最近、リアル店舗における「競合」の概念が変わってきたように思います。
今までは近隣の店が最大のライバルで、価格や商品群をチェックして値段や品揃えの戦略を立てていれば十分でした。しかし今は、検索すれば簡単に最安値の商品や店が調べられます。価格ではなく価値を重視する傾向が一般的になり、ご褒美やプチぜいたく消費も特別なものではなく受け入れられるようになってきています。
それに伴い、競合の相手も多様化してきていると私は感じています。消費者にとっては選択肢が増えてとても良い時代ですが、企業にとってはあらゆる選択肢の中から選んでもらう必要性が高まってきています。
そこで、同カテゴリーの近隣店やネットショップ以外で、流通・小売業が見落としがちな競合相手についてまとめました。
こんなにある「見落としがちな競合相手」
①無料・格安コンテンツ
今は、無料でお試しできるものが増えています。化粧品では、無料モニター体験企画やトライアル用のお試しサンプルがあふれています。漫画やゲームは無料アプリでも面白いものがたくさんあり、多くのお金を支払わなくても楽しい時間を過ごせるようになっています。もちろん玉石混交で、いわゆる「安かろう悪かろう」もありますが、安くて良質な商品やコンテンツが格段に増えました。
無料・格安の商品が市場に出回っていることで、商品が値段に品質が見合っているかがよりシビアに見られているように感じます。無料・格安の品質が上がってきているため、「有料商品なのだから、格段に良い物に違いない」と消費者に思われることが多くなっています。「有料なのに」無料・格安以下だと思われてしまうと、リピートしてもらうことは難しいです。
②別カテゴリーの商品
企業なら商品原価、販管費と費目が分けられ、費目ごとに予算が組まれます。ところが消費者は、全員がこうではありません。中にはざっくりと「食費は〇円~〇円、交際費は〇円以内」と決めている人もいますが、「生活費を除いて、自分の今月使える金額:〇円」と全体でざっくり考えている人も多いでしょう。
そうなると、限られた予算内での使い道は自由です。「洋服費:〇円」ではなく「自由予算:〇円」の中には、服飾費も食費も交際費も全てが含まれています。
仮に個人の自由予算が月に3万円あったとして、その使い道は月によって割と簡単に変わるというのが私の印象です。例えばアパレルショップのライバルは、近隣のアパレルショップやネットショップだけではありません。話題のグルメスポットやスーパーマーケットのオーガニックフードなど、別カテゴリーの異なる価格帯の商品も競合になり得ると私は思っています。
予算は1つですが、予算を使えるジャンルは無数にあります。同じカテゴリーや近隣地域の他店の動向ばかり気にしていたら、全く違うジャンルに消費が流れていた、という事例は多いと思います。
③家庭内の楽しみ
今は家から一歩も出なくても生活できます。動画配信サービスの動画を見て、必要なものはネットで注文すれば、家にいながら楽しく充実した時間を過ごせます。
このため、リアル店舗を持っている企業は「消費者に店に来てもらう」強い動機付けが必要となってきました。交通費と時間を掛けてまで立ち寄りたくなる「理由」が求められてきています。
個人的にはネット通販の送料よりも交通費をかけて出掛けるハードルの方がまだ低いと感じていますが、人に会いたい、実物を見たいなど、そこに行かなければならない強い動機がなければ、来店することさえも難しくなってきているように感じます。
④SNSの見知らぬ誰か
先日、インスタグラムを見ていたときの話です。「最近、テレビで見たこんな健康法を試しています」という投稿に対して、「それ、〇〇の理由であまり良くないらしいですよ!」とコメントが付いていました。それを受けて投稿者は「そうなんですね。じゃあほどほどにします」と、やり始めた健康法をやめることを示唆する返信をしていました。
読んでいる限り、投稿者とコメントした人は全くの赤の他人のようでした。つまり、自分が良いと思って始めた行動でも、SNS上での知らない人からのアドバイスだけで簡単に控えて(やめて)しまう、ということです。
実際に知人と会ったときの会話や口コミで広がっていたやり取りが、今はインターネット上に移ってきています。それも旧知の関係ではなく、全く知らない人からも情報が入ってきます。
こうした事例はこの例だけではなく多数見受けられます。もちろん、それだけが情報源ではありませんが、見知らぬ人からの一言でも簡単に人の行動を変えてしまう時代です。顧客に信頼してもらうことが必要だと痛感した出来事でした。
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私が見ている限り、流通・小売業はまだまだ同じ業種・業態内での差別化にこだわっているように見えます。もちろん、とても必要なことですが、これからはあらゆる分野にアンテナを張っていくべきだと感じています。
業界の垣根を超え、自分たちの強みは何か、どうしたらお客さまに価値を感じてもらえるかを、改めて問い直すべきタイミングなのではないでしょうか。
(秋元沙織)
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