イオンは即食需要の喚起と取り込みのため、「買って、食べて帰る!」新しい食のスタイル「ここdeデリ」の展開に力を入れている。
飲食と物販を融合させてイートイン機能を備え、専門ショップの出来たてメニューや惣菜、弁当、パン、スイーツ、ドリンクなどを自由に持ち込め、楽しめる。近年、国内でも展開されている米国スーパーマーケット発の「グローサラント」の一種である。
数年前からイオンは、海鮮丼「魚魚菜(ととさい)」、ステーキ・ハンバーグ店「ガブリングステーキ」、パスタ「ペルグラーノ」といった食事メニューを提供する専門店や、ジューススタンド「Depot de sante(デポデサンテ)」、チョップドサラダ専門店「サラダビッツ」、サンドイッチショップ「deli Sand(デリサンド)」などのテイクアウトも可能なショップを開発してきた。
「魚魚菜」は水産、「ガブリングステーキ」は畜産、「デポデサンテ」は農産売場と連携しているのも特徴で、元の売場に併設して展開しているケースもある。
イートイン需要が高いベーカリー「カンテボーレ」では、モーニングやランチ、カフェタイムを意識したメニューを提供。デリカでも即食対応のアイテムを拡充し、デリとサラダが選べる「リワードキッチンプラス」も登場させて強化している。
また、ナイトタイムも想定して、イオンリカーではワインなどアルコールと軽食メニューを用意したバルも展開している。
ここdeデリは、今まで大型店やサテライト店舗に導入してきたが、今春から小型スーパーマーケットにも導入を開始した。
新店舗から見えた「ここdeデリの進化」
イオンスタイル上麻生「スーパーマーケットに広いイートイン」
3月29日にオープンした「イオンスタイル上麻生」(川崎市麻生区)では、近隣に飲食店が少ないこともあり、イートインスペースは72席で店舗規模を考えると広く取り、「ここdeデリ」の看板を初めて掲げた。
キッチンブースの食事メニューは、「ガブリングステーキ」と「ペルグラーノ」にカレーを加えて、「肉たっぷり鉄板ビーフライス」680円(税込み)など低価格アイテムも投入。カレーは380円(税込み)と手頃な価格だ。ドリンクは有機栽培の抹茶やほうじ茶を使用した抹茶ラテも取り扱い、ビール、ワイン、ハイボールなどアルコールも用意した。
券売機を設けてバイオーダーで注文を受け付ける。オープンは11時、ラストオーダーは20時、10人の従業員で運営するため厨房は一体化させ効率化を図っている。
弁当は、インストアとアウトが7:3の比率。カフェで人気の雑穀米を使用した弁当「雑穀プレート」をランチメニューとして提供。ロコモコ、黒酢、ガバオの3種類で価格は537円(税込み)。
ベーカリーでも「イオンドリップカフェ」を併設。焼きてパンを15アイテム提供しながら、パン・サラダ・ゆで卵・コーヒーの「モーニングセット」270円(税込み)も投入し、朝の需要の取り込みを図る。
イオンスタイル幕張ベイパーク「効率化を図る仕組みも導入」
4月13日に出店した「イオンスタイル幕張ベイパーク」(千葉市美浜区)では、「ガブリングステーキ」と「ペルグラーノ」に加え、1品につき3種類以上の野菜を使い、約20種類のサンドイッチをそろえた「deli Sand(デリサンド)」も導入した。厨房ではデリカの商品も製造し、さらに効率化を目指す。
イートインスペースは約100席で11時から営業、ラストオーダーは20時で、22時まで利用できる。
飲食機能では、イオンのコーヒー豆と輸入食品専門店「カフェランテ」が「厳選豆」「自家焙煎」「本格抽出」をコンセプトにしたカフェを初めて出店。コーヒーゼリーなどスイーツも用意し、ハンドドリップとサイフォンで提供する。
売場では生豆を約30種類そろえ、店内で焙煎したコーヒー豆、コーヒーや酒などに合う21種類のオリジナルのフレーバーナッツも購入できる。
ベーカリーは約30アイテム。時間帯で商品構成を変え、モーニングやランチ需要にも対応する。焼成機はあらかじめ、商品によって温度や時間を登録してボタン1つで誰でも操作できるドイツ製の最新機器を導入しているため、誰でも使えて一定の状態でパンを提供できる。
デリカの対面販売「リワードキッチン」は売場を広く取り、ローストビーフやサラダなどをはじめ、和洋中30種類の惣菜をそろえてランチ限定で好みに合わせて選べる弁当も取り扱う。
デリカ売場で販売している商品は、「ここdeデリ」のイートインスペースで食べられる。POPも掲示し、即食需要を喚起している。
イオンスタイル美園三丁目「即食の可能性を広げる温惣菜を提供」
4月26日オープンした「イオンスタイル美園三丁目」(さいたま市緑区)では、40席のイートインスペースを設け、ベーカリーと惣菜の対面販売「リワードキッチン」を隣接して展開している。
上麻生、幕張ベイパークとは異なるコンテンツで、メインとなるのが「リワードキッチン」だ。従来の惣菜、サラダの量り売りに加えて、北関東で初めて即食と持ち帰り双方に対応し、温かい出来たてのおかず3品とごはんのセットメニューを提供する新しいスタイルで展開している。
冷惣菜8アイテム、加温した温かい惣菜を6アイテム、合計14アイテムを常時そろえ、ごはんのセットメニューは、「ごろっと肉じゃが」「さばの味噌煮」などおかず3品とごはんで626円(税込み)。店内で食べる場合はみそ汁を無料でサービスする。
カレーも並盛494円(税込み)、小盛429円(税込み)で提供。そして、「牛肉コロッケ」「えびフライ」「柔らか豚ひれかつ」のトッピングを62円(税込み)で用意している。
これは今春から始まった取り組みで、リワードキッチンの進化を目指しており、即食におけるレンジイン加熱を必要としない温惣菜の可能性を感じさせた。
プロサッカークラブ『浦和レッドダイヤモンズ』の本拠地である埼玉スタジアムが近くにあることから、赤色にこだわった「レッズ飯」を対面販売で提供。「旨辛四川風麻婆豆腐」などを用意している。
ベーカリーでも浦和レッズのユニフォームをデザインした背番号入りの「赤リンゴのダイヤパン」、サルサソースとチェダーチーズをトッピングしたフランクフルトの「レッドチリサルサ」各162円(税込み)と浦和レッズにちなんだ商品を販売している。ベーカリーは21アイテム。
イオンリテールが考える「即食の可能性」
「ここdeデリ」を推進してきたイオンリテール デリカ商品部の西野克部長は、「ここdeデリを導入するとデリカの比率は20~30%までの間まで高まり、対面とセルフの割合も3:7となってフロア全体の即食需要も増えた。直営でやることで効率化も図られ、ベーカリーもイニシャルとランニングコストを抑えて早期に回収できるめどが立っている」と、捉えており、採算面でもある程度めどが立つ段階にあるとしている。
その上で「中食、内食、外食以外の食べて帰る”第4の食”は大きな魅力なので今夏にはスピンアウトさせて新たな専門ショップを開発する。効率化や人材育成も進め、これからも商品やサービスのレベルアップを図っていきたい」とさらに取り組みを進めて、進化させる考えだ。
井出武美社長も「今後も、総合スーパー、スーパーマーケットなどの立地に最適なフォーマットで出店し、それぞれのカテゴリーで専門店化や分社化も進めて、即食の『ここdeデリ』の展開にも力を入れていく」と、取り組みをより一層拡充させる方針だ。
そして、「重要なのは人材だが、『ここdeデリ』では、プロセスセンターも活用して省力化。一体型のオペレーションでコストを削減しながら、歩かなくても済む工夫をし、楽しく働ける環境で人材を確保する。これからもしっかり成長できると思う」と、今後の展開についても自信を見せた。
即食が迎えた実利主義への転換点
グローサラントでは、イタリア食材専門店のイータリーや、成城石井、阪急オアシスも手掛けており、それぞれの特色や持ち味を生かして展開している。成城石井は、昨年10月に小型ショップ「SEIJO ISHII STYLE (セイジョーイシイスタイル)」も開発。デパ地下、駅ビルなどの出店も視野に入れる。また、阪急オアシスも、5月にオープンした「福島ふくまる通り57店」で、新たな取り組みを行っている。
イオンはデイリーユースを意識し、ファミリーを中心に朝、昼、夜のカジュアルな利用を想定し、それぞれの店舗の立地や商圏に応じ、コンテンツの組み合わせを変えて展開。今後も商品や専門ショップの開発を進め、新たな需要を取り込もうとしている。
即食対応はスーパーマーケットの売場を活性化させる可能性を広げており、顧客にとっても新たな選択肢を提供している。ニーズの高まりに応じて、濃淡の違いはあるにせよ早急な対応が求められている。
そして集客装置という側面から、しっかり収益を上げられる”実利を求める事業”として展開できるかという分岐点へ到達する時期が迫っている。そのためにはサプライチェーンや業務の効率化、顧客にとって魅力的で収益性の高いコンテンツの開発も欠かせない。
そうした状況の中で、現時点でイオンは1つの方向性を提示しており、さらなる進化も予想され、日本のグロサリーをけん引していく推進力となっていくだろう。
(西川立一)