第3回は「業態」です。皆さんは普段、仕事帰りに近所のセブン-イレブンでおでんや弁当を買ったり、ライフやマルエツで揚げ物のとんかつや寿司などの惣菜を買ったりしますよね。実は、セブン-イレブンは、コンビニエンスストア(以下、CVS)という業態、ライフやマルエツは、スーパーマーケット(以下、SM)という業態なのです。
肉屋、魚屋、八百屋は「業種」といいます
最近、見掛けることが少なくなりましたが、商店街にある肉屋、魚屋、八百屋は、CVSやSMと同様に業態と言えるでしょうか。
答えは、「否」です。これらは、通常「業種」と呼ばれています。「業種」は、英語で「Kind of business」と言い、その定義は、「商い(ビジネス)自体において、その店や企業が主に取り扱っている商品の品種によって区分した分類」を指します。例えば、肉屋なら、「肉を取り扱う商売をしている店」ということですね。
一方、業態は、英語で「Type of operation」と言います。日本における小売業態論の第一人者である神戸大学 経営学部 田村正紀名誉教授(2008)は、業態の定義を以下のように述べています。「業態は、流通企業のビジネスモデルの基本的枠組みであり、戦略コンセプトである。すなわち、どのような顧客に、どのような商品・サービスを、いかに提供するのか、つまり、市場標的、提供する顧客価値、そして、その提供様式はビジネスモデルの基本要素となる」(図表参照)
「小売の輪の仮説」を進化させた「業態盛衰の理論」
業態には、不思議な特性があります。通常、メーカーが作る商品に製品寿命(製品ライフサイクル)があるように、業態にも同様にライフサイクル(生成期→成長期→成熟期→衰退期)が存在すると言われています。
アメリカの流通研究者のMcNair(1931)は、「小売りの輪の仮説」において、アメリカの小売業態の栄枯盛衰を理論的に説明しています。この仮説は、ある小売業態の支配的企業に対し、新興企業が「低価格」を武器に市場に参入し、支配的企業は、新興企業に対し、「サービス品質の向上(Trading-Up)」に見合った値上げを実施し、最終的に両社は戦い、結果、支配的企業が新興企業の低価格化戦略に屈し、市場から退場し、新興企業が市場の新たな支配的企業になる。この様子が、あたかも小売りの輪がぐるぐる回っているかのように捉えられ、「小売の輪の仮説」と名付けられたそうです。
ただし、この仮説は、アメリカの小売業の栄枯盛衰にはうまく適合していますが、日本においては、CVSなどはこの仮説に該当しません。田村(2008)は、上記McNairの小売りの輪の仮説をベースとしながらも、その仮説の不十分さを補うべく、新たに「業態盛衰の論理」を主張しました。
この論理は、ある業態内において、辺境市場から生まれてくる新興企業が、覇権市場(中核市場)に存在する支配的企業に対し、「価格」あるいは「サービス」あるいは「価格とサービスの両方(バランス)」において差別化を図り、徐々に中核市場に侵食し、結果、支配的企業の地位に取って代わるさまを理論化したものです。
「業態は戦略」で、「フォーマットは戦術」
業態という概念は、欧米には存在しないのでしょうか。その答えとしては、欧米には業態という概念は存在せず、「フォーマット」という概念は存在します。田村(2008)は、「フォーマットとは,小売業において,企業の戦略行動を反映した部分」と定義付けています。簡単に言うと、「業態は戦略、フォーマットは戦術である」と言えます。
では、業態という概念は、いつごろ日本で生まれた概念なのでしょうか。一説によると、日本に業態という概念が誕生したのは、1980年初めだと言われています(三村 2014)。その頃、流通業界で一大勢力を築いていた業態は、ダイエーやイトーヨーカ堂などの総合スーパー(日本型GMS)でした。1960年代に、これらの企業は「チェーンストア理論」を導入し、日本固有の流通チャネル構造(卸の存在)をうまく活用し、林周二氏や田島義博氏の理論的基盤を背景に「流通革命」を主導してきました。しかし、1974年に施行された「大規模小売店舗法」により、彼らは従来のような急速な出店戦略ができなくなりました。
そこで、彼らが考え出した新たな戦略が、新業態を開発することでした。そこで生まれた新たな業態がCVS、ドラッグストア、ディスカウントストア、ホームセンター等の業態だったのです。
最後に、流通論・小売マーケティング論の第一人者である青山学院大学 経営学部 三村優美子教授は、今日の小売業態を捉える際、以下の3つの視点を持つことが重要であると述べています(三村2014)。
①小売業の競争と収益単位(マージン率とコスト)という小売経営の視点(仕組み、ビジネスモデル)、②消費者に統一的なイメージを与える売場のあり方という小売マーケティング的視点(IMC、サービスマーケティング)、③顧客との出会いと対話と相互作用の場という視点(場の理論、コミュニティ概念)。
今後、小売企業は、業態をチェーンストア理論のような効率重視の経営的視点だけで捉えるのではなく、店舗における統合的なマーケティングの視点(IMC)および場(地域におけるコミュニティ機能)の視点を併せ持ちながら、さらに、店舗における顧客と従業員との「価値共創」という概念を持つことが、ますます必要になるでしょう。
(学習院大学 経済経営研究所 客員所員 中見真也)
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