写真:お客は事前に専用のアプリをインストールし、「Apple ID」「Googleアカウント」「LINEアカウント」のいずれかのIDを用いて利用者登録を実施する他、決済に使用するクレジットカードを登録。
ローソンがかねてから構想を発表していた「レジのない店舗」をオープンする。2020年2月26日~5月25日までの予定で、富士通の事業所内に「富士通新川崎TS レジレス店」を開業。デジタル技術を活用し、レジを通らずに買物ができる店の実証実験を行う。
お客は、あらかじめ専用アプリをインストールし、決済手段としてクレジットカードを登録しておく。買物の際は、アプリ上に表示されたQRコードを店頭にある端末にかざして入店、買いたい商品を手に取って店外に出るだけで決済が起こるという流れだ。3月16日からは富士通の技術によるマルチ生体認証をアプリと同期できるようになり、スマホをかざすことなく、あらかじめ登録した静脈と顔を認証するだけで買物することが可能となる。
今回は富士通の新川崎テクノロジースクエアに勤務する約3000人の従業員専用の店舗としてのオープンで、同店でシステム、機器、店舗オペレーションの動作確認、防犯、物流面の課題、売上げの推移や客数、省力化を踏まえたビジネスとしての妥当性などの他、お客の声のアンケートなど買物体験についても検証する。それら検証を踏まえ、今夏には一般のお客も利用できる新店をオープンしたいとしている。
28台のカメラとセンサーが人、商品の動きをキャッチ
今回の店舗は富士通事業所内にある既存店の富士通新川崎TS 店を母店とする「サテライト」の位置付けで、店舗面積23.2㎡(約7坪)、取扱アイテム数約250という小型店。商品は母店の売れ行きなどを勘案して選定している。RFIDは使用しておらず、天井に設置された28台のカメラと棚に設置された重量センサーによって、誰がどの商品を幾つ取ったかを認識、さらにAI(人工知能)による機械学習によって精度を高めていく。
現状、同時に最多で5人の入店を想定しているが、将来的には15人程度を目指したいとしている。人数が増えたり、商品を戻したり取ったりといった複雑な動きをしたりすると、決済後のレシートが届くのが遅くなるといったことが課題としてあるためだという。営業時間は限られるが、1日当たり150~200人程度の利用を見込んでいる。
今回の店の入店、決済アプリについては、ローソン子会社のローソンデジタルイノベーションによる開発だが、カメラ、棚センサーなどの機器、来店客や商品を認識するためのAI 機能、決済や在庫管理との連携機能については米国VCOGNITION TECHNOLOGIES, INCが提供する統合システムの「Zippin」を採用。また、静脈と顔の認証技術は富士通研究所による開発となっている。
完全無人で展開することは考えていない
ローソン理事執行役員オープン・イノベーションセンター長の牧野国嗣氏は、「お客さまにとっては、レジに並ぶ待ち時間がゼロになるストレスフリーな買物体験、より便利な購買体験がご提供できる。もう1つはお店のオペレーションの中で、レジ接客が一番人手がかかっているため、それを完全になくすことによって、店の労働分配率を下げていく、あるいは労働力をよりお客さまに対してきめ細かく向き合うことに使っていくことができるのではないかと思っている」と言う。
人手不足が深刻化する中、省力化は大きな課題となっている。ただし、ローソンでは「省人化はするが、完全無人で展開することは今の段階では考えてない」という。同店では従業員を最低1人は配置し、商品の品出しや売場のメンテナンスを行う。もちろん、特定の商品販売における規制の問題もあるが、特に売場の状況を確認するという役割は大きい。それはブームとなり急増したものの、一転して縮小・撤退が相次いだ中国の無人店舗の状況も踏まえたものだ。
ローソンでは、よりストレスなく買物ができることを目指してセルフレジの他、スマホ上にバーコードを表示して決済する各種バーコード決済サービス、お客のスマホ自体がレジになる「ローソンスマホレジ」など、さまざまな決済手段を導入してきた。また、店舗従業員の作業軽減のために自動釣銭機付レジの全店導入や深夜省力化実験なども進めている。
その名前からもアメリカの「アマゾンゴー」を想起させる今回の「ローソンゴー」ももちろん、その延長線上にあるといえるが、レジに並ぶ必要のない「レジのない店舗」の登場は、買物体験、業務効率化・機械ロス削減の両面でこれまでと比べても格段に大きな進歩であり、有意義な挑戦であるといえる。確かに現状では極めて大きな投資を要することは確かだろうが、検証の成果や増加による規模のメリットなどによって、ビジネスとして成立する状態まで持っていくことができるか。ローソンの底力が試される。
(竹下浩一郎)
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