〔写真〕ゲオグループが始めたオフプライスストア「Luck・Rack Clearance Market」(コーナン港北インター店/神奈川県横浜市)
過剰供給で値引き販売が常態化し過半が売れ残るわが国のアパレル流通だが、大差ない状況の米国では明快な答えが出ている。オフプライスストア(OPS)がその回答で、OPS上位3社合計売上高は15年(16年1月期)に百貨店上位3社合計売上高を抜いて18年は3割も上回り、OPSの衣料・服飾雑貨市場に占める売上げシェアは百貨店(14%弱)を引き離して17%に迫っている。
ブランド購入の大半はオフプライス
OPS上位3社(TJX/ロス・ストアーズ/バーリントン・ストアーズ)は18年(19年1月期)も増収増益で、合計売上高は606.4億ドルと百貨店上位3社(メイシーズ/ノードストロム/ディラード)合計の468.1億ドルを29.5%も上回った。ノードストロムの売上げには246店を展開するOPS業態「ノードストロム・ラック」の51.8億ドルを含むから、それを移行すればOPS上位4社売上高は658.2億ドルと百貨店上位3社売上高の416.3億ドルを6割近くも上回る。メイシーズもOPS業態「バックステージ」(売上非公表)を172店(うちメイシーズ内165店)も展開しているから、OPSと百貨店の売上格差はさらに開く。
百貨店が扱うブランドとOPSが扱うブランドはイコールではないが、ハイブランドの一部を除けば限りなく重複している。百貨店売上総額とOPS売上総額のシェアはほぼ45対55というオーバーバランスまできており、百貨店もセールを乱発しているからプロパー価格での販売を半分と見るなら、ファッションブランド商品の8割近くがオフプライスで買われている計算になる。全てが大幅値引き販売のOPSは数量ベースではさらに高シェアなはずで、もしかすると9割近くがオフプライスで買われているのかもしれない。
この計算にはブランドメーカーが直販するアウトレットストアの売上げは入っていないが、卸比率が高いブランドは余剰在庫を処分するアウトレットストアをプロパー直営店以上に展開するケースが多く、「ラルフローレン」はプロパーの直営店111店に対してアウトレットの「ポロ・ファクトリーストア」を290店も展開している(19年3月期末)。
百貨店のキックオフやセールはもちろん、フラッシュセールサイトやOPSにアウトレットストアまで含めれば、米国ではファッションブランドを定価で購入するのは少数派で、大半は何らかのオフプライスで購入していると見るべきだろう。
焼却処分や海外輸出でガス抜き
セールを繰り返してもファミリーセールやアウトレットで叩き売っても過半が売れ残るわが国のアパレル流通だが、米国ほどオフプライス購入がメジャー化しているわけではない。アウトレットモールは37カ所(実質稼働30カ所)と米国の10分の1に留まるし、ローカルや郊外にディスカウントストアはあってもファッションブランドをそろえたOPSチェーンが存在するわけでもなく、ドン・キホーテが近似した役割を果たしているにすぎない。
どうしてそれで収まっているのかというと、売れ残り在庫の多くが翌期に持ち越されたり焼却処分されたり、中古衣料として海外に輸出されたりしてガス抜きされ、オフプライス市場に出回る商品は限られるからだ。
売れ残り在庫のうちどの程度が焼却処分されているかつかめる統計は存在しないが、全額減損処理するのは財務的負担が重く、利益を上げているアパレル業者でないと難しい。ファミリーセールなどで現金化を図り、残った在庫は翌期に持ち越して販売消化に努めようとするアパレル業者が多く、紳士服メーカーでは2割前後、婦人服メーカーでも1割強が持ち越されているようだ。
二次流通業者(バッタ屋さん)に放出すると資金回収できるが、期末では調達原価の半分、持ち越してしまうとその半分程度に買い叩かれてしまう。ブランドイメージにこだわって販路を海外に限定したりブランドネームをカットするなど条件をつければ、買取金額はさらに下がる。
二次流通業者が引き取った在庫も国内で商品として再販されるのは一部で、多くは「中古衣料」としてトン幾らで海外(大半がアジア)に輸出されていく。その量は18年で23万7000トンに上るが、製品にすれば9億〜10億点ほどになると思われる。18年の総供給点数28億9900万点から推定消費点数13億6100万枚を引けば15億3800万点が売れ残った計算になるから、輸出点数との差の5億〜6億点ほどが焼却処分されたり国内に再流通したものと推計される(持ち越し在庫は毎年、繰り越されていくので計算から除外した)。
海外に輸出された「中古衣料」はマレーシアなどの仕分け基地で再販売可能な製品とウエスや繊維原料に一次仕分けされ、再販売可能な製品はアイテムやシーズンに二次仕分けされ、おそらくターゲットやテイスト別に三次仕分けされて再輸出されていく。18年にわが国に輸入された中古衣料は輸出の40分の1弱の5842トンで米国が3分の1強を占め、仕分け基地のマレーシアは16.7%(975トン)、韓国は9.9%(577トン)と限られるから製品の還流は知れている。
付加価値をドブに捨てていいのか
ガス抜きにはなるにしても、せっかく作った商品を二束三文で投げ売って良いものだろうか。ましてや焼却したり、ウエスや繊維原料としてトン幾らで引き取らせたり、事業ゴミとして引き取り料まで払うとなると無為無策の指摘は免れないし、資源の無駄遣いという非難も浴びる。適正なタイミングで二次販売チャネルに流せば、それなりの価値で再流通して資金を回収でき、エシカルにもなるのに残念というしかない。
放出される過剰在庫は「色・サイズがそろった未出荷商品」「色・サイズが欠けた売れ残り商品」に分けられるが、当然に前者の方が引き取り価格が高く、シーズン前→シーズン中→シーズン末→持ち越し、と引き取り価格が落ちていく。これに「ブランド人気」のプレミアムが乗るのは自明だ。
ならば未引き取りや予測ミスで行き場がなくなったと分かった段階で店頭に出すことなく処分するのが賢明で、生産原価を切り下げるため販売力以上のロットで調達して余剰分を端から転売する手法も米国では常態化している。わが国でも欧米ブランドのインポーターはジャパンフィット別注などのミニマムロットと売場減少のギャップに苦しんでおり、ディスカウントストアなどへの横流し品の少なからぬ部分が正規代理店からといわれる。
商品価値が最大限に評価されるタイミングで二次流通に放出するのが合理的だしエコでもあるが、それを妨げているのがブランドメーカーの流通統制だ。『国内でのオフプライス販売は認めない』から『取引百貨店がない地方に限る』『ネームを外せばよい』などまでさまざまだが、ECでの先行値引きはもちろん、自らファミリーセールを繰り返しアウトレットストアを展開するブランドメーカーが二次流通を否定する意味があるのだろうか。
オフプライス流通のタブーは消えていく
米国ではハイブランドや人気のデザイナーズブランド、ストリートブランドを除けばOPSでの販売をタブーとする意識は希薄で、自らアウトレットストアを展開するようなブランドはOPSに流れることを回避していないし、ネームを切り取って再流通させる慣習も見られない。
米国のファッションブランド流通は買い取りが基本で(「プロモーション」という歩積みはある)、大手チェーンではテリトリーを定めて品番買い切りするエクスクルーシブが定着しているから、小売店が買い取った商品の再流通を規制する根拠がなく、旧シーズン商品については野放しといってよい。規制しているのはオンシーズン商品だけで、プロパー販売品番との重複を避け、OPS店頭への投入解禁時期を自主規制(?)している。解禁時期も、かつては百貨店店頭の立ち上げから8週間後とされていたが、近年は4週間に短縮されているようだ。
わが国でも買い取り卸のブランドはディスカウントストアなどに公然と流れているが、直販や消化取引でメーカーが流通管理するブランドは持ち越し在庫が積み上がらない限り二次流通に放出されるのは稀で、放出されても販路を海外やローカルに限定したり、ネームを外して販売させることが多かった。それが近年の過剰供給と販売不振で在庫が積み上がり、デザインやフィットなどトレンド変化も速くなって持ち越しても販売消化が期待できず、業績悪化で焼却処分する余裕もなくなり、手早く換金できる二次流通への放出が急ピッチで広がりだした。
プロパーチャネルでの値引き販売が常態化し、アウトレットモールやフラッシュセールサイトでの購入が一般化したことに加え、日陰の商売とされてきた二次流通業者が注目されマスメディアで紹介されるようになったこともブランドメーカーの意識転換を促していると思われる。
OPSは遠からず爆発的急成長が始まる
ゲオグループやドン・キホーテに加え、百貨店や大手セレクトショップなど著名なブランド小売企業によるアップスケールなOPSの開発が広がれば、ブランドメーカーの意識転換も一気に進み、オンシーズン品はともかく期末在庫や旧シーズン在庫の放出には抵抗がなくなるのではないか。ブランド商品はともかくSPA商品(OEM業者が抱える未引き取り品も含む)ならオンシーズンでの処分も厭わなくなるのは時間の問題だろう。
それには『知名度のあるブランドが多数そろって見栄えの良いOPS』の開発と再編集陳列による消化スキルの確立が不可欠で、ブランドメーカーの抵抗感を和らげるにはアウトレットモールでの展開からスタートするのが好ましい。
米国のようにOPSが百貨店を凌駕するブランド販売チャネルとなるには時間がかかるだろうが、供給量の過半が売れ残るアパレル業界の現状を打破する革命的有望ビジネスであることは疑いなく、臨界点を越えれば爆発的な急成長が始まるに違いない。
(小島健輔)
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