「日本人は依存症に対する認識が甘い上、みんながやっていることをやっていないと仲間外れになるような土壌がある」。受験アドバイザーで精神科医でもある和田秀樹氏(58)は、依存症問題を分析した上で、リスク回避へ、真の友人をつくること、治療施設の充実や専門医の養成が重要とアドバイスした。
-依存症の怖さとは
和田氏 依存症は進行性があり、自然治癒がない。早い段階で治療しないと、最後は“社会的廃人”になったり、引きこもったりして、社会生活が送れなくなる。自殺してしまう人も少なくない。依存症は意志の力で治ると思われるが、意志が壊れるのが依存症。脳のソフトが書き換えられてしまう病気で、依存症の人はそのことしか考えられなくなる。重症化すると自分が依存してしまったことばかり考えてしまい、他のことができなくなる。
-やめたくてもやめられない、と
和田 スマートフォン依存の人は仕事中でもスマホがやめられない。職場で当たり前のようにスマホをデスクに置いている。歩きスマホは明らかに危ない。危ないのを分かっていてやめられないのが依存だ。
-なぜ、依存症になるのか
和田 依存症を招くには二つのポイントがある。一つ目はその物質自身がすごく依存性が強い。麻薬・覚醒剤やギャンブルがそう。もうひとつは接触頻度。ギャンブルは多くの国で禁止され、ラスベガスのような例外地域を設けている。そこに行かないとできなくすることで予防している。競馬、競輪は開催日を限定し、予防している。
-ゲーム依存はどうか
和田 とりわけスマホゲームを考えると、スマホは24時間肌身離さず持っている。これほど接触頻度が高いものはない。ゲームの開発者は「はまる」ゲーム、つまり依存させるゲームを作ろうとする。あえて依存の状態にし、はまらせて、たくさん課金させるのが、いいプログラマー。ゲームの派手な動きの刺激が、依存につながる。ゲームが改良されれば依存性も強くなり、将来にわたってリスキーとなる。子どものうちにゲーム依存になれば、将来、仕事に就けなくなる危険がある。
-スマホをやめられない子どもが多いのは
和田 日本特有の依存症を生みやすい土壌がある。みんながやっていることをやっていないと仲間外れになる。LINEに返信しないといじめの対象になるという文化だから、やらないことには勇気がいる。
-香川では小中学生は午後9時以降、スマホを使わないルールを作ったが、家庭での実現は難しいようだ
和田 そうした動きを社会運動にしなければならない。保護者の依存症に対する認識が甘い。一度なると悲惨。ちょっと想像してみてほしい。自分の子どもが40歳を過ぎて仕事もせずにゲームにはまり、それを取り上げたら暴れる―。本当に怖い病気だ。
-ゲーム依存になりやすい人の特徴はあるか
和田 孤立気味の人。人に依存できないので、物に依存する。腹を割って話せる親友がいれば依存症になりにくい。子どもにはみんなと仲良くするだけでなく、「腹を割って話せる友達をつくろう」と教えるべき。トレンドが「みんなと」になるから、仲間外れを恐れ、全員がLINEでつながり、「いいね」を言わないといけなくなる。
-治療施設はないのか
和田 国内は極めて少ない。日本では依存症が怖い病気、治療が必要な病気と認識されていない。これは世界の精神医学のトレンドと大きく違う。韓国や中国は早くから国を挙げて対策を打ち、多くの治療施設がある。精神科医が診る病院だけでなく、自助グループや相談所も多い。
-世界保健機構(WHO)がゲーム依存を病気と位置付けた。今後、社会に変化はあるか
和田 あると思う。日本の不幸は治療施設の不足。「ゲーム依存は病気」と認識されれば、治療施設の必要性も叫ばれるだろう。国内には専門医も少ない。治療者の養成を全国レベルでやるべきだ。
和田 秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪市生まれ。精神科医。東京大医学部医学科卒。東大医学部付属病院などを経て、現在は国際医療福祉大心理学科教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。受験アドバイザーとしても知られ、教育問題に精通する。「『依存症』社会」(祥伝社)、「スマホが起こす『自分病』って何?」(新講社)、「受験は要領」(PHP文庫)など著書多数。
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