<三浦一光さんのプロフィール>1956年松下電器産業(現・パナソニック)入社、88年北海道・四国・名古屋営業所長を経て、西日本ナショナル電器社長、91年松下エレクトロニクス初代社長、93年松下電器産業 営業本部副本部長として、ダイエーとの取引をスタート、94年ビデオ事業部長として事業再建、96年レコード会社のテイチク社長として事業再編(天童よしみ「珍島物語」、川中美幸「二輪草」、大泉逸郎「孫」の3曲のミリオンセラー)、99年豊栄家電社長、2005年ヤマダ電機と合弁のコスモス・ベリーズ設立、会長として今日に至る。13年一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会の理事に就任、15年コスモスベリーズ社内ベンチャー部門「MSM流通研究所」代表兼務、17年一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会の副会長に就任。
〈PART.1〉消費者の変化に気付かぬ企業
働く女性のライフスタイルをきちんと見よ!
三浦 生活家電の洗濯機、冷蔵庫は大きい容量で高価なものが売れている。今まで洗濯機は8㎏~9㎏が中心であったが、現在は12㎏が中心になってきている。そして、冷蔵庫は300ℓ~500ℓから600ℓ~800ℓへ大容量化している。このことは、日本の働く女性の家事条件の変化と見る。昨年、台北市の家電量販店を訪問して驚いた。16㎏の洗濯機が主流になっていたからだ。
鮮度管理技術の進歩でまとめ買いが増える
三浦 私は柿が大好きだが、10月の旬な時期以外でも食べることができるようになってきている。リンゴやイチゴなど旬な果実が年中商品化してきている。これは鮮度をキープする技術がどんどん進むことで、全ての食材の鮮度キープの条件が進化して、産直や獲り立ての重要度が低くなることを意味する。
モノからコトへ発想を転換せよ!
中見 会長がおっしゃったように、かつては「関西スーパー方式」のような抜本的イノベーションが行われましたが、その後、40年ほどスーパーマーケット(SM)業界では価格と鮮度でしか競争していないように見えます。価格と鮮度はモノに付随する発想。鮮度管理に関するテクノロジーが進歩し、冷蔵庫も昔の冷蔵庫ではないという点が、なぜかSM企業には見えない。今は既にIoTの時代になり、家電もスマート家電へと進化しつつあることにも注目すべきです。
三浦 私の家内は専業主婦、50代の次女は兼業主婦。この2人の買物スタイルは全く違う。家内にはいつも行くSM、第3の場所のようなSMもある。どこの棚に何があるか分かっているので、陳列を変えられると嫌がる安定した買物型だ。その半面、次女は働いているから「合理性」を求めてコストコを大変に重宝している。こうした層には利便性と買物時間の短縮を求めている。
中見 小売企業はターゲットごとのライフスタイルの変化を見ていかなければいけないですね。昔のように専業主婦が多かった時代から、今は兼業主婦中心の時代に変わったことを流通企業やメーカーはよく認識すべきです。そして、こうしたことをきちんと踏まえた上で、どのようにお客さまに自らの付加価値を提案していくかをよく考えなければなりません。流通業界は小売りミックスの考え方に慣れていますが、その中には価格もあれば、品質の要素もありますが、現在はそれ以上に店舗内の環境や利便性の価値が高くなってきている。流通企業やメーカーは価格や品質だけでなく、消費者にいかに快楽性を提供していくかを考えることも重要です。
SMは「顧客視点での場」がつくれていない
三浦 この前、ある食品店へ行ったら休憩スペースがつくられていた。1日にどのくらいの利用があるかと質問したら、6人ぐらいとのことだった。1日1000人も来店しているのになぜ利用されないのかが追求されていなかった。お客さまとお店のコミュニケーションの必要性が十分理解されていないと感じた。寒々とした休憩室でなく、食に関する情報発信が重要だと思った。この点について、蔦屋書店やマルイは本気で憩いの場を創っている。座り心地を考えた椅子など素晴らしく、その思いが伝わってくる。
中見 コミュニティが重要だと皆さん言いますが、本来、日本ではお寺や神社、ヨーロッパでは教会の近くの広場にコミュニティがあり、そこに市ができたりしてきました。それは日本のお寺や神社はお布施やおさい銭で生計を立てられるから。コミュニティの役割を地域の自治体や町内会ができればいいのですが、なかなか難しい。そうなると、人が普段集まる小売店が地域のハブ機能として、その役割を果たすのが自然なのでしょうね。超高齢社会の今、小売企業に求められることは多いのです。
〈PART.2〉コスモスベリーズの店数はなぜ増える?
自力では価値が出せないと共創の道へ
中見 会長がコスモスベリーズのVC(ボランタリーチェーン)ビジネスをされようとしたのはなぜでしょう。以前、商店街の家電ショップの活性化だと伺いましたが、会長はこのビジネスを始めるにあたり、経済的価値と社会的価値の両立(CSV)を当初から意識しておられたのでしょうか。あるいはビジネスをやっていきながらCSVを考えられたのでしょうか。会社設立の背景をぜひ、お伺いしたいです。
三浦 それは単純で、豊栄家電では先が見えなかったから。事業を継続するためには、この規模ではお客さまの支持を得る価値は出せないと判断した。そこで、量販店のヤマダ電機とライバル関係の地域電気店の共生ができないかと考えた。ヤマダ電機の創業者・山田昇さんが立派だったのはこの提案を理解してくれたことだ。この話を幾つかの量販店に話をしたが、それらの企業では理解してもらえなかった。
「加盟店のために本部がある」を実現したかった
三浦 なぜ、これだけ多くの加盟店が増えたかというと、今までのFC(フランチャイズチェーン)、メーカー系列店と違って、加盟店の自主独立と個性を生かせたこと、さらに自由を重要視したためだ。そうすることで、加盟店のためになる本部となり、お互いに「もたれ合う」関係を無くしたかった。
中見 そうした考えや思いは会長がもともと松下電器という大メーカーにいらして、メーカーがチャネルをコントロールしていた『メーカーの時代』を体験されたから生まれたのでしょうか。店舗は1店1店、商圏特性が違うし、加盟店の社長は1人1人、ブランドになっていかないと強い店はできないことを、身をもって経験されてきた。だから、今までやってきたことと反対のことをコスモスベリーズでやろうとされたのかと。
三浦 松下の考え通りにやってほしいと系列店に求めたナショナルショップは家電の普及期と成長期は順調に成果も上り、win-winの関係であったが、お互いに依存度が高くなり、もたれ合う関係が強くなってしまった。そして、高普及と安定成長期になると、このスキームは良い結果が生まれなくなった。
イノベーションはいつも辺境からやってくる
三浦 私は6年間、豊栄家電の雇われ社長として頑張ってみたが、どうしてもこのやり方では会社はダメになりますと加盟メンバーに話したが、各オーナーからまだ家電事業を続けるので何とかしてほしいと要請された。
中見 常々、会長は仕事を通じ、人生を楽しまれていると感じています。仕事はやらされるものではなく、自らそれを通じて新しさや楽しさを見いだしていくものだと思います。会長はご自身をアウトサイダーだとおっしゃいますが、他の人とは違った角度からモノをご覧になるところが強みだと思います。一橋大学 イノベーションセンターの軽部大教授が論文の中で、「イノベーションは辺境から生まれ出てくる」と記しています。会社のメインの事業にかかわっていると、リスクをヘッジしたくなるので人はどうしてもチャレンジしにくくなる。それがイノベーションはメインではなく、辺境(アウトサイダー)から生まれやすいということでしょう。その辺境から生まれた新たなイノベーションの芽が時代環境に変化適合した際、いつの間にかメインプレーヤーの位置に迫ってくるというわけです。神戸大学経営学部の田村正紀名誉教授が日本の小売業の業態盛衰モデルについて書かれた学術書『業態の盛衰』でも、同様のことが詳しく記されています。小売業態論のアメリカの研究者、ニールセンが唱えた『真空地帯理論』も同様の考え方ですね。
メーカーから冷遇され、ヤマダ電機は自力で成長した
三浦 確かに家電量販店も栃木県宇都宮市からコジマ、群馬県前橋市からヤマダ電機と辺境から出発している。メーカーの取引条件も東京・秋葉原、大阪・日本橋の激戦区より優遇されることはなく、自力で経営コストを削減する努力をしてディスカウント力を自らの努力で付けてきた。
〈PART.3〉これからの流通業界はどうあるべきか?
世の中は既に「交換から循環」へ転換している
中見 メルカリはいいところに目を付けた。ちょっと前まではコメ兵のようなところに持って行かないといけなかったのが、今は写真を撮って、ネット上で簡単に売り買いが出来る。このように今はプラットホーム的な発想が重要です。コスモス・ベリーズ(株)は加盟店数2万店を目指しているそうですが、自社のビジネスモデルを今後、どのようにしていこうと考えていらっしゃいますか。
三浦 当社のローカルプラットフォーム事業は「地域の業際型ネットワークでお客さまの困りごとを解決する」をコンセプトとしている。多くの困りごとを単独では解決できないが、地域の専門店がネットワークでカバーすることで生産性も向上して、地域活性化にも貢献できる。各店のお客さまを共有することで成長性も確保でき、信頼も高まる。
中見 今度の東京オリンピックは、都市鉱山のプラチナを集めてメダルを作るということになっていますね。
三浦 先般、主婦100人を対象に家庭にある家電品を調査したところ、平均34.8台を所有していることが分かった。この他に家族の家電品があることを考えると50台前後はあると思われる。その中に全く使っていない家電品が17%(6~8台)存在していることが分かった。ジューサー、ミキサー、餅つき機、ホームベーカリー、パン焼き器等で使われない商品は資源、労働力、流通コストが全くの無駄になっている。これからは稼働率の高い商品づくりが必要と思う。働き方改革で労働力の有効性も重要になってくる。人生100年時代の労働力の在り方を変える企業が評価される。労働の多様化、新しい価値観が生まれてくると思う。
中見 会長はビジネスを構築するとき、どのような発想をされるのでしょう。
三浦 最初はリアル(実践)からスタートする。リアルがあって、それに理論がついてくる感じ。研究者の先生方などにビジネスモデルを分析してもらい、次の会社の問題点を見つけることはしている。
お客さまは「メーカーや流通企業を変える存在」
中見 最後に、これからの流通業界やメーカーはどうあるべきか、お考えをお聞かせください。
三浦 僕らも日本の復興期にメーカーにいたわけだから、消費者に対してはすごい上から目線だった。メーカーなり、流通業者がお客さまの生活を変えるんだと思っていました。ところが今はお客さんがひょっとしたら時代を変えているのかしれない。これまでとは逆で、メーカーを変え、流通をも変えていくのがお客さまなんだという点にいまだに気が付いていない流通業者やメーカーは多い。
中見 いろいろなことを整理しなければいけない時期に来ていると思っています。そのとき、企業には中長期的な視点が必要です。
三浦 テクニックでモノを売るというのはもう古い。棚割りなんてもうおかしい。このように、まだまだチェーンオペレーション時代の名残がくすぶっている。アマゾンとか、アリババが出てきて初めて、日本の小売業もぴりっとするのではないか。負けちゃうかもしれないけど。
〈対談後記〉先見性があるから最先端を行ける
三浦会長との対談を終え、3つのことを考えた。1つ目はこれからはユーザーインの発想が重要であること。2つ目は企業も持続可能な循環型経済へシフトしていくべきだということ。3つ目はVCビジネスの可能性だ。
もう1つ、コスモス・ベリーズ(株)が優れている点は顧客視点の徹底にある。彼らにとっての顧客とは加盟店だけではない。その先の消費者のライフスタイルを常にウォッチしており、B to B to Cを実現するための「価値共創」の視点を持っていることだ。これはヤマダ電機には到底、まねできないことである。