば便利だなと思っていましたが、いまだにレジで「ウチのお店は現金のみなんです」と言われることもあります。
 キャッシュレス化に踏み切る店と、現金主義を貫くお店の違いは何だろうと考えてみたところ、気付いたことがありました。

顧客に対する想像力があるか

 今まで現金決済のみだったのに今回キャッシュレス決済に踏み切っている店は、「お客さまへのサービス精神」が強いお店だと感じました。
 お店側としては従業員全員の制度理解や使用方法の説明にかける時間、初期費用や手数料などのランニングコストが一番のネックとなるのだと想定されます。ただ、現在ではかなり気軽に始められるものもある中、現時点で現金決済のみにこだわっているお店はとても疑問に感じます。お客さまの支払方法を、店側の都合で決めているからです。
 どこまで対応すればいいのか分からないというお店に関しては、まずは自分たちにできる範囲で少しずつ対応すれば良いと思います。QRコード決済、クレジットカード、電子マネーなど最初から全ての決済手段を網羅するのはさすがに難しいかもしれませんが、自店の顧客層や立地なども考慮して、可能なところからクリアしていくべきだと考えます。
 消費者にとってはお得になり、お店にとっては呼び水となるポイント還元はいずれ終わります。ですが、キャッシュレス決済の流れ自体は今後も止まらないはずです。既に海外でも日本よりキャッシュレス化が普及している国は少なくないですし、インバウンド需要、強盗などの犯罪リスク、店舗セキュリティを考えても、現金を使用する機会はもっと少なくなっていくと思っています。

店舗へ行くリストからは外され、仕事も増えている

 普段お財布を持ち歩かない人からすれば、現金決済のみのお店は自動的に選択肢から外されがちです。実際に私や周囲の知人でも、買物をする際にはクレジットカードや電子マネー決済が中心となっています。
 もちろん、決済の不便さを補うだけの「ウリ」や「理由」がお店にある場合は別です。どこにも負けないサービスがある、絶品こだわりのメニューがある、レトロな空間なのであえてカードリーダーなどの端末は扱いたくないなど、強い意思を持った理由がある場合は、現金決済でもお客さまには困らないと思います。ただ、大半の店はそうではないはずです。
 そういったお店の場合、最終的にはお店側がお客さまの立場で見ることができるかどうかだと思っています。
「今まで現金を使うお客さましか来なかったからうちには必要ない」と思っているお店は、単にキャッシュレス決済を利用するお客さまから敬遠されている可能性も高いです。実際、私自身も財布を忘れてしまったときや手元に現金が少ないときは、店外から見て必ずクレジットカードが使えるお店を選んでいます。
 言い換えれば、自分たちのコストや手間を気にして現金決済にこだわっている結果、一部のお客さまの選択肢から自店が除外されているともいえないでしょうか?

 お客さま側からすれば、キャッシュレス決済なら自分のお金の使用状況を簡単に把握できます。使用履歴はそのまま家計簿代わりにもなりますし、レジで小銭を数える手間もなく、何より楽です。それぞれで行われているポイント還元は割引と同様なので、価格に敏感な層にとっては「キャッシュレス決済を使える店を選ぶのが当たり前」にすらなってきています。
 お店側としても、日々の現金管理やレジ対応でお釣りを数えて渡すなど1客当たりにかける時間、前述した顧客減少や犯罪のリスクを考えれば、手数料やランニングコストをかけても導入するだけのメリットは決して少なくないように思います。いずれ導入するのなら、注目が集まっている今この時点で導入すべきだと考えています。
 覚える、登録する手間がかかるから現金決済にこだわり続けるのか、お客さまの利便性を考えて踏み切るのか。いまだに現金決済のみのお店は、顧客に不便を強いても来店してもらえるだけの魅力や覚悟が本当に自店にあるのか、改めて考え直してみてもいいのではないでしょうか。
(秋元沙織)

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伊藤園が渋谷にリアル店舗。お茶の文化・新しい楽しみ方を提案

2019年10月30日 05:00 商業界オンライン

 11月1日、いよいよ開業する渋谷スクランブルスクエア。飲食を中心に日本初の店舗や新業態、ブランド旗艦店が集積している中、企業側も顧客とダイレクトにつながるための動きを見せています。
『ocha room ashita ITO EN(オチャ ルーム アシタ イトウエン)』もその一つといえます。手掛けているのは、ペットボトル緑茶「お~いお茶」でおなじみの伊藤園。これまで同社になかった飲食・物販・イベントスペース一体型店舗で、お茶の新しい楽しみ方や新たな接点の提案を目指します。

お茶の文化を渋谷に集まる多様な人々に発信

 店舗内は畳や座敷こそないものの、白とブラウンを基調とした上質な和空間に仕上がっています。「お~いお茶」のペットボトルパッケージなどは展示されておらず、店名やロゴに伊藤園の文字は小さく入っているものの、言われなければ伊藤園の運営とは気付きません。
 伊藤園の広報室・田口紋菜さんは「渋谷は年代・性別・人種を問わず多様な人々が集う街。そうした人たちに向けてお茶の文化に触れてもらい、お茶の新しい楽しみ方を提供したいです」と語ります。
 もともと伊藤園は、消費者にお茶を身近な存在として楽しんでもらってきた背景を持っています。1980年には世界初の「缶入りウーロン茶」を開発、90年には世界初の「ペットボトル入り緑茶飲料」発売、2000年にはホット対応ペットボトルをいち早く発売するなど、屋外でお茶を飲む市場を作り上げてきたのです。

 新しいお茶の楽しみ方を提案とうたうだけあって、メニューも多彩です。カラフルな果実と野菜のチーズティーや抹茶バケットサンド、アフタヌーンティー、珍しいところでは大人に向けた抹茶ビールなどのアルコールも提供されます。
 ドリンクやフードは注文を受けてから店舗で作る方法で提供し、外国人観光客向けには自分でたてた抹茶を楽しめる体験も用意されています。

物語を売るオリジナル物販「読むお茶」

 中でも面白い発想で目を引いたのは、「読むお茶」。ここでしか買えないオリジナル商品として、お茶を題材にした短編物語と物語に登場するお茶をセット販売します。最近では消費者が「モノ」にもストーリー性を求めるようになっているため、こうしたアプローチはかなりウケるのではないかと感じました。
 他にも、一つの茶葉でホット、アイス、ミルク in、フルーツ in、スパイス inと5種類の飲み方が楽しめる商品「Ashita なにのむ」や、自宅でもお茶を楽しめるように作家の茶道具なども店舗で販売し、お茶への関心を広げる工夫がされています。

12月からは予約制での小規模イベントも

 19年12月より運営を開始するイベントスペースでは、季節に合わせてお茶にまつわるセミナーやワークショップを有料で開催します。受付は予約制とし、告知は店頭やHP、SNS上で行われる予定です。12月は「クリスマスプレゼント用オリジナルブレンドティー作り」、3月には「母の日にお届け 陶芸教室」など、抹茶だけにこだわらず、さまざまな角度からお茶に触れられる企画を打ち出します。
「お茶に親しんでもらうことがまずは優先。この場所での体験をきっかけにしてお茶を身近なものに感じることで、最終的に伊藤園の存在に結び付いてもらえれば」と語る田口さん。
 従来、こだわりの製品を作ることを主軸にしてきたメーカーが、エンドユーザーの声をより聞くためにリアル店舗を作るという流れは、今後も増えていくのではないでしょうか。今回の場合、インバウンド需要はもちろんですが、新商品開発に生かしたりお茶の文化を守るための提案場所という意味も強いのではないかと個人的には感じられました。
 コーヒーショップが数多く立ち並び、カフェをする場所には困らないですが、まだまだ「日本茶」を飲む場所としてのイメージはない渋谷。インバウンド客はじめ多様な人材を、どれだけ引き付けられるかが注目されます。

(秋元沙織)

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小島健輔が警告『百貨店ブランドは数年で絶滅する』

2019年10月30日 05:00 商業界オンライン

「渋谷スクランブルスクエア」“東棟”は東急百貨店が運営する百貨店型の売場は商業ゾーン営業面積の11.3%にすぎない

 11月1日開業の渋谷再開発のコア「渋谷スクランブルスクエア」の第一期“東棟”を一巡して、今更ながら驚いた。東急百貨店が解体されて駅ビルに飲み込まれ、デパチカと化粧品フロアを除いては百貨店の存在感はなく、かつて3層もあった婦人服フロアなど、わずか数百平米の残滓が残るのみだった。それは建て替えオープンした大丸心斎橋店本館も同様で、テナント構成になったフロアにはかつて婦人服や紳士服のフロアを埋め尽くしていた「百貨店ブランド」の姿はほとんど見られない。
 地方や郊外の百貨店が次々と閉店し、不動と思われた大都市都心部の百貨店とて“ハイブリッド化”という商業ビル化で百貨店ブランドの居場所がなくなる中、売場の縮小に耐えかねて百貨店アパレルのブランド廃止や大量閉店も相次ぎ、『半分はECで売る』と百貨店に見切りをつける大手アパレルも出てくる現実は、百貨店の終焉と百貨店ブランドの絶滅を宣告しているのではないか。

閉店ラッシュとハイブリッド化で売場が激減

 99年のピークには331店もあった百貨店も00年7月のそごう経営破たんを分水嶺に減少に転じ、リーマンショック以降は閉店が加速。17年は8店、18年は7店、19年も伊勢丹の府中店と相模原店など9店が閉店して212店まで減っている。20年も3月に三越の新潟店、東急の東横店、8月末に西武の大津店、岡崎店、そごうの徳島店、西神店、21年も2月末にそごう川口店の閉店が決まっており、今後も地方店や郊外店中心に閉店が続いて2021年早々には200店舗を割り込みそうだ。

 閉店しているのは地方店や郊外店がほとんどだが、インバウンドで売上げが回復している都心店とて変貌が激しい。人手が掛かって採算の苦しい百貨店型の消化仕入れ売場を大幅に減して定期借家契約のテナント売場主体に切り替える“ハイブリッド化”が加速しており、先行する丸井や大丸松坂屋を追って髙島屋や三越伊勢丹までテナント売場への切り替えを進めている。
 17年4月開業の「GINZA SIX」はハイブリッドどころか松坂屋の直営売場は2Fの「シジェーム ギンザ」だけで大半がテナント構成という“不動産事業”だし、9月20日に再建築して開業した大丸心斎橋本館とて65%はテナント構成で百貨店型の売場は35%にとどまる。「渋谷スクランブルスクエア」“東棟”はもとより“百貨店”を名乗っておらず、B2〜14Fの商業ゾーン営業面積3万2000平米のうち、東急百貨店が運営する百貨店型の売場は6F「プラスク・ビューティー」(化粧品)の1970平米、5F婦人靴・ハンドバッグの1380平米、4F「428-224」(婦人服セレクトショップ)の260平米、計3610平米(11.3%)にすぎない。
 しかも、これら3施設を見る限り、テナントショップを構えて売場を確保している百貨店ブランドは片手で数えるほどに限られる。ハイブリッド化によって百貨店ブランドの売場は数十分の一に激減しているのが現実だ。

三度の堕落で衣料品売上げはピークから激減

 減っているのは百貨店の店舗数や衣料品売場だけではない。駅ビルやSC、近年はECに顧客が流れて百貨店の売上げは減り続けており、中でも衣料品の減少が際立っている。
 百貨店総売上げはピークの91年から18年は60.6%に減少しているが、衣料品トータルは45.1%、紳士服・洋品は38.7%、ピークが98年だった婦人服・洋品もピークから49.7%に、ピークが92年だった子供服も44.4%に減少している。デパ地下が元気な食料品でもピークの99年から78.3%に減少しているが、化粧品だけは06年から18年で165.8%と急拡大している。ハイブリッド化で衣料品フロアが解体されても化粧品フロアだけは拡大しているのは必然と言えよう。
 衣料品市場総体もピークは91年で18年は58.6%に減少しているが、百貨店衣料の45.1%はそれに輪をかけているから、顧客が駅ビルやSC、ECに逃げ出したと見るしかない。顧客が百貨店から逃げ出し、そして今も逃げ出し続けているのには百貨店側の度重なる堕落が起因している。
 百貨店は84年頃の買い取りから委託へのシフト、92〜98年の12ポイントもの納入掛け率切り下げで商品のお値打ち感を半分以下に切り下げてしまい、00年以降、顧客も取引先も駅ビルやSCに逃げ出した。近年も自前のECを確立できないままブランドECサイトへの顧客流出(ショールーミング)を恐れてタブレット接客を拒絶するという致命的な過ちを犯し、顧客と取引先をさらに遠ざけている。ブランド衣料の販路としては既に終わっていたのを無理やり引きずってきたのが実情で、崩れ始めればもう止める術はない。

百貨店ブランドは数年で絶滅する

 どんなビジネスでもそうだがブランドアパレルにも採算が取れる事業ロットがあり、売場が限界を超えて減ってしまうと事業の継続が困難になる。地方店や郊外店の売場が不採算化して撤退が続き、百貨店そのものの閉店も続いて販路が萎縮し、頼みの都心店もハイブリッド化して百貨店ブランドの居場所がなくなっていけば、大半の百貨店ブランドは事業継続が困難になってしまう。
 そんな現実を直視して百貨店という販路に見切りをつけ、『半分はECで売る』と宣言して600店もの閉鎖とブランド整理に踏み切るオンワードホールディングスなど例外的に体力があるアパレル企業だ。今期は250億円の特別損失を計上し、来期以降も大量退店による巨額減損を覚悟してもECシフトを進めるオンワードは百貨店アパレルでも別格の存在で、他社にはもうそんな体力も資産も残ってはいない。大半の百貨店アパレルは売上減少とブランド廃止、希望退職募集を繰り返して衰退していくだけだ。
 百貨店の閉店とハイブリッド化に百貨店アパレルのブランド廃止と売場撤収が相乗して負のスパイラルが加速するのは避けられず、今の勢いで萎縮が進めば大半の百貨店ブランドは数年で絶滅してしまう。ECに投資できる企業は変貌して生き残るだろうが、それとてC&C体制を欠いてはいずれ戦線から脱落する。ましてや百貨店から離脱できないアパレルは企業そのものが行き詰まる。
 既に百貨店という泥舟は半分以上沈んでおり、逃げ出せなかったアパレルは運命を共にするしかない。転身を決断できなかった責を経営陣に問うても今更間に合うものでもないから、出血を覚悟で早々に撤退するのが賢明な選択だろう。
(小島健輔)

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